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魔法連携




 ミーナが司令塔の王国第七魔法団の陣形は攻守一体。

 土魔法と風魔法と火魔法による巧みな魔法連携。


 水魔法使いは、いないのかな?


 水魔法は基本四魔法………いや、全魔法最強(俺の個人的解釈)なのにな。

 戦闘に余り役に立たないと思われていない?


 そう言えば、ここに来るまでに、マカの冒険者の中には一人も水魔法使いがいなかった事を思い出しつつ、俺は王国第七魔法団を観察する。


 近づこうとすると、また〈突風〉で吹き飛ばされる。


 なら、近づかずに攻撃すればよい。


 「〈激流〉」


 ドオオオオオ!!!

 放たれる大量の水。


 大河を思わせる水の放出は、〈放水〉とは比べ物にならない水量。


 「うわ!水が?!」

 「ぐしょ濡れだ!」

 「一体何を?」


 向かい風の〈大風〉を物ともせず、〈ストーンウォール〉に衝突し、王国第七魔法団を瞬く間に水浸しにする。

 何をするかって、氷漬けだ。


 「〈凍結〉」


 俺と王国第七魔法団との間にある濡れた地面や水霧が漂う空気が、俺を始点として凍結し始める。


 凍結がもう少しでミーナたちに届こうとする中、


 「弾き返せ!」

 「「「大地を駆ける風よ、吹き荒れる颯と化せ。〈突風〉」」」


 水浸し状態で、俺を吹き飛ばした〈突風〉をまたもや詠唱する。

 十数人による〈突風〉の重ね掛けで作り出される強風を超えた豪風。


 その豪風によって、王国第七魔法団の周囲にある水は吹き飛び、凍結を免れた。


 う~ん…相手を水浸しにしてからの凍結は遅いな。


 俺は水魔法使いであるため、魔力を水に変換して、その水を氷に変える。


 なので、氷魔法使いのイチカみたいに魔力を直接、氷に変えることは出来ない。

 そのため、相手を遠距離から氷漬けにするには、ワンテンポ遅れてしまう。


 いずれ遠距離でも、敵を一瞬で氷漬けに出来るようにしたい。


 それにしても、あの十数人での〈突風〉……厄介だな。

 生半可な遠距離攻撃では弾かれてしまう。


 ならば、どうするか。


 槍を持って、正面から穿つまで。


 「〈水分子操作〉〈氷生成〉」


 俺は自身の魔力から水を生成し、それらの折れ線形である水分子を正四面体に組み合わせ、さらにその正四面体を自然界における最硬陣形の六角形へ形成する。


 そうして形成された氷を細長い形にしていく。


 見る見るうちに、細長い氷は二メートル超えの穂先が三叉に分かれた槍に変わる。


 「〈氷槍〉三人前」


 十文字槍の氷が三本、空中に出来上がる。


 「綺麗………」


 それを見て、氷魔法使いのイチカが見惚れるような声を出す。


 そうだろう、そうだろう。綺麗だろ?

 だが、俺の槍は綺麗だけではない。


 槍の本来の役割は、その穂先で敵を突く、貫く、そして穿つ。


 俺は三本の〈氷槍〉の矛先を王国第七魔法団に向ける。

 日の光を浴びながら煌めく半透明の槍は、まさに光の槍。


 「っ?!弾き返して!!」


 放たれようとする〈氷槍〉の脅威を一早く感じ取ったミーナは団員に指示を飛ばす。


 「「「大地を駆ける風よ、吹き荒れる颯と化せ。〈突風〉」」」


 詠唱後に起こる豪風。


 問題ない。

 俺は迷わず三本の〈氷槍〉を放つ。


 光を反射して、高速で空を駆ける〈氷槍〉は見る人によっては、残像を残し、三つの光の軌道を描いていただろう。


 〈氷槍〉は容易く豪風に穴を空け、そのまま一列目の団員が生成した〈ストーンウォール〉を穿つ。


 「「「うっ!」」


 三本の〈氷槍〉は〈ストーンウォール〉の後ろにいた団員三人の腹部に当たり、戦闘不能にした。


 殺す気はなかったので、〈氷槍〉の穂先の刃は落としてある。


 「〈突風〉でも弾けないだと!!」

 「〈ストーンウォール〉が貫かれた?!修復急げ!!」

 「倒れた団員を後ろに!ポーションを掛けろ!!」


 団員を三人倒したが、その後のカバーが迅速だった。


 倒れた団員に子瓶に入った液体…恐らく回復薬のポーションを掛けさせ、すぐに三列目の後方に下がらせ、〈氷槍〉で壊された〈ストーンウォール〉を他の団員が詠唱することで修復。


 速やかに陣形を立て直した。


 「くっ?!なんて威力!陣形『二縦一錐』」


 ミーナが俺の〈氷槍〉の威力に驚きつつ、陣形の変更を指示する。


 何をするのかと思ったら、ミーナら三列目の火魔法使い達は一列目の土魔法使い達と合わさり、三列体制だったのを二列体制にした。


 そして、さっきまで横に大きく広がっていたが、中央は前方に、両端は後方に移動した。

 分かりにくいが、上から見れば、全体の陣形が角度九十度ほどの錐状の形になっているのが確認できる。


 「「「聳え立つ石の壁よ、その堅牢を持って我らを守る巌となれ。〈ストーンウォール〉」」」


 またもや一列目の土魔法使いが〈ストーンウォール〉を詠唱する。

 今度は陣形に沿って、石壁は錐状の形に。


 「「「我らを守る壁となれ。〈防壁〉」」」


 そこへ先程まで火魔法を詠唱していたミーナ達が、俺が知らない魔法を詠唱する。


 防……壁?何だそりゃあ。


 火魔法に、そんな魔法があったのか。

 パッと見て、何か変化があるようには…………いや、ある。


 〈ストーンウォール〉の前に、半透明の壁があるように見える。

 まるで見えないバリアが〈ストーンウォール〉をコーティングしているかみたいに。


 防壁と言うからには、そのままの意味でバリアなのか。


 「「「風よ巻き起これ、見えざる運び手。〈大風〉」」」


 二列目はまた〈大風〉を詠唱する。


 けれど、俺に対する向かい風ではなく、地面の砂埃から左右それぞれ斜めに噴出された気流となっている。


 「〈氷槍〉三人前」


 俺はもう一度、三本の氷の槍を放つ。


 しかし………カキンッ!


 「受け流された」


 三本の〈氷槍〉は流れを逸らされ、王国第七魔法団の後方へ飛んでいく。


 〈氷槍〉は一直線に王国第七魔法団へ飛翔した。

 が、斜めに噴出される〈大風〉によって、僅かに軌道を逸らされる。


 僅かに逸らされた〈氷槍〉は、斜めに構えた〈防壁〉と〈ストーンウォール〉に当たり、受け流された。


 正確に言えば、〈防壁〉と思われる見えないバリアは貫通し、〈ストーンウォール〉に亀裂を入れられたが、貫通しきれなかった。


 その〈防壁〉と〈ストーンウォール〉は直ぐに詠唱され、修復される。


 「〈氷槍〉〈氷槍〉〈氷槍〉」


 カキンッ!カキンッ!カキンッ!

 続けて、何発も〈氷槍〉を放ったが、いずれも錐状の陣形によって受け流された。


 そうか、この陣形は〈氷槍〉のような貫通力の高い攻撃に対する防御陣形か。


 貫通力の高い攻撃と言うのは、正面に対する突破力を高めた半面、横や斜めの力に弱い。

 だからこそ陣形を錐状にして、正面からの攻撃を受け流すようにしたのだろう。


 だけど、火魔法使いが防御に回っている、この陣形では俺への攻撃は出来ないだろう。


 ………………そんなことを考えていた時期が俺にもあった。


 「打ち抜け!」


 ミーナがいきなり『打ち抜け』という単語を言った時だった。


 「「「岩よ牙を向け、頑強たる硬さを持って我が敵を打ち破れ。〈岩槍〉」」」

 「「「風よ集い巻き起これ、如何なる者も貫く螺旋の風となれ。〈風槍〉」」」

 「「「炎よ煮え滾れ、あらゆる物を焼き尽くす火炎の槍と変われ〈炎槍〉」」」

 「炎よ煮え滾れ、あらゆる物を焼き尽くす火炎の槍を我に五つ与えたまえ〈伍炎槍〉」


 なんと文字通り全員が王国第七魔法団が岩の槍、風の槍、炎の槍を放ち、ミーナが五つの炎の槍を放ったのだ。


 「〈氷壁〉」


 単発の威力でなら二級魔法最上級の数十発に及ぶ攻撃に、氷の壁を張って防ぐ。


 土魔法、風魔法、火魔法による三魔法の槍が迫る光景は、ある種圧巻である。


 圧巻であるのと同時に、別々の系統の攻撃魔法を放っては、互いに干渉してしまうのでは無いのか?


 ……………そう思っていた時期が俺にもあった。


 同時に生成されたと思ったが、若干のタイムラグがあったのだ。


 生成された〈炎槍〉がまず〈氷壁〉の中央に全て着弾し、熱による集中攻撃で中心部分を溶かす。

 溶かされた場所へ瞬きの間もなく、〈岩槍〉の物理攻撃が襲い、中心に亀裂を生む。


 最後のとどめに、〈風槍〉が脆くなった中央へ直撃。

 〈氷壁〉の中心に小さい穴が空く。


 これが〈氷壁〉の中央だけで無く、全体に満遍なく着弾していれば、防げただろう。


 その穴を通って、〈風槍〉の一本が通る。


 「っ!!」


 自身の横を通過する風の槍を体捌きで躱す。


 しかし、躱して直ぐに失敗だと気づく。

 躱すのでは無く、〈氷壁〉を張り直せば良かったのだ。


 躱した風の槍が、俺の少し後ろにいるイチカに迫ったのだ。

 近くにいたドットがすかさず、身を挺して守ろうとする。


 俺は条件反射で動いた。


 「〈瞬泳〉」


 俺の後背や膝の裏、脹ら脛など、体の背後各部から放出される大量の細かい高圧水。


 その反作用で、目に止まらぬ速さでイチカとドットの前に移動した。

 移動後には、空気中にまかれ、瞬時に消える水霧が漂う。


 目と鼻の先にある〈風槍〉に対して、厚さ十センチ、縦二メートル、横一メートルの〈氷壁〉を生成していては間に合わない。


 だから生成速度の速い〈氷刀〉を作る。

 

 そして氷の刀を〈風槍〉の横に押し当て、垂直方向へ力を添える。


 「水剣技流初伝・流流」


 〈風槍〉は軌道を晒され、あらぬ方向へ飛んでいく。


 これがカウンター技である水剣技流初伝・水詠みとは違う、基本技にして初伝である技、「流流」。


 やったことは至極単純。

 王国第七魔法団が俺の〈氷槍〉を魔法で受け流したのを、剣で実行したのだ。


 流流とは所謂、受け流し。


 迫る攻撃のベクトルを見極め、最適にベクトル方向を逸らす剣技。


 これを習得するのにも、気が遠くなるほどシズカ様に剣を打ち込まれた………………いや、今はそんな事どうでも良い。


 俺は〈氷刀〉を固く握りしめ、王国第七魔法団…ミーナを睨む。


 こうなった発端は俺とは言え、一歩間違えれば、イチカが死んでいたかも知れない。

 そう思うと、また怒りが込み上げてきた。


 許さない。


 俺の鋭い眼光に、ミーナが顔を青白くさせる。


 「ぼ、ぼ、防御を!!」


 副団長の慌てた声に従って、〈ストーンウォール〉〈防壁〉〈大風〉の防御魔法が展開される。


 俺は一本の〈氷槍〉を放つ。


 だが、それもまた受け流される。


 意味の無い攻撃をする俺に、ミーナは眉根を寄せるが、その直後に思いも寄らぬ攻撃を受ける。


 「あが!!」

 「ぐぐ?!」

 「うげっ!」


 近くの団員の一人が悲鳴を上げ、それに続いて次々と団員が苦悶の声を上げた。


 何かと思って、咄嗟に団員の方を見ると、何と氷の槍が団人の背中に直撃していたのだ。


 そう……正面から放たれ、受け流したと思っていた〈氷槍〉は反転をして、後方から王国魔法団を襲ったのだ。


 〈氷槍〉は、まるで見えない誰かに操られているかのように、意のままに王国第七魔法団の周囲を飛び回り、団員へ攻撃を繰り出す。

 勿論刃は落としてあるので、気絶する


 これはただの〈氷槍〉ではなく、遠くから遠隔操作された〈氷槍〉だ。


 これによって陣形が崩れる。

 それを見逃す俺では無かった。


 瞬時に〈瞬泳〉で陣形の懐に入り込み、刃を潰した〈氷刀〉で団員達を戦闘不能にしていった。


 後に残ったのは、


 「な……な……何でこんな」


 呆然となったミーナだけだった。




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