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間話 隻眼の魔翼⑥




 自身の前に出て、ワイバーンのブレスを防ぐ青年に、テッドは見覚えがあった。


 「あ、貴方は!ミットさん!」

 「ええ…久しぶりですね、テッド君」


 それはマカの冒険者ギルドに所属するBランクパーティ「双酒」のメンバーの一人。


 火魔法使いのミットであった。


 テッドがアルアダ山地で盗賊に捕まっていた際に、ミナト達と一緒に盗賊掃討に加わっていた冒険者の一人であった。


 ゴオオオオ!!

 〈ファイアウォール〉でブレスを防いでいたが、徐々に押され気味になる。


 「む!流石、ワイバーンのブレス。凄い威力です。………ですが」


 ミットは展開している〈ファイアウォール〉に魔力を注ぐ。


 「〈加圧〉」


 〈ファイアウォール〉の火力…取り分け、圧力を上げる。

 未だな圧力はよく分からないが、炎の壁に、さらに火を注ぎ込むイメージを作る。


 すると、赤熱の炎の壁に、黄色の火が混じり始め、〈ファイアウォール〉自体が一段階上がる。


 加圧された〈ファイアウォール〉によって、ワイバーンのブレスに揺らぐことは無くなった。


 やがて、ブレスが止む。


 そこへ………シュ!

 一本の矢が高速で飛び、狙い違わず、ワイバーンの左目に突き刺さる。


 隻眼の魔翼と呼ばれたワイバーンの唯一の視力が失われる。


 絶えず動くワイバーンの頭にある眼球に、矢を突き刺すなど、驚く程の精密射撃である。


 「お見事です。クリンズさん」


 テッドが矢が飛んできたであろう後方を見ると、崩れた建物の壁から弓士がいた。


 彼はクリンズ。

 マカに所属するBランクパーティ「銀山」の弓使い。


 タン!

 誰かが教会の壁を足場に、大きく跳躍する。


 「どりゃあああ!!!」


 それは熊のごとき体格の持ち主であった。

 持っている剣を思いっきり、ワイバーンの右の翼に叩きこむ。


 それによって、右翼が大きく切り裂かれる。

 凄まじい威力である。


 それは鱗が他よりも比較的薄い翼であったが故か、彼の剛力故か。


 「相変わらずの馬鹿力ですね、エウガー」


 ミットはワイバーンの右翼を切り裂いた剣士…エウガーを見て、苦笑いする。


 彼はBランクパーティ「双酒」の、もう一人のメンバー。


 「ギュギャアア?!」


 右の翼を切り裂かれたワイバーンは両目の視力を失ったこともあり、大きく暴れ始める。


 なりふり構わず、巨体を動かく。

 そして、それによって。丸太のような尻尾の薙ぎ払いが、テッドとミットに振るわれる。


 ガン!!

 大きな衝撃音が響く。


 テッドとミットの前に現れた大きな盾が尻尾を防ぐ。


 「いってー!!受け流しても、これかよ?!両腕が折れるかと思ったぜ!」


 ワイバーンの尻尾を防いだ人物は悪態をつく。


 人の何倍もの大きさがあるワイバーンの尻尾を受け流すなど、並の技量では出来ない。


 大きな盾に重鎧を着た彼は、ウルド。

 Bランクパーティ「銀山」のメンバーである。


 「良く受け流した!ウルド!」


 そこへ、ウルドの左側からワイバーンに駆け込む剣士がいた。


 その剣士は軽快なステップで、暴れるワイバーンの無作為の翼や尻尾の薙ぎ払いを躱し、洗練された剣術で鱗と鱗との間の溝部分に、剣戟を叩きこんでいく。


 三十代でありながら、優れた剣術と風格を感じさせる彼は、ブルズエル。

 Bランクパーティ「銀山」のパーティリーダーである。


 畳み込むように、ブルズエルの付けた傷にクリンズの正確な弓による攻撃が放たれる。


 加わるように、ワイバーンの後方からエウガーの剛剣が襲い掛かる。


 それをサポートするように、ミットは〈ファイアウォール〉を、ウルドは二メートルもある盾を巧みに使いこなし、ワイバーンの攻撃を受け止めたり、受け流したりする。


 完璧な連携である。


 一秒経つたびに、ワイバーンの体に傷が増えていく。

 隻眼の魔翼の討伐も、目前。


 そう思われた時、ワイバーンが口を開き、ブレスの体制を取る。


 「ブレス!」


 ブルズエルが警戒する。


 普通は目標に向かって、ブレスを放つために口を開くが、ワイバーンは長い首を上に持っていき、下に向かって口を開いていた。


 これだと、ブレスはワイバーンの下の地面に向かって放たれるが、


 「自分ごと、俺達を燃やす気か!」


 ブルズエルが言った通り、ワイバーンは地面にブレスは放つことで、地面に当たったブレスが拡散し、炎を広範囲に放つつもりなのだ。


 最後の抵抗に、ワイバーンは自身を巻き込んでブレスをお見舞いする気である。


 ワイバーンに対し、近接戦を仕掛けているブルズエルとエウガーは、このままでは諸にブレスが当たるだろう。


 「ブルズエル!俺の後ろに!」

 「エウガー!こっちです!」


 ウルドは盾を構え、ミットは〈ファイアウォール〉を展開し、それぞれの相棒を守ろうとする。


 しかし、間に合うのか。

 ワイバーンがブレスを放つ瞬間。


 ブン!

 鋭い何かがワイバーンの口の中に飛翔する。


 その何かはワイバーンの口内に刺さり、喉を突き刺す。


 「ギュア…………」


 それが決定打になったのだろう。


 今まで「銀山」と「双酒」が与えてきたダメージの蓄積もあり、ワイバーンは巨体を静かに傾かせ、地面に倒れたのだった。


 「やったのか?」


 エウガーが注意深くワイバーンを見るが、ワイバーンはピクリとも動かなかった。

 どうやら、本当に死んだみたいだ。


 ワイバーンが息絶えたことを確認して、ミットはワイバーンの口元を見る。


 口元には、長くて細い物が刺さっていた。


 これは、


 「槍?」


 ミットは近くで見て、それが槍であると分かった。


 ブレスを吐く直前に、飛んできたのは、これだったのか。


 でも、誰が?

 ミットがそう思っていると、


 「テッド!!」


 若い女性……ミティがテッドに駆け寄る。


 「ミティ!来てたの?!」


 驚くテッドを他所に、ミティはテッドに抱き着く。


 「ああ、良かった!」

 「ちょ!ミ、ミティ?!」

 「死んだかと思った!」

 「大丈夫だって。…………でも、心配してくれて、ありがとう」


 暫し、二人は抱きしめ合うが、「銀山」と「双酒」が自分達を見ていることに気づき、二人共顔を真っ赤にさせ、離れる。


 「でも、どうして来たの?」

 「彼がどうしても、行くって言うから」

 「彼?」


 ミティが指を差した先には、「五枚刃」のパーティリーダーであるモンシェがいた。


 「モンシェさん!動いて大丈夫なのですか?」

 「ああ…何とかな。嫌な予感がして、ここまで来たけど。来て正解だった」


 モンシェは額に汗を浮かべていた。


 調合した薬を飲んだとはいえ、病み上がりの状態でここまで来るのは大変だっただろう。


 「なるほど、先程の槍はモンシェさんでしたか」


 ミットは納得する。


 最後に、ワイバーンの口を貫いた攻撃は、モンシェの槍投げによる物だったのだ。


 モンシェとワイバーンとの間に、結構な距離があったが、流石は槍使いとしての実力ならBランク冒険者相当と言われるだけはある。


 「ミットさん?それに、皆さんも。どうして、ここに?」

 「「五枚刃」がユーカリの街に行って、二日も音沙汰なかったからですよ」


 モンシェの疑問に、ミットが答える。


 詳細を説明すると、ユーカリの街の調査と人命救助に向かった「五枚刃」が、二日経過しても帰ってこなかった。


 それに不信に感じたギルド長のミランが、Bランクパーティを派遣したということである。




 それから、応援に駆けつけた「銀山」と「双酒」は、ひとまずバンの治療と、行方不明になったレッカ達、街の生存者の捜索を行った。


 結果的に、レッカ達は時間が掛からずに、見つかった。


 レッカ、ノルウェル、ノルトンの三人は教会に近くにある大きな井戸の中にいた。


 どうやら、ワイバーンに襲われた時に、モンシェがいる地下室まで逃げられないと踏んで、井戸の中へ逃げ込んだみたいだ。


 ユーカリの街にいるテッド達以外の生存者も発見できた。

 生存者は、およそ二十人。


 彼らはテッドの達のように家の地下室や家の天井裏などに隠れて、やり過ごしていた。









 そして、ユーカリの街を襲ったワイバーンを討伐に成功し、街にいる生存者も救出することがきた「銀山」「双酒」「五枚刃」は生存者を連れて、マカの街まで帰っていた。


 その帰りの最中、


 「え?ミナトさん、もうマカから出て行ったんですか?」


 テッドは、そんなぁ…と言いたげな顔をする。


 「ああ、盗賊掃討でマカに帰った翌日に、トレントたちの襲撃があっただろ?その次の日には、もうマカを立ったらしいぞ」


 「五枚刃」のバンが、ミナトがマカにいないことを伝える。


 テッドは、既にミナトが旅立った事実に、少なからず落ち込んでいた。


 「折角、ミナトさんには改めて、お礼を言いたかったのに」


 テッドはミナトに関しては、他の誰よりも感謝していた。

 盗賊から助けてくれただけでなく、不思議な青い水で心が病んだミティを治してくれたのだから。


 盗賊から救出されたテッドは、大量のトレントや黒亀王の襲撃の後、ユーカリの街から北東にある拠点の街に帰ったのち、またマカに戻って、ミナトにお礼を言おうと考えていた。


 しかし、まさかトレントの襲撃があった次の日には、マカを出ていたとは。


 「何処に行ったか分かりますか?」

 「う~ん…何処だったかな。確か、実家に帰るとは言っていたが、詳しいことは分からん」

 「…………そうですか」


 肩を落とすテッドに、バンは肩を叩く。


 「そう落ち込むな!冒険者を続けてれば、いずれ会う機会はあるって!」


 バンはテッド元気付ける。


 「ミナト君なら、三か月後に開かれる『闘牛祭』で、また会うかもしれませんね」


 ここで、テッドとバンの会話が聞こえていた「双酒」のミットが会話に混ざる。


 「『闘牛祭』ですか。五年に一回、王都で開かれる祭りですね。そう言えば、今年でしたっけ」


 テッドが『闘牛祭』について、思い出す。


 『闘牛祭』…それは、王都で開催されるエスパル王国最大の祭り。

 エスパル王国民なら、誰もが知っている祭りだ。


 「そうですね。『闘牛祭』は、食の祭とも言われ、祭りの時は多くの食べ物が出されます。勿論、王国の伝統料理であるパエリアも。ミナト君はパエリアが大好きみたいですから、きっと祭りになれば、パエリアを食べにやってきそうですね」

 「はっはっは!!確かに、ミナトはパエリアが好きだったな!」


 エウガーが思い出すのは、ヴィルパーレ辺境伯の庭で行われた祝賀会で、ミナトがパエリアを美味しそうに食べていた光景。


 ミナトなら、『闘牛祭』にひょっこり現れて、パエリアをバクバク食べる想像が容易に浮かず。


 「それに『闘牛祭』は、本物の闘牛とやり合う「闘牛大会」があるな。ミナトなら、「俺が素手で倒してやる!」とか言いながら、大会に参加しそうだな」


 いつの間にか、「銀山」のブルズエル会話に混ざる。


 「あはは!ミナトなら、やりそうだな!」


 ウルドは、ブルズエルの冗談に笑うが、ミナトなら素手で闘牛を倒すのを、やり兼ねないと思っている。


 「なるほど!『闘牛祭』に行けば、ミナトさんに会えるかもしれません。僕、今年の『闘牛祭』には、参加してみます。ミティも、それで良いよね?」

 「うん。私もミナトさんには改めて、お礼が言いたい」


 こうして、何だかんだ在りつつ、「五枚刃」とテッド達は、マカに帰ることが出来た。




これで五章は終わりです。

次から六章。

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