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ギルド長




 その日の午後は、剣士ブルズエルがリーダーであるBランク冒険者パーティ「銀山」と槍士モンシェがリーダーであるCランク冒険者パーティ「五枚刃」の人達が冒険者達がよく利用する服屋や装備店に案内してくれた。


 「銀山」は全員で三人であり、剣士のブルズエル、弓士のクリンズ、盾使いのウルドの構成になっている。


 「五枚刃」は名前の通りに五人チームで、槍士のモンシェ、剣士のレッカ、斥候のバン、土魔法使いのノルウェル、同じく土魔法使いのノルトンの構成になっている。


 共にバランスの取れたパーティである。


 そう言えば…今日は依頼をこなさなくて良いですか?と聞いたけど、どうやら冒険者は週二,三回を依頼をこなすもので残りの日は休みをとるか武器や装備のメンテナンスに使うそうだ。


 それと…改めて思ったが、「銀山」とか「五枚刃」とかパーティ名が個性的だな。

 これも聞くところによると、冒険者は複数人だとパーティを組めるらしく、パーティ名は自由に決められる決まりになっているそうだ。


 大体、冒険者は自信のパーティを誇示したり、覚え易くするために特徴的な名前を作ると。


 


 「お。おい…ミナト。本当にそんな服装で良いのか?お前、魔法使いだろ?魔法使い用のローブとかブーツは買わないのか?ノルウェルやノルトンみたいに」

 「俺…ブルズエルさんやレッカさんみたいな動きやすい剣士の服装が良いんですよね。俺、剣も使いますし」

 「お、お前……あの魔法の技量で剣まで使えるんかよ。………てか、そもそも剣なんて持ってないだろ?」

 「剣を使うときは魔法で作ってるんです」

 「は、はぁ……でも、その白いマントと相まって、よく似合ってるぞ」


 結局、服装は生活で使うための私服と戦闘で使うための剣士用の服を買って貰った。

 剣士用の服と行っても騎士のような鎧の重装備では無く、通気性や機動性、速度を重視した軽装である。


 そして装備店では、肩に掛ける大きめの皮袋や小物を入れるためのポーチ、剥ぎ取りようのナイフなどを揃えた。

 ナイフに関しても、自分の魔法で作成は出来るが、


 「ナイフは冒険者においては命の次に大事な物だ。ダンジョンに持って行きたい物でダントツだ」


 斥候のバンさんがナイフの重要性を滅茶苦茶、伝えてくるので貰っておいた。

 

 こんな風にして、俺が必要品を買いそろえている頃………ギルド内におけるギルド長室では三人の人物が重苦しい雰囲気で話し合いをしていた。









 「う~ん………まさか、このマカに暗殺者が侵入するとは。しかも大人数で」


 この執務室のような部屋はギルド長室。


 そして机の前で腕を組んで、難しい表情をしている一人の女性。

 赤茶色の髪を後ろで束ねた三十代でありそうな見た目の女性こそがギルド長である。


 彼女の名前はミラン、このギルドの最高責任者だ。


 か弱いとはほど遠く、素人目でも鍛え抜かれた身体をしており、頬には傷跡がある。

 まさに歴戦の猛者の覇気を漂わせている。


 それもそのはず。

 ギルド長は元Aランク冒険者なのだから。


 部屋の隅に大きな戦斧が置かれているを見るに、彼女は斧使いなのだろう。


 ギルド長には主に二種類の人間がなる。


 まずエスペル王国の首都に存在するギルド本部から派遣されたギルド職員。

 ほとんどは若い職員、それも現場を全く知らない人間が派遣されることが多い。

 そのため冒険者達との間で齟齬が生じてしまうことがある。


 そして現役を引退した冒険者。

 現場で長いことを活動していた冒険者は怪我や年齢などの理由で引退し、そのまま隠居することもあるが、多くの場合、冒険者御用達の店を開いたり、若手の冒険者を鍛える教師になったり、ギルド長になる者もいる。

 こういうギルド長は良く冒険者や他の職員から指示される事が多い。


 ミランは後者である。


 「無理もありません。この町は物流や交流を良くするために身分証があれば、スムーズに入れるようになっています。大方、冒険者や商人になりすまして、侵入したのでしょう」


 ギルド長の前にいるのが、昨夜に暗殺者集団の襲撃に遭ったミルとクラルだ。

 

 ミルは今、いつもの茶色いローブから顔をのぞかせており、美麗な素顔が晒されている。


 雪のように白い肌。

 日に晒せば、光り輝くような長い亜麻色の髪に、優しめな色である薄緑色の眼。

 近くを通り過ぎた通行人が必ず二度見するほどの美少女がいた。


 ミルは一旦、クラルを見て言う。


 「それに私達には、それと言った被害はありませんでした。そうですよね、クラル?」

 「はい、あの程度問題ではありません」


 クラルは無表情で言い放つ。


 ミルとクラルはギルド長に落ち目は無いと言った。

 それでも、当のギルド長は腑に落ちない表情をしている。


 「そうだとしても、刺客を易々と入れさせたとなれば、この町のギルド長として立つ瀬が無い。二人には申し訳ないと思っている」


 ミランは椅子から立ち上がり、頭を下げる。

 それにミルは慌てて、止めるよう促す。


 「止めてください。それでしたら、私達も申し訳なく思っています。私達がいることで、この町にいる人達が危険にさらされる恐れがあります」

 「分かった。それに関しては、私がヴィルパーレと話し合い、騎士達に夜回りの警備を強めるなどして対策を講じようと思う」

 「それは助かります」


 ミランが言うヴィルパーレというのは、このマカを治める辺境伯ヴィルパーレ・トレルのことである。

 領主館自体がこの町にあり、ヴィルパーレ辺境伯とミランは交友関係を持っている。そのため情報を共有として、ミランが領主館に行ったり、辺境伯がギルドに足を運ぶことがよくある。


 昨日の昼から夜の間も領主館に行っていた。


 「それと死体を調査した騎士の話では暗殺者を送り込んだのは誰なのか、身元に繋がる物は出てこなかった」

 「まぁ…それは予想はしていました。簡単には尻尾は掴めないだろうと」

 「しかし送り込んだのは兄妹のいずれかであると?」

 「ええ…私に暗殺者を送り込んでくるような物好きな方はそれ以外いないでしょう」


 ちなみにだが、ミランとヴィルパーレ辺境伯はミルの素性については知っている。

 ミル本人が教えたからだ。この町のギルド長と領主は信頼に足る人物であると見越して。


 取り敢えず、昨夜の襲撃の件が一段落した頃であった。


 トントンと誰かがギルド長室のドアをノックした。


 ミルは咄嗟にフードで顔を隠す。

 それを受け、ミランが入室の許可を出す。


 「入れ」

 「失礼します」


 一人のギルド職員が入ってきた。


 「アン…か。どうした?」

 「はい、少々ご報告したいことがありまして」


 それはギルドで〈依頼受注・依頼完了手続き〉の受付を担当している受付嬢アンであった。

 彼女は持っていた書類をミランに渡す。


 その過程でギルド長と一緒に部屋にいる二人を見て、驚きの表情を浮かべる。


 「へ?!あ………す、砂姫と………せ、旋風?!」

 「こんにちわ」

 「あ?!その……こ、こんにちわ」

 

 砂姫と旋風。

 それは現マカ冒険者ギルドが誇る二人のAランク冒険者の二つ名である。

 ギルド長以外のギルド職員は顔と名前、魔法使いとしての実力しか知らない。

 

 アンは驚きつつも挨拶をされたので、ぎこちないながらも挨拶を返した。


 この間、ミランはギルド長として培ってきた速読技術で書類の内容を把握する。

 少しして、ミランは書類から目を離す。


 「おい………ここに書かれている内容は本当なのか?」

 「う、う~ん……私が直接見たわけでは無いので、なんとも。しかし冒険者から得た情報ではそういうことらしいです」

 

 ミランは疑心を込めた視線でアンを見た後、改めて書類に目を落とす。


 「昨日の夕暮れ時になる少し前に、新規登録した十五歳の餓鬼が冒険者になって早々、Bランク冒険者のミットに喧嘩をふっかけ、試合に圧勝。しかも餓鬼が何をしたかすら分からないが、恐らく魔法。おまけに、その後スイートビーの蜂蜜採取を一時間で達成?!なんだこりゃあ!」

 「ま、まぁ…喧嘩を吹っかけたというより、Dランク冒険者に推薦して貰うように頼み込んで、その過程で試合をすることになったとか。………あ!でも、スイートビーの蜂蜜は本物でしたよ!しっかりと何度も確かめましたから」

 「ううん……」

 

 ミランは書類とアンの顔を交互をに見て、唸る。

 

 「そういや、私が昨夜にギルドに戻った時、騒がしかったんだよな。もしや、その餓鬼の話題で盛り上がってたのか?」


 ミランは昨日の夜にギルドに帰還したときに中の様子を思い出す。


 「ミットは確か………火魔法使いだったよな?それで餓鬼の魔法は………水?………水魔法で圧勝したのか?」

 

 ミランはギルド長を数年間やってきたが、こんなのは初めてだ。

 水魔法使い自体が冒険者になるのは希だ。世間一般の共通認識で水魔法は基本四魔法…いや、全魔法の中で最も弱く、戦いに不向きな系統の魔法であるからだ。


 ここでミランはその新人冒険者の名前を告げる。


 「ミナト…………か」


 この名前に反応したのはミランの前にいる二人の冒険者…特にクラル。

 お互いに顔を見合わせる。

 

 昨日、酒場で出てきたミナトという単語が再び聞こえてきた。

 しかも今度はミナトの名前に水魔法の単語が加わって。

 これは偶然か?とても気になる。


 それが二人の総意だった。


 「もし…これが本当なら、とんでもない奴が来たな。私が直接話し合って、どんな奴か見てみたい」


 それはギルド長として、その冒険者の本質を見極める必要があるのと、一人の元冒険者として単純に興味があるからだ。

 けれど、これに待ったを掛ける者がいた。 


 「あの…ギルド長。それでしたら、私達もその冒険者に合わせて貰った手も宜しいでしょうか?」




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