井戸の中の 水
ある村にすむ男の子とその妹が不思議な井戸に
誘われるお話し
ある朝…古くさい畳の上に敷かれた布団から
私は起きた。いつものように、縁側に置れた紐が今に
もちぎれてしまいそうな下駄を履き、家の敷地内に
ある井戸へ向かって、目の前で立ち止まり、
持っていたバケツをその中へ落とした。
ギャッ!
…と誰かが言った気がしたので井戸を覗き込ん
だが誰も居るはずが無く、代わりにいつもより
も水位が高いことに気がついた。
自分の耳に文句を言いながらバケツを置き、
少しコップですくって…
「泡?」
水 からは泡がまるで炭酸のように出ていた。
しかし、寝ぼけていたからか気にしなかった。
そして、飲んだ。
なぜかわからないがその 水
はどろっとしていた気がした。
異変に気がついたのはそのすぐ後であった。
妹が居なかったのだ。
いつもであればこの時間妹は学校の支度をして
いる最中のはずだった。家中探し回るも見つか
らず、家を抜け出して友達とでも遊びに行った
のだろうと思うことにして学校に休みの連絡を
届けた。しかし!夜更けになっても帰って
こないので流石に心配になり、同居人である
おばあちゃんと一緒に探しても見つからなく、
村中の大人が全員駆り出されても…
妹は遂に見つからなかった。
不安で頭が埋め尽くされていた私には先程の
バケツに入れられていた 水
がひとりでにどこかへ行ってしまったのは
些細な出来事だったのかもしれない。
翌日になっても事態は一向に改善しなかった。
お隣の…といってもかなり離れているが…その
中村さんが井戸に落ちたんじゃないのかい?
と聞かれ、もう一度井戸を覗き込んだ。
井戸は深い、風はあまりないはずであるのにも
かかわらず、井戸の水は大きく波打ち、暴れていた。
その波の中に人影は無かった。
私は落胆して振り返ると縁側に置かれて忘れられて
いたバケツの中に入っていた 水
が消えているのにやっと気づいた。そして土に染みた
水の跡は井戸のバケツを繋げていることにも。
それから導き出されたことはバケツの 水
が勝手にバケツから出て、井戸に戻ったという
意味不明な、しかし揺るがぬ事実だった。
そんな意味不明なことよりも現実的なことをしようと
妹のことを行方不明者情報の放送にしてもらった。
そして……
妹が消えてから数年が経った。この家にも水道が
通り、井戸は板を被せて役目を終えた。
ある日、私たちの水道がダムが枯れたとかで断水して
しまい、役目を終えたと思われていた古びた井戸に
脚光が当たった。板は取り払われ井戸はその地位を
取り戻した。
しかし、久々の水汲みだったからであろうか…
私は不注意で井戸の底へ真っ逆さまへ落ちた。
ドボン
私は井戸の底に溜まっていた古びた水に落ちたが…
なにか様子がおかしかった。
腕を上げてみた。水面が腕の形となって
盛り上がった。もう水となって残っていない口にそれもまた残っていない手を当てた。
そして行き着いた事実を口にした。
「あぁ…なんてことだろうか…私は妹…を…」
その言葉はは音にならず、微かに空気が出た
のみであった。
ギャッ
頭になにかが当り、声を出した。
あぁバケツか。
この井戸には昔に人柱が立てられていたとかなんとか