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村に到着して

話を少し修正しました。



 俺達が村の入り口に到着して少し経つと、杖を突い老人の村長が出迎え、あっけなく俺達をこの村に入れてくれた。

 

 というのも数日前にアルアダ山地に偵察に出た「銀山」と「五枚刃」がこの村にも立ち寄っており、近々盗賊の掃討のために、また立ち寄ることを村長と打ち合わせをしていたらしい。


 そして一旦作戦会議と言うことで村中央の広場に集まった。


 「聞いたところによると、俺達が初めてこの村に来る一週間ほど前に、村人の一人…二ナっていう十三歳の女の子がアルアダ山地の麓で行方不明になっていたそうなんだ。だから俺達がそこを重点的に調べてみると、麓から少し言った先の洞窟で盗賊がいるのを確認したわけだ」


 今回の複数パーティの実質的なリーダー役を任されたブルズエルが説明する。


 「盗賊の規模はかなりのもんなんだろ?」

 「ええ、マカからの出発前にブルズエルさんからある程度聞きましたが、斥候に出たバンくんによると今回の盗賊は推定三十人規模だそうだったそうです。かなりの大所帯ですよ」


 Bランク冒険者のエウガーとミットが盗賊の情報を確認し合う。


 「二ナっていう村人もその前に行方不明になった人達も恐らくは盗賊に捕まったと思う。だから明日の掃討作戦は人名救助が最優先だ」


 あくまでも人命優先であると、ブルズエルは言う。


 「今日はもう遅い。出発は明日の朝だ。基本的に前衛の俺、ウルド、モンシェ、レッカ、バンが前に出て、後衛のクリンズ、ノルウェル、ノルトン、ミナトそして…………えっと、クラルさんとミルさんが後方からサポートという感じで良いですか?」


 リーダーではあるが、冒険者としては自身より上のAランク冒険者に畏まるブルズエル。

 

 「承知しました。私達は後ろからブルズエルさん達を援護いたします」


 ミルは丁寧な態度で応答する。

 付き添いのクラルも頷いて肯定を示している。


 そこで、ちょっと気になったことを俺は聞いた。


 「その盗賊に連れ攫われた人達って…………どうなったんでしょう?」

 「ああ……そこなんだが」

 

 ブルズエルは滅茶苦茶言いづらそうだ。

 しかし意を決して、


 「今まで俺達が対峙してきた盗賊を鑑みると、行方不明になった人は捕虜にされて、奴隷として売り飛ばす気だろうな………………主に男や子供は」


 ブルズエルはかなり気まずい表情を作り、含みを持たせた物言いをする。


 「男は…………では女性の方は?」

 「あ、ああ…女性はなぁ、大体の場合においては………………」

 「甚振られている場合が多い」


 横から声を挟んできたのはミルだ。

 

 「は、はい!そうですね」

 「ブルズエルさんは私達に畏まる必要はありませんよ」

 「そ、そう言うわけには」


 冒険者は実力主義な一面もあるのか、畏まる必要な無いと言われても躊躇する。

 ミルは俺に向き直る。


 「話を戻しますと、連れ攫われた女性の方々は盗賊達に暴力を振るわれたり、乱暴に扱われていることが多いです。事前の報告では消えた商隊や護衛にしていた冒険者の中には女性もいたそうです。彼女たちはそういう扱いを受けてる可能性があります」


 なるほど。

 そういう扱いをされている可能性があると。


 彼女は自分と同じ性別の人達が酷い目に遭わされていると言っているのに口調は淡々である。

 横のクラルも表情に変化はない。

 二人はAランク冒険者だし、そういう盗賊に捕まった女性達を見たことがあるのかな。


 ミルさんは……女性であってるよな。

 明らかに女性の声であるし、雰囲気も女性っぽい。

 顔は見えないが。

 

 前に興味本位でフードの中を覗いてみたけど、まるで顔は黒塗りされているかのように暗かった。

 あの茶色いローブからはクラルの持っている剣と同じく、魔力を感じるので魔法が施されたローブなのだろう。


 そうなると、益々顔が気になってしまう。


 「まぁ…そういうことだな、ミナト。盗賊達の洞窟のアジトに行ったら少し刺激の強い光景が広がっているかもしれん。覚悟してくれ」


 マジか………この盗賊の掃討は人殺しに加えて、そういうことにも覚悟をしないといけないのかよ。


 諸々の細かい打ち合わせの後、会議は解散になった。




 「冒険者の方、お疲れでしょう?今夜はワシの家や他の者の家に泊めてもらい、食事をしてください」


 俺達は冒険者なので簡易的な寝袋や保存食は持っている。

 しかし今日は村長や村人が食事と寝床を提供してくれるらしい。


 「ああ、村長。態々すみません」

 「いえいえ。冒険者の方は明日、盗賊の戦うのでしょう?消えた村人のためにも是非英気を養ってください」

 「分かりました。攫われた村人は必ず俺達が助け出します」

 「ありがとうございます。是非………ニナを助けてください」


 ブルズエルがお礼を言うと、村長は真剣な表情で答える。

 顔ぶりから多分、村長もその二ナという人がとても心配なんだろう。


 「分かりました。必ず助け出します。………よーし、お前ら…俺達「銀山」は村長の家に泊まらせて貰うことにする。みんなも今日は村人の家に泊めて貰え」


 ブルズエルが仲間に促す。


 明日はいよいよ人との本当の殺し合い。失敗はできないな。

 俺は密かに決意を固める。


 ぐうううう…………。

 腹減ったな。

 どの家で飯を食おうか。


 「ねぇ…お兄ちゃん」

 「ん?」


 突然、幼い声調で話しかけられた。


 声のする方を見ると、そこには五歳くらいの女の子がいた。 

 金髪のお下げが夕日の光を受けて、金色に輝いている。


 その子は俺を物珍しそうな目で見ている。


 「どうしたんだ?」

 「お兄ちゃんって冒険者なんだよね?」


 女の子がそう聞いてくる。


 「そうだけど……それがどうした?」


 俺の言葉を聞いた女の子は突然俺に寄ってきて、服やマントを触ってきた。


 「え?な、何だ?!」

 「冒険者の服に触っちゃった!」


 いきなりのことで俺は困惑した。

 動揺する俺を余所にその子は目を輝けせて、俺の服を上から下まで眺めて、感触を確かめるように触る。


 「あ!この腰のナイフ、お兄ちゃんの武器?………この白いマント、良い匂いがする!!」

 

 そう言って、所構わずに俺の着ている物を撫でたり、掴んだりして触ってくる。

 

 この餓鬼、遠慮を知らないのか?!

 こらこら!ナイフは駄目だ!危ないだろ!

 マントに良い匂いがする?あったりめぇだろ!シズカ様のマントだぞ!


 俺は女の子を引き剥がす。


 「お兄ちゃんって強いの?」

 「はぁ?!俺が強いかって?」

 

 何を当たり前の事を聞いてくるんだ。

 そもそも強いかどうかを聞くなんて、見る目ないな。


 俺は女の子に宣言するように、親指を立てて、自分を指す。

 どや顔で、


 「勿論強ぇぞ!聞いて驚け。俺はここにいる冒険者の中で一番強い……最強の水魔法使いなんだぞ!!」

 「おぉぉぉぉ!!!」


 ちなみに最強というのは自称である。

 だが、俺の宣言に女の子は声を上げて驚く。

 ふっふっふ……驚け!驚け!


 そこから横から入ってくる者がいた。


 「はぁ……子供相手に何向きになっている」


 ため息をつきながら、クラルがやってきた。

 俺には呆れた視線を送ってくる。

 

 俺は口をへの字に曲げて、


 「何だよ……事実を言ったまでだろ?最強の水魔法使いの何が間違いなんだよ?」


 もう一度言うが、最強というのは自称である。

 俺の答えにクラルはまた大きなため息をつく。


 「お前はもうちょっと…謙虚というものを身につけるべきだ」

 「謙虚なんて、弱い奴がすることだ。それよりミルさんの護衛はどうした?」

 「ミル様はブルズエル殿とより綿密な話をしている」


 見ると、茶色いローブを着たミルがブルズエルとまだ話し合っている。

 真面目な事だな。

 

 「お姉ちゃんも冒険者?」

 

 ここで、クラルという俺以外の冒険者が現れたことで、好奇心旺盛な女の子は興味はそっちに行く。

 そして俺と同じように近づいて、服や装備を触ってくる。


 「な?!こら!そんな触るな!」


 小さい子供の手でペタペタ触られる

 女の子は白いローブを引っ張られたり、足に抱き着かれたりして、クラルはとても困った顔をしている。


 それを俺はニヤリと笑ったまま見る。

 味わえ味わえ。子供にくっつかれる気分を!


 「わぁ…この剣きれい」


 すると、女の子がクラルが腰に差している剣に触れようとする。

 確かに装飾が見事に施られた剣だ。子供が触りたくなるのは当然。


 「っ?!これは駄目だ」

 「わっ?!」


 剣に触ろうとした女の子を振り払ったため、女の子が転んでしまった。

 慌ててクラルは女の子に手を貸し、立たせる。


 「す、すまない。だが、この剣は少し特殊な剣で素人が扱うと怪我をする恐れがある」

 「ううん………私も勝手に触ってごめんなさい」


 クラルの謝罪に、女の子も素直に謝る。


 しかし女の子はまだクラルの手を握っている。

 ジッとクラルの顔を見つめる。

 

 「?……どうした?」

 「お姉ちゃんってきれいだね。眼も髪も」


 女の子の率直な言葉にクラルは意表をつかれる。


 「は?」

 「まぁ…そこは認めるぞ」

 「ミ、ミナトまで?!」

 「そうだよね!お兄ちゃん!」


 クラルは美人である…そこは認めよう。

 不覚ながら、たまにクラルの美麗な顔を見て、ドキッとする時がある。 


 女の子はクラルの手を引っ張って、


 「ねぇ!ねぇ!お姉ちゃんとお兄ちゃん、私の家に来てよ!泊まってって!」


 どうやら短時間でクラルは女の子に相当好かれたようだ。

 泊まったからか……俺は全く構わない。


 「え?確かに今日は何処に泊まるかはまだ決めてはいないが、生憎私にはミル様の護衛が……」

 「でしたら、私も貴方の家に泊めてもらうことにしましょう」

 「ミル様?!」

 

 さっきまでブルズエルと話し合っていたミルがやって来る。

 クラルが主人の護衛のために断ろうする際に、当の主人がクラルと同じところに泊まると言ってきた。


 「私がクラルと一緒にいれば、問題ありません」

 「それは……そうですが」

 「では、決まりですね。そう言う事なので、ぜひ貴方の家に泊まらせて下さい」

 「あなた誰?」


 女の子は顔をキョトンとさせる。

 フードを深くかぶっているので、顔が見えないミルに子供ながらに女の子は首を傾げる。


 「あ、申し遅れました。私はミルと申します。貴方の名前は?」

 「私……シルハ」

 「よろしくお願いいたします、シルハちゃん。私達はシルハちゃんのお家に泊まらせて良いですか?」

 「っ?!勿論良いよ!こっちに来て!」


 女の子…シルハは嬉しそうに了承する。

 こうして俺とクラルとミルは女の子の家に宿泊することになった。




 「おい!ちょっと待て!何故お前も付いてくる?」

 「いやいや…さっき女の子が言ってただろ?お姉ちゃんと"お兄ちゃん"、私の家に来てよ……て」

 「あ!」


 何言ってんだと顔を惚ける俺。

 思い出したように、目を見開かせるクラル。

 それを見て、小さく笑うミル。



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