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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第七章 ピレルア山脈と竜脈

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ピレルア山脈の魔物




 俺達がピレルア山脈に足を踏み入れてから、二日目。

 既に山を何個も越え、今も険しい山を登っている最中だ。


 けれど、進行速度は始めの頃に比べて、遅かった。

 慎重を期すために、ゆっくり進行しているのもあるが、主な理由は、


 「真上!250メートル上空から何か降りて来る!」


 先頭にいるパルが叫ぶ。


 俺が上を見ると、真上にある日の光が陰になり、確かに何かが降りてきた。


 「グルアアアアア!!」


 頭上から捕食者の叫び声が降ってくる。

 それは翼を広げれば三メートル以上もある全身真っ黒な大型の鷹であった。


 俺たち目掛けて、急降下していた。


 「あれはデビルホーク!」


 クラが瞬時に、魔物の名前を言う。


 俺は急いで、イチカを肩車から降ろして、庇う体制を取る。

 クラも、後方にいるミルとミーナを守る体制を取る。


 「デビルホークは嘴に猛毒を持っている!気をつけろ!」


 パルの忠告通り、デビルホークは鋭い嘴を突き立てたまま、俺たち目掛けて降りてくる。


 「〈氷壁〉」


 ガキン!

 デビルホークによる嘴の攻撃を俺の〈氷壁〉で防ぐ。


 〈氷壁〉と激突したデビルホークは小さい悲鳴を上げ、俺達の横へ逸れる。


 「〈風刃〉」


 そこへクラは空かさず、風の刃を放ち、デビルホークの首を切り落とす。


 デビルホークを倒した俺達はまた進み始めるが、暫くして、


 「前方300メートル先から物凄い速さで走ってくる奴がいる!」


 またしても、戦闘にいるパルが注意喚起をする。

 確かに、前方の方から砂埃を上げて、何かがこちらに走ってくる。


 互いの距離が100メートルほどになって、迫ってきた魔物の姿が肉眼でも確認できた。


 体長およそ二メートル超えの狼だった。


 「あの魔物は岩山狼。岩を嚙み砕くほどの咬合力を持っている。見た目に似合わず、素早いぞ」


 パルが魔物の説明をする。


 「ミナト、足止めして!」

 「了解。〈氷床〉」


 ミーナの指示に応え、俺は列の前方にある地面を凍らせる。


 〈氷床〉によって、凍結した地面に岩山狼が足を踏み入れると、


 「ガウ?!」


 踏ん張りがきかず、岩山狼は氷の床の上をツルツル滑る。


 今まで俺は自身の氷に関して、硬さを追求してきた。

 だが、ミルのオリジナル魔法である〈流砂〉から、氷を防御だけでなく、足止めに使ったらどうかと考えた。


 〈氷壁〉は硬度を高めるために、魔力をぎっしり注ぎ、高密度の氷にしているが、〈氷床〉の場合、氷を敢えて完全に凍らせず、少し溶かした状態で生成する。


 こうすることで、氷に摩擦が殆ど生じず、簡単に滑りやすくなる。


 「〈炎槍〉」


 平衡感覚を失った岩山狼へミーナが貫通力のある〈炎槍〉を打ち込み、絶命させる。




 そうやって岩山狼を倒したのも束の間、一目で強力だと分かる魔物が進むたびに遭遇する。


 人一人を丸のみ出来そうな顎を持った大喰蟻や、猛烈な殺意と鋭い鍵爪を備えたキラーベア、徒党を組んで一斉に石の槍で襲い掛かるマーダーモンキー、一度吸ったら皮膚が爛れて苦しみながら死ぬ毒の粉を撒き散らす毒粉蝶、突進一つで大岩を破壊するロックボア。


 聞けば、どれもBランク冒険者やCランク冒険者が徒党を組んで戦うほど、危険な魔物だそうだ。

 流石は、ワイバーンが多く生息しているピレルア山脈。


 まさか小さい頃にずっと見ていた山の向こうには、こんなに危険な魔物たちがいるとは。

 普段から、基本的に誰も立ち入れないように規制を掛けている理由が分かる。


 だが、魔物に逢う度に俺達は適切に対処していく。


 それは列の先頭にいる元Aランク冒険者パルが魔物の接近に一早く気づくので、俺達も心の構えができ、魔物が実際に来た時は俺が防御や足止めを行い、クラとミーナが攻撃をしていく。


 驚くべきはパルの魔物を索敵する力か。

 数百メートル先の魔物の位置を正確に把握する。


 パルから魔力の発生を感じられないことは、俺の〈水蒸気探知〉みたいな自ら魔力を放出して、敵を感知する魔法を出している訳ではない。


 因みに、ピレルア山脈に乗り出してから、俺は〈水蒸気探知〉や〈水蒸気探知・エコロケーション〉といった探知魔法を一斉使っていない。

 魔物の中には、魔力の探知に長けた種もいるらしく、自ら魔法を使うとこちらの存在を気づかれてしまうからだ。


 〈水蒸気探知〉は、原子レベルで魔力を操作し、薄くて微細な魔力の波動を発生させているが、それでも感じ取れる者はいる。


 現に、盗賊掃討の時に〈水蒸気探知〉を使ったが、魔力の波動をクラは感じていた。

 それと同様に、魔物にも魔力を感知に優れた個体もいるのだろう。


 パル自身も、魔物の探知には自信に任せてくれ…と言っていた。


 しかし、実際問題どのようにして魔物を正確に探知しているのか。

 気になって仕方がない。




 魔物を倒しながら、ピレルア山脈を進んでいくうちに、気づけば日が落ちつつあった。


 「よし、今日はここで野営をしよう」

 「分かりました。では、テントを広げましょう」


 パルの指示に、ミルがテントを張ろうと言う。

 俺とクラは持っている荷物からテントを出し、テントを張っていく。


 一方、パルやミーナ、ミルは焚火や夕食の準備をしていた。


 そうして、夕食の準備ができた後、俺達は飯に在りつける。

 ピレルア山脈を昇ってきた疲労故か、今日はよく食べた。


 夕食が終わったら、各自が明日に備えて、道具の点検や武器の手入れをする。


 パルは焚火の明かりを頼りに、日記らしきものに文字を書き込んでいた。

 そこで、俺はパルに聞いてみた。


 「あの、パルさん。ちょっと聞いていいですか?」

 「うん?どうした、ミナト」

 「パルさんの索敵に付いての事なんですけど…………どうやって、遠くの敵を感知しているんですか?」

 「索敵?…………ああ、なるほど。気になるか」


 聞かれたパルは少し考えた後、不敵に笑う。


 「だが、冒険者から技術を聞くのは、基本的にご法度だぞ」

 「え?そ、そうですよね」


 確かに、冒険者の中には独自に技術を使って、家業を成り立たせる者もいる。

 冒険者にとっては、自身の技術は商売道具と同じ。


 それを無遠慮に聞くのは、パルの言う通りご法度だった。


 冒険者として、まだ日の浅い俺は、その考えに至らなかった。


 だが、謝る俺を見て、パルは小さく笑い声を出す。


 「はは…冗談だ。私はもう冒険者ではない。それに教えたところで、大して困りはしない」


 そう言って、パルは口元のマフラーを外す。

 小さい鼻と口に、意外と美人なんだなと…不意に思ってしまった。


 パルは自身の鼻、そして耳を指さす。


 「私は匂いと音で魔物の位置を把握している」

 「匂いと音?」

 「そうだ。私は元々、人より五感が優れていてな。魔力を体中に纏わせると、その五感の鋭さがさらに増す。この強化された感覚で索敵している。これは索敵だけでなく、薬の調合にも役立つ。強化された味覚で、薬草の微量な配合具合が分かる」


 俺は納得する。

 〈水蒸気探知〉のような体外へ魔力を放出する魔法ではなく、自身の肉体である五感を強化して、索敵を行っていたのだ。


 似たようなものに、水剣技流の基本技である〈凪ノ型〉がある。

 あれは自身の気配を限界まで鎮めて、周囲の気配を感じ取る技だが、パルの場合は〈凪ノ型〉と対極だ。


 自分自身を強化して、周囲の気配を感じ取っているのだ。


 魔力は魔法を使うためのエネルギーとして、使われるだけでなく、身体能力を強化する事にも使われる。

 魔力で身体能力を上げる技術は、魔力で魔法を使う技術と全く異なる。


 基本的に、体に多くの魔力を纏わせるほど、身体能力は上がり、熟練の剣士や戦士ほど身体能力が上がる効率が高い。


 どうやら、パルは魔力による肉体強化において、五感の強化に優れているみたいだ。


 思い返せば、俺とパルがコーヒー屋で初めてあった時、コーヒーの匂いを辿ってきたと言っていた。




 その夜はテント周りに俺の〈氷壁〉を作り、全員で寝た。

 普通は交代でテントを見張りのだが、〈氷壁〉は大抵の攻撃ではビクともしない。


 安全な氷の壁に囲まれている状況で、俺達は十分な睡眠を取った。









 次の日の朝。


 アネトゥ山に向けて、俺たちは列を成して進む。

 この日も魔物の襲撃はよく起こった。


 しかし、数時間進んだ際に、違和感を感じる。


 「何だか、急に魔物の襲撃が少なくなった」

 「そうだね、お兄ちゃん」


 俺が呟く通り、さっきまでの頻繁に起こっていた魔物の襲撃が殆ど起こらなくなったのだ。

 イチカも、その違和感に気づいていた。


 「確かに、魔物が来る頻度が極端に減ったな」


 クラも俺の意見に同意だった。


 今、俺達はピレルア山脈の山を少し下った比較的平坦な場所を歩いていた。


 「う〜ん…これは、もしかすると……」


 パルは何か思い当たるものがあるのか、考えを口にしようとした時、


 「ん?この反応」


 パルは足を突如止める。


 「どうしました、パルさん?」


 ミルが不思議に思い聞いてみても、パルは目を閉じたまま明後日の方向に見て、立ち止まっていた。


 暫くして、目を開ける。

 だが、険しい顔をしていた。


 「匂いや音に異常はない。…………けど、”視線”を感じる」

 「視線?」


 パルに言った視線に首を傾げつつ、ミルは周囲を見渡す。


 周囲には少しの草木と葉が殆どない杉などの木が疎らに生えているだけで誰もいなかった。


 「誰もいないわよ」

 「うん、誰もいない」


 ミーナとイチカも周囲を見渡すが、誰も見つけられない。


 しかし、


 「いや、確かに何か感じる」

 「ああ、悪意のある視線ではないが、私たちを監視しているような感じだ」


 水剣技流の修業で周囲の気配を読むのに長けた俺と、やたらと感覚の鋭いクラは何かを感じていた。


 パルの言う通り、視線を感じる。


 その時、


 「ん?何だ、震動?」


 自身の足が小刻みに震えていた。


 自分の足が揺れているのではなく、地面が揺れているのだ。


 俺は地面を見る。

 地面が何故か揺れている?


 「これは地震…………ではない!魔物だ!魔物が地中から出てくる!」


 パルは警鐘を鳴らす。


 ドオオオオオオ!!

 数秒後、俺達のそばの地面が盛り上がる。


 そこから出てきたのは、


 「な、なに…コイツ?!キモッ?!」


 女性のミーナが出てきたソイツを見て、悲鳴を上げる。


 出てきたのは女性が大嫌いな虫であった。

 勿論、ただの虫ではない。


 蛇のような長い胴体に、赤黒い体色。

 百本はありそうな数の足。

 それは全長は100メートル以上ありそうなムカデであった。


 巨大なムカデを見たパルは目を見開く。


 「コイツは『百年百足』!そうか、ここは奴の縄張りだったか。どーりで魔物が少ない訳だ!」


 パルが百年百足といった巨大ムカデは、地面から出した獰猛な顔をゆっくり俺達に向ける。

 どうやら、戦うしかないみたいだ。




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