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花人




 極大の水の斬撃と極大の風の斬撃が舞う。


 俺の〈水流斬・水剣〉と、クラの〈風刃剣〉によって、胴体を両断された百年百足。

 大きな音を立てて、切断された上半身が落ちる。


 俺達の攻撃を跳ね返してきた外骨格であるが、ミーナの〈炎災〉と、イチカの氷の牢獄による攻撃で表面はほとんど破壊され、最後は俺とクラの同時攻撃で終わった。


 「ピキキ…………」


 暫く、上半身が分かれた状態で生きていたが、それも段々と弱まっていき、息絶えた。


 百年百足が完全に動かなくなったのを確認した俺は、即座にイチカへ駆け寄る。


 「イチカ!!」


 俺とイチカは抱きしめ合う。

 そして、イチカを地面に降ろし、


 「平気か?!何処も怪我してないか?!痛いところは無いか?!」

 「だ、大丈夫だよ!お兄ちゃん!」


 俺はイチカの身体に怪我がないか、探す。

 イチカの言う通り、怪我は見当たらなかった。


 俺は一先ず、ホッとする。


 イチカに、もしもの事があれば。

 実の父親を失い、唯一の肉親であるイチカを失えば、俺は立ち直れる自信が無い。


 「だけど、魔物の前に飛び出して!二度とあんな危ないことをすんなよ!」


 俺はイチカが百年百足が突進する直線状に飛び出したことを怒る。

 いくらイチカが天才とは言え、あれは心臓に悪い。


 「ごめんなさい…………でも、ミーナお姉ちゃんを守るのが私の役目だし、私はミルお姉ちゃんの使用人であるから、ミルお姉ちゃんも守らないと…………思って」

 「うっ!ゆ、許す!」


 可愛い妹が申し訳なさそうに、上目づかいで謝るところを見ると、兄として怒るに怒れなくなる。


 「イ、イチカちゃん!私達を守るために!」

 「なんて良い子なの!強いだけの自信過剰兄貴とは違うわ!」


 ミルとミーナは、イチカの頭を撫で、一杯に褒める。

 ………最後の方に、聞き捨てならないことが聞こえたような。




 俺たちは先ほどの百年百足との戦いで、誰も大きな怪我を負っていないことを確認する。


 そして、改めて百年百足の死体を見る。


 「それにしても、硬い敵だったな」


 クラは剣で百年百足の身体を軽く叩く。

 ボロボロになったとはいえ、未だに硬質な音が出る。


 「だが、その硬い外骨格をイチカが粉々にするとは。飛んでもない馬鹿力だな」

 「当然だ、俺の妹だからな」

 「へええ」


 俺が褒めると、イチカが照れた顔をする。


 「だけど、どうやってあんな魔法を使ったんだ?稽古の時は、精密な魔法操作の訓練しかしてなかったはず」

 「う~ん…私もよく分かんない。直感的って、いうか…………でっかいムカデを大きな氷で包んで、握り締めようかなって、頭の中で想像して、実際にやってみたら何か出来た」


 イチカの天才的な魔法センスに、俺とクラは顔を見合わせて、苦笑いする。




 「殆どが損傷していますが、まだ無傷な部分はいくつかありますね。剝ぎ取れば、何か武器か防具に使えるかもしれません」


 百年百足の素材が何かに使えないか、ミルが近くで観察する。


 「剥ぎ取ってみましょう。ミナト、手伝え」

 「ああ」


 俺とクラで剥ぎ取ることになった。


 「ふむ……強烈な匂いだな。マフラーに消毒用の薬液を湿らせても、匂ってくる」

 「パルさん、何をしているんですか?」

 「ミーナか。近寄らない方がいい。今、コイツから毒腺を取り除いてる。何かに使えるかもしれん。薬師として、コイツの毒を有効活用しない手は無い」


 パルは手首に手袋を付け、剥ぎ取りナイフで百年百足の口内を解体していた。




 「剥ぎ取ってみると、かなりの量だな。この素材で作るとしたら、鎧か…もしくは、盾かな」


 俺は百年百足から剥ぎ取った素材を眺める。

 俺達の攻撃を弾き返す程の硬さなので、当然頑丈だ。


 全体の外骨格の損傷が激しいため、剥ぎ取れる箇所は少なかったが、それでも武器や防具を一個分は作れる量である。


 「今回、私は余り戦闘で役に立てなかった。欲しかった毒腺は取れたことだし、その外骨格の素材はそっちで使ってくれ」

 「私は王国魔法団だから、着用のための制服があるから。…………それに、虫はちょっと」

 「最後に倒したのが、お兄ちゃんとクラお姉ちゃんだから、私は二人にあげる」

 「そうですね。どのような用途で使うにせよ、近接戦もこなすミナトかクラに使ってもらうのが、適切でしょうか」


 パル、ミーナ、イチカ、ミルは要らないと言い、俺とクラに譲ると言う。

 とは言っても、俺もクラも正直この素材をどう使うべきか迷っていた。


 なので、一先ず手に入れた素材は荷物の中に入れて、いずれ大きな町に行って、鍛冶師に打って貰おうという事になった。


 「だが、街に行って、鍛冶師に打って貰うとしても、百年百足なんて強力な魔物の素材を扱える鍛冶師なんて、早々いないな」


 パルが懸念点を口にする。


 「そうですね。それこそ、鍛冶の種族と言われるドワーフぐらいしか、打てる人は考え付きませんね」


 ミルがドワーフなら百年百足の素材を扱えると言う。


 ドワーフ…それは「鉱人」とも呼ばれる鍛冶を得意とする種族。


 人間よりも身長が低くても、人間の何倍も筋力を有しており、大の酒好きで、男性には特徴的な顎髭がある。

 いつもは人目に付かない洞窟や地下などの鉱物が取れる所に住んでおり、そこでいつも鍛冶をしている。


 …………………とは言われているが、


 「ドワーフ…………果たして、この国にまだいるのかどうか」

 「まぁ…そうですよね。百年前までは、いたそうだったのですが、今はもうドワーフを見たと言う噂すらありません」


 クラとミルが難しい顔をする。

 二人が言う通り、ここエスパル王国に、ドワーフがいると言う話が俺も聞いたことが無い。


 以前、俺はシズカ様の昔話で、千年前のエスパル王国はあらゆる種族が集う国だったらしいが、何故か今はドワーフどころか、人間以外の種族など全く見られない。


 「…………」

 「あれ?パルさん、どうしました?」

 「いや…………何でもない。ドワーフか、私も見たことが無いな」


 ミルは、何かを含ませたような表情で黙っているパルに首を傾げる。




 兎にも角にも、百年百足の素材を仕舞った俺達は、また歩き出す。


 索敵に長けたパルを先頭に進み出すが、


 「…………やはり変だ」


 急に止まるパル。

 そして、周囲を見渡す。


 「また”視線”を感じる」

 「視線…………またですか」


 俺達が百年百足と戦う前、ここに来た際に、パルはどこからか視線を感じたと言った。

 それは気配に鋭い俺とクラも感じたのだ。


 今も感じる。

 しかし、視線の主は余程気配を消すのが上手いのか、視線元が辿れない。


 百年百足との戦いで忘れていたが、一体だれの視線なのか。


 俺はそれを明らかにするべく、座り込み、目を閉じて座禅を組む。

 そして、自身の気配を体の奥底へ沈ませる。


 「水剣技流・凪ノ型」


 自身を凪とかした俺は、それによって周囲の気配や力の流れをより鋭敏に感じ取る。


 太陽によって温められた地面の温度や草木を揺らす微風、遠くで羽ばたく鳥の声、そして……………………遠くで俺達を観察する視線の先。


 俺は視線の元をはっきりと感じ取る。


 眼を開けた俺は立ち上がり、視線の元へ行ってみる。


 「お兄ちゃん?」

 「こっちにいるな」


 イチカは首を傾げるが、俺の後に付いてくる。


 他のみんなも疑問に思いつつ、付いてきた。


 少し歩いても、周囲の景色に変化はない。

 若干の草木に、杉と言った葉が全くない木々が疎らに生えているのみ。


 そんな殺風景な景色の中に、一本の杉の木………その幹の横から咲く二輪の花

 小さな蕾を付けた白い花と花弁を大きく広げる赤い花。


 「きれい」


 イチカが綺麗と言って、二本の花を見る。


 だが、奇妙だった。

 こんな全く植物が無い場所で、別々の花が杉の幹に枝を絡ませ、横からニョキっと顔を出すように生えている。


 鳥が種を運んできた?

 だとしても奇妙な咲き方だ。


 まるで、花が自ら意思を持って、木にくっ付いているみたいだ。


 植物に余り知識の無い俺でも変だと分かる。


 「これは鈴蘭の花と薔薇の花?でも、どうしてこんな所に?」


 物知りなミルが花の名前を言い、ここに生えている事実に納得がいかない顔をする。


 俺は鈴蘭の花と薔薇の花に顔を近づける。

 鈴蘭と薔薇の両方から良い花の香りが鼻腔に入る。


 カタ…………。

 微かに蕾と花弁が動き、


 「っ??!!」


 俺は驚きの余り、声にならない悲鳴を上げる。


 ()()()()()


 花と眼があったのだ。

 具体的に説明すると、鈴蘭と薔薇の花に、青色の小さな眼が付いていたのだ。


 俺は思わず、距離を取る。


 「どうした、ミナ…………なっ?!」


 クラはいきなり距離を取った俺に言葉を掛けようとして、息を詰まらせる。

 それは全員も同じ。


 なんと、木に張り付いた鈴蘭と薔薇が動き始めたのだ。


 鈴蘭の花と薔薇の花は見る見るうちに、大きなったと思えば、木から離れ、”立ち上がる”。


 「「「「「「…………」」」」」」


 俺達は絶句しながら、その光景を見ていた。


 目の前には、体が緑色の枝で出来た、人のような形をした花が二人いた。


 一方は肩や腰に当たる部分に、小さい鈴蘭の花。

 頭部に当たる部分には、大きな鈴蘭の花があった。


 もう一方は胸や太ももに当たる部分に、小さい薔薇の花。

 こちらも頭部に当たる部分には、大きな薔薇の花があった。


 俺がさっき見た二つの青い眼は、それぞれの頭部の花にあり、鼻や口に当たる部分もあった。


 言うなれば、花人間。


 「……………………まさか、『花人』!」


 ミルは目の前の動く鈴蘭の花と薔薇の花に、『花人』と言った。




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