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【完結】熱烈アプローチで決めた婚約者でしたが、まさかの王子様に恋を奪われたので、お構いなく  作者: ましろゆきな


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第二話:三者三様の初動

「コーヒー豆の挽き方ね。いいよ、僕の隠れ家でよければ」


 アルフレッドは少し驚いた顔をしつつも、リアの衝動的な誘いを拒みはしなかった。彼の留学先の文化では、こういう奔放さは「個人の自由」として許容される範疇なのだろう。


 リアはアルフレッドの隠れ家—古い商館の二階にある、家具がシンプルで機能的な部屋—―で、生まれて初めて自分の手で豆を挽いた。


「すごい! この香り、クロウ様が用意してくださる完璧な朝食のそれより、ずっと生きている香りがするわ!」


 目を輝かせるリアを見て、アルフレッドは苦笑した。


「クロウ様、ね。あの完璧なリゼル公爵令息が君の婚約者だと、王都の噂で聞いている。彼が君のために用意する『完璧な朝食』って、いったいどんな代物なんだい?」


「最高級の食材、完璧な温度管理、そして何より完璧に整えられたスケジュールよ。朝食後には、今月の読書会リスト、午後は慈善活動。すべて彼が私を『理想の妻』にするために設計されているわ」


 リアはフンと鼻を鳴らした。そして、挽き終わったばかりの豆の香りを吸い込みながら、アルフレッドに向き直った。


「ねえアルフレッド。あなた、私のことどう思う?」


「どう、と言われても……」


 アルフレッドは困惑したように笑った。


「正直に言うと、君はとても面白い女性だ。自分の気持ちに正直で、衝動的。でも、貴族社会のしがらみの中にいる君が、なぜ僕のような『常識はずれ』の男にそこまで興味を持つのか、理由がわからない」


「理由なんていらないわ! 私はただ、あなたといる時間が、クロウ様といるより楽しい。それだけよ」


 リアは一歩踏み出し、アルフレッドの瞳をまっすぐ見つめた。


「ねえ、あなた、私の恋人になってくれないかしら? クロ―ド様には『お構いなく』って言うから!」


 アルフレッドは、まさか初対面同然の、しかも婚約者がいる令嬢に、ここまで直球で誘われるとは思っていなかったのだろう。彼は一瞬固まり、それから優雅な王子らしからぬ勢いで、後ずさりした。


「ちょ、ちょっと待って、お嬢さん! 僕は君の奔放さは好きだけど、王族はスキャンダルに弱いんだ! まずは友達から、段階を踏んで……」


「あら、あなたの『常識』も、この国の貴族と大差ないのね」


 リアは唇を尖らせたが、すぐに諦めたように笑い、彼の肩を軽く叩いた。


「冗談よ。ふふ、でも、覚えておいてね、アルフレッド。私はあなたが欲しいわ」


 彼女の奔放な積極性に、アルフレッドは額に汗を浮かべながらも、どこか高揚感を覚えている自分に気づき、慌てて咳払いをした。





 その夜。クロウは自室でリアの今日の行動に関する報告書を読んでいた。彼はリアの行動を記録し、問題点を修正するのが日課だった。


「――薬膳スープのレストランを予定より一時間早く出発。その後、馬車を広場で降ろさせ、単独で行動」


 クロウは完璧に整頓されたデスクの上で、レポートの「単独で行動」という部分に爪を立てた。


(一時間も早く切り上げた? 私の選んだ最高級のレストランだぞ。そして、何故、護衛を振り切った?)


 そして、次の一文がクロウの心を深くえぐった。


「――第三王子アルフレッド殿下と接触。約二時間、商館にて歓談。非常に親密な様子が見られた」


 クロウは椅子から立ち上がった。アルフレッドは、先月留学から帰国したばかりの、浮世離れした第三王子だ。


「アルフレッド殿下……! あの方は、東方で平民の文化に染まりすぎた、と専らの噂だ。自由を愛するがゆえに王族としての責任感が欠如している、と」


 リアが「自由」を求める傾向にあることは、クロウも知っている。だからこそ、彼は完璧な環境とスケジュールで、その「奔放さ」を制御し、安全な枠内に閉じ込めてきたのだ。


 しかし、その「枠」の外側にいる、最悪の男がリアの前に現れた。


 クロウは自らの完璧な計画に、唯一の不確定要素が入り込んだことに激しく動揺した。そして、リアの「不服そうな顔」や「衝動的な行動」の裏にあった、退屈と不満に、今さらながら気づき始めた。


(まさか、私の愛情が不足していたというのか? いや、そんなはずはない。私の熱意は誰にも負けない……!)


 焦燥感がクロウの冷静さを初めて乱した。


 彼の脳裏に、リアがアルフレッドと笑い合う親密な光景が浮かび、抑えきれない独占欲が湧き上がった。


「リア……君は私のものだ。私が君に注いだ熱意は、あの遊び人の王子ごときが覆せるはずがない。もう二度と、君を一人で行動させるわけにはいかない」


 クロウは報告書を握りつぶし、完璧な表情を崩して、執着に燃える瞳を輝かせた。

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