表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/161

Dランク依頼は装備ゼロで十分




 Dランク冒険者になった俺は早速Dランク指定の依頼を探す。


 まだ夕方になる前だ。

 俺なら依頼次第で速攻で達成できるかもしれない。依頼を一通り見渡す。


 ほほう…Dランクとなると、魔物討伐の依頼が多いな。でも、その中で一番報酬が高いのは……、


 「これだ!」


 俺は貼り出されている依頼者を剥がし、〈依頼受注・依頼完了手続き〉の看板が受付に行く。

 すぐに受付に辿り着く。

 多くの冒険者は今、訓練場で俺を探しているので、ガラガラだ。


 そこには新規登録をした人よりも年上の女性がいる。

 俺は依頼書を受付に置く。

 

 「あ、君は!依頼完了手続きですか?」

 「いえ、受注です」

 「じゅ、受注?!こんな時間にですか?」


 今はもうすぐに夕方に差し掛かろうという時間帯。普通の冒険者なら依頼が完了して帰還する時間だろう。


 「はい」

 「か、かしこまりました。では、依頼は……スイートビーの蜂蜜の採取?あ、あの…本当にこれを受けるんですか?」

 「はい。何か問題でも?」

 「そ、そうですね。スイートビーは普段は大人しいですが、巣を攻撃されるとたちまち凶暴化し、大勢で襲う魔物でして。襲われないための防虫薬は必須。この魔物は毒もあるので、万が一のための解毒剤も必要です」

 

 なるほど。

 話を聞く限りスイートビーとやらは毒を持った集団の蜂の魔物であり、今回の依頼である蜂蜜を手に入れるために巣を攻撃すると危険であると。


 うん、問題なさそうだ。


 「大丈夫ですよ。俺にそんな物は必要ないです」

 「へ?あの…しかしですね!」


 そこで俺の前の受付嬢の服を引っ張る者がいた。

 俺の新規登録をした人だ。彼女は何やら俺の前にいる受付嬢に耳打ちをしている。

 

 耳打ちをされた受付嬢は驚いている。

 何だろう?


 「ええ?!それ本当?」

 「はい。私がしっかり見ていたので」

 「そう……じゃあ、あなたを信じてみるわ」


 何やら受付嬢の間で話し合いが終了した。

 受付嬢が俺を真偽を確かめるような視線を送る。


 「失礼しました。では依頼を受注します。くれぐれも気を付けてください」

 「ありがとうございます」


 受付嬢が依頼書に判を押す。

 俺は依頼書を受け取って、ギルドを後にする。




 俺がいなくなったギルドにて。

 ミナトの依頼書に判を押した受付嬢アンとレティアが話し合っていた。


 「ねぇ…さっきの話本当?Dランクに推薦されたっては聞いたから、良い勝負したのかなって思ったけど。まさかミットさんを圧勝で倒したなんて信じられないわ」

 「本当です。私も遠目で何をしたのかは分かりませんでしたが、あの子は只者じゃないですよ。あの子なら、たぶん余裕で依頼達成すると思います」


 アンは先ほど見た少年の姿を思い出す。


 「あんな子がねぇ……強そうには見えなかったけど。Bランク冒険者相手に完勝って……ギルドでそんなことが出来るのはAランク冒険者の『砂姫』と『旋風』ぐらいかしら」

 「そういえば、あの二人も素性が知れないところがありますよね」

 

 受付嬢達がそんな会話をしているときに、あの少年がまたギルド内にやってきた。

 彼はそのままアンの前に行く。


 「あれ?あなたは…さっき出発したのでは?」

 「あの………スイートビーがいる場所って、どこですか?」

 「はい?」

 「俺、いまいちこの辺りの魔物とか生態系を知らなくて」

 「………」


 少年の回答にアンは無言になる。

 そして一枚の大きな紙を取り出し、少年に渡す。


 「これは冒険者に無料で配布している地図です。そこに、ここら一体の魔物の生息地が載っています」

 「あ、ありがとうございます」


 少年はそれを受け取り、再びギルドを出て行った。

 

 今度こそ少年が出発したと思ったアンは、


 「でも、ちょっとあの子抜けてるところがあるわね」









 「あれがトレントの森か」


 俺は目的の場所に到着する。

 受付嬢から渡された地図によると、マカの町から北西へ十五キロ以上行った先。

 トレトンの森にスイートビーの巣があるという。


 片道十五キロといっても、〈水流斬〉の次に得意な水の高速移動を待ってすれば、数分で到着できた。


 トレトンの森の入り口に立った俺は改めて地図を確認する。スイートビーの巣はこのまま森を進んで、大岩の付近にあると。

 取り敢えず、森を真っ直ぐに入る。


 森の中は閑散としている。

 もうすぐ夕方になるからなのか、夜行性の多い魔物の声が遠くから微かに聞こえる。


 と思ったら、近くでドタドタ!と大きな物が動く音が発生する。

 

 「お!俺がトレントか?本当に木が歩いてる」


 トレトンの森は、その名の通りトレトンが多く徘徊する森。


 トレトン自体は見たことがないが、大木が歩くという特徴は知っている。大木がどう歩くんだよって思ったが、根っこを足のように動かして移動するのか。

 木に顔のような物が付いてる。


 トレントは攻撃性が低いのか、俺が近くにいるのに襲ってこない。トレトンはそのまま何処かに行ってしまった。


 「それにしても…何処だ?」


 地図にはこの辺に記されているが、大まかな位置であるのか、なかなか見つからない。


 よし!ここは"あれ"を使うか!

 そう思い、手をかざす。

 手から放出した魔力を俺の周囲に広げていく。空気中にある水分子を感じとる。


 これにより周辺の索敵を行う。

 水の探索だ。


 今の俺なら意識を研ぎすませて、半径二キロの探索が可能だ。


 「………ん?これか!」


 蜂らしい形の反応を感じ取って、早速そっちへ行ってみる。




 そこには大きな蜂と大きな蜂の巣があった。間違いない、スイートビーの巣だ。


 「大きい」


 スイートビーは蜂の魔物とは聞いたが、大きい。俺の顔ぐらい大きい。巣に関しては、平民の一戸建てより大きかな?

 黄色と黒の縞々模様。


 特徴的な羽の音を鳴らして、巣の周りを飛んでいる。


 巣の周囲には三十匹以上のスイートビーがいる。巣を攻撃すれば、コイツらが群れを成して襲ってくるのか。人によってはトラウマ物だな。


 だからこそ防虫薬が必要なのか。


 まぁ…俺には必要ないけど。


 「〈豪雨〉」


 ザアアアッ!!

 そう唱えると、スイートビーの巣の上から突然の大雨。


 スイートビーは慌てて巣の中に入る。蜂は雨が降ると活動が沈静すると聞いたことがある。それはスイートビーも同じか。


 よし…ここから、


 「〈濃霧〉」


 辺り一面、白一色に染まる。


 ギガントジョー戦で、初手に目眩しとして使った魔法。

 空気よりも密度の小さい水分子の纏まりを空気中に生成する。単純だが、隠密性の優れた魔法だ。


 それに、この魔法は俺の魔力で発生した物であるため、探知にも使える。スイートビーの巣を見つける際の探知魔法と比べると、範囲や正確性が低いが、敵が近距離にいる場合はこの魔法は光る。


 これで準備は完了。

 後は、


 「〈水流斬〉」


 十八番の斬撃で巣の一部を切り落とす。


 ドスッ!

 一部とはいえ、巣自体は巨大なので重量感のある落下音が響く。


 ブオオオ!!

 これにより、スイートビーが大量に出てくる。だが、大雨と霧のせいで動きは緩慢だ。

 

 今がチャンス。

 落ちた巣に駆け寄る。そこにいくまでにいたスイートビーは斬撃で切り落とす。巣には金色の水が入っていた。蜂蜜だ。


 これをどう運ぶかだが、少量の水を生成して、イメージする。

 水分子と水分子が結合するイメージ。


 ビキビキ。

 たちまち薄青色の氷の瓶が作られる。

 これに蜂蜜を詰めて、俺はそこから離脱した。


 







 帰りも水の高速移動で数分で帰ってこれた。


 町の門に冒険者のプレートを見せて、中に入る。こういう時、冒険者の身分は便利だ。

 ギルドに着く頃には、すっかり空は日が暮れていた。ギルドの扉を開けようとして、気づく。


 ギルド内が騒がしい。

 入るべきか迷ったが、しょうがないので、扉を開けた。


 「そうそう!!ミットさんを倒したのが、ちょうどブルズエルさんが言う十五歳ぐらいの少年なんでさ」

 「Bランク冒険者を………やはり、あの少年は只者じゃないのか!是非お礼をしたいが、何処にいるか分からないのか?」

 「はい。訓練場から突然消えて…受付嬢の話だと少し前に依頼に出たと言ったんですよ」

 「この時間帯に依頼?どういう事だ?」


 俺がギルドに足を踏み入れた時には、二人の冒険者のそんな会話が聞こえた。

 これ…俺だよな?気まずい。引き返そうか……、

 

 しかし二人の冒険者はギルドに入った俺を見てしまった。


 「ああ!!君は!!」


 二人の内、一人は見覚えがある。

 アイスウルフに襲われていた集団のリーダーをしていた剣士だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ