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クラルの心の変化




 ミナトが一回で眠りに付く一方、二階では、


 「おねえちゃん!私、お姉ちゃんみたいな冒険者になるのが夢なんだ!」

 「……そうか」

 

 二階では、シルハがクラル相手に、はしゃいでいた。


 随分と、シルハに懐かれている様子。


 「ふふ…クラルは随分シルハちゃんに好かれていますね。クラルも嬉しそう。まるで姉と妹ですね。クラルの顔が緩んだ様子を見ることになるとは」

 「ミ、ミル様」


 ミルの言葉に、クラルは顔を引きつらせる。


 確かにシルハの元気な顔に対して、クラルはいつもより表情が緩んでいる。

 ミルの護衛をしている時は大体は無表情なのだ。


 「ふふ…シルハがクラルさんに懐いているのは、クラルさんの見た目がニナちゃんに似ているからでしょうか」


 母親のサーフが、ミルにだけ聞こえるように小さい声で語る。


 「ニナというのは少し前に盗賊に攫われたと思われる……」

 「はい、その子がニナちゃんです。………少し変な話をして良いですか?私達の家は二人暮らしなのに大きいですよね?」


 ミルの確認に、ソーフは過去の辛い出来事を思い出すような深妙な顔を作る。

 突然の話題転換にミルは首を傾げて、


 「はい……確かに、この家は村の家々に比べて、大きい作り出すね」

 「この家はもともとシルハの私…そして夫と三人で暮らしていました」

 「夫?その人は今どこに?」

 「半年前に死にました」


 ミルとソーフとの間に、暫し無音が流れる。

 ややあって、


 「失礼しました。お亡くなりになっているとは知らず」

 「いいえ、私が話したかったんです」


 ミルの謝罪に、ソーフは構わないと答える。

 続けて、


 「夫は狩人でした」


 そしてソーフは家の周りを見て、こう付け足した。


 「狩りとは別に建築も得意で、この家も夫が建てたものなのです」


 ミナトがこの家の内装を見た時に、必要最低限の物しか置いていなく、殺風景ってわけではなく、ただ質素な家であると第一印象を持った理由は、それだ。


 狩人であったソーフさんの夫が建てたから実用的な内装になったのである。


 「だからこのように広いのですね」

 「ええ…しかし半年前に夫が病で死にました」

 「お悔やみ申し上げます」

 「ありがとうございます。……それで夫の死で私はショックで倒れそうになったのですが、残されたシルハのためにもどうにか踏みとどまりました。けれど、シルハは違いました。あの子は夫の死から、かなり塞ぎ込んでいました」


 ソーフは今頃、クラルと風呂に入っているであろう裏庭の方向の壁を見る。


 「でも、村の子供の中で最年長のニナちゃんはそんなシルハをよく元気づけていたんです。あの子も徐々にニナちゃんに懐くようになって……一週間前にニナちゃんは行方不明に」

 「なるほど。そのような経緯がシルハちゃんにあって、クラルに強い情を持っているのですね」

 「そうです。クラルさんは髪型や雰囲気がニナちゃんに似ているので、シルハも特別気があるのでしょう。……あ、やっぱりクラルさんには迷惑ですかね?」

 「いいえ、そんなことはありませんよ。むしろシルハちゃんの影響でクラルの心が良い方向に変わってきました」

 

 ミルはクラルの方を横目で見て、続ける。


 「クラルは何に対しても無関心といいましょうか、私の護衛以外に何かをしようとするとか、シルハちゃんといる時のような表情を緩める様子なんて今まで全くありませんでした。これはひとえにシルハちゃんと………ミナトさんのおかげですね」

 「ミナトさん?」


 シーフは首を傾げる。


 「クラルは私から見ても、この国では並ぶものが殆どいないほど強い魔法使いです。少なくとも私がクラルを護衛にした時から、戦いで負けたことがありません。………しかしミナトさんがクラルとの試合で勝ったことで、クラルの中の何かが変わりました」


 ミルは、シルハに懐かれているクラルを見ながら、シーフにそう言ったのだった。




 自身の事を語られているクラルは、そうとも知らずにシルハの相手をしていた。


 「お姉ちゃんって凄く体が大きいよね」

 

 シルハが私を見て、素直な感想を言う。


 まぁ…大体の男よりは背は高いかな。

 ミナトがダンジョンの穴に落ちて、強くなろうとした時から背が急激に伸びてきたんだ。


 まるで私の強くなりたいという気持ちに答えるように。


 それにしても、ふふ…お姉ちゃんか。


 私は少しだけ嬉しくなってしまった。

 お姉ちゃんなんて、言われたのは久しぶりだからだ。

 いつだったかな、実の妹が私をお姉ちゃんと言わなくなったのは?


 私が五歳の時までは、二才歳下の妹はお姉ちゃんと呼んで、私の後ろをついてきた。

 でもいつからか、妹は私の生まれ持った赤い眼と”銀髪”を気味の悪い目で見るようになった。


 少しでも嫌われないように私は髪を黒く染めたけど、妹との関係は開く一方だった。


 あれは相当堪えた。

 物心ついた時から実の父親から、いない者として扱われてきた私にとって、実家では妹だけが心の拠り所だった。


 それからだ。

 心を閉ざし、親友であるミーナの陰に隠れるようになったのは。


 「ねぇねぇ………お姉ちゃんってさ………お兄ちゃんと恋人なの?」


 そうして、昔を思い出していると、シルハがとんでもないことを聞いてきたのだった。


 「へ?!あ…ああ!お、お兄ちゃんって………ミ、ミナトの事か?!」

 「え?そうだけど」

 「っ?!!」


 あまりに唐突なので、風呂の水を飲みこみそうになった。


 「こ、恋人などではない!!ただの知り合いだ!」

 「そうなの?仲良さげだったけど」

 「違う!仲良くなんかない!」


 だ、誰があんな奴となんか!


 私はミナトが好きなわけでは断じてなく、アイツに負けてから、いつかミナトに勝とうと対抗意識を持っているだけだ。


 しかし考えてみれば、少し前までの私では、今の私は考えも付かないだろう。

 誰かに大きく感情を見せるのは。


 思えば、私はミナトが穴に落ちて、死んだと思われた際の周囲のミナトへの罵倒や無関心さから自分もそうなりたくないと強くなろうとした。


 そしてミル様に出会ってからは、強くなることとミル様を守る以外私の頭の中にはなかった。

 他人なんて、いつしかどうでもいいと思った。


 それが五年ぶりにミナトと再会し、負けて、今度は負けてでもいいから次は絶対に勝ちたいと心に決めた。

 それがミナトへの対抗心に繋がったのだ。


 ………あれ?


 よくよく考えてみると、私はミナトの影響で心構えが変わっているような。


 ああ!もう!これ以上ミナトのことを考えると馬鹿らしくなる。

 あの格下をとことん見下す傲慢な魔法使いは、今だけ忘れよう。




 クラルとミルとシルハとシーフの四人も、眠りに付くのだった。




是非、少しでも面白かったら星を一つでもくれると嬉しいです。

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