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鉄魔法 VS 水魔法

前話の最後の方を少し改変しました。




 ファングの魔法〈鉄弾(アイアンバレット)〉によって生成された灰色の弾丸が八つ、俺たちに向かう。

 それぞれの弾丸が一発ずつ俺、クラ、ミーナ、ミル、イチカ、パル、スズ、バーラの八人に対して、狙い違わず打ち込まれていた。


 「こんなもの!〈氷壁〉」

 「ふっ!」

 「〈伸びれ〉!」


 俺に向かってきた弾丸は体捌きで躱しつつ、イチカ、ミーナ、スズ、バーラに向かっていた四つの弾丸を〈氷壁〉で弾き返す。


 クラも、自身とミルに向けっていた二つの弾丸を剣で見事に弾く。

 パルの方は魔装の能力であるリーチの延長を使い、弾丸を鞭の先で弾いた。


 「ちっ!めんどくせぇ」


 ファングは先程の鉄の弾丸で仕留める気であったのか、舌打ちをしながら悪態をつく。


 一方、ミルはファングが放った灰色の弾丸を地面から拾って、観察する。


 「これは…………鉄ですね。なるほど、皇国十二魔将・第十二席の魔法は、土の派生魔法である"鉄魔法"ですか」


 ミルは先程自分達を襲った攻撃である灰色の物体が鉄だと分かり、ファングの魔法を鉄魔法と断定する。


 魔法には、三つの種類がある。

 基本四魔法と派生魔法と特異魔法だ。


 俺の水魔法、クラの風魔法、ミルの土魔法、ミーナの火魔法である四つの魔法を基本四魔法と言う。

 対して、派生魔法は基本四魔法である火・水・風・土のどれかの系統に属した枝別れした魔法である。


 例として、イチカの氷魔法が水魔法の派生魔法、以前にマカをホウリュウが襲撃した際にシュルツと言った音魔法使いがいたが、あれは風魔法の派生魔法。


 特異魔法は、基本四魔法と派生魔法の何処にも属さない魔法。

 例として、トレントを操っていたとされるラリアーラの樹魔法。


 そして、皇国十二魔将・第十二席であるファングの魔法は、土魔法の派生魔法である鉄魔法ということだ。

 つまり、鉄を生み出し、操る魔法。


 鉄魔法と分かって、俺の頭に浮かんだ考えは、


 「え?鉄?余裕じゃん」


 …………である。


 俺の言葉が聞こえたのだろう。


 「ああん?!てめぇ!舐めてんのか!!」


 侮られたと思ったのか、ファングはこめかみに幾つもの青筋を立てる。

 それに対し、俺は小馬鹿にするように笑う。


 「そりゃあ、舐めるだろ。俺の魔法はあんたの魔法の上位互換だからな」

 「はぁ?!上位互換だぁ?!てめぇ、何の魔法使いだ?!」

 「ふん!聞いて驚け、水だ!!」


 俺は胸を張って宣言する。

 さあ、驚け!最強魔法である水魔法を!


 「は…………」


 ファングは驚いた様子のまま、顔を固まらせる。

 見れば、ポリアゾルも目を点にしていた。


 そうか、余りの驚きに言葉が出ないのだろう。

 無理もない、水魔法はこの世で最強の魔法だからな。


 しかし、


 「ぐふふ…………くくく…………ぎゃああああ!!!」

 「…………くっく」


 ファングは腹を抱えて、大笑いをし、ポリアゾルは口に手を当てて、必死に笑いを堪えていた。


 何故、笑う?

 笑う意味が分からなかった俺はただ首を傾げるのだった。


 笑いで涙目になったファングは盛大に馬鹿にするように俺を指差して、


 「よりにもよって!!"最弱"魔法の水かよ!!なるほどなぁ!俺を笑い死にさせるつもりかぁ!ぎゃはははは!!」


 最弱魔法と言われ、今度は俺がこめかみに幾つもの青筋を立てる。


 「最弱魔法?!んな訳ねぇだろ!水魔法は全魔法における最強魔法だ!!なぁ、そうだよな?!みんな?!」


 俺は確認を込めて、クラ達を見る。


 「そうだよ、お兄ちゃんの水魔法は最強だよ!!」

 「「「「………」」」」


 イチカが同意する中、他の四名は気まずそうに俺から視線を逸らしていた。

 スズとバーラは訳が分からず、首を傾げる。


 後で知った事だが、水魔法は戦闘において最弱。

 これは冒険者や騎士団、魔法団など戦闘を専門にする業界の常識なのだった。


 攻撃力特化の火魔法、防御に重きを置いた土魔法、バランスが良い風魔法。

 戦闘では、この三つの魔法が主に重宝される。


 そのため、俺がマカで初めての冒険者登録をした時に、受付嬢の女性が水魔法使いが冒険者になることは余り無いと言った。

 ミーナが属する王国第七魔法団に、水魔法使いだけいなかったのも、これが理由。

 水魔法使いは何処でも真水を生成できるという点から、商人や旅人から雇われることが多いのだ。


 俺が水魔法使いであるという事実を一頻り笑ったファングは顔を獰猛なものにする。


 「そんな水魔法使いの雑魚君には、先輩の俺が現実ってもんを教えてやるよ!」


 ファングは攻撃的な魔力を俺に向け、


 「穴だらけになれ!〈鉄槍(アイアンスピア)〉」


 ファングの上空に、灰色の物体…鉄の塊が生成され、空中で形を変え、槍の形状になる。

 その鉄の槍が三十本。


 三十本の鉄の槍は空気を切り裂きながら、その全てが俺一人に対して向かう。


 「効くか!〈氷壁〉」


 俺は氷の壁で鉄の槍を全部防ぐ。


 カキン!

 氷の壁は危なげなく、三十本の鉄の槍を弾き返す。

〈氷壁〉は、ほぼ無傷。


 「ああ?」


 ファングは自身の攻撃が防がれたのを見て、首を傾げる。

 まさか、防がれると思ってなかったのだろう。


 「お返しだ。〈氷槍〉」


 今度は俺が十本の氷の槍を放つ。


 「へっ!しょっぺえ魔法だな!〈鉄盾楯(アイアンシールド)〉」


 ファングは鉄で出来た大盾を生成する。

 見るからに頑丈そう。


 ガギン!

 氷の槍は弾かれる。


 だが、


 「へ!どうだ!」

 「て、てめぇ!!」


 鉄の盾の方には、表面に大きな傷が複数出来ていた。

 つまり、俺の氷の方が攻撃の面で優れていたという事だ。


 それはそうだ。

 俺の氷は鉄より硬い鋼と同等の硬度を持っている。


 鋼は、鉄の炭素との合成物であり、分子の隙間に炭素が嵌ることで鉄を上回る靭性を高めている。

 ファングが鉄魔法使いと聞いて、俺の魔法の方が上位互換だと言ったのは、鋼の硬さを持つ俺の氷から来ている。


 格の違い見せつけてやったと言わんばかりに、ドヤ顔をする俺にファングは顔中を真っ赤にする。


 「そうか…そうか…ただのハッタリ野郎という訳では無いって訳かぁ」


 ファングは深呼吸を繰り返し、真っ赤になった顔を必死に落ち着かせながら、次の攻撃を放つ。


 「だったら、数だ!ぶちかませ!!〈鉄灰角棘・群衆アイアンソーン・ロット〉」


 小さくとも角ばった鉄の棘が大量に俺へ飛ぶ。

 数に物を言わせた高密度攻撃である。


 遠くから見れば、大量の灰色の虫が俺に襲い掛かかるように見えるだろう。


 それを、


 「〈放水・昇〉」


 俺の前方、数ヶ所から水が勢いよく噴き出す。


 まるで下へ落ちる滝を逆さまにしたように、下から上へ大質量の水が複数放出させる。

 それによって、大量の角ばった鉄の棘は全て上の方へ洗い流される。


 「なっ?!」

 「お前の攻撃は無意味だ!」


 驚愕するファングを俺は煽る。

 折角少し落ち着きつつあったファングの顔が、俺の煽りでまた怒りで真っ赤になる。


 「舐めんじゃねぇ!真っ二つになりやがれ!!〈螺旋鉄刃盤(アイアンミキサー)〉!!」


 次の生成された鉄の塊は大きな円盤のノコギリに変わる。

 ノコギリが高速で回転しながら、俺に向かう。


 このままだと、本当に真っ二つになりそうだ。


 だが、斬撃なら負けないぞ。


 「〈水流斬〉」


 得意の水の斬撃が放たれる。


 高圧・高速で放出させた水はファングの〈螺旋鉄刃盤(アイアンミキサー)〉の刃を削る。

 それによって、〈螺旋鉄刃盤(アイアンミキサー)〉の軌道がずれ、俺に当たることは無かった。


 「何ぃ?!ワイバーンすら切り裂く俺の〈螺旋鉄刃盤(アイアンミキサー)〉だぞ?!」


 鉄のノコギリも防がれたことにファングは目を見開くが、対する俺は俺で納得いっていなかった。


 さっきのただの〈水流斬〉であり、数百と言う大量の斬撃を放つ〈水流斬・乱〉や〈水流斬・拡散〉、〈水流斬・集中〉と違って、単発でしかない。

 それでも、先程の鉄のノコギリの軌道を”逸らすだけ”で終わったのに、納得がいかないだけだ。


 「水之世」の最下層のボス部屋で出現する中で、最強のボスである…俺が『先生』と呼ぶあの魔物の魔法に惚れ、俺が試行錯誤した後、習得したのが〈水流斬〉だ。


 恐らく先生なら鉄のノコギリ程度簡単に斬ってしまうだろう。

 つまり、俺の〈水流斬〉は先生の魔法に比べて、まだまだと言うということである。


 改良の余地は、まだあるな。


 俺が自身の〈水流斬〉の威力に不満を抱いている一方、


 「なるほど……本気では無いとはいえ、皇国十二魔将・第六席であるドリアン殿の愛弟子であるファングが言い様に扱われているとは。あの水魔法使い、無詠唱な上に見たことが無い魔法を使う」


 水魔法と聞いて、俺を笑っていたポリアゾルだったが、今しがたの俺とファングとの攻防を見て、侮りを含んだ顔は鳴りを潜め、警戒する表情を取る。

 ポリアゾルは注意深くを俺を眺めていると、


 「…………よそ見するな」

 「おっと!」


 ポリアゾルは姿勢を低くする。

 先程までポリアゾルの頭部があった場所に、パルが振るう緑色の鞭の先が通り過ぎる。


 ポリアゾルの後方には、いつの間にかパルがいた。


 パルの持つ二つの眼には、何故かは分からないが、憎しみが込められていた。

 始めにファングとポリアゾルが皇国十二魔将と分かった時からだけど、パルには何だか、皇国十二魔将に対して、並々ならぬ負の感情が垣間見える。


 「随分な挨拶ですね」


 ポリアゾルは一旦、距離を取る。


 「ファング!全力で掛かれ!!あの水魔法使いは強い!」

 「ああ?!くそ!癪だが、確かにコイツは手を抜いて、良い奴じゃねぇな」


 ポリアゾルの指示に、ファングは渋々ながらも了承する。

 ファングは俺への評価を改めたようだ。


 「良かったな、最弱魔法使い!天才である、この俺が全力で相手をしてやる!有難く思え!!」

 「ようか。それじゃあ………有難く思い、俺は完全下位互換のあんたに手加減をするよ」

 「こ、こ、この野郎!!」


 またしても水を最弱魔法と言われ、イラついた俺はまたしても煽る。

 さらなる俺の煽り、ファングは顔中に青筋を立て、今にも俺に飛び掛かりそうである。


 「ポリアゾルさんよぉ!!コイツはぜってぇに殺す!!言われた通り、全力でやるから。こっから離れろ!巻き込んじまう!」

 「分かった。では、私は彼らの相手をするとしよう」


 そう言って、ポリアゾルはファングから離れる。


 俺の方も少し離れているクラ達に叫ぶ。


 「悪い、俺はコイツの相手をする!そっちの魔法使いは、クラ達に頼む」

 「はぁ…了解した。もう一人の皇国十二魔将は私達が相手する。お前も死ぬなよ」


 クラはため息をつきながらも、俺に激励を送り、ミル、ミーナ、イチカ、パル、スズ、バーラを連れて、クラは俺とファングがいる場所から離れる。


 「お兄ちゃん、頑張って!!!」

 「おう!」


 イチカの応援に、俺は腕を上げて答える。




 クラ達ともう一人の皇国十二魔将が離れていったのを確認し、俺とファングは示し合わせたかのように全身から魔力を開放する。


 目の前の鉄魔法使いが強いことは分かっている。

 手加減するなど、煽っては見たが、正直油断していい相手ではない。


 「俺を怒らせたことを地獄で後悔しやがれぇ!!〈鉄領域・闘技場(アイアンコロシアム)〉」


 ファングが地面に手を付く。

 そして、ファングの手から足元、そして地面に向かって魔力が放出される。


 地面に放出された魔力は広がる波紋のように、範囲を拡大させる。


 ドス!

 突如、山肌から大きな鉄の柱が数十個の出現する。


 その柱は俺とファングを囲むように立ち並ぶ。


 更には、俺たちの足元に、円環状の鉄の足場が形成される。

 足場は半径を段々と広げていき、周りにある鉄の柱と合わさる。


 そこから、鉄の柱を支柱にして、壁が作られる。

 壁は高度を増していき、20メートルほどの高さになったかと思ったら、俺達がいる中心に向かって、段差ができ始める。


 勿論、階段は鉄製。


 階段は外から中心に対して、下がる仕組みで形成され、見る見るうちに中心を取り囲む大きな階段………いや、これは観客席だ。

 それは中央の広場を数百人が観戦するような観客席が出来たのだ。


 広場で繰り広げられる血肉躍る戦いの観戦を。


 「…………これは」


 俺は瞬く間に、ピレルア山脈の最高峰アネトゥ山の山頂付近に出来た鉄の巨大建造物を中から見渡す。


 カシャ……、


 「ん?」


 一歩踏み出すと、足下から細かい音が聞こえたので、下を見ると、なんと俺とファングが立っている中央広場の足元に、大量の鉄で出来た破片が落ちてあった。


 角ばっていて、うっかり尻もちや広場に倒れてしまったら、痛そうだ。


 まさに鉄尽くし。


 「どうだぁ!これが俺の『領域魔法』だ。お前の墓場だ!」

 「領域魔法?」


 領域魔法…………知らない魔法であった。


 ファングは心底馬鹿にするように言う。


 「そんなんも、知らねぇのか?!ああん?!この『領域魔法』が展開されている場所は、魔法を発動した奴の魔法の威力と精度が大幅に上がるって訳だ!」


 つまり、ファングは周囲一帯を自身の魔法に補正が掛かる魔法を使ったという事か。


 発動者の魔法の威力と精度が上がる。

 これに似たような場所に「水之世」がある。


 レイン様が本当の墓地とした「水之世」は、文字通り水のダンジョンであり、出てくる魔物は全て水系統の魔物。


 なにより、特徴的なのは「水之世」内では、水魔法の威力と精度が上がること。

 さらには、発動に必要な魔力が少なくて済む。


 周囲が水魔法の魔力で満たされているのが原因なのか、はっきりとした理由は分かっていない。


 俺は周囲の魔力の流れを探る。

 確かに、この〈鉄領域・闘技場(アイアンコロシアム)〉内には、ファングの魔力、すなわち鉄魔法の魔力で満たされている。


 「なるほど。あんたにとって、ここはグランドホームと言う訳か」

 「理解が早いな。つーわけで…………死ね。〈鉄星〉」


 その時、頭上に巨大な魔力の集まりを感じ取る。


 俺の顔に影が差す。

 上を見れば、巨大な円筒状の鉄の塊があり、俺に向かって落ちていた。


 「〈氷壁〉」


 俺は頭上に氷の壁を形成して、落ちてくる鉄の塊を防ごうとする。


 しかし…………ガリガリ……バリン!!


 〈氷壁〉は、〈鉄星〉の落下の衝撃に一気に亀裂を作り、木っ端みじんに割れる。


 ドガーン!!!

 コロシアム中に巨大な音が響く、


 そのまま〈鉄星〉は、俺の元に落ちたのだった。




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