錬金術と勾玉
俺とクラル、ミルを自宅に誘ってくれた、おさげの金髪がトレードマークの可愛らしいシルハはクラルの手を握って家まで案内してくる。
「ここが私の家だよ!」
案内された家は二階建ても木造建築。
確かに、この村の中ではかなり大きい方だ。
扉から入って内装を見ると、テーブルと椅子、暖炉、棚、など……何というか必要最低限の物しか置いていないな。
でも殺風景ってわけではなく、ただ質素な家だ。
シルハが扉を開ける。
すると、奥から声がする。
「シルハ……帰ったの?」
俺達がいる扉の方に女性が来た。
その人はシルハによく似た金髪の年配の女性だ。
「あら…その人たちは?」
彼女は俺達を見て、首を傾げる。
それに対して、シルハは元気よく返事をする。
「お母さん、ただいま!私ねぇ、冒険者を連れてきたんだ!この家に泊めるの!」
「初めまして。私は冒険者のミルという者です。こちらはクラル。そして……」
「ミナトです」
「あらあら…ご丁寧にどうも。私はシルハの母のソーフです」
自己紹介をされたシルハの母親ソーフは少し驚きつつも自己紹介をする。
頭を下げた後、暫し俺達を見る。
そしてにっこりと笑う。
「そう言えば前に冒険者さんがこの村にいらっしゃった事がありますが、もしや盗賊の件ですか?」
「はい。明日私達は盗賊の掃討のために出発するので、シルハちゃんのお家に泊めてもらうことになりました」
「まぁ…三人も」
シルハの母親は一つ頷いてから、
「そうですか……何もない家ですが、どうぞお寛ぎください」
「では失礼します」
そうして俺達はシルハの家に上がるのだった。
「ごちそうさまでした!!」
シルハが高々と食後の感謝の言葉を述べる。
シルハの家に上がった俺たちは料理を振る舞ってもらった。
食器をかたずけた後は寝る準備に入る。
明日は盗賊と戦うので早めに寝たいところだ。
食事の済んだ俺達はさっさと明日に備えて、寝る支度をした
俺達冒険者組は持ってきている寝袋に入って寝る………のは俺だけであり、俺以外のミルとクラル、シルハ、ソーフの四人は二階にあるベットで寝るつもりだ。
俺は一階だ。
女性陣と一緒に俺が同じ階で寝ることをクラルは良しとはしなかった。
何もしねぇよ!
内心愚痴りながらも、床に寝袋を敷く。
そして就寝に着く前、俺は徐に首にかけてある小指の先ぐらいの小さな青い勾玉が紐で通された素朴な首飾りを見た。
ウィルター様から餞別として貰ってからずっと肌身離さず首にかけている。
勾玉の部分を指で摘んで魔力を流す。
すると、俺の頭の中には勾玉に刻み込まれている無数の錬金術による魔法陣や魔術式が浮かび上がる。
俺は五年間で習得したのは何も魔法や近接戦闘技術だけでは無い。
錬金術の基礎だって学んだ。
まず始めに、錬金術とは魔法を発現されたり、魔力を操作するための技術。
複雑な魔法陣や魔術式を使用して、思い通りの魔法現象を引き起こすもの。
簡単に言えば、魔法使い無しで魔法を発生されるための技術である。
そうやって錬金術で魔法を発動する際に稼働する道具が錬金道具である。
この勾玉がまさかそれ。
これには魔法を発言する機能が備わっていると言う事だ。
俺はあまり見た事が無いから詳しくは知らないが、通常の錬金道具や錬金装置はそこに備わっている錬金術を理解しなくとも、スイッチを押すや魔力を流せば、勝手に機能してくれる。
中にも常時発動する錬金道具もあるとかウィルター様は言っていた。
それに確証はないが、ミルが常に着ている茶色いローブやクラルが腰に差している白い剣は錬金道具であるか、それに近い類いの物では無いかと思っている。
実際にあれらからは魔力を感じる。
しかし、この勾玉の錬金道具は魔力を流しただけでは機能しない。スイッチもないし、首に書けただけでは何も起こらない。
所謂特殊な奴だ。
これを貰った時にウィルター様は言っていた。
『その錬金道具は内部の機構や原理を正しく理解していないと、完全に扱うことは出来ません。今のミナト君でもかなり難解でしょう。ここを出た後、様々な錬金術に触れて知見を広めていけば自ずと扱えるようになると僕は思っています』
つまり、今頭の中に浮かんでいる魔法陣や魔術式をきちんと理解していないと、使う事が出来ない訳だ。
問題があるとすれば、
「難し過ぎるだろ……」
無意識にポロリと呟くほど、頭に映し出される魔法陣や魔術式は超難解なものである。
複雑怪奇な形状の魔法陣。
何を表しているのか分からない超長い魔術式。
ウィルター様から勾玉を受け取って、毎日解き続けているが、一向に分からない事が多過ぎる。
理由としては、錬金術の基礎を覚えることだけでも難しいからだ。
まず錬金術を学ぶことは複数の言語を習得することと同義だ。
そうして複数の言語によって、ミックスされ、ブレンドされたものが魔法陣や魔術式である。
毎日トライしているが、勾玉の言語は全く読めない。
基礎は学んでいるが、これは基礎の遥か先にある。今の俺では、極一部の事しか分からない。
そう極一部しか分からない。
裏を返せば、極一部の機能は理解できて、使えるって事だ。
だが、その極一部だけでもかなり凄い可能だと思う。他の機能も魔法陣や魔術式の解析を進めて、使えるようになりたい。
もしかしたら、今回の盗賊の掃討に役立つかもしれない。
新たな目標が出来た。
今のところ最優先目標は実家に帰る。そして蒼月湖に行くことである。
それが達成したら、優先目標は勾玉の解析だな。
色んな錬金術や錬金道具の魔法陣や魔術式を読み込んで、知見を広めなければ。
魔法の探求も面白いが、錬金術や魔術の探求もワクワクする。
一通り、勾玉の解析をして、俺は眠りに付いた。