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目覚めて

ミナトがクラリサの〈旋風〉を破った必殺技を〈水獅子〉から〈蒼之剣〉に変えました。 

重ねて、当作品を暇つぶしとして、お読みください。




 その日、クラリサは久々に過去の記憶を夢として見た。

 それは五年前の記憶。









 ダンジョン「水之世」にて、突如地震が発生し、騎士団長の指示に従って頭を伏せた。


 『わっ?!!』

 『ミナト?!』


 しかし近くにいた黒髪の少年…ミナトは足下に生じた亀裂に落ちてしまう。

 慌てて腕を伸ばすけれど、彼の手を掴むことは叶わず、そのまま彼は落ちた。


 暫くして、地震は収まり、


 『ミ、ミナト!!………す、すみません!ミナトが落ちました!!』


 私は急いで、今回のダンジョン訓練の責任者である騎士団長にミナトのことを伝える。

 今なら救助が間に合うと信じて。

 

 けれど、騎士団長は心底見下した顔をして、こう返してきた。


 『あん?ミナトだぁ?あの落第貴族の落ちこぼれか。そうかい、そうかい…そりゃあ気の毒だな』

 『………………は?』

 『他に死傷者がいないなら問題無しだな。よし、休憩は終わりだ。各自出発の準備をしろ!』

 『え?!あの救助は?』

 『知るか!落ちたアイツの責任だろ』


 私は自信の耳を疑った。

 目の前の騎士はなんてことが無いように、言い放った。


 こんなことがあるのか。

 いくらアクアライド家が落ちこぼれとはいえ。

 仮にも人が穴に落ちて、生死不明なのに。

 

 確かに私はミナトのことは実力が無く、ムカつくほど弱い奴だと認識していたけど、流石にミナトが行方不明であることに対して、何のリアクションも無いほど落ちてはいない。


 周りの人達は「水之世」での訓練を再開するため準備をして、出発をする。

 ミナトが落ちた事なんて、一ミリも気にしてはいない。


 唯一、親友のミーナだけはミナトを気に掛けていた…………のか?

 

 『え?ミナトが落ちたの?落ちた穴は?』

 『えっと…もう塞がってる』

 『じゃあ…もう助からないじゃん。あーあ…残念だなー』

 『………』


 ミーナはまるでお気に入りのおもちゃが無くなったかのような反応をした。

 うん………これに関しては、”予想通り”なので特に驚きは無いけど。


 歩き出し始めたときも、私の周囲にいる騎士や騎士候補生、貴族の子息達は口々にミナトを気に掛ける様子は無かった。


 いや、むしろ喜んでいる節がある。


 『おい、どうやらアクアライド家の嫡男が穴に落ちてらしいぞ』

 『マジ?!てことは死んだって事か。そりゃあ朗報だな』

 『全くだな。チビの女が落ちた!!って騒ぐからどうしたと思ったら、落第貴族じゃねぇか。安心したわ』

 『そうだな。少なくとも、今回のダンジョン訓練は国益に繋がったな』

 『違ぇねぇ!あっははは』


 そのチビの女ってのが貴方のすぐ近くにいる私の事ですよ。


 それを指摘できる余裕は私には無かった。

 私がこの時に感じたのは主に二つ。

 

 いくら落ちぶれたアクアライド家とはいえ、魔法の力が全く無い弱者に対して徹底的に見下す貴族と騎士に対する侮蔑。

 そして弱者が死んだとしても一切関心を持たれないことへの恐怖心だった。


 ここエスペル王国は国防として魔法を重視している。

 特に魔法使いの貴族家は幼い頃から必死に魔法を修練して、国の役に立とうとする。


 魔法使いなのに魔法が満足に扱えないと分かれば、軽視され、最悪の場合…廃嫡される。


 よって、ミナトみたいに初級の魔法を使えない者は死刑宣告を受けたに等しいのだ。


 私が考えたのは、もし私がミナトのような立場になったらと。

 そうなったら、誰にも気に掛けてもらえないし、死んだとしてもお構いなし。

 弱者には無関心だから。

 

 嫌だ!それだけはなりたくない!

 だから私はミナトがダンジョンで行方不明になったその日から、毎日欠かさず努力をした。


 自身の系統である風魔法を鍛え続け、真摯に向き合った。その過程で無詠唱化を習得した。

 魔法だけで無く、剣も振る続け、身体を鍛えた。

 魔法使いの弱点である接近戦を逆に強みにするように。


 弱者にならないために。


 そんなある日…ミナトが行方不明になってから三年後、十五歳のクラルは…とある出来事を切っ掛けにミルに出会った。

 そして命を救われ、ミルに自分の力が認められ、忠誠を誓った後…専属護衛となったのだ。

 

 その時のことは今も鮮明に覚えている。

 私の力が必要とされていると言われた際、どれだけ救われたか。


 この人に一生着いていく。

 そしてミルの護衛として、誰にも負けない。

 そう…心に誓ったのだ。


 それ以来、ミルとは二年間行動とを共にし、今に至る。









 フトッ目を覚ますと、視界には訓練場の療養室である天井が映り込む。


 上体を起こすと、腹部に痛みが走る。

 小さくうめき声を出すと、部屋の中にいるもう一人の人物がそれに気づく。

 

 「クラル…起きたのですか?お体はどうですか?」


 視界に亜麻色の髪が入り込む。


 自身の主であるミル様だ。

 私が横たわるベットの近くにある椅子に座り、私の状態を確認してくる。

 

 ここには二人しかいないからか、いつものフードを取り、私に素顔を見せている。

 私を心配しているからなのか、彼女の柳眉が寄せられているのが分かる。

 

 主に心配をかけさせてしまった。

 それだけで私は軽く絶望する。


 「ミル……様、私はどのくらい寝てましたか?」

 「半日ほど……ミナトさんと試合をした日の翌日です」

 「そんなに寝ていたのですか?!……うっ!!」

 「っ?!大丈夫ですか?………これ、水です。飲んでください」

 

 そこまで寝ていたことに驚愕するが、その反動でまた腹が痛くなる。

 ミル様がそんな私の身を案じて、そばのテーブルにある水差しを渡してくる。

 

 なんて情けない。

 そう思いつつもお礼を言って、喉の渇きに従い、水分を補給した。


 水を飲みながら、私は昨日の出来事を思い出す。


 尊敬するミル様を俺の敵では無いと言い、馬鹿にしたミナトに激昂して、試合沙汰になった。

 すぐに決着をつけ、ミナトに謝罪させるつもりであったが、結果は真逆だった。


 ミナトの圧倒的な魔法に力量差をありありと見せられた。

 仕舞いには切り札である〈旋風〉と今、習得を試みている風の高速移動魔法を使う羽目に。

 それでも勝てなかった。


 最後は気がつけば、ミナトの拳が私の腹に突き刺さっていた。


 あいつは俺も同じ者を使うと言っていた。


 ならばミナトは私が高速移動と同じ事をやり、成功したのだ。

 鮮やかな魔法操作で。


 ミナトは私がやろうとしていることを、もう既に出来ているのだ。

 悔しい。


 だが、私が最も気になったのは〈旋風〉を切り裂いたミナトの魔法だ。


 一体何なのだ、あれは?!私は〈旋風〉内で見た景色を思い出す。


 訓練場の壁際まで待避したミナトが突然、居合いのような構えを取ったのだ。

 始めは何をしているのか理解できなかったが、段々とミナトの手の中に蒼く光る剣のようなものが生じているのを私は見た。


 次の瞬間には私の〈旋風〉はいとも簡単に破られた。


 見たことも聞いたこともない、未知の魔法。

 でも何となく、あれは私が使う魔法の”一段階進化した”形であるような気がしてならない。


 どれほどの鍛練を積めば、あそこまでの領域に達するのだろうか。


 私はベットに腰掛けながらも頭を下げた。


 「ミル様…申し訳ございません」

 「どうしたのですか?急に」

 「私はミル様の専属護衛という立場でありながら試合に負けてしまいました。処分は如何様にでも受けます」


 最悪、護衛を解雇されても。

 それぐらいの覚悟を持って、謝罪をした。

 

 そんな私を見たミル様はため息を吐き、私の頭に手を置く。呆れた奴だと言わんばかりに。


 「処罰?何を言っているのですか?貴方は私の護衛として立派に戦いました。そんな者に何故処罰を?」

 「し、しかし…敗北した私はミル様に恥をかかせました」

 「ふふ。大げさですね。貴方が試合に一回負けた程度で私の名声が地に落ちるのですか?」

 「い、いえ…そう言うわけでは」


 慌てて否定する。

 仮にミル様を馬鹿にする者がいれば、風で切り刻むまでだ。


 「これは護衛である貴方を戦わせるのに了承した私の責任でもあります。…………………しかし、そうですね。もし本当に処罰を求めているのなら、強くなること…………これが処罰です」

 「強くなること……ですか?」

 「はい。負けた事実は無かったことには出来ません。だからこそ、貴方のやるべき事はもっと強くなって、次勝つことです」

 「勝つこと…………」

 

 ミル様の言葉を反芻する。


 そうだ!勝てばいいだ!

 もっと鍛練を積んで、またミナトに挑む。

 それが主への奉仕であり、償いだ。


 次は勝つ。

 そう決意し、ミル様に顔を向ける。


 「承知いたしました。次は必ず勝ちます」


 私の決意表明にミル様は優しく微笑む。


 けれども、思い出したように私に言う。


 「あ!そうでした。クラル、今回の試合で倒壊した訓練場の壁の修理代を私達とミナトさんで一部負担することになりました」

 「……………はい?」


 それって………主にミナトがあの蒼い剣で壊した壁のことだよな?



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