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歴代当主たち②




 『…………なるほど。ダンジョンで地震が起こり、ここに落ちてきたですか』


 ウィルター様の俺から聞いた話を纏める。


 『ミナト殿の言う地震は恐らくダンジョンメンテナンスに際に起こす振動でござるな』

 「ダンジョンメンテナンス?」

 『左様。数十年から百年ほどの感覚で起きるダンジョン自身が内部の構造やシステムの不具合をチェックする動きでござる。メンテナンスの初期の際にダンジョン内が大きく振動する。ミナト殿達の集団はたまたまメンテナンスが行われるタイミングでこのダンジョンに足を踏み入ったでござるな』


 シズカ様が懇切丁寧に説明する。


 『しかし地震によって亀裂が入り、その亀裂の下に落ちた先が此処だった。どうなっているのでしょう?ミナト君の話だと、亀裂からこの場所までは一つのルートのような物ができていたらしいですし』

 『ああ、それ多分俺が作った墓地への近道ルートだな』


 レイン様が頭をボリボリかきながら説明する。

 それを聞いてウィルター様は首を傾げる。


 『父様?近道ルートというのは?』

 『ミナトが落ちたのは最上層と中層の真ん中辺のセーフゾーンだろ。ここを墓地に決めた時に最下層まで行くの面倒だから、俺が開けたルートだ。今まですっかり忘れてたわ』


 それを受けて、ウィルター様とシズカ様は明らかに呆れ果てた顔をする。


 『……父様。そのような話、僕は一度も聞いていません』

 『拙者もです。お爺様』

 『ああ、悪りぃ悪りぃ。でもよ、最下層まで降りるの面倒くさくねぇか?』

 

 レイン様は全く悪びれた様子ではなかった。

 これが千年前、最強と言われた水魔法使いか?

 なんか……イメージがな。いや、いかんいかん!


 レイン様を俺の勝手なイメージに当てはめる事こそ無礼極まりない。


 『では、ミナト君がここに来たのはダンジョンメンテナンスで偶然その近道ルートが開いた…から?』


 ウィルター様はそう結論付ける。


 しかし次の瞬間にはウィルター様、そしてシズカ様までも目を輝かせて、俺を注目する。

 な、何だ?!


 『まぁ…今はそのことに関しては忘れましょう。そんなことより、ミナト君!私が死んでから、アクアライド家はどうなりましたか?水魔法は?エスペル王国魔術は?錬金術は?どのように発展したのでしょう?!』

 『拙者も聞きたいでござる!拙者が鍛え上げた水剣技流はいかように進化したでござる?!門下生もそうなったか気になるでござる』

 「え?ええ?!……そ、それは」


 い、言えるわけない。

 今ではアクアライド家は男爵にまで成り下がり、衰退の一途を辿り、男爵にまで成り下がった。水魔法自体は国内弱小、水剣技流の技術も最弱にまで落ちぶれてしまった事なんて言える訳ない。

 しかし二人の圧力に俺は屈してしまい、つい真実を話してしまった。




 『マジかよ……』

 『そ、そ、そんな?!今のアクアライド家は落ちこぼれの魔法使い?!水魔法も国内弱小?!!私が生み出した魔術も錬金術も廃れた?!』

 『せ、拙者の水剣技流も現在はさ、最弱流派?!あ、ああ、あわわわ!!』

 「も、もうし訳あ、あ、ありません!!!」


 レイン様は目を見開き、ウィルター様とシズカ様は絶望の表情で頭を抱える。

 俺は謝ることしかできなかった。




 およそ三時間経って、


 『全くテメェらしっかりしろ。弱くなっちまったもんはしょうがねぇだろ』

 『はぁ……父様は飲み込みが早すぎます。しかし確かに現実を受け入れるのも大事ですね………』

 『そうで………ござるな……お父様』


 ウィルター様とシズカ様はすっかり意気消沈してしまった。そこにレイン様が喝を入れている。  

 ええと、このタイミングで非常に言いづらいが、

 

 「あの〜そろそろ帰ってもいいですか?多分今頃俺の友達や専属使用人も心配していますと思うので」


 本当はこの場所に来てから、ずっと思っていたことだけど。俺が亀裂に落ちて、ミーナやマリ姉が心配していると思う。彼らのためにも俺は戻らなくちゃ。

 確かに俺の憧れである当主たちに会えたのは光栄の至だ。

 けれども、俺の帰りを待ってる人もいるんだ。いつまでもここにいられない。


 二人の気が沈んでいる今がチャンスと俺は捉えた。

 俺は若干忍足でゆっくり離脱を、


 「そ、それでは失礼します」

 『おい、ちょっと待て!』

 「ひっ?!!な、何ですか?!」


 急にレイン様に首根っこ掴まれたもんだから悲鳴を上げてしまった。

 恐る恐る見ると、


 『帰るって、どこにだ?』

 「えっと…家ですが』

 『どうやって?』

 「それは……行きと同じ、レイン様が作られた近道ルートを逆戻りして」

 『ルートはもう塞がっちまってぞ』

 「え?」


 レイン様が指差した場所には俺が落ちてきたルートらしい穴はどこにもなかった。


 「あ、あれ?どこに?」

 『お前はダンジョンメンテナンスとかの偶然が重なってここに来たが、本来は俺じゃないとあのルートは使えねぇんだよ。


 レイン様の指摘に俺は頭をフル回転させ、別の解決策を導き出す。


 「じゃ、じゃあ単純に最下層から上を目指していけば……」

 『いや、無理だろ。お前どう見ても弱そうだし、ここから出た瞬間に魔物に襲われて、終わりだ』


 レイン様の更なる指摘にとうとう俺は泣きべそをかいてしまう。


 「お、俺はどうすれば」

 『まったく…泣いてんじゃねぇよ!それでも俺の子孫か?!」


 レイン様は頭を掻きむしり、言う。


 『はぁ……クソ怠いが。子孫を見殺しにするのも後味が悪い。……しょうがねぇから俺が稽古をつけてやるよ!』

 「ほ、本当に!!い、いんですか?!」


 最強の水魔法使いに稽古をつけてもらえるなんて、こんなに光栄な事は無い。

 レイン様の言葉に俺はもとより、ウィルター様とシズカ様もその目に光を灯す。


 『それいいですね、父様!今は廃れたアクアライド家の末裔を私達当主たちが鍛え上げる。物語によくある展開ですよ!』

 『そうでござるな。ミナト殿には今一度、水剣技流の真髄を国中に叩き込んで欲しいでござる!!』


 という訳で、今から当主たちによる俺の育成が始まった。




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