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俺の実家、無くなってるそうだ




 クラリサと思いがけない再開を果たした俺はソファから立ち上がり、彼女をよく見る。


 顔は五年前のクラリサのまま……いや、少しあの時と比べて凛々しくなっている。

 ミーナの影に隠れていた弱々しい雰囲気は何処かへ行き、とても堂々とし佇まいである。


 そして今のクラリサで特筆すべきなのは身長だ。


 「………」


 無言のまま顎を若干上げ、見上げる。

 クラリサも無言のまま顎を若干引いて、俺を見下ろす。

 

 背が俺より高い。五年前は見下ろしていたのに。

 俺の身長が大体、百七十センチちょっと…だからクラリサは百八十センチほどはあるのではないか。十センチぐらい差がある。


 ま、負けた。

 クラリサの方が二つ年上とは言え、俺を見下ろすクラリサに謎の敗北感を持った。


 「クラル…では、この方で間違いないのですか?」

 

 茶色いローブを着た人がクラリサに問う。


 クラル?クラリサでは無く?

 当のクラリサはその人に顔を向け、


 「相違ありません。五年前、ダンジョン「水之世」で行方不明になっていたミナト・アクアライド。彼がそうです」


 それを横で聞いたミランは面倒な事になりそうだと頭に手を当て、複雑な顔を作り出す。




 現在、俺とクラリサと茶色いローブの人とギルド長がソファに座りこみ、重苦しい空気が部屋を満たしている。


 「んで、再確認だが、コイツ…ミナトはあのアクアライドの子息で五年前、「水之世」で消息を絶ったが、実は生きていた……そういうことだな?」

 「はい……そうです」


 別に俺は自分がアクアライド家であるのを絶対に隠し通すつもりは無かった。積極的にバラすこともなく、バレたらバレたで構わないという体であった。


 まさかダンジョンに出て、二日で俺を知っている奴に出くわすとは。


 ミランは頭をガシガシと掻きむしる。


 「聞きたいことはいくつかある!まず、お前は五年間どうやってダンジョンで生存してたんだ?」

 「それはちょっと言いづらいです………」

 「はぁ?!」


 ミランの眉根がピクピクと動き、頬が引き攣る。

 理由は勿論ある。

 






 


 『ミナト君はこれからダンジョンから出るでしょうが、できる限り僕達の事…ここでの事は話さない方が得策でしょう』

 「え?どうしてですか?」


 それはウィルター様との稽古の休憩で言われた。


 確かにダンジョンの底でアクアライド家の歴代当主達の幽霊に鍛えられているなど、無闇に人に言うべきではないのは理解できる。

 一応、理由を聞いた。


 『これまでのアクアライド家の失墜はミナト君の話してくれた僕達の後の子孫達に起こった”不幸な出来事”を考慮する限り、明らかに第三者の介入によって為されたものです。それもかなり強力な力を持った何か』

 「ですね………」


 思い出されるのは魔阻薬。

 俺はその薬のせいで四級水魔法〈ウォーター〉すら、碌に扱えなかったんだ。


 俺だけで無く、アクアライド家は千年間にこうして何者かに邪魔をされたんだ。

 敵は得体の知れない強大なもの。


 『しかし明確な敵の正体は未だな分かりません。仮に僕達の事が敵に知れ渡ったら、何をしでかすか。最悪、僕達の力を恐れて、この「水之世」に攻め込まれたりして』

 「まさか…そんな」

 『あり得ない話ではないのが、この敵の恐ろしいところです。ですのでダンジョンでの事は可能な限り、他の人には漏らさないのが良いです』

 「分かりました」









 そんなやり取りがあったので、俺はこの五年間でダンジョンでやってきた出来事は言いたくないのだ。

 

 もう一度言うが、ミナトはもう既に酒の席で秘密にしているダンジョンでやってきた出来事を「銀山」と「五枚刃」にベラベラと喋っているのだ。

 話した記憶はミナトの中には無いが。

 彼らが他言しないことを祈ろう。


 俺が何も話したく無いことを悟ったミランは、


 「もういい!じゃあ二つ目、お前の強さについてだ!聞くところによると、お前は五年前は四級魔法すら扱えない程だったじゃ無いか。そんなお前が何でBランク冒険者を圧倒してんだ?」

 「そこら辺は個人情報って言ったじゃないですか………あ、でも強いて言えば、ダンジョンの中で滅茶苦茶修行したからです」

 「ちっ!まともに答える気はねぇみたいだな」


 嘘じゃ無いよ。

 ウィンター様達のご指導のもと……って修飾語はつけてないけど。


 それから何度か質問されたけど、全てこの五年間の…ダンジョンに関する質問なので、答えをはぐらした。


 とうとう質問に疲れたミランはソファにどっしり座り込む。


 「話を纏めると……お前は五年間の出来事を話したく無いんだな?」

 「そうなりますね」

 「……それで納得できるかよ」

 「すみません」


 ミランは疲れた様子で目を閉じる。

 俺はミランに取り敢えず頭を下げる。


 そんな中、今まで黙っていた茶色いローブの人が質問をしてきた。


 「では、私から一つ質問です。貴方はこれからどうするのですか?」

 

 どうするって?それは……、


 「俺の家…アクアライド家に帰るつもりですよ」

 「そうですか……アクアライド家に」


 何か、深みのある言い方だな。

 アクアライド家に何かあったのか?


 俺は無意識にクラリサを見る。しかし彼女は俺の視線を受けると、明らかに動揺した様子を見せ、目を泳がせ、そっぽを向く。

 彼女は横を向いた状態で、


 「えっと…ミ、ミナト。アクアライド家の……事だが。あの家はもう……」

 「クラル、ここからは私が話します」


 クラリサの言葉を茶色いローブの人が遮る。


 「ミナト…貴方にはショックな事ですが、アクアライド家はもうありません」

 「は?」

 「正確に言えば、貴方がダンジョンで死んだ後、父親であるペドロ・アクアライドが重犯罪で捕まりました。そして残ったアクアライド家は水剣技流の武家であるリョナ男爵家が切り盛りする事で実質的な爵位剥奪になりました」

 「………」


 体感だと、十分以上は固まっていた気がする。

 実際には数秒しか経っていないと思うが。


 一先ず、言われた情報を何とか頭の中で整理して、聞き返す。


 「あの………俺がダンジョンで死んだって……死んで無いですよ」

 「五年間も行方不明だったのですよ。死亡として扱われて当然です」

 「ちなみに俺の父親は何の罪で捕まったんですか?」

 「娼婦や一般市民への暴行、禁止薬物の使用などです」

 「………」


 頭を抱えたくなる罪状に、またしても固まる。


 俺の父親はお世辞にも品性方正とはいかない。

 いずれ何かしらやらかすとは思っていたが、どうしようもないな。


 それにしても何でこの人はアクアライド家について、そんなに詳しいんだ?

 クラリサがクラルと呼ばれているのも気になる。


 まぁ…そこは一先ず置いといて、


 「あの……アクアライド家に使えていた使用人とかは?俺の専属使用人とかはどうなったんでしょう?」

 「使用人?恐らく…ほとんどは新しくアクアライド家に入ってきたリョナ家に仕えていると思われるので、そのままだと思います」


 ホッ。

 それに安堵する。

 じゃあ、マリ姉はまだアクアライド家…いや、元アクアライド家にまだ居る可能性が高いって訳か。


 「情報ありがとうございます。アクアライド家に関しては残念ですが、それでも俺は帰ります」

 

 「水之世」の外に出て、最優先にやるべき事の一つ目に実家に帰りたいがある。

 その大元の理由がマリ姉に会いたいからだ。

 

 ………あ?最優先にやるべき事で思い出した。

 二つ目のやるべき事。


 「あのミランさん、話がすごく変わるのですが、蒼月湖という湖を知っていますか?」

 「はぁ?本当に話がクソ変わるじゃねぇか?」

 「すみません。これに関しても、俺がこれからどうするかに関係するんです。アクアライド家に寄った後はそこに向かう予定なんです」


 ミランはますます疲れた様子を見せる。

 

 蒼月湖…レイン様が別れ際に、ここに行けと言った。底には俺に必要な物が沈んでいると。

 それで肝心の蒼月湖なんだが、俺はレイン様の口から言われるまで、その湖の名前は聞いたことないが一度もなかった。  


 だから冒険者ギルドで何か情報が得られるかなと冒険者になった理由もある。昨日から今まで忘れてた。


 「それにしても蒼月湖か……。久しぶりに聞く単語だな」


 ミランがボソボソと言葉を放つ。


 「蒼月湖という湖を知っているんですか?」


 俺の確認に、ミランは髪を掻きむしりながら答える。


 「ああ、知ってる。そりゃあ、ここからずっと西…エスパル王国とポール公国の国境の一番南の辺りに位置する「水魔の森」の中心にある湖の事だな」


 エスパル王国とポール共和国の国境の一番南……ここからアクアライド家がある場所とおおよそ反対方向にあるな。

 アクアライド家はマカから北東に進んだ方向にある。

 

 マリ姉にあった後は蒼月湖に向かうつもりだけど、なかなか遠いな。




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