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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第七章 ピレルア山脈と竜脈

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皇国十二魔将・第六席①




 ファングを倒した俺はミルとイチカを伴って、クラ達の元へ戻っていた。


 「マジか…ミーナの〈炎災〉まで使って、ようやく倒せたのか」


 俺は先程、イチカとミルから、クラ達と皇国十二魔将・第十一席であるポリアゾル・マークカブラとの戦闘の状況を事細かに聞かされた。


 ポリアゾルは、特異魔法である毒魔法使いであり、クラリサ達はポリアゾルの生み出す強力な毒によって、かなり苦戦を強いられた事を。

 見えない強固な鎧を纏う錬金道具や無魔法も厄介であったらしい。


 それでも最後は、ミーナの〈炎災〉で終わったみたいだ。


 確かに、ポリアゾルから鉄魔法使いのファングと似たような強力な魔力を感じた。

 でも…俺自身、簡単に倒せる相手ではないと思っていたけど、それでもクラリサ達なら大丈夫と思っていた。


 まさか、そこまで苦戦していたなんて。


 「ファングの領域魔法の中だと、上手く外の魔力を感じ取れなかったな」


 通常なら、ミーナの一級火魔法である〈炎災〉が放たれれば、かなり距離が離れていても、莫大な魔力ぐらい俺なら感じ取れるはず。


 だが、俺と戦う際に、ファングが展開した領域魔法〈鉄領域・闘技場(アイアンコロシアム)〉の中では、外の魔力の流れは感じ取れなかった。


 どうやら領域魔法は、魔法を発動した者の魔法の威力と精度が大幅に上がるといった効果があるが、それ以外に領域魔法内の敵を閉じ込め、外の状況を分からなくさせる効果もあるようだ。


 領域魔法…俺が使えない。

 と言うか、魔法の師匠であるウィルター様から教わったことがない。


 ()()()()()()()は、見たことがあるが。


 あれは俺が「水之世」から出る少し前。

 ウィルター様が突然、あの魔法を見せてくれたのだ。









 『ミナト君、君は本当に成長しましたね。五年前に、この「水之世」の墓地の間に落ちてきた時の君と比べれば、見違えるほどに魔法を習熟させました』


 俺がシズカ様からの水剣技流の稽古と同じく、魔法の訓練をしていた最中、ウィルター様はそのように俺を褒めだした。


 「え?そ、そ、そうですか?!えへへ………」


 多分、この時の俺は、だらしない顔で笑っていたと思う。


 だって、最高の水魔術士もしくはエスパル王国錬金術の祖と言われ、俺自身ずっと魔法使いとして憧れていた人からの賞賛だ。

 嬉しくないはずが無い。


 『けっ!クソ雑魚から、ちっとはマシになっただけだろ!』


 一方、ウィルター様の父親であるレイン様は、俺に悪態を付いていた。


 どうやらレイン様は、まだ俺を認めていない様子だった。

 やっぱり千年前に『水神』なんて呼ばれていた人にとって俺なんて、まだまだ雑魚なんだな。


 『父様も………素直ではありませんね』


 それに対し、ウィルター様は囁き声程度に、不満を漏らしていた。

 素直では無いって、どういう事だろう?


 『まぁ…父様のことは、どうでも良いとして』

 『お、おい!俺がどうでも良いって、どういうこ……』

 『ミナト君の魔法は、この五年間の稽古で、基礎のしっかりした揺るぎない物となりました』


 ウィルター様はレイン様の言葉を遮って、言い続ける。


 『まだ少々荒い部分もありますが、これからも欠かさずに魔法の訓練をし続ければ、いずれ()()()()()()かもしれませんね。積み重ねた基礎こそ、最強への近道です』

 「ウ、ウィルター様を超える??!!」


 俺には、ウィルター様の言葉は冗談にしか聞こえなかった。


 何故なら、今の俺でもウィルター様の魔法には、足元に及ばないと知っているからだ。

 寧ろ、ウィルター様によって魔法の訓練を受けたからこそ、ウィルター様の魔法の頂きが飛んでも無い高さにあると気づいたのだ。


 ウィルター様を超えるなんて、俺に出来るのか?


 そうして、俺が戸惑っていると、ウィルター様は人差し指を立てる。


 『しかーーし!!まだミナト君には、”足らない物”があります』


 声高々に言う。


 俺はキョトンとする。


 「足りない物?それは何ですか?」

 『ズバリ、必殺技です!!』


 ウィルター様はビシッと胸を張って、宣言する。


 必殺技………。

 俺の頭の中に、ウィルター様の言葉が反芻される。


 『必ず殺す技、と書いて必殺技。基礎だけを教えてきた僕が言うのも、何ですが、ミナト君には、魔法において必殺技がありませんね』

 「ま、まさか!今から!」

 『ふふ…察しが良いですね。そうです。今からミナト君に、僕の必殺技を見せましょう!』

 「おお!!」


 俺は輝かせた。

 必殺技何て、まさに男のロマンだ。


 俺はウィルター様が何をするのか、ワクワクしながら見ていた。


 そんな俺にウィルター様は、またクスリと笑い、


 『では、行きます』


 徐に、両手を固く握りしめて、胸の前に持って行く。

 それは傍から見れば、神に祈りを捧げる信徒の姿みたいだった。


 ゴオオオオオオオオオ。

 巻き起こる魔力の暴力。


 「っ?!」


 途端に、ウィルター様から途方もない魔力が吹き出したのだ。


 俺の頭には一瞬で、海の光景が浮かび上がる。

 膨大な…という言葉すら生温いほどの水を携えた母なる海。

 圧倒的な魔力なのに、一切俺は恐怖を感じなかった。


 「す、凄い………」


 それしか言葉が出てこなかった。

 恐怖を感じない理由は、ウィルター様は海の如き、魔力の暴力を完全に制御下に置いている証拠であった。


 今の俺と比べるのも烏滸がましい程の魔力制御の極地。


 海を解き放ったウィルター様は目を閉じ、唱える。


 『〈新世界(ニューワールド)〉』


 その直後、俺はウィルター様によって”創造”された新世界に誘われたのだった。









 思えば、ファングの領域魔法は、ウィルター様が見せてくれた〈新世界(ニューワールド)〉に似ていた。


 けれど、ファングの領域魔法に比べ、ウィルター様の〈新世界(ニューワールド)〉は、まさに神の御業。

 世界そのものを創造するのだ。


 あれこそ、必殺技。


 ………………とは言っても結局、俺はウィルター様から〈新世界(ニューワールド)〉を教えられていない。


 何故なら、教えられる前に、俺が「水之世」を出たからだ。

 そもそも俺が「水之世」を出ることになったのは、ウィルター様を含め、レイン様もシズカ様も実体を保つのが限界だったからだ。


 今更だが、レイン様たちは既に、千年前に死んだ人物たち。

 本来なら、生きているはずに無い亡霊である。


 今は「水之世」の最下層にある墓地の間で、英霊として一定期間だけ実体を伴って動いているに過ぎない。


 生前において非常に強い力を持った者は、死んでも現世に霊体として、残ることがある。


 レイン様は生前で、強すぎる力を持っているが故に、霊体でも長く実体化することが出来る。


 だが、それにも限界がある。

 また限界が来れば、霊体となって一定期間安眠する必要があるのだ。


 でも…………出来れば、教わりたかったな。

 あの必殺技。


 「あ!ミナトが帰ってきた。おーい!」


 ふと…過去を思い出していた俺であった、現実に引き戻される。

 目の前に、クラ達が見えたからだ。


 ミーナが俺達を見て、手を振っている。


 ミーナの近くには、花人であるバーラとスズ、そしてパルがいた。

 そして、クラは遠目でも分かるぐらい疲れた様子で、地面に座り込んでいた。


 具合が悪いのか?

 何処か怪我でもしているのか?


 心配に思いつつ、俺とミル、イチカはクラ達と合流した。


 「おっと?!」


 すると、バーラとスズが二人して、俺に飛びついて、抱き着いてきた。

 抱き着いたバーラとスズは、心配そうな顔………………と言っても花なので、余りよく分からないが、綺麗で小さな青い眼を俺に向けてくる。


 俺の鼻に、薔薇の花粉と鈴蘭の花粉が入ってくる。

 とても良い香りだ。


 「〈水生成〉」


 そんなバーラとスズに、俺は水を生成して、両手に注いだ水を差しだす。


 例によって、バーラとスズは俺の生成した水を、キラキラした眼で見てから、枝の手で二人して浸からせ、吸い取る。

 俺の水を飲んでいる際の、バーラとスズは嬉しそうな雰囲気を出していた。


 そんな俺たちの様子を、イチカやクラ、ミル、ミーナ、パルが和やかそうな顔で見ていた。









 皇国十二魔将であるファングとポリアゾルを倒した俺たちは、少しの間だけ休憩を取ったのち、


 「近くで見ると、凄い迫力だな」


 俺は目の前にある土で作られた砦を見上げて、感嘆の声を出す。


 アネトゥ山に辿り着いた時は正午を過ぎており、ファングとポリアゾルとの戦いで、夕方とまでは行かずとも、既に日は少し傾いていた。

 普通なら、夕方になる前には、テントを設営して、夕飯の準備をする。


 ピレルア山脈でも、最高峰のアネトゥ山、その頂上付近では吐いた息が白くなるほど気温が低い。

 さらに日が落ちれば、凍死するぐらい一気に気温が下がり、辺りも真っ暗になる。


 そのため、夜になる前には必ず寝床は準備する。


 だけど、俺達には寝床を準備する前に、やらないといけないことがある。


 それはアネトゥ山の頂上に築かれた、この土の巨大な壁を持つ砦。

 この砦の中では、何が起きているのか、そして…何者がいるのか突き止めないと。


 出来れば、日が暮れる前に。


 俺は皆一斉に、土の壁の前に立っていた。


 土の砦の中には、砦を築いた魔法使いがいる。

 それも、とても強力な土魔法使いが。


 何故分かるかと言うと、土の壁には強力で緻密な魔力が織り込んでいるからだ。


 ただ、多くの魔力を注ぎ込んだだけでない。

 その魔力を織物のようにして、さらに強度を上げている。


 非常に高い魔力制御だ。

 俺でも、ハッとさせられるほどに。


 それにしても……………どのように入れば良いのか。

 確か、ファングとポリアゾルの時は、高い城壁の地上近くの場所の一部に穴が独りで開き、二人が出てきたんだ。


 だけど、見た感じ、今は土の壁全体に入れる場所は無い。

 いっその事、俺の〈水流斬〉で強引に斬って入るべきか。


 そうして、俺が悩んでいると、


 「っ?!」


 突如、目の前の壁を形成している魔力に動きを感じる。

 そして、


 「壁に穴が開いた!」


 俺は驚く。

 だが、それは俺以外も同じ。


 眺めていた土の砦の壁の一部分に、突如として人間一人が通れるほどの穴が開いたのだ。


 クラ、ミーナ、ミル、パルは戦闘態勢を取る。

 俺は即座に、後ろに妹のイチカと花人のバーラとスズを隠す。


 俺達が何が出てくるのかと身構えていると、


 「ほっほっほ……揃っておるな」


 そこから出てきたのは、顎に長い髭を蓄え、白髪まみれの小柄な老人だった。


 それは一見すると、ただの老人。


 だけど、俺は瞬時に確信する。

 この老人こそが、この巨大な土の砦を築いた張本人であると。


 「初めましてじゃな。儂の名は、ドリアン・メトロポリアス。フリランス皇国皇帝から皇国十二魔将・第六席の座を貰い受けておる」


 老人………皇国十二魔将・第六席であるドリアン・メトロポリアスは、礼儀正しく一礼して、自己紹介をしたのだった。




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