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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第七章 ピレルア山脈と竜脈

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一旦終了




 「全部消し飛んだな」


 俺は辺りを見渡す。

 先程放った奧伝によって、周囲は跡形も無く吹き飛んだ。


 ファングが最後に仕掛けた捨て身の攻撃も、展開した領域魔法である〈鉄領域・闘技場(アイアンコロシアム)〉も、全て吹き飛んだ。


 当然か。

 龍の爪が放たれたのだから。


 万物を断つ龍の爪に掛かれば、跡形も残らない。


 思ったほど、ファングに時間を掛けてしまった。

 クラ達は、どうしているかな。


 そう思って、クラ達の方へ向かおうとした時、


 「うっ?!」


 ドクン!!

 心臓が大きく波打つ。


 急激に早まった心臓は、心肺に大きくな負担を与える。


 続いて、激しい頭痛や関節痛、腹痛、筋肉痙攣など、あらゆる痛みが襲ってきた。

 酷い貧血を起こしたように、目が回る。


 「ごほ!!ごほ!!ごほ!!」


 俺は咳き込み、胸を抑えながら何度も呼吸を繰り返す。


 何故こんな事になったかと言うと、


 「……………反動が来たか」


 水剣技流奧伝を使ったことによる反動だ。


 忘れていた。


 水剣技流の奧伝の技は、身体に対する負担が凄まじいのだ。

 一回放つだけで、消耗が激しすぎて一時的にまともに動くことも出来ない。


 最初よりは、かなりマシになったが、それでも身体の負荷が大きい。


 思い出すのは、俺はシズカ様から奧伝を教えて貰っている時、俺は試しに奧伝を一回放って見たのだ。

 だが、そこで記憶は途切れた。


 目が覚めると、全身に鈍い痛みが響いていた。


 シズカ様曰く、奧伝を放った負荷で俺は一瞬で気絶したので、霊水を飲ませて安静にさせてたらしい。

 しかも、霊水を飲ませる前の俺の体は、骨の大部分に亀裂があり、筋肉も断裂していたとの事。


 俺に奧伝を見せた際のシズカ様は涼しい顔で、行使していたが、俺には負荷が大き過ぎた。


 身体がある程度まで回復したのは、数分経ってからだった。

 回復したとはいえ、未だに痛みは体に多く残っている。


 まさに、水剣技流奧伝は、今の俺にとっては必殺技でもあり、切り札。

 使いどころは最終局面に限られる。


 今の俺には、奧伝を連続で放つ体力や気力は無い。

 本当に自分の軟弱さが恨めしい。


 ふと…視界に誰かの姿が入る。

 目を動かし、その誰かを視界の中心に収める。


 油色の髪の男………ファングだった。

 仰向けに倒れている。


 俺は息を整えながら、倒れているファングの元に向かう。


 「………」


 ファングは胸に刃の一線の跡を残し、気絶していた。


 当然だ、奧伝を食らったのだから。

 それに限界突破(オーバーリミット)の反動もあるのだろう。


 だが、息はある。

 死んではいない。


 奧伝である青龍爪【昇龍晴天閃】をファングが最後に放った捨て身の攻撃と一緒に、ファングにも放った。

 青龍爪【昇龍晴天閃】の直撃を食らえば、人など呆気なく両断され、絶命する。


 だが、ファング自身には死なないように、爪の先が”掠る”ように、俺が調整した。


 始めから、俺にはファングを殺す気など無かった。

 別に、俺は非殺傷至上主義者では無い。


 単純に、殺してしまえば、後味が悪いからだ。

 特に、一度人殺しを経験した身としては。


 俺は父親を殺した暗殺者を怒りに身を任せて、殺してしまった。

 そのせいで、数日間心を引きずってしまった。


 今は収まった来たが、人を殺す感触を忘れた訳ではない。


 それに……………何となく、ファング(コイツ)は根っこからの悪い人間では無いような気がするのだ。


 「ん?」


 そこで、俺はファングの胸になる光るものを見つける。

 何となく、顔を近づけてみる。


 それは凝った装飾で作られたペンダントだった。


 つい、好奇心でペンダントを開ける。


 「これは…………」


 ペンダントの中には、小さな…………絵?が入っていた。


 絵にしては、上手すぎる。

 まるで、風景をそのまま切り取ったみたいに。


 その絵は、二人の人間…ファングともう一人の少女の絵であった。


 少女の方は、俺と同い年ぐらいのローズピンクの長い髪を持った子だ。

 絵の中で、少女は万遍の笑みで笑っている。


 絵に移っている少女の隣にいるファングは、不貞腐れてそうな顔をしつつ、どことなく嬉しそうな感じがする。

 もしかして、この少女はファングにとって大事な人なのか。


 そうか………なら、殺さなくて正解だったかもしれない。


 「お兄ちゃん!!!」

 「ミナト」


 その時、俺を呼ぶ声が二人分聞こえる。


 それはイチカとミルの声だった。

 見ると、イチカが髪先が朱色である短めの水色の髪を揺らしながら、ミルが亜麻色の長い髪を振りながら、遠くからこちらに走って向かっていた。


 だけど、ミルの方は何となく息苦しそうだ。


 イチカは一直線に俺のところに行き、抱き着いてきた。


 「お兄ちゃん!!」

 「おっと!」


 俺はしっかりと受け止める。


 「お兄ちゃん、怪我は無い?」

 「ああ、軽り傷一つ無い」


 俺は自身の妹に大丈夫だと、右腕の力こぶを立てる。

 それを見て、イチカはホッとした表情を取る。


 「良かった………お兄ちゃん、とっても強いの知ってるけど、相手の魔法使いも強そうだったから。もし、お兄ちゃんの身に何かあったら、どうしようかと思った」

 「心配かけちまったな」


 俺はイチカの頭を撫でる。

 イチカは、えへへ…と、可愛らしい笑みを浮かべる。


 「皇国十二魔将を相手に無傷ですか。流石です、ミナト」


 ミルは地面に倒れるファングを見て、感心したように褒める。


 「でも、結構強かったです」


 実際、ファングは相当強かった。

 土魔法の派生である鉄魔法を巧みに使いこなしていた。


 総合的な魔法の力量なら、明らかにAランク冒険者であるクラやミルを超えている。


 俺も本気を出さなかったら、危なかったかもしれない。


 「そう言えば、そっちは大丈夫でした?あの長髪の男…皇国十二魔将・十一席でしたっけ?」


 いくら、Aランク冒険者のクラとミル、さらに元Aランク冒険者のパルに、王国第七魔法団のミーナ、天才のイチカがいたとはいえ、向こうもファングと同じ皇国十二魔将。

 となると、あの墨色の長髪の男はファングと同等に力量という可能性がある。


 イチカとミルが目立った傷が無い様子で、ここに来たという事は、倒したと言うことだろうが。


 「ええ、何とか倒せました。でも、かなり危なかったです。私も攻撃を食らいましたから」

 「食らった?平気なんですか?」


 確かに、ミルは額に少量の汗を浮かべ、本調子ではない様子だ。


 「大丈夫です。パルさんのお陰で大事に至りませんでした」


 ミルは問題ないと言う。


 「そうですか。それで、倒した第十一席は?」

 「ああ…彼は今、土に埋もれています」


 俺は首を傾げる。


 「土に埋もれている?」

 「はい。彼を戦闘不能状態にしたら……………」


 その時だった。


 グウウウウ。

 突如、俺達がいる地面が動く感覚がする。


 「何だ?!」


 俺はイチカを抱きしめたまま、周囲を警戒する。


 地面が生き物のように波うち、動いている。

 まるで、山そのものが生きているみたいに。


 だが、動く地面に魔力を感じる。


 という事は、これは誰かの魔法。

 それも強大な魔法使いの。


 「あ!ファングが!」


 そして、俺は見る。

 先程倒したファングが、地面に埋まっていくことに。


 動く地面は、そのままファングを飲み込む。


 俺は駆けつけるが、既にファングは完全に地面に埋まって、手出しが出来ない状態になった。


 一見すると、山がファングを食べたみたいに見えるが、何となくだが、そんな様子は無く、何だか土がファング自身を守るために、アイツを埋めたように感じる。


 同じく、それを見ていたミルが険しい表情をする。


 「私達が倒した同じ皇国十二魔将の………ポリアゾル・マークカブラの時も、ああして地面の土が動き出して、彼を土の中に埋めてしまったのです。恐らく、何者かの魔法でしょう。十中八九、あの土の砦を築いた」


 ミルは振り返り、山の頂上を見る。


 そこには、ピレルア山脈の最高峰の山であるアネトゥ山の頂上を覆い隠すように、土の砦を築かれていた。

 始め、ファングとポリアゾルは、あの土の砦から出てきた。


 そして、恐らく…あの土の砦を築き、ファングを地面に埋めた魔法使いは、あの砦の中にいる。

 それも飛んでも無い魔法使いだ。


 それこそ、ファングやポリアゾル以上の魔法使いが。


 そんな予感がした。

 気を引き締めないと。




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