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閑話 隻眼の魔翼③




 「五枚刃」をワイバーンから助けたのは、Dランク冒険者のテッドだった。


 彼はおよそ一ヶ月前に、ミナトやAランク冒険者のクラリサ、ミル、Bランク冒険者の「銀山」と「双酒」、そしてCランク冒険者の「五枚刃」で構成されたチームで、アルアダ山地を拠点としていた盗賊に捕まっているところを助けだされた冒険者だ。


 盗賊から救出された後は、ミナト達共にマカの街へ一緒に行き、解放されたはずだ。


 「テッド殿は、何故ここに?」


 レッカが聞く。


 「ああ…僕は元々、このユーカリの街から、さらに北東方面に進んだ街を拠点をしていた冒険者でして、数日前に一度拠点に帰って、その後にまたマカに戻ろうと、途中でユーカリの街に寄ったんです」


 テッドは困った顔で頬を掻く、


 「ただユーカリの街に寄った夜に、ワイバーンが襲撃してきて、やむ負えず街に留まりました」

 「そうだったんですか。それは不運でしたね」


 レッカの言葉に、テッドは手を横に振る。


 「いえいえ。盗賊に捕まり、ワイバーンの襲撃にも逢いましたが、僕らはまだ五体満足で生きています。ある意味、幸運かもしれません」

 「僕ら?」


 首を傾げるレッカ。


 「僕の幼馴染のミティです」


 そう言って、テッドは地下室の隅を指す。


 そこには、テッドと同い年ほどの二十代前半の若い女性がいた。


 癖っ毛の明るい茶髪を持ち、活発な感じのテッドと対照的に、ミティと呼ばれた女性は、薄い金髪に耳ぐらいの短い髪と、大人しそうな印象である。


 地下室が薄暗かった事と、彼女自身の存在感が薄かった事で今まで気づかなかった。


 ミティは無言で、頭を「五枚刃」へ下げる。


 彼女も見覚えがあった。


 彼女もまた、盗賊に捕まっていたテッドと同じくDランク冒険者だった。


 盗賊から救出された彼女を見て、テッドが心配する様子を見せたところから、彼と親しい関係なのだろう。


 彼女は盗賊に捕まった際、女性があるが故に、”いろいろな事”をされ、救出時には心を病んでいた。


 しかし、どういう原理か…ミナトが首に下げている小さくて青い宝石を付けたネックレスから垂らされた不可思議な液体を飲んだことで精神を回復させた。


 「僕はミティさえ、一緒に居られれば幸せですから」


 そう言ったテッドは若干、頬を赤らめる。


 見れば、ミティも同様に頬が赤かった。


 どうやら二人は、そういう関係らしい。


 「よし……これで応急処置は完了と」


 地下室にある蝋燭が置かれた場所のそばでは、斥候のバンがポーチから取り出した包帯を、ワイバーンのブレスで焼かれたモンシェの左腕に巻いていた。


 「助かった、バン」

 「あくまで応急処置だ。ちゃんとした手当は、マカでやらないとな」


 バンは悲しい顔でモンシェの包帯が巻かれたモンシェの腕を見る。


 「モンシェ…………はっきり言うが、その腕はもう…………」

 「ああ…分かってる。この腕はもう使い物にならんだろう。気にするな、俺は槍士。片手があれば、槍が使える」


 モンシェは立ち上がり、右手で槍を回す。


 「「モンシェ…………」


 それを申し訳なそうに顔を歪めるノルウェルとノルトン。


 「気にするな。お前らが居なかったら、最初のブレスで皆んな死んでた」


 モンシェは、ノルウェルとノルトンを励ます。

 とは言っても、状況は芳しいものではない。


 「あのワイバーンをどうにかしない限り、俺達がこの街から出ることは出来ないな」


 モンシェが状況を確認する。


 「そうだな。逃げようとしても、あの隻眼の魔翼が空から追ってきて、ブレスを撃たれるだけだ。問題は俺達だけでアイツを倒せるかだ」


 バンが懸念点を言う。


 「隻眼の魔翼……やはり、あれが。ただの噂だと思っていましたが、本当にいたんですね」


 テッドが顔を曇らせる。


 「まさか、バンの都市伝説が現実だったとはな。人だけを襲う魔物。厄介な事この上ない」


 レッカが頭を振る。


 ほとんどの魔物は人を最初から襲う気で襲う訳ではない。

 縄張りに入ってきた人をやむなく襲ったり、空腹なため仕方なく襲うのが普通だ。


 人よりも遥かに強い魔物が、始めから人を襲う気でいるのは脅威だ。


 「それにしても、あのワイバーンは何処に隠れていたんだ?」


 バンは首を傾げる。


 「五枚刃」がユーカリの街を望遠鏡で見た時は、ワイバーンの姿は無かったし、街に入って生存者の探索をした時にも、見かけなかった。


 突然、現れた言う他ないほど、急に現れた。


 考えられる原因は、街の何処かにワイバーンが隠れていたんだ。


 「ああ…隠れている場所でしたら、知っています。付いて来てください」


 どうやら、テッドはワイバーンの隠れ場所を知っているみたいだ。


 バンとレッカは、テッドに付いていき、地下室の入り口に行く。


 地下室の入り口から、テッドら三人はそっと顔を出す。

 バンとレッカは望遠鏡を持って、辺りを見渡す。

 

 少し前まで自分たちを襲っていたワイバーンの姿は見れない。

 何処に行ったのかと、バンとレッカは思っていると、


 「あそこです。あそこにある……教会です。ほら…体を小さくして、壁の裏側に隠れてますが、よく見ると翼の一部が見えます」

 「まさか…………」


 テッドに教会がある場所を示され、バンは息を飲む。


 その教会はユーカリの街の中でも、最も大きい建築物であり、確かにワイバーンが体を丸めれば、隠れられる。


 街に入る時に、バンは街を襲ったワイバーンがあそこにいるのではと、冗談半分で思ったが、本当にそこに隠れていたとは。


 「数日前の夜に、突然ワイバーンが襲ってきて、街の人を片っ端から殺して行った後は、ああやって教会の裏側に隠れているんです。生き残った人が街の外に出ようとしたり、誰からが街の外から来たら、襲うんですよ」

 「なんて、戦略的な」


 バンは悪態をつく。


 「そう言えば、テッド殿とミティ殿以外に生存者はいるのですか?俺達がこの街に来た時は見かけなかったが」


 レッカが尋ねる。

 元々、「五枚刃」はユーカリの街にいる生存者の発見と保護を目的に来たのだ。


 テッドは頭を横に振る。


 「分かりません。僕達は皆さんが来るまで、ずっとここに隠れていましたから。ただ、まだ生存者はいると思います。皆さんの呼びかけは聞こえましたが、生き残った人達は僕達と同じように、ワイバーンに見つからないように息をひそめて隠れているんだと思います」


 もし、テッドの言う通り生存者がまだいるのなら、助けなければならない。


 しかし、問題はやはりワイバーン。


 バンとレッカ、テッドは作戦を練るため、一旦地下室に戻る。




 「なるほど…………」


 モンシェは考え込む。


 「生存者がまだいたとして、俺達の目的は生存者の保護だ」

 「だが、ワイバーンがな…………現実的ではないが、ワイバーンを倒す以外方法は無さそうだ」


 バンとレッカが顔を曇らせる。


 ワイバーンを倒す。

 それは自分達には無理だということを自分たちがよく解っていた。


 ここで、バンは思い出す。


 「そう言えば、テッドはワイバーンから俺達を助ける時に、何か瓶を投げていたな。当たったワイバーンは怯んでいた」


 「五枚刃」が間一髪で、ワイバーンから逃れられたのは、テッドが投げた瓶である。


 瓶がワイバーンに当たって割れると、激臭が漂い、一時的にワイバーンの動きを止めた。


 「あれは磨り潰すと激臭を放つ薬草を入れた瓶を投げたんですよ。ミティは薬草を調合するのが得意でして、ワイバーンにも効いて良かったです」

 「その薬草は今…………」

 「すみません。切らしました」


 バンの問いに、テッドは困った様子で頬を掻く。


 その激臭を放つ薬草がまだあれば、もしかしたらワイバーンを倒せるかもと思ったが。


 「増援を期待するしか無いのか」


 モンシェが言ったように、自分達でワイバーンを倒すのは現実的では無い以上、マカからの増援が希望である。


 マカには、Bランク冒険者に、領主直属の騎士団がいる。

 彼らが居れば、ワイバーンを倒すのが可能になる。


 「だが、仮に増援が来たとしても、数日後になるな。それまで俺達の携帯食が持つか」


 モンシェ自身も、増援は直ぐにはこないと考える。


 「どうする、モンシェ?」


 レッカが今後の方針を確認する。


 モンシェは暫く、考え込んだ末、


 「取り合えず、今は待つ」


 戦わず、待つと言うのも手である。

 待つことで状況が好転することだってある。


 こうして、「五枚刃」とテッド達は地下室で持ってきた携帯食で飢えを凌ぎながら、地下室で待機することになった。









 しかし、事態が急変したのは、待機を決めてから二日目。


 「う………ぐ……」


 モンシェが痛みに耐えるように、歯を食いしばる。


 「やばい!モンシェの左腕に虫が集ってる!!」


 バンが叫んだ通り、リーダーであるモンシェの容体が悪化したのだ。




テッド…ミティ…久しぶり。

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