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百年百足②




 シュウウウウ。

 辺り一面に、白い湯気が立ち昇る。

 大火事が起こったみたいだ。


 「物凄い熱気だ」


 俺は湯気から離れてる。

 けれど、離れているのに、余りの暑さに汗が湧き出てくる。


 湯気だけでなく、地面が焼ける匂いもしてくる。

 鼻が曲がりそうだ。


 「流石は、ルイス家に代々伝わる一級火魔法〈炎災〉。見るのは二度目か。相変わらず、なんて威力だ」


 パルが感心した感じで言う。


 「うう…………」

 「ミーナお姉ちゃん!」

 「ミーナ、大丈夫ですか?」


 顔を青白くさせ、よろけるミーナをイチカが支えようとするが、七歳のイチカでは支えきれなった。

 代わりに、ミルがミーナに肩を貸す。


 「あ、ありがとうございます」


 ミーナが肩を貸したミルにお礼を言うが、足元が覚束なく、見るからに辛そうであった。

 〈炎災〉が、あれだけの威力だったんだ。

 消費魔力も相当な物だろう。


 「う~ん…湯気で音も匂いも分かり難い」


 パルは湯気の向こうを見て、険しい顔をする。


 俺も湯気の前へ出来る限る行ってみる。


 「ミナト、やったと思うか」

 「…………」


 俺のそばに来たクラは、未だに立ち昇る湯気を見ながら、警戒していた。

 俺も無言で湯気を見る。


 「分からない。でも、湯気が昇っているってことは、少なくとも原型は残っているはずだ」


 俺が〈炎災〉を見るのは、これで二度目だ。

 一度目は、俺がアグアの街にいた時に、二匹のワイバーンを仕留めようとした時。


 二匹のうち、一匹は仕留めたが、もう一匹は氷漬けの状態にした。

 そこにミーナは〈炎災〉を放ったのだ。


 〈炎災〉を放った後は、氷漬けにされたワイバーンが骨すらも残らず跡形もなく、蒸発したのだった。


 でも、今は煙が昇っている。

 煙が出ているという事は、燃えているものが”まだある”という事だ。


 俺達の攻撃が全く効かない程の硬い外骨格なだけある。


 もし、〈炎災〉で仕留めきれなかったとするなら、


 「前にミナトが、盗賊のアジトで使った…………〈水蒸気探知〉といったか。あれで調べられないか?」

 「難しいな。あれは空気中の水分子を使って、周囲を索敵するものだが、あんな風に湯気が立ち昇るような高い熱量があると空気中の水分子が乱れて、上手く探知できない」

 「その、ミズブンシ……というのは、よく分からないが、確認は難しいのか」


 …………ガタ。

 ここで、湯気の向こうで何かが動いたのを見た。


 「…………二人共、気をつけろ」


 険しかったパルの顔が益々険しくなる。


 …………ガタ、ガタ。

 やっぱり、湯気の向こうで何かが動いている。


 俺とクラは顔を見合わせ、ゆっくり距離を取る。


 …………ガタ、ガタ、ガタ、ガタ……………………バーン!!


 その時、湯気が突然霧散する。

 巨体な物が俺達目掛けて、突進してきたのだ。


 「ギギャアアア!!!」


 湯気の中から、黒く焼け爛れた百年百足が出てきたのだった。

 外骨格には、傍から見ても、決して小さくない傷が無数に出来ていた。


 俺達の攻撃を物ともしなかった百年百足の外骨格とは言え、ミーナの〈炎災〉を食らって、大きなダメージは追ったようだ。


 それでも、仕留めるには至らなかった。


 「っ?!〈簡易旋風〉」


 咄嗟に反応したクラはオリジナル魔法〈旋風〉の小型版である〈簡易旋風〉を発動する。


 防御に置いて、屈指の強さを持つ〈旋風〉の防御面を下げる代わりに、利便性を上げたの〈簡易旋風〉。

 消費魔力を抑えられ、咄嗟に発動が出来る利点がある。


 しかし…………バリ!


 「くっ!」


 クラが顔を強張らせた通り、ワイバーンのブレスを受け流せた〈簡易旋風〉は糸も容易く、破られることになった。


 「クラ!」


 俺はクラを抱え、横へ飛ぶ。


 それにより、俺とクラは百年百足の体当たりを逃れる。

 パルも緊急回避をした。


 「ミーナ!」

 「しまった!ミル様!」

 「避けられない?!」


 俺、クラ、パルが叫ぶ。

 俺達がいた場所の後方…つまり、百年百足の突進先にはミーナと、ミーナに肩を貸すミルがいた。


 「ま、不味いです?!」

 「来る?!」


 ミルとミーナの顔が恐怖に染まる。


 あの巨体からの突進だ。

 当たったら、一溜りも無い。


 〈炎災〉を撃った影響でミーナはまともに動けないし、ミーナに肩を貸しているミルも同じ。

 ここままでは。


 百年百足が迫る、その瞬間。


 ザ………。

 一人の小さい者が、ミーナとミルの前に出る。


 「え?!イチカ?!」

 「駄目です!イチカちゃん、逃げて!!」


 俺の妹、イチカであった。


 「イチカァァァ!!!」


 俺は肺にある空気を全て押し出す勢いで、イチカに逃げろと叫ぶ。


 急いで、イチカの元に駆け寄ろとするが、間に合わない。

 しかし、絶望する俺をよそに、イチカは何も恐れていない表情であった。


 イチカは右手を前に出して、魔法を発動する。


 「〈氷河〉」


 イチカと百年百足に巨大な壁が形成される。

 それは長い時間を掛けて、雪や氷が降り積もった高さ十メートル以上の断崖の城壁。


 百年百足が〈氷河〉にぶつかる。

 〈氷河〉がビクともしなかった。


 それでも、百年百足は〈氷河〉に牙を突き立てる。


 ミルの〈サンドウォール〉や俺の〈大氷壁〉を食い破ったみたいに、百年百足は強靭な顎で〈氷河〉も破ろうとする。


 「〈大氷山〉〈大氷山〉〈大氷山〉」


 縦横幅三メートル以上の巨大な氷の小山が三つ生成される。

 その三つは、〈氷河〉を食い破ろうとしていた百年百足の上へ落とされる。


 ドン!!ドン!!ドン!!

 けたたましい音を鳴らし、百年百足が巨氷の下敷きになる。


 全長100メートル以上の百年百足の頭部、上胴体、下胴体に〈大氷山〉が落ち、百年百足の動きを止める。


 「ふん!」


 さらに、イチカは気合と共に、体から凄まじい魔力を放出する。

 それを形成した〈氷河〉へさらに魔力を込める。


 何と城壁のように連なった〈氷河〉が変形し、百年百足を閉じ込め始める。


 上から見ると、袋を閉じるかのように百年百足を〈氷河〉が囲う。


 三つの〈大氷山〉で下敷きにされた百年百足は、そのまま〈氷河〉に閉じ込められる。


 「むん!」


 そして、イチカはより魔力を注ぎ込み、〈氷河〉を変形させる。


 百年百足を下敷きにしている三つの〈大氷山〉を、百年百足を囲った〈氷河〉が飲み込んで、百年百足を完全に巨大な氷の中に閉じ込めたのだ。


 言うなれば、氷の牢獄。


 「とりゃあ!!」


 イチカが、可愛い気合の声を放ち、両手を合わせる。


 とは言っても、百年百足にとっては全く可愛げのない状況ではあるが。

 周りを囲った〈氷河〉が、収縮し始めたのだ。


 あたかも氷の巨人たちが万力の力で捩じるかの如く、変動する〈氷河〉が百年百足を締め上げる。


 「ピギギ??!!」


 締め上げられている百年百足は苦し気な声を出す。

 氷の牢獄は百年百足を離さない。


 俺だけでなく、クラやパル、ミーナ、ミルが口を半開きにして、その光景を見ていた。


 バキン!!

 すると、百年百足の硬い外骨格に大きな亀裂が入る。


 〈炎災〉で損傷を受けた外骨格が、イチカの氷の牢獄に耐えられなかった。


 バキン!!バキン!!バキン!!

 氷の牢獄が締め上げる度に、外骨格に亀裂が入る。


 俺は忘れていた。


 イチカが天才だという事を。


 魔力放出は俺と同等、保有魔力は俺以上。


 俺は「水之世」にて、五年間の間、最高の魔法使いであるウィルター様から魔法の教えを受け、様々な魔法技術を満遍なく鍛えた。


 けれど、イチカは魔法を教わり始めてから、一か月も経っていない。


 主に、俺がイチカにさせている魔法の訓練は、魔力の効率的な操作力。

 魔力変換率が一割と言う、魔力を魔法に変換する効率が絶望的なイチカを鍛えるのに、うってつけな訓練内容だ。


 イチカの魔法技術は明らかに、上がっている。


 天才に努力という物をさせると、こんな事になるのか。


 末恐ろしいと思う反面…やはり兄として、誇らしかった。


 気づけば、百年百足は体中の至る所の外骨格が砕かれていた。

 百年百足も目に見えて弱り果てていた。


 このまま勝負が決まったかと思ったが、イチカによる氷の牢獄の拘束に陰るが見えてくる。


 「はぁ…はぁ…はぁ…」


 イチカは大量の汗を流して、疲労困憊の様子を見せる。

 顔も少し青白い。


 いくら俺よりも魔力があるとはいえ、一度に大量の魔力を使い過ぎたのだ。


 それにより、氷の牢獄の力が弱まる。


 百年百足は最後の力を振り絞り、牢獄から逃れようとする。


 「うう………もう、無理」


 いくらイチカが天才とは言え、七歳の体力には限界があった。


 今が好機と見た百年百足は地面に潜ろうとする。


 十分だ、イチカ。


 シュン!

 その瞬間…青の閃光と緑の閃光が、百年百足へ向かう。


 〈瞬泳〉により高速移動をした俺と〈迅風〉により高速移動したクラであった。


 俺は魔力を練り、周囲に数百の超高圧された水を顕現させ、空中に留めておく。

 それらを全て、一カ所に集めて、数百の超高圧にされた水を一つに纏める。


 一個の巨大な水の斬撃………いや、水の剣が出来上がる。


 それと同時に、クラも得意な風魔法〈風刃〉を、周囲に数百個出現させる。

 それら発生した大量の〈風刃〉が一つに集め、纏める。


 一個の巨大な風の斬撃………いや、風の剣が出来上がる。


 俺とクラは、それぞれの剣を同時に横一文字に振るう。


 「〈水流斬・水剣〉」

 「〈風刃剣〉」


 青の剣閃と緑の剣閃が、百年百足を真っ二つにする。




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