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邪眼の王女




 「ア、ア、アルスブルゴ…………だ、だ、第五…………お、王女?!」

 「ま、まさか……そんな!」


 トルドバとミーナは、二人揃って口をあんぐりと開け、ただただ驚くばかりだった。


 ミーナはミルの傍らにいるクラルの方を凝視する。


 それは本当にこの人は王女なのかと問いかける目だ。

 視線を受けたクラルは小さく頷く。


 少し経って、トルドバはミルに人差し指を力強く刺す。


 「そ、そんな訳あるか!虚偽を言ってんじゃねぇ?!そ、そもそも…王女がこんな所にいるはずが無いだろ!!しょ、証拠を見せろ!」


 本来なら、見ず知らずの人物が私は王女ですと言っても、嘘つけと笑い飛ばすだけだろう。


 しかし、目の前のミルの精巧に作られた人形のような美貌と、気品のある佇まいが、嘘であるという考えを拒む。


 「証拠なら、ここにあります」


 ミルは懐を漁ると、金と銀で装飾をさせた小さな輪っかを取り出す。


 「そ、それは!まさか!」


 ミーナは輪っかを見て、驚く。


 金の糸と銀の糸があたかも蛇と蛇同士が絡み合うように……編まれた双色の糸は一周回って、一つの見事なブレスレットを作っていた。


 素人でも超一流の手によって、作られたと一目で分かる精巧な品である。


 「それは………アルスブルゴの宝輪」


 ミーナの呟きに、ミルはコクリと頷く。


 「仰るとおり…これは王族それぞれに作成されるアルスブルゴ家の象徴を表したもの、アルスブルゴの宝輪です。王族が常に所持することを義務づけられています。このブレスレットは冒険者のネームプレートと同じく、冒険者ギルドや貴族家が所有する身分を識別する錬金道具である識別機(スキャン)に掛ければ、私が王族であると証明されます」


 それを受けて、フルオルは一つ頷く。


 「我が家にも、あります。使用人に持ってこさせましょう」


 フルオルは応接室に使用人を呼び、識別機(スキャン)を持ってくるように指示する。


 数分経って、使用人は手のひらサイズの細い筒状の物を持ってきた。

 これが識別機(スキャン)である。


 識別機(スキャン)はエスパル王国だけでなく、ヨーロアル諸国に広く普及した錬金道具。


 ミルはブレスレットを差し出す。


 ミーナは、失礼しますとミルからブレスレットを丁寧に受け取り、 識別機(スキャン)を使って、ブレスレットを読み取る。


 細い筒の横にあるボタンを押すと、筒の先から赤い光が出てくる。

 赤い光をブレスレットに当てる。


 すると、識別機(スキャン)に『ミスティル・アルスブルゴ エスパル王国゠第五王女』の文字が表示される。


 ミーナはそれを見て、体をビクッとさせる。


 次いで真顔でトルドバに向き、


 「本物みたいです」

 「なっ?!…………貸せ!」


 トルドバは乱暴にブレスレットと識別機(スキャン)をミーナから奪い取り、読み込む。

 そして、トルドバもミーナと同様、体をビクッとさせる。


 どうやらミルが王女であることが証明されたようだ。


 「アルスブルゴの宝輪は特殊な加工法で作られているので、偽造は不可能です」

 「はい………私も以前、王族にお会いしたことがあり、その際にこれと同じ物を見たことがあります。これは間違いなく、アルスブルゴの宝輪です」


 ミーナが本物であると認める。


 「な………ああ」


 トルドバは顔を真っ青にする。

 自分がとんでもない事をしでかしたと気がついたのだ。


 家が公爵であり、知らなかったとは言え、ミルの言うとおり王族相手に突き飛ばしをしたのだ。


 普通なら許されることでは無い。

 王族のメンツのために最悪処刑される可能性だってある。


 青白い顔のトルドバに、ミルは静かに諭す。


 「貴方を罰しようとは考えていません。今回、貴方は私を王族と知らなかっただけです。ですので、私は貴方がした事を不問にします。ですので、貴方も不問にして欲しいのです。”私の二人の護衛である”ミナト・アクアライドとクラリサ・オルレアンが貴方に暴力を振るったことを」

 「はい?」


 ミーナは目を何回か、瞬きさせる。

 ミルの言ったことに引っかかる事があったからだ。


 ミーナは恐る恐るといった感じでミルに質問する」


 「えっと…あの、ミル………ミスティル王女殿下、護衛というのはクラリサだけでは無いのですか?」

 「ええ、ミーナさん。ミナト・アクアライドは私の護衛です」


 まさに有無を言わせない口調で、ミルは言い切る。


 ミーナは眉根を寄せる。


 ミナトが王族の護衛を務めているのが、無理があるような気がする。

 仮にそうであったとしても、実力があるのは認めるが、あの突発的な性格は問題である。

 王女の護衛として、適切とは思えない。


 とは思ったが、


 「分かり………ました。ミナトはミスティル王女殿下の護衛なのですね。今回、ミナトが団長に暴行を働いたことや我々、王国第七魔法団と事を交えたことも、ただの行き違いであると」

 「そうなります」


 ミーナはまだ納得していない様子でも、何とか締めくくる。

 ミナトの事をこのまま追及しても意味がないように思えた。


 こうして……ミルの王族発言によって、その場はそれで収まるはずだった。


 しかし、何かを思い出したか見たいに、トルドバが思案顔になった。


 「ん?……………待てよ。第五王女ミスティル、聞いたことがある。確か………………生まれながらに”魔眼”を持ち、その眼で見た者を血祭りに挙げる『邪眼の王女』だと………………」


 トルドバの余計な一言で、その場は凍り付く。


 シュン!!

 部屋の中に一条の強風が吹く。


 クラルが一気にトルドバへ踏み込んだのだ。


 「があ?!」

 「貴様には、胴体に別れの言葉を言う機会すら勿体ないな」


 真紅の目に、たっぷりと殺意を込めたクラルが抜剣し、その剣をトルドバの首に当てた……………どころか、少し食い込んでいる。


 トルドバの首から血が少しずつ流れていく。

 流れ出た血がクラルが持つ剣、その白い刀身を赤く染める。


 どんどん顔の血の気が無くなっていくトルドバに構わず、クラルは剣を首に押し当てていた。


 「「………」」


 トルドバは勿論のこと、フルオルもミーナも顔を青白くさせ、動けないでいた。

 クラルが発せられる、これ以上ないほどの殺気によって。


 自身には向けられていないのに、膝が無意識に震えてしまう殺気に、恐怖した。


 「クラル!止めなさい!!」


 ミルの制止の声が響く。

 それでもクラルは剣を引かない。


 「…………ミル様。この男は言ってはならぬことを」

 「平気です。事実ですから」

 「ですが………」

 「私は気にしません」


 ミルの毅然とした態度に、クラルの顔は徐々に穏やかなものになる。


 クラルが剣を収めたのは、数分後だったか、いや…数十秒、数秒だったかもしれない。

 体感、本当に長い時間に感じられた。


 殺気が収まった時、フルオルとミーナは同時に息を吸う。

 さっきまで呼吸が碌に出来なかったからである。


 因みに、当のトルドバはクラルの殺気を正面から浴び、首からも少なくない血を出したので、気を失った。


 一応、その後にポーションを掛けたので、命に別状は無かった。




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