むかーしむかーし①
これから数話、昔話が続きます。
ミナトがまだ十歳頃の話です。
むかーしむかーし。
今よりも遥かに昔の話。
ある国のある地方にある、それはそれは辺鄙な場所に一つの小さな村がありました。
それは名もない村、地図にも乗っていない村。
本当に、明日にでも無くなりそうな村。
村人は多いわけでもなく、皆…畑とは思えない、たいして肥えていない土地を耕して、細々と暮らしていました。
しかし、活気の無いこの村には、二人の子供がいました。
一人は元気いっぱいで小生意気な男の子で、もう一人はしっかり者で物静かな女の子。
二人は幼馴染であり、いつも遊んでいました。
毎日、男の子が女の子を連れ回しているのです。
村の中で鬼ごっこをしたり、村の外の森でかくれんぼをしたりと、いろいろな遊びをしていましたが、中でもよくやっていたのが英雄ごっこでした。
英雄ごっこと言っても、男の子が英雄の役をやり、女の子がお姫様の役をやるものです。
お姫様である女の子を守るために、男の子が剣に見立てた木の棒を振って、思い描いた敵を倒していく……そんな遊びです。
時には盗賊、時には悪魔、時にはドラゴンが相手です。
架空の敵を前にして、枝を振るう男の子を……女の子は楽しそうに見ていました。
そんなある日、二人は村の外の森でかくれんぼをしている時に、うっかり迷子になってしまいました。
二人は長い時間、森の中を彷徨い、気がつけば辺りは暗くなっていました。
段々と、二人は心細く、怖くなっていきました。
女の子の方は遂に泣き出します。
男の子は必死に女の子を慰めますが、女の子は泣き止みません。
ずっと強がってはいましたが、とうとう男の子の方も泣き出してしまいました。
二人して泣きじゃくっている時、”それ”は現れました。
それは森の上…空から舞い降りてきました。
空から降りてきたそれは地上に降り立ちました。
それは見上げるほどの大きな大きな身体を持っていました。
二人が住んでいる村など、丸呑みできそうな程の大きな身体。
長い首、巨大な翼、堂々たる四肢から生えている槍のごとき爪。
首に先には立派な角と剣を思わせる牙、そして金色の瞳。
最も目立つのは、暗くなっていても分かるぐらい綺麗な白い鱗。
それは………………”竜”でした。
それは………………”白竜”でした。
白竜を見て、身体を硬直させる二人の頭に突然、声が聞こえます。
『そこにいる人の子よ』
その声が聞こえた二人は大慌てをしますが、辺りを見回しても誰もいません。
暫くして、また声が聞こえました。
『貴方たちに話しかけているのは、私ですよ』
そう聞こえると、目の前の白竜は首をこちらに下ろしてきました。
二人は分かったのです。
話しかけているのは、白竜だと。
『何故、ここに来ましたか?』
少しの間、二人は共に抱き合って、白竜の様子を見ていましたが、
『安心して下さい。貴方たちを傷つけることはしませんよ』
白竜が二人に何かすることが無い意思を伝えると、男の子は女の子を守るように白竜の前に立ち、かくれんぼの最中で迷子になってしまったと言いました。
それ聞いた白竜は、まるでニッコリと笑ったかのように牙を少し見せ、
『分かりました。では、私が貴方たちを村まで送りましょう』
そう言った白竜は、折りたたんでいた翼を広げたと思ったら、次に瞬間には、光が二人を包む込む。
気づいたら、二人は村の前にいました。
共にビックリした二人は周囲を見ても、白竜の姿は何処にもありませんでした。
白竜のことを村の皆に話しても、全く信じようとはしません。
次の日、意を決した二人は、また森の中に………………、
『お父様、ミナト殿が眠りましたでござる』
『おや?眠ってしまいましたか』
『ふふ、可愛い寝顔でござる』
ウィルターの目には、シズカの膝枕でスヤスヤと眠っている子孫のミナトがいた。
この時のミナトはまだ十歳。
幼さが抜けていない可愛らしい寝顔に、シズカはついミナトの頬を撫でる。
今のミナトは「水之世」に来たばかりで、修行が終わると、疲れ果てて寝てしまう。
だが、こうしてシズカに膝枕で寝ることが偶にある。
そういうときは決まって、ウィルターが昔話を聞かせてくれるのだ。
ウィルターは寝ているミナトに対して、にっこりと笑い、
『では、この続きはまた今度』
ウィルターは眠っているミナトに、小さくそう言った。