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閑話 水剣聖の仲間

一話目の投稿から丸一年が経ちました。

今後もどうぞ宜しくお願いします。




 それは、今から千年前の事。


 エスパル王国に、氷の魔法を使う一人の少女…………いや、一人の剣士がいた。


 その者は、絶技を扱う剣士である『竜人』の師匠から剣を学んだ。


 その者が使う剣技は、流麗な流水のごとく攻撃を受け流し、波一つ無い凪の様に無駄一つ無い身のこなしであった。


 まさに『水』を体現した剣。

 彼女は自身の剣を、”水剣技流”と名付けた。


 これは後に『水剣聖』と呼ばれた者の物語である。


 彼女が人と特殊な種族との混血であるという理由から、力がとても強く、水剣技流も相まって、彼女の強さは、エスパル王国中に知れ割った。


 彼女は強くもあり、優しい心の持ち主ゆえ、多くの人間……そして、様々な”異人”から好かれていた。


 異人とは、人間とは違う人種の事である。


 彼女の生まれ故郷であるエスパル王国には、数え切れぬ程の多種多様な異人に溢れていた。


 人々から良く知られる異人であるエルフやドワーフは勿論のこと、獣人、ケット・シー、ホビット、ドライアド、ヴァンパイアなど。


 道を歩けば、異人や混血に出くわすことなど、エスパル王国では良くある話。




 ある時、彼女は家を飛び出し、国を出て、さらに遠くへ旅に出た。


 旅してみたい、もっと広い世界を見てみたいという少女の好奇心からだ。


 その旅は、彼女の生まれ故郷であるエスパル王国があるヨーロアル諸国全体…いや、それだけに留まらず、世界全体を廻った。


 東に広がる数え切れぬ程の国々。


 西に広がる海を越えた先に存在する巨大な大国。


 南に広がる『魔人』が治める砂漠の大陸。


 北に広がる『巨人』が治める氷雪の大地。


 様々な文化に、様々な風習。

 少女にとって、初めて目にするものばかりだった。


 少女は、その剣技で多くの人を助けた。

 たくさんの異人が彼女を慕った。


 そして、いつしか彼女には、かけがえのない二人の仲間が出来た。


 一人は、天にまで届く一本の強大な樹木…『世界樹』を守るエルフの民の王子。


 そのエルフは、世界最高の弓の名手であった。

 大男でも引けない固く強い弦を引けば、そこから闇を突き破らんとする光の矢が放たれる。


 多くの者は彼をこう呼ぶ、「流星の弓聖」。


 もう一人は、地の底にまで届きそうな地下の王国を築き上げたドワーフの民の王子。


 そのドワーフは、世界最高の戦槌の使い手だった。

 大人数の人でも持ち上げられない重い戦槌を振るえば、大地をも裂ける無慈悲の鉄槌が降ろされる。


 多きの者は彼をこう呼ぶ、「震動の槌聖」。


 彼ら三人は、共に同じ飯を食い、共に旅をし、共に戦った。









 「やっぱりシズカ様、凄いです!そんなに、たくさんの異人から好かれていて!」


 毎度宜しく、シズカをよいしょするミナト。


 「それにしてもシズカ様にそんな仲間がいたんですか。聞いたことがありませんし、全く知らなかったです。二つ名が「流星の弓聖」に、「震動の槌聖」ですか。滅茶苦茶カッコいいです!」


 ミナトは先程聞いたシズカの二人の仲間に関心を持つ。


 シズカは小さく笑う。


 『ふふ…本人たちは余り、その二つ名は好きではなかったでござった。恥かしいからと』


 シズカは懐かしそうな表情で言う。


 「それにしても、エルフとドワーフですか。お伽話みたいですね」

 『お伽話?』


 シズカは首を傾げる。


 「エルフとドワーフ……存在自体、昔そう言った異人がいた事は知っていましたが、今まで会ったことはありません。シズカ様の話を聞く前は、本当にそんな異人がいるのか、疑問に思ったほど」


 もっというと、ミナトは生まれてから「水之世」に来るまで異人は一人も見たことが無いはずだ。


 しかし、俺の言葉を聞いたシズカは珍しく、目を細める。


 『やはりでござったか』


 シズカは頷く。


 「やはり?」

 『ミナト殿から以前、「水之世」の外…現在のエスパル王国の状況がどうなっているのか、聞いた時…もしやと思ったでござったが……やはり、今の王国は異人に厳しいのでござるな』

 「今の……ということは、前の王国は違ったんですか?」

 『左様。拙者が生まれた頃のエスパル王国は人と異人、果ては、人と異人との混血が平和に暮らす国でござった』


 その口ぶりから、シズカは故郷のエスパル王国を想っている様子であった。


 『拙者が生きていた当時、ヨーロアル諸国で最も異人が集まっていた国は間違いなく、エスパル王国でござる』

 「千年前の王国って、そんなことになっていたんですか」


 ミナトは素直に感嘆した。


 多種多様な異人に溢れていたなんて、とても賑やかそうだ。

 無意識に、ミナトはそう思った。


 千年前の王国はそうであったのに、何故…今は異人を見ないのか。

 ミナトが考え込む中、


 『これも全て、お父様のお陰でござる』


 ふと…シズカは近くにいる自身の父であるウィルターを見る。


 ミナトもチラッと、ウィルターを見る。


 「ウィルター様のお陰?」

 『拙者生まれる前、エスパル王国は異人に冷たい…………という表現すら憚られるぐらい異人差別が蔓延っていたそうでござった』


 故郷の闇に触れているからなのか、シズカは暗い顔になる。


 「全く対称的じゃないですか!」


 ミナトは驚く。


 『拙者の母の様な特殊な異人は、魔物として扱われ、討伐の対象だったでござる。エルフやドワーフも奴隷として扱われている次第』


 そこで、シズカは…けれど、と付け足し、


 『お父様は母や生まれてくる拙者のために、王国を異人が住みやすい国にしたでござる』

 「やっぱり凄いです!ウィルター様は!」


 なんやかんだ最後は、ウィルターへのよいしょする。


 『え?僕が凄い?どういうことですか?』


 ミナトの声が聞こえたのか、ウィルターは首を傾げるのだった。


 『いえ、お父様。こっちの話です』


 娘のシズカは優しく微笑んで、ウィルターを見ていた。




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