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魔装と宝装




 ピレルア山脈は、エスパル王国の北東に存在する王国最大の山脈地帯。


 3000メートル超えの山が連なり、麓から結構離れているアグアの街から見ても、まるで天にまで届きそうな巨人が土地を掘り起こして作ったように、巨大な山の壁が目視できる。


 その山脈へ俺達は足を踏み入れようとしていた。


 「それにしても、たっかいなー」


 俺は上からの日差しを隠すために、額に手を当てつつ、目の前の山脈を見上げる。

 子供のころから、ピレルア山脈を遠くから見ていたが、こんなに近くに来たのは当然初めてである。


 これからこの山々を昇ると思うと、子供のころからの夢が叶った感覚と似たような気持になる。


 「ここからアネトゥ山まで、どれくらいかかるんだろうな?」


 アネトゥ山はピレルア山脈の山々の中でも、最高峰の山。

 そのアネトゥ山こそがワイバーンの住処である。


 今回の調査は、主にそこへ行って、何故ワイバーンが半年前からアグアの街方面へ降りてくる数が増えているのかの原因を突き止めるのが目的である。


 「まぁ…徒歩で行って、大体三日ほどでしょうか。まずは比較的傾斜が小さい場所を探しつつ、昇って行きましょう。魔物にも注意しませんと」


 ミルがピレルア山脈を見上げて答える。


 ピレルア山脈のアネトゥ山はワイバーンの住処になっているが、それ以外の山々にも、高レベルの魔物がいる。

 そう言った魔物はワイバーンのように、山から下りてきて、街を襲うことは無いが。




 俺達がピレルア山脈を昇り始めて、数時間経つ。


 「そこは少し段差になっている。気をつけろ」

 「分かりました」


 先頭を歩くパルの注意喚起に、クラは頷く。


 現在、俺達はパルを先頭に、クラ、ミル、ミーナ、イチカ、俺の順で山を登っている。


 殿の俺の役割は後方の警戒と、イチカの守りだ。


 イチカは魔法の天才とは言え、剣に関しては最近修業をしたばかりで、実戦経験は皆無。

 今回のメンバーの中では、最も守らなければならない対象。


 だから、俺が一番近くで守るのだ。

 イチカを背負って。


 もっと正確に言えば、俺がイチカを肩車して、前のミーナに付いてきている状態だ。


 ふざけていると見て取れるが、冷静になって考えてみれば、七歳の女の子に、こんな険しい山脈を昇らせる方がどうかしてる。


 なので、イチカは常に俺が肩車しているので、疲れることは無い。

 俺自身、持久力に自信がある。


 イチカの他に、背中には今回の調査で必要な道具が詰まったリュックを背負っているが、全然余裕だ。


 「はぁ…はぁ…はぁ…」


 最初に疲労が見えてきたのは、ミーナだった。

 額に大粒の汗を流している。


 ミーナは特段、重い荷物を持っている訳ではないが、急な斜面も多い山歩きに慣れていないようだった。


 このまま進めば、ペースが落ちるのは時間の問題だろう。


 「パルさん!そろそろ休憩しましょう!」


 俺は先頭のパルに向かって、叫ぶ。


 「ミ、ミナト……私に気を使わなくて良いわ」

 「いえ、ここは一先ず休憩しましょう。別に急いでいる訳でもありません」


 休憩をする必要ないとミーナの言葉を、ミルが却下する。

 俺もミルに賛成だ。


 疲労が溜まった状態で行動し続けるのは、大きな事故に繋がりかねない。


 「分かった。数十メートル先に、丁度いい休憩場所がある。そこで休憩を取ろう」


 パルを指さし先には、確かに山の斜面からズレた広めの空間があった。




 「う~~!!キツ~イ!」

 「大丈夫?ミーナお姉ちゃん?これ氷」

 「あ、ありがとう。頂くわ」


 ミーナは足を延ばして、ストレッチをする。

 イチカはそんなミーナに足を冷やして貰おうと、魔法で作った氷を渡す。


 「ふぅ…私も実は、結構足に来ていましたね」


 見ればミルの方も、顔にかなりの汗を溜めていた。

 白身の肌に、長い亜麻色の髪と薄緑色の眼を持った美麗な顔には、疲労の色が確かにあった。


 今更だが、ミルが素顔はクラと同じように、十分美人の水準を満たしていた。


 「ミル、これを飲め。疲労回復ポーションです」

 「助かります、パルさん」

 「あ、パルさん!私にも、ポーションを!」

 「分かってる」


 薬師であるパルが、疲労が溜まったミルとミーナに、疲労を回復させるポーションを渡していた。


 俺とクラも地面に腰を下ろし、休憩する。

 俺の肩車から降りたイチカも、来ていた茶色のローブを丁寧に折りたたみ、座る。


 ふと…視界に入る茶色のローブ。

 あれはミルがいつもフードで顔を覆い隠すようにして、着ているものだ。


 今、そのローブはイチカが持っている。


 ミル曰く、この茶色のローブはエスパル王国に伝わる『ハムスィーン』という宝装であり、あらゆる攻撃を砂が守ってくれるとの事。


 さらに特筆すべきは、砂の人形であるゴーレムを生み出せるという機能がある。

 ミルはゴーレムを………ミリュアと言っていたか。


 ここで思い出す。


 宝装と言えば、クラとの模擬戦での会話で、クラは魔装と宝装の事を教えてくれると言っていたが、まだされていなかったな。


 この際、俺はクラに聞いてみることにする。

 俺はクラの元に行く。


 「なぁ、クラ。ちょっと時間良いか?」

 「ん……何だ?」

 「魔装と宝装についてだけど」

 「魔装と宝装?…………ああ、そう言えば前に、魔装と宝装について説明すると言って、まだしてなかったな」


 クラは自身の腰に刺してある剣を取り出す。


 持ち手が銀色の緑の装飾が施された白い剣。


 「私に剣術を教えてくれた剣士がくれた…この剣とミル様の茶色のローブ、今はイチカが着けているが、その二つを宝装と言う。そして、マカの冒険者ギルド長のミラン殿が持っている戦斧と、パル殿の鞭が魔装と呼ばれるものだ」


 俺は改めて、パルが腰に着けているグリップまで緑色の鞭を見る。

 あれからは魔力を感じ取れる。


 それはクラが持っている白い剣からも。


 「魔装も宝装も魔力を帯びているよな。どっちも特殊な機能がある」

 「そうだ。だが、魔装と宝装には決定的な違いがある。それは魔装はダンジョンから生まれたものであり、宝装は『古の超大国』で作成された武具であるところだ」

 「んん?」


 いきなりの情報で、俺は首を傾げる。


 「ダンジョンは分かる。「水之世」が、そうだよな?」


 クラは頷く。


 「そうだな。マカにある「水之世」然り、エスパル王国には数ヶ所にダンジョンが存在し、エスパル王国だけでなく、ヨーロアル諸国には数多くのダンジョンがある。魔装は、そのダンジョンから極稀に算出される、云わば『ダンジョン武器』だ」

 「ダンジョンから武器が取れる何ては話、聞いたことないな」


 俺は知っているダンジョンの知識として、魔物が出没する謎の空間。

 地下に行けば行くほど、強力な魔物が出没する。

 ダンジョン内の魔物は倒せば、消える。


 それぐらいか。


 「魔装は大体、ダンジョンの下の階層にしか出ないとされている。しかも、さっき言ったように極稀にしか発見されない。だから、魔装がダンジョン産の武器であると余り知られていない」

 「なるほど」


 俺は理解する。


 「そして、宝装はさっき言ったように、古の超大国で作成された武具だ」

 「古の超大国?そんなのがあったのか?」

 「あった、遥か昔。それこそ…千年より、もっともっと昔に。私も本でしか知らないが、エスパル王国が出来るずっと昔に、今より高度な魔法と技術で栄えていた超大国があったらしい。その超大国の技術で作られたのが、宝装だ」


 俺は知らされる新情報に、絶句する。

 世の中には、俺の知らない事がたくさんあるみたいだ。




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