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クラリスとミーナの語らい




 アグアの街に訪れてから、二日目の朝。


 アグアの領主であるリョナ家の屋敷、その中庭に設置してある椅子の一つに、私は座っていた。


 「よっこらしょ」


 私が座っている椅子の、隣の椅子に座る紫色のツインテールの人物。

 幼馴染のミーナだ。


 「隣、良かったかしら?」

 「別に構わない」


 私の素っ気ない返事に、ミーナはそう……と答える。

 暫し、互いに無言の時間が来る。


 気まずい。


 昨日、再開したばっかりだが……二人きりでちゃんと話せる機会が無かった。

 何か、話題のきっかけがあれば、会話が出来るのだが。


 思い切って話しかけようとした私に、先駆けて口を開いたのは、ミーナだった。


 「久々の再開にしては、状況が滅茶苦茶だったわね」

 「……………そうだな」

 「主に、ミナトのせいで」

 「ああ、ミナトか」


 これにより、私の会話はミナトに関する物になった。


 「飛んでもなく強くなったね、アイツ。一体どこで誰に修業でも付けてもらったのかしら」

 「分からない。それに関しては、私もさり気なく聞いたことがあるが。ミナトは隠しておきたいらしい」

 「そう言えば、クラリサは私がミナトに再開よりも前に、ミナトに会っているんだっけ?」

 「私はマカで会った。ミナト自身も五年前と比べて面影があったから直ぐに分かった」

 「私………全然分からなかった。てか、ミナトって名前自体、殆ど忘れてた」


 ミーナの言葉は、私はクスッと笑う。


 「私は事前に、黒目黒髪の水魔法使いが冒険者ギルドの訓練所で、騒ぎを起こしたという情報があったからな。…………………と言うか…そもそも、小さい頃のミーナはミナトのことを全く関心に置いてなかっただろ?」

 「え?嘘?!バレてた?!」


 イタズラがバレた子供のように、ミーナは驚く。


 「何となく、そうなんじゃ無いのかとは思っていた。ミーナはミナトを見下してた」

 「なっ!」

 「きっと周囲から常に蔑まれてきたミナトに味方したり、庇うことで自分が良い人間だと周囲に思われたかったんだろうな」

 「そ、そこまで分かってたなんて」


 ミーナは頬を引きつらせる。


 「分かっていたから、良いようにミーナのカモにされているミナトが……何か惨めだったから、ミナトに対して、”ミーナには近づかないで”……と言った」

 「それ初耳」


 しかし、何かに気づいたように、クラルの方を向く。


 「ちょっと待って。だったらさ…私がクラリスの事を………」

 「私もミナトと同じく、引きたて役………自身の子分とでも思ってたんだろ。ミーナは天狗だったからな」


 とうとうミーナは、羞恥で頭を垂れる。


 とは言っても、ミーナは幼い時から魔法を操作する技量は高かった。


 同年代と比べて、特出していたので、天狗になってしまうのは仕方がないと言う事も出来る。


 無詠唱こそできないが、王国第七魔法団とミナトの戦いで、ミーナが〈ファイアアローレイン〉の数十発の火の矢を一つ一つ巧みに操作していた。


 私だって、数十の魔法をそれぞれ自在に扱う芸当は困難。

 オリジナル魔法を使う私もミーナの魔法操作技術には、及ばないのだ。


 だからこそ、全ての魔力を一つの魔法に収束させ、一度に放出する技術を要求する一級魔法を扱えるのだ。


 頭を垂れてたミーナは顔を上げ、私に訝し気な目を向ける。


 「そこまで分かってたのなら、どうして腰巾着のように私のそばにいたのよ?」

 「楽しかったからだ」

 「は?」


 意味が分からないと言いたげなミーナを無視して、私は昔を思い出すように言う。


 「意図はどうであれ、ミーナは番の子として生まれ、家では疎まれてきた私を気にかけてくれた。それで十分だ」


 そう、私はオルレアン伯爵において正妻の子供ではない。


 母親は………知らない。

 父に何度も聞いても、答えてくれないのだ。


 察するに、私は平民と一夜の誤りで生まれた子なのだろう。


 私はオルレアン伯爵家では空気みたいに扱われてきたのだ。

 正直かなり辛かった。

 消えたいと思った時が偶にあった。


 私と一緒にいてくれるミーナの存在は当時の私には、大切なものだった。

 だから、私にとって、


 「ミーナは私の友達だ」

 「………………どういたしまして」


 ミーナは控えめに顔を赤くする。

 再び、別の意味で気まずい雰囲気になる。


 次に口を開いたのは、私。


 「ミーナは変わったな」

 「変わったかしら」

 「ああ、大人っぽくなった」

 「それって、昔の私は子供だったってこと?まぁ…実際そうなんだけど」

 「何というか、達観した顔つきになった」


 ミーナは腕を組んで、仏頂面になる。


 「仕方ないじゃない。お父さんが死んじゃって。家も慌ただしくなって。クラリスに会うのが難しいぐらい色々忙しかったの。私だって変わるわよ」


 そう……五年前、ミナトが「水之世」で行方不明になって間も無く、当時…王国第七魔法団の団長だったミーナの父親であるホルディグ・ルイス子爵が亡くなったのだ。


 ミーナは王国魔法団に入団するために、王都の魔法訓練学校に通うことを余儀なくされた。


 そのせいで三年間、私もミーナも頻繁に会うことが出来なかった。


 それからの二年間…私はミル様と出会い、冒険者になって、ミーナは王国第七魔法団の副団長になったので、いよいよ会う機会は訪れなった。


 以前、ミナトからミーナの事に関して聞かれた際に、私は答えを濁した。


 ミナトが行方不明になった後だから本心は知らないが、ミーナは父親を亡くしたので、私も余りそのことに触れ辛かった。


 「私が何とか王国魔法団に入団して、副団長になったと思たら、あのゲスおと……………サンルーカルラ団長からのパワハラでうんざりしてたんだから」


 今、サンルーカルラ団長のことをゲス男と言おうとしなかったか?

 けど、それぐらいあの男にフラストレーションをため込んできたのだろう。


 あんな男が団長の地位にいるのは、ひとえに実力ではなく、サンルーカルラ公爵家の権力のお陰だ。


 「しかし、王国第七魔法団の魔法連携には、正直驚いたぞ。あのミナト相手に、あそこまで戦えるなんて」

 「あら?まるでミナトと戦ったことがあるみたいな口調ね」

 「実際戦った。試合形式だが、負けてしまった」

 「何で試合を?」

 「ミナトがAランク冒険者からの推薦ほしさに、ミル様を侮辱するような発言をしたからだ」

 「そ、そうなの。そう言えば、クラリサはAランク冒険者だったわね」


 私は冗談交じりに言ってみる。


 「ミーナも王国魔法団を止めて、冒険者になったらどうだ?ミーナなら良い線行くぞ」


 言われたミーナは、少し笑う。


 「………ありがとう。でも、私は王国魔法団を止める気はないわ」


 それまでの雰囲気とは一変して、ミーナの体に黒い感情が宿るのを感じる。

 どうしたのだろうか。


 ミーナの次のセリフで分かる。


 「少なくとも、お父さんを殺した奴を見つけるまで」


 ミーナの顔には、明確な殺意があった。

 私は目を細めて、ミーナの様子を見る。


 「ミーナの父親を殺した奴?確か、ミーナの父親はフリランス皇国との抗争で亡くなったのではなかったか」

 「うん。スラルバ要塞に派遣された時に、戦死したって聞いた」


 イベリ半島の一部であるエスパル王国とフリランス皇国との唯一の国境にあるスラルバ要塞には、常に交代で多くの騎士や王国魔法団が派遣されている。


 エスパル王国とフリランス皇国は敵国同士であり、数百年前から大規模な侵攻は無かったものの、小規模な侵攻は数えきれないほど行われてきた。


 五年ほど前から、その侵攻に拍車がかかってきていた。

 一部の人は戦争の前触れなのではないかと疑っている。


 「私もミーナの父親が死んだと分かった時は、まさかと思った。ミーナの父親………ホルディグ殿は無詠唱使いで、魔法使いとしては王国の中でも三本の指に入ると言われていた人だったはず」


 私も小さい頃に、ミーナの父親の魔法を見せて貰ったことがある。


 強力な魔法使いだったミーナの父親は少なくとも、今のミーナよりは強かった。


 冒険者で言うなら、私やミル様と同じくAランク冒険者に括られるだろう。

 そんな人が死ぬなんて


 「やはりフリランス皇国は強国三大国の一つと言う事か」


 それを聞いて、ミーナは首を振る。


 「フリランス皇国もだけど、お父さんは”ある魔法使い”に殺されたの」

 「ある魔法使い?」

 「うん。私のお父さんの知り合いに、王国第四魔法団の団長さんがいるの。お父さんが死んだ日、その人も同じくスラルバ要塞に派遣されていたらしくて。その人から聞いた話だけど」


 ミーナは話を区切って、頭の中を整理してから続きを話す。


 「その日はフリランス皇国から、ちょっとした侵攻があって。それ自体はずっと前から定期的にあったから、驚くことでは無かったのだけど。侵攻から少しして、フリランス皇国側が後退して代わりに一人の魔法使いが歩いて来たらしいの」

 「単身で」


 フリランス皇国は強国三大国とは言え、普通に考えれば、エスパル王国が軍で構えている場所に、単身で行くなど無謀以外の何物でも無い。


 「そう……単身で。でも、王国第四魔法団の団長曰く………遠目で一目見ただけで、その魔法使いが今まで見てきたどの魔法使いよりも強いと分かったそう。漏れ出る魔力が人とは思えないほど、膨大で強力なものであると」


 人とは思えないなどと、一体どれほどの魔力だったのか。


 「当然、向かってきたその魔法使いに対して、騎士隊や王国魔法団から沢山の矢や魔法が飛んでいったのだけど………………その全てが悉く”焼き尽くされた”そうなの」

 「や、焼き尽くされた?」

 「お父さんも魔法を放ったけど、その魔法使いには無意味だったみたい」

 「待て。矢は分かるが、魔法が焼き尽くされるとは、どう言う意味だ」

 「私もよく分からない。だけど、それ以外言い表しようが何って、王国第四魔法団の団長さんは言ってた」


 いつの間にか、ミーナは話しながら息を乱していた。


 「お父さんは何とか、その魔法使いを足止めしようと奮闘したけど、最後には”太陽”がお父さんを飲み込んだって」

 「太……陽?」


 その魔法使いは、太陽を作り出したというのか。

 ミーナを疑う気は無いが、俄に信じがたい。


 「私は………お父さんを殺した、その魔法使いに復讐するために王国魔法団にいるの。王国魔法団にいれば、ソイツに出会う確率が高いから」


 ミーナの顔は憤怒に染まっていた。


 そうか……ミーナは父親の敵を討ちたいのか。

 恐らく、その魔法使いを殺す気だろう。


 私は心の中でため息をつく。

 ミーナの気持ちを否定はしないが、怒りに身を任せた復讐は概ね、良い結果を生まない。

 直近のミナトの件が良い例だ。


 話が良くない方向に進んでいる。


 一旦、話題を切り替える必要があると、思った矢先。


 「あら?二人で女子会ですか?私も混ぜて下さい」


 後方から私がよく知る者の声がする。

 自身の主であるミル様であった。




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