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閑話 隻眼の魔翼④




 包帯を巻いて応急措置を施したモンシェの左腕に大量の蛆虫が集り始める。

 見るからに、痛そう。


 恐らく長い間、火傷になった腕を放置した結果だろう。


 「不味い!不味いぞ!虫が集まってる!やっぱり応急処置だけじゃ駄目だった!」


 バンが事態の深刻さに、顔を顰める。


 ワイバーンのブレスで炭化した左腕を包帯で覆ったが、それだけでは十分では無かった。


 何か処置をしないと間違いなく、さらに危険な状態になる。

 

 それが分かりつつも、どうするべきか慌てふためくバン、レッカ、ノルウェル、ノルトン、テッド。

 そこに、ミティがモンシェへ静かに近寄る。


 「ミティ?」

 「………これ、火傷風」


 首を傾げるテッドに対して、ミティは呟く。


 「火傷で侵された皮膚に、火傷風菌という細菌が感染して発症する感染症」


 ミティが端的に説明する。


 「火傷風菌は地面に生息しているから、火傷を負った後に、地面に触れたから感染したのかもしれない」

 「「っ?!」」


 ミティの言葉を聞いて、ノルウェルとノルトンは顔を歪める。

 心当たりがあったからだ。


 モンシェがワイバーンのブレスから自分達を助けてくれた際に、ブレスを左腕に浴びた後、地面に倒れたのだ。


 恐らく、その時に火傷風菌に感染したのだろう。


 「ミティ!モンシェさんは…このままだと、どうなるんだ?!」

 「菌が体中に回って、死ぬ」


 死ぬという単語に、ミティ以外の人間は絶句する。


 「ど、どうすればいいんだ?!」


 レッカが治療法を、ミティに聞いてくる。


 「取り合えず、左腕を切り落とす。…………でも、感染がもう腕の付け根にまで及んでいるから、延命にしかならない。薬が必要」

 「薬って………一般的な薬草しか持ってないぞ」


 バンは斥候であるが故に、ポーチの中には簡単な傷程度なら治せる薬草を持っているが、死に至るほどの深刻な感染症を治せるような薬は無い。


 「火傷風菌を治せる薬は、トキソイド草という薬草を使った塗り薬で治せる」

 「ト、トキソイド草って、薬草があれば治せるんだな?!」


 レッカが食い気味にミティに迫る。

 ミティは少し顔を強張らせた後、説明する。


 「トキソイド草があれば、私が調合出来る」

 「そ、そのトキソイド草は何処で手に入る?」


 テッドも食い気味で聞いてきた。

 彼も自分たちを助けた出してくれた冒険者の一人が死ぬのは、心苦しい。


 しかし、ミティは顔を曇らせる。


 その理由は次の一言で分かった。


 「トキソイド草は…………教会にある」

 「な?!」


 バンが驚愕する。

 場所が場所だったので。


 「トキソイド草は本来、その独特な香りから清めのために使われる薬。だから、教会に行けばある。けど…………」


 そこでミティの言葉が途切れる。


 続きを言わなくても分かる。


 何故なら、今…教会には、


 「ワイバーンがいるな」


 モンシェの苦しみながらの言葉に、全員が頷く。









 人の気配が無いユーカリの街の中、レッカとノルウェルとノルトンとテッドの四人が物音を立てないように、細心の注意で進む。


 崩れた家々を物陰にして、四人は息を殺して、ゆっくり歩いていた。

 教会に潜むワイバーンにバレないように。


 神経を使った隠密行動に、かなりの緊張が四人を襲う。


 「潜んでいるワイバーンにバレないように、教会に近づいて、トキソイド草を手に入れる」


 移動中、レッカは目的をはっきりと口に出す。


 頷くノルウェルとノルトンとテッド。


 「トキソイド草を手に入れられれば、ミティが薬を調合してくれます」


 テッドがその後の流れを言う。


 「待ってろ、モンシェ」

 「死ぬなよ、モンシェ」


 ノルウェルとノルトンは今も苦しんでいる仲間のモンシェを想う。


 モンシェが苦しんでいるのは、自分たちが原因であると認識している分、決意は他の者よりも高かった。


 「腕の切断はバンに任せたけど、大丈夫かな」


 レッカは不安を口にする。


 残りのメンバーであるバンとミティは地下室にいる。

 ミティの助言の通り、バンは簡単な痛み止めの薬を使って、モンシェの左腕を切断するのだ。


 「大丈夫ですよ。サポートにミティがいます。彼女、ああ見えて、医者になるのが夢だったらしくて」

 「医者?でも、今はテッド殿と同じく冒険者をやっているが」

 「ああ、えっと…僕が冒険者になる時に、テッドだけだと危険だからと付いてきたんです。医者は冒険者を止めた後でも出来るからと」

 「あんた………愛されてるな」


 レッカの最後の一言に、テッドの顔が真っ赤にする。


 意図してではないかもしれないが、これによって緊張が解され、場が和む。




 四人は崩れた建物を障害物に利用して、何とか教会の近くまで行く。


 近くに来たが、四人は即座に動けずにいた。


 「教会の近くに来たが、トキソイド草は教会の何処にあるんだ?」


 レッカの言う通り、トキソイド草の具体的な在りかが分からなかった。


 「棚の中とか」

 「箪笥の中とか」


 ノルウェルとノルトンが考えられるトキソイド草の保管場所を言ってみる。


 「何処に保管されてようと、教会内に入らないといけませんね」


 テッドは顔を顰める。


 当然だ。

 教会内に入るのには、ワイバーンは避けては通れない障害。


 どうにかして、ワイバーンを別の場所に移さねば。


 しかし、悩んでいても仕様が無い。

 時間を掛ける程、モンシェの容体が悪化する。


 意を決した四人はレッカを先頭に、教会へ足を踏み入れる。


 教会の四方にある入り口の内の一つから入る。


 ユーカリの街にある教会は一般的な教会の中でも、標準的な大きさだろう。

 それでも、下手な貴族の屋敷よりは大きい。


 エスパル王国は宗教国家ではないが、周辺国よりは宗教の影響力は大きいだろう。


 王都には、王城顔負けの強大な教会があるほどだ。


 レッカたちは教会内の通路を進む。

 一部は倒壊しているとはいえ、未だに原型は留めている。


 進んでいくうちに、前方から強い光が見える。


 レッカたちが恐る恐る進んでいくと、そこは広場だった。


 ここは信者や教会に訪れた者達が祈りを捧げる場である。

 けれど、見ての通り、祈るものなど誰もいなく、代わりに……、


 「「「「…………」」」」


 四人は、口を大きく閉ざす。


 広場には、ワイバーンがいた。


 両翼などは崩れた壁から少しはみ出ているが、大きな巨体を丸くして、何とか教会の広場に体を入れている。


 ワイバーンはレッカ達がいる方向とは別の方向を向いていた。


 だが、この近さ。

 見つかったら一巻の終わりである。


 解されていた緊張が一気にぶり返す。


 レッカは指を使った合図で三人に指示を出す。


 『まず俺が行くから、みんなはここで待機だ』


 三人は同意する。


 四人全員で動いたら、物音が立てかねない。


 レッカは抜き足差し足の容量で、広場に進む。


 そして、広場の前方にある教壇を調べる。

 けれど、トキソイド草らしきものは無い。


 レッカは辺りを見渡す。


 すると、教壇の付近に小さい引き出しの付いた箪笥がいくつかあった。

 レッカは箪笥の方に行く。


 タンスの引き出しを一つ一つ引いて、中身を確認する。


 箪笥は古いのか、少し動かすだけでギシギシ…と、音が鳴る。


 ノルウェルとノルトンとテッドは、ハラハラしながら、その様子を見ていた。


 誰かの固唾を飲み込む音が聞こえる中、


 「あっ」


 レッカは一番右にある箪笥の引き出しの中に、紫色の薬草を見つけた。


 事前に、トキソイド草の特徴はミティから聞いていた。

 多分だが、これがトキソイド草だ。


 後はこれをモンシェのところまで持っていけば。


 そう思って、レッカは箪笥の中のトキソイド草を手で掴み、中から出す。


 しかし、カタッ………………ガタン!


 急いで引き抜いたため、引き出しに、レッカの手が引っ掛かり、その反動で箪笥の上にあった蝋燭などの小物が落ちる。


 レッカは自身の心臓が止まったかのような錯覚を覚える。


 レッカは、まるで壊れたブリキ人形のように、ギリリ…と、首をワイバーンの方に向ける。


 「ギュア?」


 レッカの視線の先には、小物が落ちた音に気付いて、長い首をこちらに向けるワイバーンがあった。


 レッカはゆっくりと、ノルウェルとノルトンとテッドの方に顔を向けて、


 「逃げろおおお!!」


 目一杯、叫ぶ。




新作投稿しました。

『妖怪学校一の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である』

https://ncode.syosetu.com/n3337jk/

こちらも気になったら、呼んでくれると嬉しいです。


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