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ビロートーク

作者: 橿原 瀬名

 竜司には、親友と呼べる人間はいない。中学を卒業する頃には、親にすら本音を話さなくなった。


 別に人に対して心を閉ざしているワケではない。少なくとも、竜司自身はそう思っている。

 友人は、両手では数えきれないほどの数がいるし、彼ら一人一人の望みも理解している。


 ただ、 彼は人に本心を明かす必要を、全く感じていないのだ。

 人の気持ちを考えて話すというのは、相手の望む言葉を話すということだ。

 突き詰めて考えれば、自身の本心など、『どうでも良い他人』を『楽しい友人』に変える作業のなかでは、邪魔でしかない。


 そう考えてきた彼にとって、神永ユウという女は、数多くいるセックスフレンドの一人に過ぎなかった。



「クリスマスまでセフレと過ごすなんて、りゅーじはそれで良いのかな? 大切な人と過ごした方が良いんじゃない?」


 

 長い黒髪に、マゼンタのインナーカラーを入れた女。神永ユウは、ヘラヘラと笑いながらそう言った。

 さっきまで、自分に組み敷かれてよがっていた女の言葉を、竜司は鼻で笑って受け流す。




「童貞じゃあるまいし、彼女と過ごすクリスマスに、夢なんて見ねえよ。やろうと思えばいつでも作れるしな」



 竜司は笑いながらタバコをふかした。



「しっかし、やることやって最初の言葉がそれかよ。お前、男だったら風俗嬢に説教してそうだよな」

「ええ~、そうかな~。まあ、興が覚めたって言うなら、もっかい盛り上がれば良いじゃん。りゅーじ絶倫だし」



 相変わらずヘラヘラと笑うユウに、竜司はどこか呆れた様子でため息をついた。

 竜司は、彼女のことが良く分からない。関係を持つようになったのも、流れでなんとなくという感じだ。


 竜司は生まれたときから、人の望むことを読み取るのが得意だった。

 けれど、ユウが自分に何を望んでいるのかは、よく分からない。

 竜司にとって、彼女の特別な価値はそれだけだった。


 顔は芸能人レベルだし、胸も人並外れて大きいが、竜司の好みではない。

 友人たちには、童貞臭いと思われるのが嫌なのもあって言っていないが、竜司は清楚系が好きなのだ。


 ユウは髪を染めているだけでなく、大量のピアスもしている。

 左右の耳に合わせて7個。ヘソに1つ。シルバーのピアスがしてある。

 今はネオンのような明かりを反射して、紫色に光っていた。



 ただ、竜司はラブホテルの悪趣味な内装が好きなので、セックスをするときだけは、ユウの容姿への評価が少し上がる。

 いかにも、セックスをするためだけの空間と言わんばかりの、猥雑さを感じさせる雰囲気が、彼の気分を良くしてくれる。


 彼女には、そんな空間が似合うような、どこか怪しい魅力があった。



「りゅーじはさ、あたしのことどう思ってるの?」

「なんだ。気になるのか?」

「別に。ただ、りゅーじは人と話すとき、どんな言葉を言えば相手が思いどおりになるか、考えながら話してるでしょ?」

「……それがどうした?」



 正直なところ、ユウの物言いは癇に触った。

 苛立ちが、声色に出てしまうほどに。

 竜司にとってそれは、覚えているなかで初めての経験だった。


 自分はただ、友人たちと会話を楽しみたいだけだ。

 例え本心を話していないとしても、親友と呼べる相手がいなくとも、同じ時間を過ごした彼らは大切な仲間だ。


 それを、まるで利益のために操っているかのように言うこの女が、ひどく気にくわないと思ってしまった。


「けど、あたしは本音で喋ってるだけなのに、苦戦してるように見えたから、ちょっと面白くて」

「……何が言いたいんだよ。ユウちゃんが、俺にとって特別だとでも」

「実際そうでしょ? まあ、りゅーじにとってあたしの価値って、『思いどおりにならない』って部分だけなんだろうけどね」

 


 なるほどな、どうやらユウにとって、自分はそう見えているらしい。竜司はひとまず、納得することにした。

 実際、ユウは何を考えてるか分からないから、思いどおりにできないのは事実だ。



「……まあいいさ。けど、そうだな。ユウちゃ?にとって、俺はいい友達かな?」

「わざわざ聞くなんて珍しいねぇ。気になるの?」



 ユウは、ニヤニヤと笑いながら、質問に質問で返してくる。

 竜司は無償に苛立ちながらも、それを顔に出さず、さらにこう返した。



「……ただの興味だよ」

「そっか、じゃあ言うとね」



 ユウはしばらく間を置いてから、言葉をこう続けた。



「あたしはね、実のところを言うとね、竜司みたいな人が一番好きだよ。あたしは竜司と違って、人の心を理解する才能みたいなのは、全くない。全くないからこそ、竜司のことだけは、すごく分かりやすいんだ」



 ユウはいつになく真剣だった。

 彼女の言うことは本当なのだろう。竜司は幽姫子と話しているときに、自分を見透かされたような気持ちになることがあるから。


 けど、なぜ彼女が真剣な目をしているのか、竜司にはよく分からなかった。



「……そうかよ」



 竜司は今だけは、なんとなく、彼女の伝えたいことが分かった。

 竜司は、人に本心を隠したことはあっても、偽ったことは一度もない。


 人にどう思われたくて、どんな仮面を被って接しているのか。それも含めて、自分であると信じている。

 だが、それはそれとして、人と深く関わることに、必要性は感じていない。


 分かりやすいんだろう、きっと。竜司の生き方には普通の人と違って、一貫した理屈がある。

 だからユウは、竜司の生き方という理屈を理解するだけで、彼の感情までまるごと想像できる。


 ユウはもしかすると、今からでも勉強すれば理系に向いてるかもな。竜司は何となくそう思った。


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