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王国第七魔法団




 「これは……どのような状況なのでしょう?」

 「ここからでは、サッパリです」


 首を傾げるミル様に、私はため息を吐きながら答える。

 早速ミナトが何かしらの事をやったのか。


 アグアに着いて早々、人々が行く方向に沿って進んでみたらリョナ家屋敷の門周りに人集りが出来ていた。


 野次馬をかき分けると、白いマントを着た黒髪の少年…ミナトと地面に倒れている騎士達が、視界に入る。


 重厚な鎧に、ロングソードと三角盾。

 あれは格好からして、追従騎士隊。

 王国魔法団を護衛する部隊。


 と言うことは…………私は視線を横にずらす。


 王国魔法団の制服である灰色の軍服を着た集団、王国魔法団がいた。


 その王国魔法団の先頭に、背中まである紫色のツインテールと勝ち気な吊り目の少女。


 特徴的な見た目に、ハッとした。

 彼女のことは私が誰よりも知っている。


 「………ミーナ」


 久々に見るミーナは、私が知っている彼女の以前の姿と比べて、少し変わっていた。

 身長は少し伸びており、今だとミーナは十七歳のはずなので、大人びた感じを持っていた。


 けれど、それ以上に雰囲気が違った。


 神経質そうな目つきで、全体的に尖った印象を受ける。

 小さい頃の活気があり、正義心があった時の彼女とは、別人だ。


 何というか、疲れ切った様子だ。


 私のいるオルレアン伯爵家とミーナのいるルイス子爵家は、治めている領地が近く、互いの領主も旧知の仲であるため、頻繁に交流をしているのだ。


 私もミーナも年の差は二歳しか無く、共に長女という共通点から、会う度に一緒に遊ぶ仲になるのに時間はかからなかった。

 よく私はミーナの後ろを着いていた。


 けれど、ミナトが「水之世」で行方不明になってから、ミル様に出会うまでの三年間は殆どミーナと顔を合わせていなかった。


 私が会いたくなかったという事では無く、”とある事情”でルイス子爵家が慌ただしくなり、ミーナも私と頻繁に会える状態では無かったのだ。


 そして、ミル様と一緒に冒険者をやってからの二年間、一度も会う機会はなかった。


 おおよそ二年ぶりにミーナを見て、懐かしさがありつつも、顔をしかめる。


 ミナトとミーナがいる王国魔法団が、今まさに一触即発。


 状況から見て、ミナトが追従騎士隊を倒したのだろう。

 呆れつつも、ミナトのお人好しな人柄を考えれば、何の理由も無く、こんな事をするはずが無いと私は思っている。


 だが、このままではミナトと王国魔法団が衝突して、取り返しのつかないことになる恐れがある。


 そうなる前に、私が仲裁に入らないと。


 私は人知れず、拳を握り締めた。




 今し方、ミナトが王国第七魔法団追従騎士隊を全員倒すのを見て、王国第七魔法団は驚愕の表情を一様に見せる。


 「騎士隊が皆んな、やられた?!」

 「あの魔法使い、近接戦闘も出来るのか?!」

 「アクアライド家の嫡男だったか?強すぎるだろ!」


 王国第七魔法団追従騎士隊は、主力である王国第七魔法団を守るため、敵が近接戦を仕掛けてきた際に対応するための護衛部隊だ。


 悪い言い方をすれば、王国魔法団の付属品のみたいな存在と捉えられる。


 しかし、決して弱くは無い。

 エスパル王国最精鋭部隊である王国魔法団の護衛を任された騎士隊だ。


 弱い事が許されるはずが無い。


 それなのに、あの白いマントを羽織った水の魔法使いは騎士隊を悉く倒していった。

 やはりワイバーンを単騎討伐した実力は本物なのか。


 「全員、落ち着きなさい」


 聞き取りやすい声が魔法団の耳に入る。


 副団長のミーナがぜわつく王国第七魔法団に落ち着くよう促したのだ。

 それによって、沈黙する魔法団。


 「警戒体制を取りなさい。戦闘の準備です」


 厳しい顔をしたミーナが腕を横に出し、指揮をする。


 「し、しかし!あの方は我々のピレルア山脈の調査の協力者では?……………その…調査が建前とは言え」


 ミーナの隣にいた団員が最後の言葉で、後ろめたいそうにしながらも、疑問を投げかける。


 「ミナト………彼はもう私達の"敵"です。団長にこのようなことをして、我々が引き下がる訳には行きません。気を引き締めて下さい」


 ミーナは目を細め、ミナトを見据える。

 認めたくは無いが、団長とのやり取りからミナトは今まで会って来た、どの魔法使いよりも強い。

 本気を出さないと不味い。


 一息ついてから、腹式呼吸で指示を出す。


 「陣形『参縦一体』!!」

 「「「は!」」」


 副団長の指令に、王国第七魔法団は一様に応える。




 いつの間にか、周囲には多くの野次馬が群がっていた。


 見世物ではないと思いつつ、野次馬を一瞥すると、視界の端に茶色いローブを着た人物と白いローブを着用した黒髪赤目の人物が映り込む。


 ………………あれ?あの二人は。

 などと思っていたら、王国第七魔法団がなにやら陣形を取り始めた。


 横に長く、並び始めたのだ。


 前方にいる者達が片膝をつき、その後ろにいる人達が中腰になり、そのまた後方にいる人達はそのまま立っている。

 つまり、縦三列で、横に大きく広がったのだ。


 王国第七魔法団の少し前にいる俺から見ると、魔法団員の顔が全員見える。


 ちなみに、ミーナは三列目の中央にいる。


 一体何をするのかと思ったら、


 「「「聳え立つ石の壁よ、その堅牢を持って我らを守る巌となれ。〈ストーンウォール〉」」」


 俺の眼前に、1.5メートル程の石壁が出現する。


 綺麗に横一列に連なった石壁。

 一列目が全員、二級土魔法〈ストーンウォール〉を詠唱したのだ。


 防御陣形?などと思っていると、


 「「「風よ巻き起これ、見えざる運び手。〈大風〉」」」


 王国第七魔法団から俺に向かって、強烈な向かい風が吹く。


 今度は二列目にいる全員が、三級風魔法〈大風〉を詠唱したのだ。

 効果は程々に強い風を継続的に起こす魔法である。


 一人の風魔法使いが行使したところで、心地よい風が吹くだけの魔法だ。


 だが、これだけの大人数が一斉に唱え、同じ方向に吹かせれば、


 「う!飛ぶ?!」


 人間一人など簡単に吹き飛ばせる強風と化す。


 俺は飛ばされないように、腰を屈んで踏ん張る………………が、踏ん切りが効かった。

 ズルズルと後退する。


 「〈氷壁〉」


 俺は前方に風除けのための〈氷壁〉を作り、飛ばされるのを防ぐ。


 土魔法による防御の次は、風魔法による攪乱。

 そして次は、


 「中央を狙いなさい!」


 俺が〈氷壁〉を張ったところに間髪入れず、ミーナの指示が飛ぶ。


 「「「燃える火よ、火の鏃となって敵を穿て。〈ファイアアロー〉」」」

 「燃え上がる炎よ、その灼熱をもって敵を穿つ火炎の雨となれ。〈ファイアアローレイン〉」


 ミーナを除く三列目が皆んな単発の火の矢を放つ〈ファイアアロー〉を詠唱し、ミーナは数十発の火の矢を放つ〈ファイアアローレイン〉を詠唱する。


 多くの火の矢が放たれる。


 それらは全て俺の〈氷壁〉の中央に着弾する。

 ……ジュワ。


 「マジか」


 なんと俺の〈氷壁〉が溶けたのだ。


 厚さ十センチある氷の壁の表面中央が、二センチぐらい溶けた。


 一発で八センチも溶かしたワイバーンのブレスほどでは無いが、鋼の硬度を持つ俺の氷を解かす威力。


 〈大風〉は俺にとって、向かい風。

 ならば、ミーナたちにとっては、追い風。


 〈大風〉による追い風によって加速され、威力が底上げされた。


 おや、それだけではない。

 全ての火の矢が狙い違わず〈氷壁〉の真ん中に着弾したため、一点集中の攻撃によって溶けたのだ。


 〈ファイアアロー〉を指示された場所に撃つ王国第七魔法団もそうだが、注目すべきは〈ファイアアローレイン〉を撃ったミーナ。


 団長である男が馬鹿の一つ覚えに連発した〈ファイアアローレイン〉はコントロールが上手く無く、命中したのが数発。

 しかも〈氷壁〉に当たった火の矢は霧散するだけだった。


 それに対し、ミーナの〈ファイアアローレイン〉は威力こそ男と同程度であるが、一発一発がしっかりとコントロールされていた。


 かなりの魔法制御力である。


 「〈氷板〉」


 前方の〈氷壁〉を解除して、代わりに足の裏に〈氷板〉に出っ張りを作ることで、それを支えに前に、向かい風に煽られながら駆け出す。


 空中にいるワイバーンを仕留めるために、使用した水剣技流・水技〈氷板〉を踏み台にして進む。


 追従騎士隊同様に、〈氷鎧〉による近接格闘で倒すためだ。


 けど、簡単には行かなかった。


 「弾き返せ!」


 俺が〈大風〉による強力な向かい風の中、向かってきているのを見たミーナがそう叫ぶ。

 すると、二列目の団員達が〈大風〉の行使を止め、


 「「「大地を駆ける風よ、吹き荒れる颯と化せ。〈突風〉」」」

 「ぐっ?!」


 俺に三級風魔法〈突風〉をお見舞いする。


 以前、クラルとの試合で〈上風〉からの〈突風〉を食らい、地面に倒れたことがある。


 その時は大人に強く押された程度の威力だったが、大人数が同時に俺に向かって放った〈突風〉は、俺を十メートル以上まで、吹っ飛ばす。


 幸い〈氷鎧〉を着ていたため、ダメージは無かったが、もし〈氷鎧〉を着ていなかったら、体に少なからず響いていただろう。


 俺は空中を回転して、受け身を取りながら着地をする。


 二列目は既に〈大風〉を唱え直していた。


 なるほ…一列目が〈ストーンウォール〉による防御に、三列目が攻撃。

 二列目は〈大風〉で敵の移動の阻害しつつ、三列目の魔法攻撃の補助をする。

 万が一、敵が近づいたら〈突風〉で吹き飛ばす。


 一朝一夕で出来る連携では無い。


 正直、団長があれであったので、侮っていた部分があった。


 俺は一回大きく深呼吸をする。

 少し本気で行くか。




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