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幼馴染みとの再会




 ブルズエル達の経費により、服や装備を買いそろえた帰り道で、


 「ところでミナト、お前さんはいつ実家に行くんだ?」

 「そうですね……一週間ほどギルドで依頼をこなして、ある程度日銭を稼いだら、家に帰るつもりです」

 「一週間か……そもそもミナトの実家でのは何処だ?何で実家から離れたマカにいるんだ?」

 「そ、それは……」


 それはブルズエルだけの疑問では無く、「銀山」と「五枚刃」の皆が俺を見ている。

 どう言って良いのか、凄く迷う。

 

 実家に行くためのお金を稼ぐのに冒険者になったとは言ったが、俺の実家がアクアライド家であるとは言っていない。あと、ダンジョン「水之世」に落ちたことも。

 それを言えば、間違いなく面倒くさいことになるのは俺でも分かる。


 それを言ってしまえば、昨日のBランク冒険者との試合で既に面倒くさいことになっているが。


 「ああ、もういい。そこら辺の事情はお前にとっては本当に言いたくないんだろう」

 「………お察し感謝します」

 「気にすんな。だが、困ったことがあれば、遠慮無く相談しろよ」

 「肝に銘じます」


 ブルズエルは俺の悩んだ顔で察したようだ。

 深入りはしない方が良いと判断したみたい。


 「で…話は戻るが、ミナトは一週間、Dランクの依頼を完遂して、実家に帰るんだな」

 「はい。ですので、これからギルドに行って、依頼を受けようかなと」

 「お、おお……これから行くのか?昼はとっくに過ぎたぞ。普通は早朝に依頼を受けて、出発するものだ」

 「問題ないですよ。俺の魔法を使えば、長距離も一瞬で移動できますから」


 俺の言葉に大きく反応したのが、共に土魔法使いである「五枚刃」のノルウェルとノルトンだった。


 二人共顔がそっくり。

 聞いたところだと、二人は双子だそうだ。どうりで名前が似ている。


 「なぁ…ノルトン、水魔法に長距離を移動する魔法なんてあったか?」

 「いや、ノルウェル…俺も聞いたことがないし、見たこともない」


 二人が知っている水魔法の知識を洗い出しても俺が言うような魔法は無かったと言い合う。

 まぁ…当然だ。


 「知らなくて当たり前ですよ。水の高速移動なんて、俺独自の魔法ですから」

 「「は?!」」

 「い、今なんて」

 

 ノルウェルとノルトンは同時に素っ頓狂な声を出し、他のバルズエル達も口を半開きにする。

 どうしたんだ?


 「ミ、ミナト………それはつまり」

 「オリジナル魔法ってことか?」

 「そうですが」

 「「………」」


 ノルウェルとノルトンの質問に軽い感じで答えたんだけど、二人とも固まった。

 

 「な、なぁ…俺は魔法使いじゃないから、よく分かんねぇけどよ。確かオリジナル魔法を使うのは、かなり難しいんじゃ無かったっけ?」

 

 コクコク。

 「銀山」のブルズエルの相棒的ポジションである盾使いのウルドが言い、無口な弓士のクリンズは頷く。


 「難しいというか……」

 「不可能です」


 ノルウェルとノルトンが如何にオリジナル魔法が習得が困難であることを説明する。

 詠唱でしか発動出来ない魔法を自分独自に作り出すのは、それこそ魔法の神髄を理解しないと無理であると。


 ブルズエルが俺を怖い物を見るような視線で言ってくる。


 「そんな凄いオリジナル魔法って奴をミナトは使えるんか?考えてみりゃあ、アイスウルフを切断したときは何の魔法か分からなかったが、あれもオリジナル魔法……なのか?」

 「ああ、あれは水の斬撃を飛ばしたんですよ。そもそも俺の魔法は全てがオリジナル魔法ですよ」

 「「「「「………………」」」」」


 俺の回答にとうとう「銀山」と「五枚刃」の皆が黙り込む。


 四級水魔法〈ウォーター〉は除くが、俺が使える魔法は全部〈ウォーター〉を「最適化」したオリジナル魔法だ。

 「水之世」にいる魔物が使用していた水魔法を俺なりにアレンジして習得したんだ。


 「俺………何も聞かなかったことにするわ」


 頭を抱えるブルズエルに同調するように他の皆が頭を縦に振る。




 俺がギルドについて、依頼書が張られている壁を見ると、昼過ぎであることもあり、数が少ない。


 ブルズエル達とは途中で分かれた。

 彼らは今日はオフ日だからな。


 さて、どの依頼を受けようかな。

 いくつかのDランクの依頼を見ながら、吟味している時だった。

 

 チョイチョイ。

 突然、肘を引っ張られた。見ると、そこには新規登録にいた受付嬢がいた。


 「はい、何か?」

 「ミナト様ですね。今お時間ありますか?ギルド長が貴方にお会いしたいと」

 「え?」


 ギルド長?

 それって…ギルドで最も偉い人の事だよね?

 俺…何か悪い事しちゃった?


 「あ、別にミナト様が違反を犯したとかではなく、単にギルド長自身がミナト様とお話をしたいだけです」

 「お話……」


 俺と会って、何を話すんだ。

 何だか嫌な予感がする。でも例えここで拒否としても、いずれ強制的に呼び出されるかも知れない。

 なら、今行った方が良いてことか。


 それと…………そろそろ袖を掴んでいる手を離してもらえないかな。

 逃がさない気満々じゃん。


 「分かりました。行きます」

 「本当ですか?!ギルド長室はあっちです。ご案内します」


 袖を引っ張るように導かれ、受付嬢の案内でギルド長室がある奥の部屋に連れて行かれる。

 

 これを見ていた冒険者達は俺が新規登録早々、ギルド長に呼び出された事にまたしても軽い噂が立つ。




 「ここがギルド長室です」


 俺はギルド職員が良く出入りする場所の一番奥の部屋、重厚な扉が設置してある所に案内される。

 如何にも偉い人がいそうな部屋だ。


 コンコン。

 受付嬢がノックをする。即座に…入れ、と促され、俺達は入室する。


 入って、まず思ったのは内装が質素であることか。

 ギルドで最も権力の持った人の部屋にしては飾り気が無く、至る所に書類が置かれていた。

 そして部屋の奥には机があり、机の上にも書類が大量に置かれていた。

 

 そして机の椅子に座り、黙々と書類にサインをしている人物がいた。

 この人がギルド長か。


 長い赤茶色の髪を一つに纏めた年配の女性。


 「…………」


 一目で分かった。この人…強い。


 女性とは思えないような男勝りな体格。

 座っているから分かりづらいが、立ち上がったら、俺より大きいな。

 部屋の隅にある巨大な斧が彼女の武器だろうか。


 戦斧からは微かに魔力を感じる。


 「えっと……ギルド長。言われた通り、ミナト様を連れてきました」

 「そうか…ご苦労だった、レティア。退出して良いぞ………あ、待った。それと二人を呼んでこい」

 「あ、はい」


 二人?誰の事だ?


 案内した受付嬢レティアは部屋から出て行く。今更だけど、あの人…レティアっていうんだ。

 残された俺は無言で立ち続ける。


 「ぼさっと突っ立てないで、そこに座れ」


 指示されたとおりに、そばのソファに座る。

 少ししたら、呼んでいる書類を机の上に置いて、俺が座るソファの対面に座った。


 「いきなり呼び出して済まない。私はこのギルドのギルド長を務めるミランだ。宜しく」

 「あ……こちらこそ」


 ミランが出してきた手を握り返す……………………が、


 「あ、あの……」

 「ほぅ……これはとんでもない魔法使いだな。しかも手ぶれもないし、体幹も全くずれていない。おまけに、この手の固さ。魔法だけで無く、身体も相当鍛えているようだな。手のタコの位置から剣を扱っている。魔法剣士ってところか?」

 「…………概ね魔法剣士であってます。あの、とんでもない魔法使いというのは?」


 ブルズエルと握手したときは剣ダコに驚かれたけど、魔法使いのことについては指摘されなかった。


 「ああ、一目見たときから感じたが、こうして直接触れてみて分かったよ。君の身体から感じる魔力に波が全くない。自身の魔力を完全に制御下に置いている証拠だ」

 「………」


 やっぱり、この人は強い。俺もミランさんの身体から出ている魔力を感じ取ったが、魔法使いではなさそう。

 それなのに魔力を感じ取れるのは、きっと今までたくさんの魔法使いに触れ、戦ってきた証。


 ギルド長ミランは正真正銘、歴戦の猛者だ。

 仮にこの人と戦うことになったら……………、


 「さて………君をここに呼んだ理由は単刀直入に言えば、君の強さと人柄を見るためだ」

 「強さと人柄?」

 「そうさ。Bランク冒険者を瞬殺する新人の餓鬼がどんなもんか私も単純に興味があってね」


 ミランは俺の目をジッと見つめる。

 そしてニヤリと笑う。


 「報告を受けたときは、その内容に信憑性が持てなかったけど、こうして面と向かってみて、分からせられた。ミナト……お前、私が会ってきた魔法使いの中では一位、二位を争うほどの実力だね」

 「それはどうも」

 「一体、その強さは何処で身につけたのか。そもそもこんな実力が何故、昨日まで無名だったのか」

 「そこら辺は個人情報ですので」


 詮索は勘弁して貰いたい。そう言う意味を込めて、ミランの目を見つめ返す。


 「「…………」」


 お互い無言が暫し続いた中、


 コンコン。

 誰かがドアをノックする。


 「入れ」


 ミランの入室許可に従い、扉が開かれる。


 入ってきたのは、二人の人物。

 一人は茶色いローブに身を包み、杖を持っている。もう一人は白いローブに身を包んで、剣を腰に下げている。二人とも顔をフードで見えないようにしている。


 謎な二人だが、はっきり分かることが一つある。


 とんでもない量、しかも魔力の波も少ない。この二人、ハイレベルな魔法使いだ。

 少なくとも、昨日試合をしたミットとは比べものにならないほど。


 「あの……こちらの二人は?」


 少しの警戒を込めて、ミランに尋ねる。


 「ああ…少し確認したいことがあって、呼んだ。杞憂であって欲しいが」


 杞憂?ますます分からない。

 ミランから視線を外し、二人を見比べる。


 …………ん?

 妙に、白いローブの奴から視線を感じるな。

 俺は白いローブの方を注意深く探る。

 すると、


 「まさか…………そんなこと………あり得ない。生きて……いたのか?」


 何事か呟いた後、無造作に俺に近づき、そのフードを取って、顔を見せる。


 「…………………っ?!!お、お前!!」


 その顔の造形には見覚えがあった。

 肩ほどの黒いストレートヘア。深紅の眼。

 

 思い出すのは五年前の記憶。


 『ミーナには近づかないで』 


 普段は無口な奴にそんなことを言われ、絶句したときに見た…俺を見上げる赤い眼。

 あの時よりも体つきが良くなり、顔はしっかりと面影が残っている。


 俺は彼女の名前を叫ぶ。


 「ク、ク、クラリサ?!!」




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