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イチカとミーナの実力




 アグアの街付近に襲来した三匹のワイバーンの内、二匹はクラとミルが倒した。


 残りはイチカとミーナが相手をしていた。


 ワイバーンがイチカとミーナに向かって、空中からブレスを吐く。


 灼熱の息吹が迫ってくるが、イチカは恐怖で顔を歪めつつも、何とかブレスを防ぐために魔法を展開する。


 頑張れ、妹よ!


 「〈氷河〉」


 長い間、氷が敷き積もったような、高さ十メートル以上の断崖の城壁がイチカとミーナを守るように形成される。

 イチカの保有魔力量を十全に生かした防御魔法だ。


 ブレスはイチカの〈氷河〉に当たるが、氷の城壁は全く揺るがない。


 俺の〈連続氷石〉でビクともしなかったし、貫通力特化の〈氷槍〉でも完全に貫通することが出来なかった。


 表面が少し溶けているみたいだが、その程度だ。


 守りはしっかりと機能している。

 次は攻撃だ。


 「〈ファイアアローレイン〉」


 ミーナによって、数十の火の矢がワイバーンに放たれる。


 それは全て狙い違わず、右の翼膜に着弾。

 右翼にダメージを負わせる。


 さっきからミーナは〈ファイアアローレイン〉を左右の翼膜に当て続けており、それによって翼に傷を負わせ、地面に降ろさせる気だろう。


 気づいた人もいるが、今…ミーナは”無詠唱”で魔法を放った。


 そうなのだ。

 ミーナは俺による魔法の稽古で、数日前に無詠唱を取得したのだ。


 元々、数十の魔法を自在に操れるように、魔法制御力はとても高かった。


 ミーナの父親であるホルディグはエスパル王国屈指の魔法使い。

 その娘であるミーナも魔法の潜在能力が高い。


 俺直伝の魔法稽古で、その潜在能力が解放された訳だ。


 このようにイチカが防御で、ミーナが攻撃で役割分担をしている。


 この役割分担による戦法は、俺が考えた。


 この戦法なら、ワイバーンを仕留めることが出来るだろう。


 無詠唱を習得したミーナはずっと自身の力を試したいと思っていたみたいだ。


 こんな戦法をせずとも、ミーナが一級火魔法〈炎災〉でワイバーンを仕留めれば良いと思うが、これ自体はミーナが望んだこと。


 一級魔法と言う必殺技を使わずに、あくまで一般的な魔法だけでワイバーンを仕留めたい。

 実戦でも、自身の魔法を鍛えたいというミーナの願望ゆえだ。


 しかし、無詠唱を習得した今のミーナでも、ワイバーン相手では厳しいかもしれない。


 なので、イチカを防御役にした。


 これはイチカに実戦経験を積ませる機会でもある。

 イチカも、それで了承している。


 ミーナとイチカの稽古の成果を出し、経験を積ませるという点で、ワイバーンは打ってつけも相手と言う訳である。


 今日だけに限らず、ワイバーンは複数体でアグアの街に襲来したことが何度もある。


 襲来のたびに、俺やクラ、ミルが倒していた。

 危なげなく。


 今では、ワイバーンが簡単に討伐される事実は町全体の周知の物になり、アグアの街の住民にとって、ワイバーンはもう脅威と思われなくなった。


 ワイバーンの襲来を告げられた時、街の住民が落ち着いていたのは、それが原因だ。


 どうせ直ぐにワイバーンなんて討伐されるだろ…と。


 ワイバーンは本来なら、とても危険な魔物のはずだが、相手が悪すぎた。

 不憫な魔物である。


 「ほう……あの紫髪、中々良い線行っているな。お前の妹の方は魔法の制御が拙いが、あの年齢を考えれば、まだまだ…これからだな」


 パルも感心している様子だ。


 「〈ファイアアローレイン〉」


 ミーナの〈ファイアアローレイン〉が、今度はワイバーンの左の翼膜に着弾。


 そろそろ翼にもダメージが蓄積されて、飛んでいられなくなるだろう。


 最初に比べて、かなりワイバーンの飛翔速度が落ちている。

 翼膜へのダメージが効いてきている証拠だ。


 そうして、ワイバーンがまたブレスをイチカとミーナに当てるために、低空飛行をした瞬間、


 「ここ!〈伍炎槍〉〈伍炎槍〉」


 ミーナがタイミングを見計らって、貫通力のある〈炎槍〉を一度に五本も放つ〈伍炎槍〉を二回放つ。


 〈炎槍〉は〈ファイアアロー〉とりも威力があるが、取り回しが難しい。


 だからこそ、最初は数十の火の矢を放つ〈ファイアアローレイン〉で翼を攻撃し、動きが鈍くなったところで〈炎槍〉を食らわせるのだ。


 十本の炎の槍が、左右の翼膜それぞれに五本ずつ当たり、左右の翼を穿った。


 これにより、完全に飛翔能力を失ったワイバーンは地面に落下する。

 しかし、落下させて終わりではない。


 「イチカ、行くわよ!」

 「うん!」


 イチカとミーナは落下したワイバーンの元へ駆ける。


 ワイバーンは落下してもなお、余力を残しており、その大きな翼や大きな首を使って、周囲を薙ぎ払っている。

 近づくのは、とても危険だ。


 けれど、イチカとミーナは接近する。

 それによって、接近する二人にワイバーンが気づく。


 ギロっと睨んだワイバーンは、口を開け、鋭い牙で切り裂こうとする。


 「〈氷山〉」


 縦横幅、共に三メートルほどの丸みを帯びた氷の塊がワイバーンの噛み付き攻撃を防ぐ。


 それだけには留まらず、


 「〈大氷山〉」


 先程の〈氷山〉よりも大きな氷の塊が、ワイバーンの背中に落ちる。


 重りを乗せられたワイバーンは身動きが取れなくなる。

 そんなワイバーンの頭部に向けて、


 「〈ファイアアロー〉」


 ミーナはワイバーンの頭部…その右の眼球に〈ファイアアロー〉を撃つ。


 〈ファイアアロー〉は見事に、ワイバーンの右目を貫く。


 ビクッ!

 火の矢が眼球を通して、脳にまで達したのか…体を一瞬震わせ、そのまま首を地面に倒れさせる。


 「やったー!」


 イチカが飛び跳ねて、喜ぶ。

 初めてのワイバーン討伐で嬉しかったのだろう。


 俺も初のワイバーン討伐は嬉しかった。


 ミーナもイチカ程、喜んではいないが、ホッとしている様子だ。


 成長を実感できるのは、良いことだ。

 俺も教え買いがあったものだ。


 だけど…………、


 「二人共、お疲れ」


 俺はイチカとミーナに駆け寄り、労いの言葉を掛ける。

 パルも一緒に付いてきてくれた。


 もしかして、気づいているのかな?


 俺はイチカとミーナを交互に見た後、ワイバーンを見る。


 「イチカはしっかりと防御側としての役割を果たしていたし、ミーナは翼を攻撃してからの最後の目へのとどめは良かったと思うぞ」


 俺は師範的な立ち位置で、イチカとミーナの戦いの総評をする。


 「えへへ、褒められた」

 「ま、まぁ…それほどでも」


 イチカもミーナも満更ではない顔だ。


 と思いつつも、俺は眉根を寄せる。


 「だけど、二人共…油断は禁物だ。残心が足りないな」


 残心とは、読んで字のごとく、心を残すことだ。

 油断大敵という意味でもある。


 俺の言った事の意味が分からず、首を傾げるイチカとミーナだったが、


 「グギャアア!!!」


 死んだと思っていたワイバーンがいきなり首を伸ばし、イチカとミーナに噛み付こうとしたことで意味を理解しただろう。


 そう……まだワイバーンは息があったのだ。


 俺は二人を守るべく、魔法を行使しようとした時、


 「〈伸びれ〉!サーペント!」


 突如、物凄い速さの緑色の長い物が、ワイバーンに放たれる。


 パンッ!

 空気を破裂したような音が聞こえる。


 その後に、ワイバーンが軽い悲鳴を上げる。


 「わっ?!わっ?!」

 「コイツ!まだ生きてたの?!」


 ワイバーンの奇襲に慌てるイチカとミーナだったが、


 「安心しろ。私の鞭の先には、毒の薬草から採った成分が塗ってある。これで奴は完全に死んだ」


 見ると、いつの間にかワイバーンは口から泡を出しながら、息絶えていた。


 毒で死んだみたいだ。


 俺はワイバーンに攻撃した人物を見る。


 隣にいるパルは、腰に下げてあったグリップまで緑色に染められた鞭…魔鞭サーペントだったか、それを握っていた。


 緑色の長い物は、パルの鞭の事だったか。


 鞭はしなる。

 そのしなりで、何度も加速が行われる。


 それ故に、持ち手の振り具合で鞭の先が目に留まらぬ速度に達することが出来る。


 しかし、どう考えても、パルが持つ鞭の射程を考えたら、とてもここからワイバーンに届くとは思えない。


 さっき〈伸びれ〉とか言ったか。

 もしかして、鞭は伸びることが、パルの持つ魔装の能力なのかもしれない。


 伸縮自在の鞭に、毒物。

 これが元Aランク冒険者パルの戦い方なのか。


 パルは薬草の調合も上手いと聞くし、毒物も扱えるらしい。


 「確かに油断禁物だな」


 鞭を腰に戻す。

 パルも俺と同じく、ワイバーンがまだ生きていたのに気づいていたようだ。


 パルは、イチカとミーナを見据える。


 「しかし……頼もしいな。この二人も調査に加わるのだろう?戦力は豊富にこしたことはない」


 急に、そんなことを言い出した。




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