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状況が滅茶苦茶




 周囲には、ミーナ以外の王国第七魔法団が倒れ込んでいた。


 刃を落としてある〈氷刀〉で腹部や後頭部などを叩いたので、死んではいないが、当分気絶しているだろう。


 目の前には、団員を全員やられたためか、狼狽えるミーナがいた。


 〈氷刀〉の切っ先をミーナの喉に向ける。


 「詠唱して、俺を攻撃しても良いけど。それをしたら、俺も攻撃するぞ」


 ミーナの顔が強ばる。

 それでも、ミーナは睨んだまま攻撃してくる気配は無かった。


 俺は〈氷刀〉を肩に置いて、言った。


 「手打ちにしてくれない?」

 「…………は?」


 言っている意味が分からないと、ミーナは眉根を寄せる。


 「王国第七魔法団と騎士の人達もこの有様だし、ミーナ達だと俺には勝てないよ」

 「なっ?!」

 「確かに、クソ雑………団長を殴ったのは俺だ。でも、そっちにだって落ち度はあっただろう。この街のために調査とか言いながら、嘘だったんだから。俺だって怒っちまうよ。だからさぁ…ここは、どっちも悪かったと言うことで手打ちにしてくれない?」

 「………」


 俺の言葉に、ミーナは口を固く閉じて、無言になる。

 分かってくれたのかな?


 暫し無言であったが、顔を下に向けたかと思うと、少しずつミーナの口から声が漏れる。


 「ふふふ………」


 それは小さな笑い声だった。

 しかも、笑い声に混じって、何かを呟いていた。


 「ふふ……ふ……ふふ…………のミナト………くせに」

 「ん?なんて言った?」

 「………のミナトのくせに」

 「ごめん、もう一度」


 唐突に、ミーナは俺の至近距離まで近づき、両手を俺の両肩に乗せる。


 ググ…。

 そして思いっきり力を込めて、俺の肩を掴んできた。


 「ミーナ?」


 ガバッ!

 ミーナは素早く下に向けていた顔を上げ、俺に顔を見せる。


 「雑魚のミナトのくせに!!!」


 その顔は怒りに満ちていた。


 ざ、ざ、雑魚のミナト?!

 俺が頬を引き攣られている一方、ミーナの言葉は止まらない。


 「な~にが!な~にが!手打ちよ!!雑魚のミナトが調子に乗ってんじゃ無いわよ!!あんた、自分が何をしたのか分かってんの?!王国魔法団に手を出したら、終わりよ!折角、私が取り繕ってやったのに!恩を仇で返して?!」

 「お、おう!」


 ミーナの迫力に反論はせず、頷くしか出来なかった。


 少し前までの副団長としての丁寧な言葉遣いや雰囲気は何処に行ったのやら。

 ヒステリックになった子供になった様に。


 まるで集中豪雨で水を溜めに溜め込んだ川が決壊し、大放流を引き起こした鉄砲水かのように苛立ちの言葉がミーナの口から飛び出てくる。


 人が変わった?

 いや……というより俺が知っている昔のミーナに戻ったかのように見える。


 「どうしてくれるのよ!!今まで副団長として、頑張ってきて!やりたくもないのに、あの屑の世話までして!屑が顔面を殴られた時はスカッとしたけど!でも、それって…あんたを止められなかった私の責任にもなるよね!本当どうしてくれんのよ!!」

 「お、落ち着けって!!」


 俺の肩をこれでもかと揺さぶり、ディスり、責め立てる。

 てか、ちゃっかり団長である男の事、凄くディスってる。


 急に俺の体に心身共に疲労感が襲ってくる。


 今日はマリ姉の事で憂鬱になっていたが、イチカの励ましもあり、少しは収まったと思ったら、王国第七魔法団との戦いに、ミーナからの罵倒でぶり返してきた。


 半端、ミーナからの言葉を聞き流してい。


 「おい!これは何の騒ぎだ!」


 タイミングが最悪だ。

 ガタイの良い茶髪の剣士…ドットの兄であるナットが駆け寄ってきた。


 リョナ家の門の方からでは無く、町の中央の方向から来たと言うことは街の見回りでもしていたのだろう。


 ナットは俺とミーナ、そして地面に転がっている王国第七魔法団と王国第七魔法団追従騎士隊を見て、驚愕の表情を浮かべた後、ドットの方に行く。


 「ドット、これは一体どういう状況だ?」

 「あれ?兄貴、なんでここに?兄貴と剣士の皆んな、獄中場に行ったんじゃ」

 「行ってたが、屋敷の前で揉め事が起きてると報告があったから、俺だけこっちに来た。それで、どう言う状況だ?」


 ミーナに未だ肩を掴まれ、揉みくちゃにされていながらも、獄中場と聞いて、俺は反応する。

 そこは父親が収監されている場所だ。


 獄中場に何か起こったのか?

 俺がチラッと、ナットとドットの方を見ると、ドットは目を輝かせて、ナットに言う。

 

 「それが兄貴!凄ぇんすよ!ミナトさん、あっという間に王国魔法団と騎士隊を倒したんですよ!」

 「は?」

 「後!後!ミナトさん、風の槍をまるで枯れ葉を払うかのように、弾いたんすよ!凄いすよね?」

 「………何故、誇らしげに言う」


 呆然となるナットに対し、ここで起きたことを掻い摘まんで話したドットの顔には、気のせいか尊敬の色が見えた。


 だが、ナットはすぐに顔を俺に向けたかと思ったら、鼻息荒く詰め寄って来る。


 おいおい…今、ミーナに詰め寄られている最中なんだ。

 勘弁してくれ。


 「てめぇ!問題しか起こさねぇのか?!お前がこの街に来てから、散々だ!!大体、お前は………」

 「そもそも、あんたは子供の時から、いつもいつも冴えなくて頼りなくて弱々なガキンチョだったのに!ふらっと戻って来て、ワイバーンをサクッと倒してんじゃ無いわよ?!あんたは小者がお似合いなの!そんでもって、そんなあんたを助ける私が正しいって訳で………」


 ミーナとナットの二方向から攻められた俺は、


 「〈氷壁・囲〉」

 「なんだ?!透明の壁?氷か?!」


 戦力分割のためにナットの方を氷の壁に閉じ込めた。

 囲まれた〈氷壁〉の向こうから、ガンガン…と叩いてた。


 後はミーナだな。

 俺への罵倒が止まらない彼女の頭上に、


 「〈冷水〉」

 「うぎゃあ?!!」


 冷たい水をぶっ掛けた。

 女の子が出したとは思えない悲鳴をミーナが出す。


 ミーナは両手を俺の両肩から手を離し、ずぶ濡れになった体を自身の手で抱きしめる。

 ブルブルと震えながらも、俺をキッと睨み付けていた。


 一旦、俺への罵倒が止まった。


 だが、疲れた。


 朝から憂鬱気分だってのに、周囲のカオスな状況を最適解で解決する手段が思いつかない。

 思考しようとする事すらも億劫だ。


 右側を見ると、


 「お、おい?!この落第貴族!は、早くここから出せ!!」


 自分を水剣技流の使い手だとを偽っている茶髪の剣士………ナットが俺の〈氷壁・囲〉に閉じ込められており、ここから出せと喚いている。


 左側を見ると、


 「「「うぅ………」」」


 王国第七魔法団と王国第七魔法団追従騎士隊が気絶もしくは悶絶した状態で地面に転がっている。


 「許さないわ?!ざ、雑魚だったくせに!!ミナトの分際で私になんてことを!!」


 ミーナが凍える身体を小刻みに震わせ、俺を睨んでいる。


 後方を見ると、


 「「「………?!ひ、ひぃぃ!!!!」」」


 屋敷前での戦闘音を聞きつけて、出てきたのだろう、屋敷に従事していた使用人達がいた。


 しかし、俺に視線を送られ尻餅をついて慄き、俺から距離を取ろうとする。

 皆んな、俺を化け物であるかのように怯えている。


 けれど、門の前にいるドットは何故か俺に敬っているかのような目を向けていた。

 何で?


 俺が前方のやや下を見ると、


 「お、お、お兄さん!ぼ、暴力は良くないよ?!謝ろうよ!わ、私も一緒に謝るから!!」


 イチカが俺の服を引っ張りながら、オロオロした様子で俺を見上げていた。


 「はぁ…」


 今日はいろいろな事が起こってしまい、疲れ果てた俺は両手で顔を隠しつつ、膝を折る。


 「?!ど、どうしたの!お兄さん?!具合悪いの?!」

 「………………ああ、気分が悪い。凄ぇ疲れた」


 動揺し、困惑するイチカに空返事をしながら、俺は心の中で何度もため息をつく。


 この状況が滅茶苦茶な中、問題が勝手に解決してほしいなぁ……と都合の良い願望を抱いてしまった。

 そんな時だった。


 「そこまでだ!ミナト!ミーナ!」


 救世主のごとく、いきなり俺とミーナの間に割って入る人物がいた。


 俺は顔を隠す両手を話し、顔を上げる。


 そこには白いローブを着て、軽鎧を装着した黒い髪の女剣士がいた。

 微かに漂う良い香りに、俺は目を見開く。


 「お、お姉さん誰?」


 イチカが疑問を投げるが、俺は彼女を知っている。

 数日前まで、顔を合わせていた。ミーナと同じく、俺の幼馴染み。


 「クラル!」


 俺の驚き、立ち上がる。


 クラルはこちらを向き、その夕焼けのような紅い目を見せる。


 「久しぶり………と言う程、時間は経ってないか」


 クラルの顔は呆れに満ちていた。


 「ちょっと誰よ!あんた!」


 唐突に現れたクラルに、ミーナは怒鳴り声を浴びせる。

 クラルはゆっくり振り返り、ミーナの顔を見る。


 「ミーナは………本当に久しぶりだな」

 「いや、だから誰よ!あん……た……………は」


 ミーナは言葉を詰まらせる。

 目をパチクリさせ、暫くクラルの顔を凝視した後、


 「え………あ…………ま、まさか!クラリサ?!」


 ミーナは目を大きく開く。




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