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「水之世」にて①




 時は少し経ち、ここはダンジョンの最上層。


 「よし!全員ついてきているな!」


 多くの騎士に守られながら、魔法の才能を持つ貴族の子息子女たちや騎士候補の子供たちがダンジョン内を進む。


 そして集団に紛れて、俺は最後尾にいる。前を見ながらトコトコついていく。


 ここは「水之世」と呼ばれているダンジョンである。


 名前で分かる通り出てくる魔物の周囲は水スライムやウォーターフロッグ、大水蜥蜴など水関連の奴だけ。ダンジョンというのは何層もの空間で成り立ち、魔物を生成する場所。

 つまり訓練にはもってこいの場所だ。


 このダンジョンは冒険者なら誰でも入ることは出来るが、定期的に魔法の才能を持った貴族たちや騎士候補生が貸し切って鍛錬と戦闘経験を養うために使用される。

 最上層は新米冒険者でも難なく倒せる魔物しかいないが、層が下へ行くごとに魔物のレベルが上がる。


 ここで鍛錬する者の中には勿論水魔法使いもいる。と言っても、実は「水之世」では水魔法の訓練に打って付けの場所なのだ。


 ダンジョン内が水に関係したものであるためか、不思議といつもより水魔法の効き目がよく、発動に使用する魔力が少なくなる。


 たとえどれだけ落ちぶれてもアクアライド家は水の家系。「水之世」での訓練に参加権利がある。俺も何か学ぶものが無いかと、この訓練に参加した。


 だけど千年前は詠歌を極め、今は落ちるところまで落ちた落第貴族のアクアライド家がこの場にいるのは、他の貴族からはとても目立つ。


 「おい!お前…アクアライド家の奴だろ?あの落第貴族の?」

 「え?……は、はい。そうですが……」


 俺はいきなり体格の良い男の子に話しかけられて、ビックリしてしまう。

 歳の方も身長も俺より上。茶髪であり、腰に短い剣をさしている。


 着ている服に水の波紋。

 剣の鞘、柄などに青い線が引いてある。


 これは水剣技流の剣士である証拠だ。


 水剣技流、かつてはアクアライド家の固有剣術だった。

 一説ではレイン様は魔法だけで無く、剣の方も凄かったらしい。


 そんな水剣技流はアクアライド家の衰退と共に、何故かこちらも弱体化していく。そしてアクアライド家は水魔法と水剣技流の同時継承は困難と判断し、いつしか水剣技流はアクアライド家から離れていった。


 その水剣技流も今のアクアライド家ほどではないが、落ちぶれ剣術と後ろ指指され、冷たい目で見られている。


 「やっぱりな。あまりにも弱々しい見た目だからすぐに分かったぞ」


 彼は凄みを効かせた顔で近づく。


「なんで落第貴族のアクアライド家がここにいるんだ?!ここはな、訓練をするための場所、国を守る貴族や騎士を強くする所なんだ。お前のような能無しは今すぐ出て行け!!」


 ……怖い。


 彼の方が背が高いので、必然的に俺が彼を見上げる形になるので、余計怖い。恐ろしさで身体が硬直し、何も言い返すことが出来ない。


 しかしこの行動は俺が彼を無視したと思い込ませてしまい、彼は怒った顔をさらに歪ませ、俺の両肩を思いっきり掴む。


 「聞こえなかったのか?!俺は今すぐ出て行けと言ったんだ!!」

 「あ?!…そ、その?!ちょっと!」


 反論の声を上げるが、彼は止めようとしない。

 周りを見ても、騎士や他の貴族達も遠巻きに見ているだけで何もしようとしない。俺に向けてくる視線と言ったら侮蔑、無関心、憐れみ、嘲笑、呆れなどである。


 それぐらい今のアクアライド家の名声は地に落ちている。今、俺を閉め出そうとしている彼のように落ちこぼれは今すぐ出て行けが皆の総意であるのだ。


 ………いや、“ほぼ”皆と言うべきか。


 「止めてあげて!」

 「待って…ミーナ」


 紫髪のツインテールをした小柄な女の子が茶髪の彼を止めに入り、その女の子をさらに小柄な黒髪のショートカットである別の女の子が止めに入る。

 男の子は止めに入ったの子を睨み付ける。


 「おい!誰だか知らねぇが、止めんじゃねぇ!!俺は邪魔になる奴を追い出してるだけだ!」

 「暴力はだめだよ!それは人として、間違っているよ!」


 暫くの間、紫髪のツインテールである女の子…ミーナと茶髪の男の子との睨み合いは続く。黒髪のショートカットである女の子はミーナの服を握りしめてオロオロしている。

 やがて……、


 「チッ!」

 

 男の子は断念してくれたのか、俺を掴んでいる手を離す。


 さっきまで俺を追い出そうとしたのに、あっけないなと思うが、彼は単純に捌け口が欲しいだけであろう。落ちぶれ剣術と揶揄される水剣技流の前にさらに冷遇されたいるアクアライド家がいれば、否応にも強く当たりたくなりたいものである。


 いきなり両肩がフリーになった俺は尻餅をついてしまう。

 そこへ手を差し伸べるツインテールの女の子。

 

 「まったく……相変わらず、だらしないよね。ミナトは」

 「ありがとう……ミーナ」


 俺はミーナの手を取って、お礼を言う。


 このツインテールの女の子の名前はミーナ・ルイズ。二歳年上の彼女はアクアライド家から最も近い場所にあるルイズ子爵の長女であり、俺の幼馴染みである。

 勝ち気な彼女は正義感が強く、落ちこぼれの俺に対し、分け隔て無く接してくれる。


 この子も俺と同じ魔法使い。


 …………けど、魔法の才能は比べることもおこがましいレベルで欠け離れている。

 ミーナには魔法使いとしての才能があるのだ。

 

 そして、


 「………」


 ミーナの後ろで表情を余り動かさないショートカットの子がクラリサ・オルレアンだ。


 オルレアン伯爵の長女。

 この子もミーナと同じ二歳年上の、俺の幼馴染。


 コミュ障なのか人見知りなのか、子ガモのようにいつもミーナの後ろをくっついている。

 今はどういうことなのか、俺を無言でジッと見ている。




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