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アルアダ山地に向けて

内容は少し短いです。




 ガタガタゴトゴト……ゴトン!

 馬車が道を進む度に、車輪の回る音が鳴り、時折小さい石とかにぶつかって車体が大きく揺らされる。


 しかし、そこはギルドが用意してくれた馬車。

 たまに揺れるが乗り心地は悪くない。


 俺は現在、馬車に乗ってマカから東方向にあるアルアダ山地へ向かっている。

 そこに居着いているという盗賊達を掃討するためだ。

 

 どうやら一ヶ月ほど前に、そのアルアダ山地の中を道を通っていた商隊が護衛にしていた冒険者達ともに行方不明になったそうだ。

 その前にも、アルアダ山地や周辺で行方不明者が度々起こっていたと。


 ギルドはこれを盗賊の仕業である可能性があると考え、数日前に偵察のためにBランク冒険者とCランク冒険者の合同パーティを送り込んだ。


 すると、アルアダ山地を奥に少し進んだ洞窟に盗賊達が本拠地にしている事が判明した。


 この報告を受けて、ギルド長のミランは即座に盗賊達を掃討するために指名依頼を出した。

 指名依頼とは、通常のギルドの壁に張り出されている依頼とは違って、特定または条件に該当する冒険者を指名して依頼を遂行させるものだ。

 

 ミランに指名を受けたのは、数日前に偵察でアルアダ山地にある盗賊達の洞窟の位置を把握しているBランク冒険者とCランク冒険者の合同パーティに加えて、さらに追加のBランク冒険者……そして俺だ。


 エルダートレントの実の採取をした日の夜にまたギルド長に呼び出しがあったので、行ってみると、なんと俺を盗賊の掃討依頼に指名してきたのだ。


 何故俺もなのか…一応聞いてみると、ミランは


 『そりゃあ…お前の実力を見越してのことだ。Aランク冒険者の旋風に勝てるお前ほど、今回の依頼に適任者はいねぇ』

 

 ミランは俺の肩をドンッ!と叩いて言った。

 信頼してくれるのは気持ちが良いのだけど、ちょっと痛いよ。


 『ここ一ヶ月、お前はしっかりと依頼の報酬を修理代に回しただけで無く、町の連中からの依頼もちゃんとこなしてくれた』


 おかげで「無剣の剣士」なんていう異名が付いたけど。

 苦笑いしたのも束の間、次の言葉に驚く。


 『だから今回の依頼で最後にしてやる』

 『え?!良いんですか?確か…まだ修理代は少し残っていたはず』

 『ああ、それぐらい平気だ。お前はよく働いた』


 ミランは俺を子供のように頭を撫でた。

 俺……もう十五歳なんだけどな。

 でも悪い気はしなかった。


 てことで俺は盗賊掃討作戦の一員になった。


 つまり…これから人と殺し合うわけだ。




 「はぁ……」


 大きくため息をする。

 ギルド長直々の指名とは言え、実は今回の依頼…余り乗り気ではない。


 正直……盗賊と戦うのは…………。


 別に対人戦が苦手では無い。

 ダンジョン「水之世」では、かつて水剣聖と呼ばれたシズカ様相手に散々組み手や剣による模擬戦をした。

 ウィルター様とも数えきれないほど魔法戦をした。


 いつも二人には大幅に手加減された上で負けてるけれど。


 ……え?レイン様とは試合をした事は無いのかって?勿論あるよ。あるけど……これは今は置いておこう。

 とにかく俺は試合や模擬戦は何度もやったけど、魔物とは違って、人相手に命のかかった戦いや命の奪い合いをした事が無い。

 上手く立ち回れるか少し心配だ。


 なお、俺とクラルとの試合が命のかかった戦いでは無いかどうかは人による。


 ため息を吐いた俺に対して、背中を叩く者がいた。


 「何、やる気の無い顔してんだ?これから盗賊と戦うんだぞ?ミナト」

 「ブルズエルさん………」


 背中を叩いたのはBランク冒険者パーティ「銀山」のリーダーである剣士ブルズエルであった。

 この盗賊の掃討作戦に参加する彼はパーティ仲間である弓士クリンズ、盾使ウルドと一緒に、俺と同じ馬車に乗っている。

 

 そして俺達が乗る馬車の後ろにもう一台馬車があり、そこにはCランク冒険者パーティ「五枚刃」の槍士モンシェ、剣士レッカ、斥候バン、土魔法使いノルウェルとノルトン、そしてBランク冒険者の剣士エウガーと火魔法使いミットがいる。


 感のいい人は気づいたと思うが、数日前にアルアダ山地に偵察に出たBランク冒険者とCランク冒険者の合同パーティというのが、「銀山」と「五枚刃」のことである。

 それに追加のBランク冒険者がエウガーとミットである。


 ミラン曰く、このメンツがマカでのトップ戦力層であるらしい。


 マジかよ。

 「銀山」と「五枚刃」とは戦ったことは無いけど、エウガーは酔っていたとは言え、俺に剣を抜かれ、ミットは〈水流斬〉で一撃だ。


 彼らがトップ戦力層。やっぱり不安だな、と行く前は思った。

 まぁ…いい。今は彼らに期待するか。


 背中を叩いたブルズエルは俺の隣にやってくる。


 そこで俺は自分の気持ちを独白する。

  

 「その………盗賊と戦うにあたり、もしかしたら人を殺すことになるのかなって」


 そう………それが今回の依頼で俺が抱いていた最大の懸念事項。


 魔物を殺すことには全く躊躇無かった。

 でも人は………殺してしまったら一人の人間として一線を越えてしまうような恐れがあったのだ。

 果たして俺に出来るのか。


 ブルズエルは俺の言葉が意外だったのか意表を突いた顔をする。


 「そうか……ミナトは殺した経験が無かったのか。いや、そうだな。つい一ヶ月前に冒険者になったんだから当然か」

 「ブルズエルさんは殺しをしたことがあるんですか?」

 「あるな。冒険者をやってれば、人と戦うときは必ず訪れる。それで人の命を奪うことも」


 ブルズエルの言葉には重みがあった。

 流石、長年冒険者をやっているだけあり、経験は豊富なようだ。

 俺は踏み込んだ事を聞いてみる。


 「あの………これは余り聞いてはいけないことではあるんですが、ブルズエルさんは初めての人殺しの時はどうでした?心に………来ましたか?罪悪感とか」


 ブルズエルはそれを聞くか、と言いたげな少し影のある顔で頭をボリボリとかく。


 「俺の初めての殺しも山賊だった。最初は捕縛するつもりだったんだが、相手が強くてね。本気で俺を殺しに来る相手に俺も手加減が出来なかった。…………だから気づいたら山賊の胸を剣で突き刺していた」


 ブルズエルは自身の手を握ったり開いたりする。


 「暫くは刺した手の感触が忘れられ無かった。今も時々夢に出てくるほどだ。だけど、いつまでも引きずってたら一生のトラウマになる。だから割り切ることにしたんだ。盗賊は人の姿をした魔物だって」

 「そんなに簡単に割り切れますか?」

 「割り切るしかねぇんだ。冒険者はそう言う職業だ」


 すると、ブルズエルの隣に座っている俺の反対側に座り込んだのはブルズエルの相棒ポジションである盾使いウルドだ。

 大きな盾を背負っている。


 「そう言うこった。だけど、今回の掃討作戦ではミナトは後方から魔法で俺達の支援をしてくれ。盗賊達と戦うのは俺達がやる」

 「それって…………直接手を下すのはブルズエルさんやウルドさん達って事ですか?」

 「ミナトはまだ若いんだし、殺しなんて早えんだよ。そうだよな、クリンズ」

 「………」


 弓士クリンズが無言で頷く。


 「お前の魔法も頼りにしてるぞ、無剣の剣士さん」


 ウルドは俺の異名を言ってくる。


 そうか………なら今はまだ深く考える必要は無いのか。

 今回は先輩冒険者に任せよう。


 「私はミル様に寄ってくる下郎を切るだけだ」

 「ふふ。頼りにしています」

 「お任せを……………それにしても殺しに躊躇しているとは、ミナトは甘いな。それではいつか誰かに殺されるぞ」

 「いけませんよ、クラル。ミナトさんには、ミナトさん自身の論理と道徳があるのです。それを他者が侵害していい理由はありません」


 クラルが俺に苦言を言い、ミルはクラルに苦言を言う。




 …………そろそろずっと気になっていたことを聞いて良いか?


 「あの……なんでこの二人もいるんですか?」


 俺はブルズエルに聞いてみる。

 

 「え?!何でって二人はAランク冒険者、旋風と砂姫。マカの冒険者ギルド最高戦力だからな」

 「…………」


 別に二人がいることで特に問題は発生しないけど、あの試合から何というか、やたらクラルの当たりが強いような気がするんだよな。

 少し気まずい。


 その時、


 「魔物だ!グレイウルフの群、数は十七匹!」


 ブルズエルが叫ぶ。

 聞いた事ない魔物だな。


 「グレイウルフ?」

 「ん?ミナトは知らないのか?……そうだな、アイスウルフの魔法が使えない版の魔物だな」


 めっちゃ雑魚じゃん。

 慌てる必要はないな。


 馬車から魔法で迎撃すればいい。

 そう思っていたら、


 「ミル様、私が片付けます」

 「え…ええ、頼みます」


 そう言われたクラルは、


 シュッ!

 勢いよく馬車から飛び出す。


 「〈風刃〉」


 彼女が使ったのは半透明な鎌鼬。

 俺との試合で無数に放ってきた魔法だ。


 クラルの〈風刃〉はグレイウルフ十匹ほどを切り刻む。切り刻まれたグレイウルフは絶命する。

 しかし一刀両断とまではいっていない。


 ふん!その風の刃は一度砥石で研いだほうが良いじゃないか?

 心の中で煽る。


 俺は斬撃には謎の対抗心が湧く性分でね。

 だから手本を見せた。


 「〈水流斬〉」


 水の斬撃は残りの七匹のグレイウルフを真っ二つにした。


 「くっ!」


 クラルは悔しそうだ。

 斬撃で俺と競うなんて百年早い!


 「おいおい……喧嘩すんなよ」

 

 ブルズエルは呆れたように言う。




 そんな事がありながら、マカから出発して、休憩を挟みながら馬車に乗ること十時間以上。


 夕方になった頃、俺達はアルアダ山地に一番近い村に到着するのだった。




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