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派生魔法と特異魔法

更新が遅くなりましたね。

課題と試験でいろいろありまして。




 それは俺がまだ「水之世」で修行していた時の、ほんの些細な会話だった。


 『ミナト君には是非とも、子孫をたくさん残してほしいですね』


 ウィルター様が唐突に言ってきた。


 「し、子孫ですか?」

 『ええ…ミナト君はいずれここから出るでしょう?そしたら…いずれミナト君は愛する人は見つけて、結婚して、子孫を残す。そうしてくれれば、僕はアクアライドの祖先として、嬉しい限りです』


 いきなりの聞きなれない単語に、驚く。


 「あ、愛する人?!け、け、結婚?!」

 『お父様、ミナト殿にまだ結婚は早いでござるよ。………………しかし、確かに拙者もミナト殿の奥方殿を早く見てみたいでござる』

 「シ、シズカ様まで!」


 ウィルター様とシズカ様の言葉に俺は頬を引きつらせる。

 内心…愛する人、奥方という言葉でいっぱいだ。

 

 この時の俺は「水之世」で修業し始めたばかりであり、〈ウォーター〉から水分子を上手く感じ取ることもできていない状態だった。


 ここから出た後の事なんて、その時の俺は一ミリも考えていなかった。

 ましては愛する人を見つけるどうかなんて、想定すらしていなかった。


 「俺に愛する人なんて……見つかるのかな?」

 『大丈夫です。ミナト君を愛してくれる人はきっといます。人生のパートナーを見つけるのは難しいと思いますが、頑張ってください』

 『そうでござるな。仮に、ミナト殿に異性の相手が出来た際は、その方を真剣に思い、愛し続けるでござる。そうすれば、その方もミナト殿をいずれ愛してくれるでござるよ』

 「わ、分かりました!」


 俺は戸惑いながらも、返答する。


 そんな俺達の会話に、参入する者がいた。


 『よし!だったら俺が一発で人生のパートナーとやらを見つける秘儀を教えてやろう』


 自信満々の顔で会話に割り込んできたのが、レイン様だ。


 「おお!秘儀!どんな秘儀ですか?」

 『くっくっく……気になるか?』

 「気になります!!」


 俺は秘儀と聞いて、少し期待した。

 期待の視線で見る俺に対して、レイン様は腕を組んで得意げに笑う。


 そして唐突に、自身の首筋を指して、


 『匂いだ』

 「はい?匂い?」

 『そうだ匂いだ。特に首筋の辺りの匂い。ここが滅茶苦茶、良い匂いの奴が人生のパートナーって奴だ。気になる女がいたら、首筋の匂いを嗅いでみろ。いい匂いなら、脈ありだ。な?簡単だろ?』

 「………」


 自慢げに言うレイン様に俺は押し黙る。

 何と言っていいのか……俺には分からなかった。

 首筋の匂いを嗅ぐって……。


 呆然としている俺と違い、ウィルター様とシズカ様が冷めた視線をレイン様に送っていた。


 『父様…………見損ないました。いえ、ずっと前から見損なっていましたが、よりにもよってミナト君に性犯罪のやり方を教えるとは』

 『お爺様…………もし首筋を嗅ぐような輩がいたら、拙者なら即刻斬るでござる』


 シズカ様の首筋の匂い……ちょっと気になるな。

 きっと滅茶苦茶、良い匂いがするんだろうな。


 俺はほのぼのと、そう考えていた。









 「滅茶苦茶、いい匂い」

 「~~~~??!!!は、離れろ!!」


 顔を真っ赤にしたクラルが俺を押しのける。


 クラルは俺から少し距離を取って、腕を組んで、そっぽを向く。

 頬は未だに朱色のまま。


 クラルの首筋……滅茶苦茶、良い匂いだったな。

 そこで思い出す、レイン様の言葉。


 『特に首筋の辺りの匂い。ここが滅茶苦茶、良い匂いの奴が人生のパートナーって奴だ』


 今の俺にとっては数年前の会話の内容なので、今の今まですっかり忘れていた。

 首筋の匂いが、良い匂いの場合は人生のパートナー……つまり俺の愛する人になる。


 それは言い方を変えれば、クラルは俺の愛す………………………………いやいや!!

 そんな訳ない!

 クラルとは、ただの昔馴染みだ。


 大体俺が好きなタイプは…シズカ様みたいな強くて、優しい人だ。


 クラルは……世間一般では強い部類だな。

 後…堅物ながらも、なんやかんだで優しい。


 ピッタリ俺の好きなタイプに合致してるな。


 ………って!

 何くだらないこと考えているんだ、俺は?!

 俺はクラルを手伝いに来たんだろ。


 この時の俺には、クラルの刺激的な匂いによって、彼女の背が小さくなっているとか…高くなっているとか…そういう事がすっかり頭から抜けていた。




 それからは気まずい雰囲気ながらも…得意な水の斬撃〈水流斬〉を使って、トレントを細かく解体していった。


 少し時間はかかったが、全てのトレントが解体できた。

 解体したトレントは他の冒険者やギルド職員が回収してくれるという事で、そのまま平地に放置して構わないらしい。


 その頃には、すっかり日が暮れて、夕闇が訪れていた。


 「あ~今日はほんとに、いろいろあったな。疲れた」


 定期馬車の朝一の便で帰ろうとしたら、マカにトレントの大群が襲来。

 入り江には突如、ホウリュウが上陸、そして戦闘。

 ラリアーラという魔法使いとのちょっとした剣戟など。


 本当に濃厚な一日だった。


 今日はぐっすり寝て、明日こそアクアライド家に帰るぞ。

 よし、まずは夕飯を食…………、


 「待て、ミナト」


 マカの街に戻ろうとする俺をクラルは引き止める。


 「どうした?」

 「まず、解体に手伝ってくれた事には感謝する。ありがとう」


 クラルは頭を下げる。


 誠心誠意のこもったお礼だったが、俺が頭を下げ終わった後の彼女の顔をしっかり見ると、彼女はすすぅ…と視線を横に逸らす。

 まだ押し倒しの件に関して、気まずいのかな。


 「えっと…どういたしまして」


 俺の返事を聞いたクラルは突然、腕を組む。


 「入り江の事…覚えているか?」

 「入り江?何のことだ?」

 「ミル様の意思とはいえ、あんな強力な魔物のところにミル様を連れて行ったことだ。………説教すると言っただろ?」

 「あ……」


 確か…ミルが自分の何かの役に立ちたいと言ってきたから、俺がホウリュウのところに連れて行ったんだったな。

 後に合流したクラルがそのことで説教すると言っていたな。


 クラルの説教は長そうだ。


 「せ、説教はまた今度……」

 「駄目だ」


 結局、クラルによる説教をその後、聞く羽目になった。

 ちなみに、この説教…結果的に一時間以上もかかったよ。

 本当に長かった。


 それとくだらない話になるんだけど、説教している時の彼女の首元を何度もチラ見してしまった。


 いや…本当にそういうのじゃ無いから。









 俺が絶賛、クラルから説教されている中、


 「話をまとめると、今回の襲撃はミル暗殺を狙ったもの。今朝の大量のトレントはこの氷漬けにされてる樹魔法使い……ラリアーラと名乗ってたんだってな。こいつが魔法でトレントを使役して、マカを襲わせたと。そんで、こっちにいる生意気そうな男が…………暗殺者共がシュルツと呼んでいた、こいつが音魔法で黒亀王を呼んだと」

 「前の襲撃に比べ、かなり手が込んでいます」


 ギルド長のミランがミルと「銀山」、「双酒」から聞いた話と、先程シュルツから尋問で聞き出した情報を総合的にまとめ、ミルが一月前の襲撃を思い出す。


 その時の襲撃では、暗殺者が三十人程度で襲い掛かってきただけだが、今回はマカ全体を巻き込んだものであった。


 そこはマカの街の中で、最も大きい屋敷の敷地内にある倉庫。


 倉庫内にはミル、ミラン、拘束されているシュルツ、氷漬けにされたラリアーラ…………そして精悍な顔つきをした男がいた。


 遠くからだとほっそりと見えるが、近くで見れば鍛え上げられた肉体を確認できる男…ヴィルパーレ辺境伯である。


 金髪の髪を短く纏めたヴィルパーレ辺境伯はミランと同じ歴戦の猛者の風格を漂わせている。


 ちなみに氷漬けのラリアーラを運んできた「銀山」と「双酒」や、辺境伯直属の騎士たちは倉庫の外で待機してもらっている。


 シュルツの尋問の際に、ミルの素性が漏れる可能性を防ぐためだ。

 このマカの街で彼女の本当の身分を知っているのは、護衛のクラルと、ギルド長のミランと、辺境伯のヴィルパーレの三人だけだ。


 「ふむ…………一月前の暗殺者による襲撃に加え…まさか二度にわたって、襲撃を許すとは。申し訳ありません、ミスティ…………いや、ミル様でしたね。申し訳ございません、ミル様。この町の辺境伯として謝罪を」


 ヴィルパーレが深々と頭を上げ、ミルに謝罪する。

 それに対して、ミルは結構だと言う。


 「いえ…何度も言いますが、一月前の襲撃はこのマカの街の流通の良さを狙われた結果。それに今回の襲撃だって、誰がこのような大規模な襲撃を予想していたでしょうか」


 ミルは辺境伯には、決して非は無いという。


 だが、ヴィルパーレが謝罪するのは至極当然。

 もし、マカの街で見るが暗殺されたと公になることがあれば、ヴィルパーレは最悪打ち首になっていただろうから。


 「しかし暗殺者が我が騎士に扮するなど、恥も恥」

 「頭を上げて下さい。元はと言えば、私がこの街に居たのが原因です。私の方こそ頭を下げるべきです」

 「いえ、そのようなことは……………」


 ミルも頭を下げ返すので、ヴィルパーレが頭を上げるように促す。


 暫く、二人の押し問答は続いたが、髪を掻きむしるミランが口挟む。


 「あ~~かったりー話は、もう止めようぜ。全員生きてんだからよ」


 ミランの介入で、一端互いの謝罪はお開きになった。




 「それにしても派生魔法の音魔法に、特異魔法としてよく知られている樹魔法か。樹魔法で他の植物が操れるなんて聞いたことない」


 ヴィルパーレの疑問を持つ。


 特異魔法とは、基本四魔法に全く属さない特殊な魔法。

 そして派生魔法というのは、基本四魔法である火・水・風・土のどれかの系統に属した枝別れした魔法である。


 シュルツが使っていた音魔法は、風魔法の派生として知られる魔法である。


 音とは空気の振動。

 だからこそ、音魔法は風を操る風魔法の派生なのだ。


 ミランとヴィルパーレは改めて、氷漬けにされたラリアーラを見る。


 「氷漬けにされたコイツからも何か聞き出したいんだが、これではなぁ。ミナトめ………解凍し忘れやがって」

 「ミナト…………噂に聞いている無剣の剣士と言われている魔法使いか。この氷漬けの魔法も見事なものだな」


 ヴィルパーレはラリアーラ氷の彫刻をじっくりと確認する。


 「昨日、氷漬けにされた盗賊に対して、そのミナトという少年が解凍していた場面を騎士達が確認し、私も報告を受けていたが、信じられない。ミナト殿は水魔法使いらしいが、人を氷漬けにする魔法など聞いたことが無い」


 ヴィルパーレは続けて言う。


 「いつかは会ってみたいと思っていた。以前からの街の噂やミラン殿が言っていた規格外の水魔法。黒亀王を倒したのもミナト殿だそうじゃないか。話を聞くに、まるで魔法全てがオリジナル魔法のようだ」


 まるでではなく、そうなのだ。


 「ミナト殿は何だか、三大国の一つであるフリランス皇国の"炎神"の水魔法版だな」

 「炎神?……ああ、隣国の」


 ヴィルパーレが言った炎神に対して、ミランは頷く。


 炎神……それは数年前から自然と耳にする言葉。

 一瞬で街を壊滅させ、一撃で魔物の大群を焼き殺し、一撃で山を灰にした規格外の魔法使い。

 脚色され過ぎなその噂は、どこまで本当なのか分からない。


 少なくとも、とんでもなく強力な火魔法使いであるらしい。


 その後、ヴィルパーレは困ったように腕を組む。


 「それにしても情報が少ない。彼のような樹魔法の使い手は、一体何処から調達したのか」

 「………騎士に扮した暗殺者は私が殺しちまったんだよな…………悪ぃ」

 「気を落とさないでください、ギルド長。騎士を偽装したあの三人の暗殺者も、一月前の者と同じく、口に仕込んだ毒物で自害するでしょうから。氷漬けにされた彼に関しては、ミナトさんに頼んで解凍してもらってから、尋問してみましょう」


 悔しそうに頭をかくミランを、ミルが宥める。

 それでもミランは舌打ちをする。


 「ちっ!コイツに至っては碌な情報しか持ってない。おい、本当にこれ以上何も知らねぇのか?」


 コイツとはシュルツの事だ。


 ミナトによって、閉じ込めていた氷の壁が取り払われ、騎士によってここまで連れてこられた。

 そしてミランたちに尋問を受けたのだが、余り大した情報は持っていなかった。


 拘束器を嵌められているシュルツは慌てて、弁明する。


 「しょ、しょうがねぇだろ!俺は雇われただけの奏で手だ!詳しいことは知らねえんだよ!」


 奏で手とは、依頼を受けて、貴族の屋敷や広場で音楽を演奏することを生業としたもの。


 奏で手自体は数が少なく、収入も微々たるものらしいが、絶対音感を持ったシュルツには天職ではある。


 「その通りだ。こういう事態のために、口が軽そうなお前には最低限の情報しか渡していない」


 突如知らない男の声が倉庫の隅から発生する。

 倉庫内にいた者は、声の発生源である倉庫の隅に素早く顔を向ける。


 そこには見知らぬ男がいた。


 いや…………シュルツにとっては見知った男だった。


 「あ、あんたは?!」


 何を隠そう……自身やラリアーラ、他の暗殺者をここから遠く離れた”隣国であるフリランス皇国”からその男の魔法で連れてかれたからだ。


 "男の特異魔法"によって。


 「た、助けてくれ!」


 シュルツがそう叫んでいるということは、あの男は仲間であるということだ。


 問題は、倉庫の外には騎士たちがいる。

 どうやって倉庫内に侵入したのか。


 そう考える間もなく、ミランとヴィルパーレは同時に男に対して、駆け出す。


 その男を見た瞬間に、直感的にかなり強いと感じた。


 歴戦の猛者である二人は反射的に体を動かしたのだ。

 ミランは愛斧である魔斧ネグログリア、ヴィルパーレは腰に差した剣で切りかかる。


 だが、切りかかる瞬間、

 フッ…………、


 「何!」

 「な?!消えた?!」


 ミランとヴィルパーレが同時に驚く。

 なぜなら切りつけようとした男が、目の前から消えたからだ。


 「っ?!いつの間に!こっちです!」


 ミルが驚愕の声を上げる。


 ミランとヴィルパーレも、ミルが叫んだ方向を見ると、二人も驚愕する。

 何と先程まで自分たちの目の前にいた男が、後方…氷漬けにされたラリアーラとシュルツがいる場所にいた。


 そして瞬きする間に、


 フッ…………、

 あたかも、そこには何もなかったかのように……男は氷漬けにされたラリアーラとシュルツごと消えた。


 そこには、もう何も無かった。




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