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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第七章 ピレルア山脈と竜脈

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エスパル王国の歴史




 この世界の魔物の定義、それは魔力を持った獣。


 獣とは言っても、グレイウルフやデビルホークと言った獣タイプの魔物のみならず、ワイバーンやホウリュウと言った大型の魔物、トレントやエルダートレントなどの植物型の魔物も含まれる。


 そんな魔物の中には、高い知性を持ち合わせた者もいた。


 人語を理解するだけには留まらず、自ら人語を話し、あまつさえ人のように二足歩行をして、魔法も行使する魔物も。


 その中の一つであったのが、「花人」と呼ばれる者達。


 彼らの見た目は、花と人を混ぜたようなものであり、茎や枝を手足のように動かし、頭部や体の各所に固有の花を咲かせているのだ。


 花人には様々な種類があり、チューリップの花人やユリの花人、タンポポの花人、向日葵の花人など個体によって、あらゆる花を咲かせる。

 そのため、彼らはかつて花壇と作る者(ガーディナー)と呼ばれ、知能の高い植物型の魔物と扱われた。


 魔物であったので、彼らは常に冒険者から討伐の対象であった。


 けれど、討伐の対象だけでなく、貴族や大商人などの取引の対象…………もっと言うと、所有物として扱われた。


 魔物は大抵、人を見れば見境なく襲ってくるが、花人達はとても温厚であったのだ。

 花人の多くは、人と仲良くしたいと考える心の優しいたちだったのだ。


 そんな魔物であったので、花人は基本的に人を傷つけることは全くなく、特段高位の魔物でもないので、驚異的な強さなどは無く、人に歯向かおうとしなかった。


 しかし、文字通り花人は華やかさがあった。

 なので、花人を捕獲して、売ると高値で売れたのだ。


 貴族や大商人にとって、高価で手に入れにくい骨董品や美術品を持つことは一種のステータスであり、花人をどれだけ所有しているかは、所有者の経済力や人脈を表す指標になったのだ。


 そんな醜い人間の欲望のために、捉えられ、売られ、見世物にされた花人は次第に数を減らした。


 だが、そんな花人に転機が訪れる。


 千年前に建てられた『異人保護法』だ。


 これはそのまま意味で、人間以外の種族である異人を差別せずに、保護し、人間と対等に扱い、接するべしという法案である。

 この異人には、エルフやドワーフなどの主要な種族は勿論、花人も入った。


 この法案は異人の独立と解放を目的としていると同時に、今まで迫害され続けていた知性のある魔物を一つの種族として扱う意味もあった。


 こうして、異人保護法が確立されたことで、花人のような”かつて魔物と言われた種族”達は、迫害から解放されたのだ。









 「……………………これが花人、そして千年前のエスパル王国の他種族にまつわる歴史です」


 ミルが説明を終える。


 「ほう…ほう…」


 イチカは感心した様子で聞いていた。


 因みに、ミルがエスパル王国の歴史について語っている最中、ずっと二体の…………いや、二人の花人は時折お互いの顔を見合わせる以外、ずっと俺達を方を凝視していた。


 けれど、何となくだが、花人の視線が俺とイチカに向いている様な気がするのだ。

 ただの勘だけど。


 「私も王都の書庫にあった古い文献を見ただけなのですが、今から千年以上前…まだ異人保護法が出る前の王国では、人以外の種族である異人に対する偏見や差別が横行していました。異人への理不尽な暴力や窃盗は当たり前。それどころか、異人を捉えて、無理やり奴隷にすることも。しかも、奴隷にされた異人は厳しい環境での労働力として使われていました」

 「それは………全く聞いたことが無い話です。まさに、王国の恥部ですね」


 明かされる王国の歴史に、クラは暗い顔をする。


 「最も差別が酷かったのは、『獣人』と『闇人』ですね」


 獣人とは、文字通り獣型の人。

 殆どの獣人は魔力保有量が少なく、魔法が得意では無いが、獣の如く人間より高い身体能力を有している。


 俺も見たことはないが、異人の中では誰でも知っている存在だろう。


 クラは首を傾げる。


 「闇人?…………獣人は分かりますが、闇人とは」

 「吸血鬼、またはヴァンパイアと呼ばれる存在のことですよ」

 「ヴァンパイア…………見たことは無いですが、人と同じような姿をしつつも、日の光を浴びると焼け死に、人の血を吸う魔物」


 ヴァンパイア…これも聞いたことぐらいはある。

 見た目は人とそっくりだが、口には鋭い牙が二本生えており、それを使って、人の血を吸うとか。


 昔、よく寝る前にマリ姉が聞かせてくれた。

 悪い子には、夜にヴァンパイアが来て、血を吸ってしまうと。


 「クラ、彼らは異人です。まぁ…未だにヴァンパイアを魔物扱いする国はたくさんありますが。獣人も人と獣を混ぜたような見た目から、ヴァンパイアや花人と同じくかつて魔物と言われた種族。特に、彼らは労働力としてではなく、貴族や大商人の愛玩動物のような扱いを受けていたと」

 「許せない!」


 純粋なイチカは、異人がそんな扱いを昔、受けていたことに腹を立てる。

 ミルは、微笑みながらイチカの頭を撫でる。


 イチカが怒る通り、それは人として許せないことだ。


 けれど、全員がイチカのように心の優しい者ばかりでは無い。


 始めは一本の花であったが、そこから枝を伸ばし、体を大きくさせ、140センチほどの大きさになっていた。

 花人は、異人の中では、かなり魔物寄りだろう。


 彼らを魔物として扱う理由も分からなくもない。


 だが、目の前にいる花人の眼からは明確な意思を感じる。

 きっと彼らも人としての心があるのだ。


 「でも、私……王都の魔法訓練学校で一応、王国の歴史は学んだけど、千年以上前に異人差別がそんなに横行していたなんて話、一度も聞いたことが無いわ」


 ミーナはミルの話に驚きつつも、自身の知らない歴史の事実に困惑する。


 「千年以上前とは言え、異人をあからさまに差別していた事実は、王国にとっても都合が悪い。千年以上前の事を書かれた本は、王国内でも殆どありません。他種族と良好な関係を築きたいと願いと同時に、自分たちの汚点を後世に伝えたくなかったのでしょう。兎にも角にも、異人保護法の確立後、王国は全ての種族との共存を選びました」

 「しかし、今までは異人を差別するのが当たり前であったのに、異人保護法が出た後に、異人の差別が無くなるのは、些か懐疑的です」


 クラはミルの話の中に、違和感を感じる。

 確かに、異人差別から異人との共存は、全くの逆だ。


 法律とは言え、そこまで正反対になるものだろうか。


 「ああ、それは簡単ですよ。千年前に王国は”一回壊れて”いますから」

 「壊れている?」


 クラは目を大きく見開く。


 「もっと正確に言うならば、革命が起こって、王国が再構築されたと言った方が正しいでしょう」


 そこで、ミルは千年前に起こったエスパル王国建国の歴史を語りだす。


 「その昔、千年以上前まで…この国は『スペルカ王国』という国名でした。それが丁度、千年前に起こった『イベリの大革命』によって、スペルカ王国の根本的な組織や政治、支配階層などの再構築が為され、エスパル王国が建国されたと言う話です」


 それは普通に王国に住んでいる平民は勿論、貴族ですらも認知していない知られざる王国の歴史だった。


 だが、ここで一つ大きく疑問が浮かぶ。


 「あれ?でも、今は異人の人たち…………見かけないよ」


 イチカの言う通り、エスパル王国が異人保護法を取り入れ、異人との共存を選んだのなら、今も王国には異人が多く居てもいいはず。

 けれど、現実には、今のエスパル王国に異人は殆ど…………というか、全くいない。


 「私も詳しく知っている訳ではありませんが、数百年前の”ある日”を境にして、エスパル王国内で()()()()()()()()()()()が流行し、さらには異人たちが次々に謎の失踪などで消息を絶つことが頻繁に起こり始めたのです。そのせいで王国から異人が段々と減ってきて、今では見かけないことに。獣人は知っていますが、他の異人の行方は分かりません。しかし…………」


 そう言って、ミルは改めて花人を見る。


 「まさか…………本でしか知らなかった花人が、こんな場所にいるとは」


 未だに、花人は俺達を観察しているだけであった。


 「ミル様………彼らはどうしますか?」


 クラが花人をどうするのか聞く。


 「放っておきましょう。私達が彼らの出来ることは何もありません。今は調査の続きです。行きましょう、パルさん」

 「ああ…」


 パルが先頭になって、この場を去ろうとする。

 かつて魔物と言われた種族…花人を尻目に、俺達はまた進み出した…………と、その時、


 「え?」


 突然、俺の手を掴む者がいた。


 それは鈴蘭の花人であった。

 それは………彼女は、青い瞳を真っすぐ俺に向けていた。




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