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ファング①

ファングの過去回想ですが、書き直しました。

自分でも読んでいて、雑だと思ったので。




 黒髪の水魔法使いが氷で出来た剣……みたいな曲がった剣を持って、俺に迫る。


 魔法使いのくせに。

 最弱魔法使いのくせに。


 コイツは…………俺の鉄を紙か何かのように斬りやがった。


 久しぶりだった。

 目の前の敵が”恐ろしい”と感じたのは。


 こんな感覚……皇国十二魔将・第六席である師匠のドル翁や、それ以外の十二魔将以来じゃねぇか。


 駄目だ、コイツには勝てない!


 くそ!ふざけんな!

 こんな奴に、俺は負けるのか!


 俺は負けられない。

 負けたら駄目なんだ。


 負けたら、負けたら………………。









 フリランス皇国の首都から南東にある街「リヨン」。

 そこが俺の故郷。


 人口は数十万という、かなり大きな規模の街だ。


 その街の高級街にある一角の屋敷に、かつて俺は住んでいた。


 俺は元々、リヨンと、その周辺の街に置いて、それなりに幅を利かせていた商人の家の息子だったのだ。

 平民からすれば、裕福な生活だったかもしれない。


 俺が生まれた頃には死んだらしいが、俺の祖父に当たる人が、何も力が無い平民の状態から長い時間を掛けて、人脈と財力を作り出したと聞いている。

 所謂、成功者。


 だけど、祖父の息子…つまり、俺の父親は筋金入りのクソだった。


 どれくらいクソかと言うと、祖父が子孫のために貯め込んだ資産を自分の欲のために使っていたのだ。


 家に女を大勢連れてきては、暴飲暴食の贅沢三昧。

 俺の母親以外に、愛人なんて山ほどいた。

 一日中、酒ばかり飲んで、何か気に入らないことがあれば俺の母や使用人を殴り、当たり散らかす短期者。


 息子の俺が父親に構ってもらえた記憶なんて、当然ない。


 父親は俺にも暴力を振るおうとしたが、母がいつも俺を抱きしめて、父親から守ってくれていた。

 幼いながらも、物心ついた俺は心底父親を見下していた。


 「クソが」


 そんな幼い俺の口調からも分かるが、傍若無人な父親を見て育ったので、当然育ちは悪い。


 しかも、父親は浪費家で、乱暴を振るうだけでなく、商人としての素養や才能は無かった。

 だから見る見るうちに、祖父が溜めた資産は無くなっていった。


 「母さん!行かないで!」

 「………………ごめんね、ファング」


 母はクソな父親の虐待に気を病んで、俺を残して死んだ。


 母の最期の言葉は俺への謝罪だった。

 こんな家の子に産んでしまって、ごめんなさい。


 ちきしょう!

 何で、謝るんだよ!


 俺は母さんの子に生まれて、それを恨んだことなんて一度も無いぞ!


 これも全部、クソな父親のせいだ。

 父親なんて、死ねばいいのに。


 その願いは、俺が十二歳の時に叶う。


 父親は酔っぱらった勢いで階段から落ち、呆気なく死んだのだ。


 だが、そこは問題ではない。


 父親は家の資産を全て使い果たしてしまった上で、多額の借金を残して死んだのだ。


 死ぬなら、人様に迷惑かけないように死ねよ。

 借金何て、要らねえもんを残しやがって!


 十二歳にして、両親がいなくなり、家に借金を残した状態の俺は、もうどうする事も出来なかった。

 勿論、俺に借金を返済する手立てはない。


 このままでは、借金元に売り飛ばされてしまう。


 そう思った俺は住んでいた家を飛び出た。

 そして、今まで生まれてから一度も出たことがない高級街から逃げ出した。



 生まれた屋敷を出た俺は、リヨンの街の中を当ても無く彷徨い続けた。


 幼く両親もいない俺を働き手として、雇ってくれる場所など無い。

 誰も通らないような裏通りにある薄暗い隙間を家として、雨風を凌いだ。


 店の残飯をこっそり盗んだり、通行人の財布を盗んだりして、その日その日の飢えを凌いでいた。


 今までの高級街での生活とは比べ物にならない程の、貧しい日々。

 寒いし、腹は減るし、体も何処か痛い。


 当然だが、幼いとはいえ、盗みを働く俺を、誰も許さない。

 盗んだ俺を殴り飛ばそうとしたり、中には殺そうとしてきた奴もいた。


 まぁ…その全てを俺が殴り飛ばして、返り討ちにしたが。

 意外と俺は、喧嘩の才能があった。


 だけど、相手を殴ったり、蹴っ飛ばしたりするのは、死んだ父親の暴力を彷彿とさせた。


 なんだか自分は、家で暴力をばかり振る父親に似ている。

 そう思ったら、反吐が出た。


 見下していた自分にも、父親の血が流れていると考えると、自分に対しても嫌悪感を感じた。


 だけど、腹を満たすため、生きるためには、盗みをして、誰を殴るしかなかった。


 殴って、殴って、殴って。

 例え、父親に似てようと、生きるためには仕方なかった。


 ……………………生きるためには、仕方が無いか。

 生きるためなら、人を殴っても、本当に良いのか?


 何故か、自問自答してしまう。


 そんな日々だから、俺は妙に喧嘩に強くなっていった。




 そんな日々を一年程続けて、丁度俺が十三歳になった時。


 腹が減っていたので、今日も誰かの財布を盗もうと思ったが、相手が悪かった。


 俺が財布を盗もうとした奴は、腰に無骨な剣を下げながらも見た目は、短い赤茶色の髪をした何処にでも居そうな男だった。


 だから、簡単に盗めると思った。


 だが、


 「少年、それは行けないな!」


 財布を盗もうとした俺は男に簡単に取り押さえられ、逆にボコボコに殴られた。

 男は滅茶苦茶強かった。


 喧嘩に強い俺が手も足で出せない程に。


 このままボコボコにされた後に盗人として、騎士団の詰め所に連れられるかと思った。


 だけど、男は、


 「よし!微罰はこれぐらいで良いか!」


 そう言って、豪快に笑った後に、何かを考えたのか、


 「ほら!食え、少年!腹減っているだろ!」


 何と、盗みをしよとした俺に串焼きを買ってくれたのだ。


 屈託のない笑みで串焼きを俺に渡す。

 串焼きからは涎が出そうなぐらい良い匂いがした。


 だけど、意味が分からなかった。

 財布を盗もうとした奴に食べ物をやるなんて。


 理解不能だ。


 けど、意味を深く考える前に、空腹に耐えかねた俺は串焼きを頬張った。

 串焼きはそこら辺の屋台で売っている物だった。


 でも、不思議と物凄く美味かった。


 「少年、名は?」

 「………」


 男は俺の名前を聞いてくるが、俺は無視をしながら串焼きを食っていた。


 そうして、俺が串焼きを頬張った後に、男は俺の手を引いて、何処かに連れ出そうとする。


 今度こそ、騎士団の詰め所にでも、連れられるかと身構えた。


 結局、連れられた場所は騎士団の詰め所ではなく、街の外れにあるスラム街にある小さな孤児院だった。


 その小さな孤児院は、壁の塗装が至る所で剝げ、柱も軋んでいた。


 「今日から、ここがお前の家だ!」


 勝手にそんなことを言いだしやがった。


 そして、孤児院から一人の女性が出てくる。

 俺の母さんと同い年の見た目をした女性であり、長い金髪が特徴の綺麗な女性だった。


 服装からして、この孤児院のシスターだ。


 「あら、エルム。この子は?」

 「ああ、ミーネ。コイツは、さっき捕まえたコソ泥だ。見たところ、身寄りがないらしい。だから、この孤児院で、孤児として育ててほしんだが」

 「まぁ…そうなの。身寄りがないなんて、可哀想に。お名前は?」


 ミーネと呼ばれた女性が俺に名前を聞く。


 「……………………ファング」


 俺は渋々答える。


 俺の名前を聞いた女性はニッコリ笑う。

 何故か、その笑みは死んだ母さんを脳裏に浮かばせる。


 「ファングね。良い名前」

 「コイツ、俺が聞いても、一回も名前を言わなかったくせに」


 男は困ったように頬を掻くが、俺だって答えたくて、答えたわけではない。


 ミーネという女性が母さんに似ていて、名前を聞かれたから自然と答えてしまった。

 ただ、それだけだ。


 後で知ったが、エルムという男は孤児院の女性のミーネと幼馴染の関係であり、男は時々俺みたいな身寄りのない子供を見つけては、孤児院に預け、稼いだ金を孤児院に寄付しているみたいだ。


 如何にもな善人野郎。

 反吐が出る。


 勝手に孤児院を俺の家と言いやがって。


 「ふふ…いらっしゃい、ファング」


 ミーネは温かく俺を迎えてくれた。

 本当に、母さんのように。


 俺は渋々、ミーネの手を取って、孤児院に入った。


 すると、


 「ん?」


 視線を感じて、俺は視線の方向を見る。

 そこには、


 「………」


 俺がミーネに連れられて、孤児院に入ろうとすると、髪をピンクに染めた俺ぐらいの年齢の子が壁から顔を出して、ジッと俺を見てきていた。

 俺を物珍しそうに見ている顔だ。


 「何見てんだ!」


 俺は少女に向かって、怒鳴る。

 少女はビクッとして、逃げ出す。


 「こらこら、ファング。女の子に怒鳴ってはいけませんよ」

 「……………………はい」


 ミーネが窘めたので、俺は渋々返事をする。


 こうして、俺は孤児院での生活…第二の人生が開始した。




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