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詠唱魔法と無詠唱魔法




 魔法は三種類に分けられる。


 ・火魔法・水魔法・土魔法・風魔法の「基本四魔法」。

 ・基本四魔法とはまた違う派生された系統である「派生魔法」。

 ・そのどれとも該当しない「特異魔法」。


 ここエスパル王国では、魔法使いの九割………いや、九割九分以上が基本四魔法の使い手である。


 そして基本四魔法には、さらに二つの種類がある。


 それが「詠唱魔法」と「無詠唱魔法」だ。


 詠唱魔法とは、言わずもがな魔法を発動する際に、決まった文言である詠唱を発音する事で発動する魔法。

 この詠唱魔法を「無詠唱化」したものが無詠唱魔法である。


 当然、詠唱するよりも無詠唱の方が魔法の出が早い。

 つまり無詠唱魔法は、詠唱魔法の上位互換とも言える。


 俺の水魔法やクラルの風魔法、ミルの土魔法がこの区分である。


 ちなみに派生魔法と特異魔法ついてだが、エスパル王国において、詠唱自体は基本四魔法以外には無い。

 よって、派生魔法と特異魔法を使える者は、始めから無詠唱である。


 だからこそ派生魔法である氷魔法使いのイチカが無詠唱で魔法を発動するのを見たり、マカで対峙した特異魔法である樹魔法使いのラリアーラも魔法自体は見ていないが、無詠唱であったと聞いた時も驚いたりしなかった。


 魔法使いの殆どが基本四魔法使いであり、その基本四魔法使いのほぼ全ての者が詠唱魔法である。


 「水之世」を出てから、早々クラルとミルの二人の無詠唱使いに会っているが、本来「無詠唱化」は高等技術。

 魔法使いにとって無詠唱魔法は、次のステップである「最適化」、すなわちオリジナル魔法の道へのリミッターを外したようなものだ。


 つまり基本四魔法でありながら無詠唱をする者というのは、基本的に魔法に対して、秀でた技量を持っている事になる。

 そう……………”基本的に”である。


 さて、俺が何故こんな事を説明をしているかというと、




 「クソ雑魚じゃん」


 俺の視線の先に、白目を抜いて、倒れている王国魔法団の正装を着た一人の男が発端だ。


 この男は俺と同じ、無詠唱魔法使いであった。


 しかし、反吐が出るほどの壊滅的な魔法技能であった。

 無詠唱をしているからと言って、その魔法使いが優秀限りでは無いという良い例だ。


 何故こんな状況になったかと言うと、時間を少し戻す。








 俺が王国魔法団の団長を殴ったせいで、案の定味方を引き連れて、現れた。


 激怒した男が吠えるのを、イチカは怯えた表情だったが、俺はとても覚めた目で見ていた。


 「今すぐ土下座して、命乞いしろ!」

 「ミナト!謝りなさい!!」


 ミーナも再度謝るように言っているが、勿論謝る気は毛頭無い。

 謝ったところで、あの男が許してくれるとは思えない。


 それを肯定するように、男は汚い笑みで、


 「ま~最も…謝ったところで、遅いけどな!俺の顔を傷物にしたんだからな!完膚なきまでにボコボコにして、てめぇの顔をグチャグチャにしてやる!!」

 「そ、そんな?!」


 男の言葉に、イチカが顔を青白くさせる。


 当の本人である俺は不快な表情でに返答する。


 「いやいや、傷物って。もともと不細工な顔だろ」

 「な?!て、て、てめぇ………」


 男は真っ赤な顔をさらに赤くさせる。


 そして荒い息を吐きながら、首をコキコキと鳴らす。


 「分かった。分かった。謝る気は無いみてぇだな。てめぇの考えは…よーく分かった」


 男はそう言うや否や、右手を俺に向ける。


 その右手から魔力の起こりを感じる。

 魔法が来る。


 「死ね!〈ファイアアローレイン〉!!!」


 〈ファイアアローレイン〉……一本の火の矢を放つ三級火魔法〈ファイアアロー〉を、何十発も放つ二級火魔法である。


 何十本の火の矢が一斉に発生し、矢継ぎ早に俺へ向かう。


 「〈氷壁〉」


 迫る〈ファイアアローレイン〉に対し、〈氷壁〉で防御する。

 そばにいるイチカも守れるように、彼女の前にも〈氷壁〉を生成する。


 後ついでに、ドットの前にも作った。


 それにしても無詠唱か。


 髪色はその人の持つ魔法の力量や才能に影響されることが多く、高い潜在能力を持っていれば、それが髪色に反映される。


 例えば、隣にいるイチカの髪色は水色。

 これは高い氷魔法の適正を持っている証拠だ。


 男の髪色は赤い。

 だから、もしかして火魔法に高い適性があるのではと思ったが、無詠唱とは。


 やはり王国魔法団の団長というだけはあり、魔法使いとしては一流か。


 ………と思っていたのは一瞬だった。


 ガン!ガン!ガン!


 「はぇ?」


 普通なら起こり得ない事に、つい変な声を出してしまった。


 なんと同時に放たれた数十の〈ファイアアロー〉のいくつかが、俺に向かう途中でぶつかり合い、あらぬ方向に飛ぶ。

 それによって、別の〈ファイアアロー〉も巻き添いを食らい、射線がズレる。


 結果的に〈氷壁〉に当たったのは、僅か三発の〈ファイアアロー〉だけだった。


 とは言っても、俺の氷は鋼と同等の硬度を持つ。

 〈氷壁〉に当たった火の矢は傷つける事も出来ず、霧散する。


 「な、防御しただと?!馬鹿な!」


 いや、馬鹿なと言いたいのは、こっちだ。

 自身で放った魔法同士がぶつかり合うなど、聞いたことが無い。


 俺も〈ファイアアローレイン〉のような多量攻撃魔法として〈水流斬・乱〉がある。

 やろうと思えば、千近い数の〈水流斬〉を一斉に発生させられる魔法である。


 それでも当てる対象が動いていない場合、それぞれの〈水流斬〉が放つ途中でぶつかり合うという愚行はやらない。


 絶望的なまでの魔法制御の低さ。

 無詠唱だからと、一流の魔法使いであると言ったが、全言撤回。


 この男は魔法使いとして、三流以下だ。


 「くそ!〈ファイアアローレイン〉!!!」

 「〈氷壁〉」


 懲りずに、再び〈ファイアアローレイン〉を放ってきた。

 だが、それもさっきと同じく、大半の〈ファイアアロー〉が制御が甘いため、互いにぶつかり合い、俺に届いたのは数発の〈ファイアアロー〉。


 そして俺の〈氷壁〉に当たり、散り散りになる。


 「どうなってる?!〈ファイアアローレイン〉!〈ファイアアローレイン〉!〈ファイアアローレイン〉!〈ファイアアローレイン〉!〈ファイアアローレイン〉!」


 二度も〈ファイアアローレイン〉を凌がれたことに、動揺した男は馬鹿の一つ覚えに〈ファイアアローレイン〉を連発する。

 降り注ぐ大量の火の矢。


 けれど、火の矢による雨はすぐに止む。


 見ると、男の額から大粒の汗に、顔色が真っ青だ。

 魔力欠乏症だ。


 ふむ…魔力量もそこまで多くないし、魔法構築における魔力ロスが多すぎる。

 やはり三流以下だな。


 「はぁ…はぁ…はぁ…どうなってる。俺は無詠唱で魔法を発生させているんだぞ!何故防がれる!」

 「それは俺も無詠唱だからな」

 「はあ?!てめぇみたいな奴が?!無詠唱は選ばれし者のみが使えるものだぞ!!」

 「選ばれし者?……………いやいや、修行すれば誰でも出来るだろ」

 「うるせぇ!!」


 確かに無詠唱を扱える者は魔法使いとして優秀なのだろうが、無詠唱は別段誰にでも出来ないなんていう技術では無い。


 俺だって、ウィルター様という最高の魔法の師匠の元、無詠唱は半年で習得できた。


 男は俺の言葉に苛立ち、地面へ足を何度も叩きつける。


 なるほど、この男……生まれ持った才能だけで王国第七魔法団の団長になったのか。


 無詠唱が出来るなら、別の魔法技術も高いはずだが、恐らく男は才能だけで無詠唱を習得し、努力と研鑽など積んでこなかったのだろう。


 まぁ…確かにあんな〈ファイアアローレイン〉とは言え、無詠唱で飽和攻撃を発動されれば、詠唱する魔法使いにとっては堪ったものでは無いだろう。


 そんな男に手本を見せることにする。


 「〈水流斬〉」


 俺の周囲に現れる数十の水の線。


 それが高速で男へ迫り、男の足下にに着弾する。

 自分の立っている地面の周りが切り裂かれ、呆然とする男。


 今の俺は数十個ならば、〈水流斬〉を自在に操れる。


 けれど、マカで戦ったホウリュウは固有魔法〈雹の礫〉を巧みに操り、俺の〈水流斬・乱〉による数百の水の斬撃を全て相殺した。

 今の俺には、数百以上の精密射撃技術は無い。


 俺も練習と稽古を重ね、いずれ数百の〈水流斬〉を操れるようになりたい。


 「〈氷石〉」

 「ぎゃああ!!」


 これ以上、この男に付き合う必要は無いと判断した俺は、包帯が巻かれた男の顔面に拳ほどの大きさの氷を食らわせる。


 男は白目を抜いて、倒れる。


 「「「団長?!」」」


 男の後ろにいた王国第七魔法団の隊員や騎士達が倒れた男に駆け寄る。


 「クソ雑魚じゃん」


 つい、そんな言葉を吐いてしまった。

 こんな男を団長呼ばわりとは、彼らも大変だな。


 ふと、周囲を見ると、どこから情報を聞きつけたのか、野次馬がたくさん来ていた。

 こんな状況の何が面白いのだろうか。


 そんな事をどこか他人事で考えていた俺の耳に、ミーナの金切り声が響く。


 「ミナト!!王国第七魔法団団長への侮辱と暴行!貴方を今から捕縛させてもらうわ!捕らえなさい!!」


 ミーナが俺をもの凄い目で睨んでいた。

 副団長であるミーナの指示の元、騎士達が俺を捕縛しようと、剣と盾を構える。


 彼らは王国第七魔法団追従騎士隊。


 第七と付くとおり、ミーナの所属する王国第七魔法団を護衛する騎士団である。

 王国魔法団には、第一から第八まで追従騎士隊がそれぞれ付けられている。


 勿論、弱いはずが無い。

 少なくとも立ち振る舞いから、自称水剣技流の剣士達よりは練度は上であると思われる。


 両手で扱うバスターソードよりも刀身が軽く、片手で扱いやすいロングソードに、体の半分を隠せる三角盾を持っている。

 これに加え、重厚な鎧に、鎖帷子。


 動きは遅いが、守りに重きを置いた重騎士における標準装備である。


 魔法を放つ王国魔法団を守るために、護衛に特化した騎士団と言える。


 「相手は魔法使い。近接戦には弱い。盾で守りつつ、取り囲め!」


 騎士達の中でも、リーダーと思わしき男が指示を出す。


 「あの…………止めといた方が。この人に、それ…通用しないかと思います」


 ドットが恐る恐る言う。


 彼の脳内には、ミナトのマントに触ろうとして逆鱗に触れてしまい、金的を蹴られ、さらには取り囲んだ水剣技流の剣士達を一方的に制圧した苦い光景があった。


 だから知っている。

 目の前の魔法使いには、近接線は通用しない。


 けれど、ドットの小さな声は王国第七魔法団追従騎士隊には聞こえなかった。


 騎士達が盾を構えたまま、俺を取り囲もうとする。


 彼らに教えねば。

 本当に強い魔法使いは、近接戦も強いと言うことを。


 「〈氷鎧〉」


 アルアダ山地での盗賊討伐の際に使った、鎧のように氷の装甲を身体の至る部分に取り付ける魔法。


 あの時は腕のみ、氷の装甲を纏っていた。

 今は腕だけで無く、胴体や腰、足にまで〈氷鎧〉を身に付けている。


 俺の氷はほぼ光を透過するほど透明なので、遠目で何も着てないようにみえるだろう。


 〈氷鎧〉はクラルの着ている鎧を参考にしているので、俺の氷に色を付ければ、重騎士の鎧と反対に、防御性は低いが、機動性を重視した軽鎧が見れるだろう。


 〈氷鎧〉を纏った俺は取り囲まれる前に、前方の一人へ一気に踏み込む。


 先手必勝。

 この身軽さと動きやすさが、軽鎧の強み。


 「なっ?!」


 騎士はいきなり踏み込んだ俺に意表を突かれる。

 それでも、剣を前に出し、俺の上半身を突こうとする。


 俺は屈んで躱す。

 そして、そのまま足払いをかける。


 それによって、地面に倒れる騎士。

 その鳩尾に〈氷鎧〉を纏った拳で、本気の下段突きを叩きつける。


 「ぐは!」


 重いだろ。

 〈氷鎧〉を纏った打撃は。


 素手で殴っていたら、昏睡までは行かなく、手が痺れていただろう。

 〈氷鎧〉は防御魔法だけのものではなく、近接戦強化魔法としても使える。


 「コイツ!近接線も出来るのか?!」


 魔法使いでありながら、近接戦を自ら仕掛けた俺に酷く困惑する他の騎士達。

 

 俺はすかさず別の騎士に詰め寄り、またしても足払いをかけ、倒れたところに腹へ一撃を入れる。


 盾で上半身は守れる分、足下が疎かである。

 重鎧という重い装備故に、一度倒れたら、なかなか起き上がれない。


 そして、即座にまた別の騎士に接近し、足払いからの腹部に、拳を叩き込む。


 三人目を倒したところで、左から攻撃の気配を感じ取る。


 先手を取って、三人まで持って行ったが、流石に体制を立て直し、騎士の一人が剣の横薙ぎを振るう。


 俺は左腕でガードする。

 剣と〈氷鎧〉がぶつかり、硬質な音が鳴るが、痛くもかゆくも無い。


 右手で剣を振って、ガラ空きになった右脇腹に、回し蹴りをお見舞いする。


 間髪入れず、右側面にいる騎士の肋に足刀蹴りを繰り出す。


 こうして、騎士達からの攻撃は軽やかなステップで躱し、〈氷鎧〉で受け、鋭い突きと蹴りで戦闘不能にする。

 シズカ様との組手で身につけた格闘術は、伊達では無い。


 俺は懐に潜り込んでの格闘による超近接戦で、一人ずつ騎士を倒していった。




 十数分後…俺の周囲には、


 「「「ぐ……」」」


 王国第七魔法団追従騎士隊、全員が転がっていた。


 昏睡し、地面に倒れ伏した騎士達を確認した後は、ミーナの方へ向き直る。

 次の相手は王国第七魔法団だ。




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