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不覚




 取り敢えず、恐らくトレント襲撃の犯人であるラリアーラを倒すことが出来た。


 「〈荷車〉」


 俺は氷の荷車を数個生成した。

 車輪が四つ付いただけのシンプルな構造。


 それの一つに氷漬けにした樹魔法使いのラリアーラを乗せ、残りの荷車に〈水流斬〉で数カ所に切断したエルダートレントの素材を乗せた。


 ブルズエルの言われたとおりに、ラリアーラは生かして捉えることが出来たので、これから氷漬けのラリアーラを運びながら、俺と「銀山」と「双酒」はマカに帰還することにする。

 エルダートレントの素材に関しては、防火材になるから持って帰った方が良いと、ブルズエルが言ったからだ。


 帰りは他の人や荷車もあるので、水の高速移動で行ったりしない。




 パクッ………ムシャムシャ。

 美味い!


 トレントの森からマカの帰り道で、俺はエルダートレントから採れた黄色と赤の混じった実を頬張っていた。

 前にCランク依頼でエルダートレントの実の採取で、依頼に入らない余分な分を食べたが、余りの美味しさに依頼の分まで食べようとした。


 今回採れた実は十以上もあったが、


 『エルダートレントを倒したのは、ミナトだし。実は全部やるよ』

 

 ブルズエル達は、実を全て俺にくれた。

 採れた実を、ブルズエル達に均等に分けようか考えた俺の顔が凄く嫌そうだったからかな?

 まぁ…それは置いといて、本当にエルダートレントの実は甘くと美味しい。

 何個でも食べられる。


 「ミナトはとんでもない魔法使いだと分かってはいたが………まさか、あそこまで剣が使えるとはな。やっぱ初めて会ったときに、ただ者では無い風格を感じた俺の直感は間違いは無かったな」

 「エウガー………記憶を捏造してはいけませんよ。僕もそうですが、あなたも初めてミナト君に会ったとき、ミナト君のことをただの自信過剰な若者だと思っていたでしょう」

 「う~ん……どうだったか。あの時は酒が回ってて、よく覚えてねぇな」

 「全く………エウガーは」


 実を頬張っていると、エウガーとミットが会話は聞こえる。

 二人の性格は正反対だが、何故か馬が合う。


 そうそう……二人とも軽傷では無い傷を負っていたが、ウィルター様から貰った勾玉の機能の一つである液体の収納から、万能回復水である霊水を少し出して、二人に垂らした。

 それによって、二人は全快した。


 「にしても、まさかミットが無詠唱魔法使いなんてよ。こりゃあ相棒として、うかうかしていられないな」

 「…………それなんですが、本当に僕は無詠唱魔法なんてものを扱えるのでしょうか?」


 疑わしい顔のミットに俺は、


 「ミットさんが〈ファイアウォール〉を自発的に圧縮したときは、確実に無詠唱でしたよ。どうやら今は危機的状況のような、かなり集中力を用いる場面でしか出せていないようですけど。詠唱から無詠唱に移る際には、自身の何らかの得意な魔法から、魔力の動かし方・手動での魔法の発動を出来るようになって、無詠唱使いになるんですよ。それによって他の詠唱魔法も、無詠唱で行使が可能になります」


 ミットの場合の得意な魔法が〈ファイアウォール〉。


 俺の場合は、四級水魔法〈ウォーター〉から魔力の動かし方・手動での魔法の発動を会得して、無詠唱が出来るようになった。

 とは言っても………実は四級水魔法〈ウォーター〉以外の水魔法の詠唱は知らないけど。


 「〈ファイアウォール〉を鍛え続けていれば、遠くないうちに無詠唱が出来るようになると思いますよ」

 「が、頑張ってみます!」


 ミットが大きく意気込む。


 …………もしかしたらミットは、「無詠唱化」の…その次「最適化」、つまりオリジナル魔法を習得してしまうかも知れない。


 「最適化」…オリジナル魔法というのは、もはや元の魔法が根本から性質が変わった物だ。

 無詠唱の魔法に少し手を加えるのと、魔法を「最適化」するのは別の話だ。


 でも、ミットにはいずれオリジナル魔法を習得するポテンシャルがある可能性があると俺は思っている。


 そう言えば、俺が「水之世」から出て、割と無詠唱使いに会っているな。


 クラルは風の無詠唱使い。

 後…今更だけど、ミルも無詠唱だったな。


 無詠唱って、結構な高等技術のはずだけど、意外といるもんだな。

 そう思いながらエルダートレントの実を食べてつつ、マカを目指した。









 その頃、マカにて。


 「コイツが例の怪しい奴か。………確かに、如何にも怪しい見た目だな」


 マカに来るトレントを片づけたミランは入り江に赴き、ミナトが捉えたという岩陰で身を潜めていた謎の男……シュルツを見た。

 ミナトの氷の壁に隔離されているシュルツは、現れたミランを訝しげに睨んでいる。


 「暗殺者っぽく無いが、奴の持っている………そのツウシンキ?それを使って、コイツがミルを狙った暗殺者と連絡し合っている可能性が高いと」

 「はい。ミナトさんが言うには、この方は、私とミナトさんが黒亀王と戦っていた時から、何やら黒亀王に対して、魔法を放っていたそうです。恐らく彼は暗殺者では無く、暗殺者に雇われた魔法使いでしょう」

 「雇われか。今回の襲撃の首謀者に関して、何か聞き出したいところだが。あの口の軽そうな見た目から、雇った暗殺者からは大した情報は渡されていないと考えるのが妥当だな。…………しかし……一応、尋問はしておくか」


 ミランは肩に担いである戦斧を両手に持つ。


 「お、おい!俺は何もしゃべらんぞ!!」


 弱腰なシュルツの様子に、ミランは気にした素振りを見せず、シュルツを囲う氷に触れる。


 「そんで問題は………コイツを囲うミナトの氷か。硬くて壊せないんだって?」

 「………はい」


 クラルは悔しさを滲ませながら答えた。


 それ聞いたミランは戦斧を振りかぶる。

 薪割りの要領で、ミランは右足を前に出して、右肩を下ろしながら戦斧を振り下ろす。


 ガキン!!

 固いもの同士がぶつかる重い音が鳴る。

 飛び散る少量の氷の欠片。


 「ひいい?!!」

 「硬っ?!!氷の強度じゃねぇだろ!!」


 シュルツは自分ごと氷を壊そうとしたんじゃないのかと思われるようなミランに驚愕し、ミランはミナトが作った氷の余りの硬度に驚愕する。


 若干のひびが入り、少しだけ氷の破片が飛んだが、それだけだ。


 それを見て、ミルは他の二人にバレないように身体を震わせる。


 クラルの本気の斬撃でも、擦り傷程度の傷しか付けられないミナトの氷。

 ギルド長であるミランは元冒険者で、現役時代はかなり名の知れたAランク冒険者だったのだ。

 その彼女でも、少ししか壊せないミナトの氷を………黒亀王は何度も破壊している。


 今は骸と化している黒亀王の死体を見て,思う。

 今更ながら自分はとんでもない魔物と戦っていたのだ。


 「……………………ミナトさんがいなかったら、死んでいたかも知れませんね」


 それは本当に、誰にも聞き取れないように言った小さい呟きだった。


 ピクッ……。


 だが、その呟きは人よりも感覚が優れているクラルが聞き取ってしまった。

 クラルがここに駆けつけた際に、『ミナトさんのお陰でこの通り無傷です』……とミルが言ったときと同様に、ほんの僅かに肩を振るわせた。


 そんな三人の元に駆けつける者がいた。


 「ギルド長殿!!」


 慌ててこちらに走ってくる者が三名。


 全員、騎士が着る重鎧を身につけている。

 あれは恐らくマカの騎士達だ。


 騎士達はミルとクラルのそばに来る。


 「どうした?」

 「ああ、ギルド長殿。今回のトレント襲撃に関して、辺境伯のヴィルパーレ様が呼んでいます。至急、辺境伯邸に来るようにとの仰せです」


 騎士達は辺境伯であり、マカの街の領主であるヴィルパーレがミランを呼んでいる有無を報告する。


 ここのギルド長のミランと領主のヴィルパーレは交友関係がある。

 だから、領主のヴィルパーレがミランを呼ぶのは、不思議な事では無い。


 けれど、


 「そうか報告ありがとう。…………ところでだが、お前は誰だ?」

 「え?」


 ミランは自然な歩みで、騎士達の方に近づく。


 「私はヴィルパーレ殿の屋敷に赴くことが度々あるんだけどさ………よくマカ辺境伯騎士団の試合相手として、頼まれることが多いのさ」

 「は、はい?」

 「私はこれでも人の特徴を覚えるのは得意でね。マカ辺境伯騎士団に所属している全員の騎士の顔と名前は覚えているぞ」

 「………っ?!」


 ミランの説明に、言われた騎士は明らかに動揺する雰囲気を出す。

 ゆっくりミランは騎士達に接近する。


 「お前らの顔は見たことないな」


 睨むつけるミランは騎士たちに、さらに近づき、とうとうミランと騎士は一足一刀の間合になる。


 「上手く私とミル達を分離させようとしたのだろうが、残念だったな」


 ミランの睨みに対して、騎士は逡巡した素振りを見せた後、小さく愚痴る。


 「ちっ!普通、ギルドと騎士団は仲が悪いのが相場だろ」


 騎士………いや、騎士に扮した暗殺者は叫ぶ。

 ミランの後方………シュルツに向かって。


 「やれ!シュルツ!」

 「わ、分かった!」


 三人の暗殺者は突如、耳を塞ぐ。

 一体何をと思ったミル、クラル、ミランの耳に、


 「〈爆音〉」


 シュルツが氷の囲い越しから魔法を唱える。

 その瞬間に、ギーーン!!!

 鼓膜を破らんばかりの、大音量が響き渡る。


 耳障りな音が鼓膜を伝って、脳にダメージを与える。


 ミル、クラル、ミランは同時に顔を歪ませ、咄嗟に耳を塞ぐ。

 だが、いきなりの爆音は三半規管の自由を一時的に機能を麻痺させた。

 足元が揺らぐ。


 その一瞬の隙が、命取りだった。


 エルミラと偽った暗殺者暗殺者は、懐から取り出したナイフをミルに投げる。


 シュッ!

 ………………ザク。


 「ミル様!!!」


 クラルの声を張り上げる。

 投げられたナイフがミルの胸を突き刺したのだ。




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