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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第六章 戦力強化

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無魔法




 ミーナとイチカが最小魔法を唱え続け、魔法の訓練をしている光景を見守る中。


 俺は何をしているかと言うと、


 「我らを守る壁となれ。〈防壁〉」


 俺が詠唱すると、自身の体の魔力が動き、目の前に、魔力で出来た半透明の壁が作られる。


 〈氷壁〉とは違う、氷ではなく、魔力だけで作られた壁だ。


 壁と入ったが、触れれば壊れる……というか、実際壊れてしまうぐらい脆いバリアだ。


 「詠唱って、これで合ってるんだよな?」

 「ええ、間違いないわ」


 ミーナに確認を取る。


 今、俺がやった魔法はミーナ含む王国第七魔法団との戦闘で、防御陣形を敷く際にミーナ達、火魔法使いが使っていた防御魔法だ。


 まるで見えないバリアが前方にある〈ストーンウォール〉をコーティングしているみたいだった。


 それまでミーナ達が使っていた火魔法使いとは、明らかに性質が違う魔法に、俺は興味を持った。


 「これが無魔法か……」


 俺がミーナから昨日、魔法を教えて欲しいと頼まれた際に、俺も教えて欲しいことがあると言った。

 

 それが…この無魔法だ。









 俺が無魔法の事について初めて知ったのは、「水之世」で修業をしているから四年目の頃。


 丁度、〈水分子操作〉を習得した後。


 『ミナト君、無魔法というものは知っていますか?』

 『無……魔法?いえ、知りません』


 俺の答えに、ウィルター様は…うんうんと頷いて、


 『ミナト君は僕と同じように水魔法使いです。なので、水魔法しか扱えません。それと同様に、風魔法使いは風魔法しか使えません』

 『は、はあ』


 そんな当たり前な事実を今更言われても。


 けれど、ウィルター様はしたり顔で指を一本立てる。


 『でも、僕達はもう一つ、別の系統の魔法を扱えます』

 「え?本当ですか?!」


 俺の確認に、ウィルター様は首を縦に振る。


 『はい。それが無魔法です』


 ウィルター様は無魔法について説明する。


 『無魔法は基本四魔法でも、派生魔法でも、特異魔法でも無い……名前に「無」が付いている通り、系統がありません。魔力を何かに変換せず、そのままの状態で魔法を行使するのです。理論上、魔法使いなら誰でも使えます』

 「そんな魔法が………」


 魔法使いなら誰でも使える。

 それなら、俺も使えるってことか。


 『まぁ…ミナト君が知らないのも当然かもしれなせんね。今はどうか知りませんが、千年前まで無魔法は、”一部の種族達”が使っていた限定的な魔法ですから』

 「俺も無魔法……使いたいです」


 それを聞いて、ウィルター様は渋い顔で腕を組む。


 『う~ん…教えるのは構いませんが、今のミナト君に必要なのは水魔法の基礎力向上です。今は基礎をしっかりと付けましょう』

 「分かりました。頑張ります!」


 そこで会話は一旦終了した。









 こんな会話があったが、ウィルター様から無魔法を教えて貰う機会は結局無かった。


 無魔法の事を聞いてから、何度か無魔法を教えて欲しいとウィルター様に頼んでいたが、いつも何かしら理由をつけて教えたがらなかった。


 何だか、ウィルター様は無魔法に対して、苦手意識と言うか、対抗意識があるような感じだった。


 「水之世」を出てからは無魔法について忘れていたが、ミーナ達が〈防壁〉という無魔法を使っているのを見て、俺も覚えたいと思った。


 「ねぇ…余計なお世話かもしれないけど、ミナトに〈防壁〉なんて魔法必要なの?」


 俺が〈防壁〉を何度も詠唱して、魔法の制度を確かめている最中に、ミーナが疑問を言う。


 「それ……土魔法の〈ストーンウォール〉とかよりも、ずっと脆いわよ。ミナトには、氷……壁だっけ?あの固い氷の壁があるから覚える必要ないんじゃない?」


 ふむ…ミーナの言うことは分かる。


 〈防壁〉は物質ではなく、魔力と言う本来なら触れることが出来ない物で作られているので、防御性能は低い。


 何度か〈防壁〉を発動してみた感じ、〈防壁〉を今よりもっと使いこなしていたとしても、自身の防御魔法である〈氷壁〉よりも防御力は下だろう。


 だけど、


 「覚える必要はあると思うぞ。例えば、〈氷壁〉よりも、こっちの〈防壁〉の方が発動速度が早い」


 魔法は水魔法に限らず、必ず魔力を別の物に変換してから行使する。


 〈氷壁〉なら、

 ・体から魔力を出す。

 ・その魔力を水に変換する。

 ・その水を氷へと形成する。

 ・その氷を壁の形にする。


 四つの段階を踏まなければならない。


 けれど、〈防壁〉なら

 ・体から魔力を出す。

 ・その魔力を壁の形にする。


 〈氷壁〉に比べ、二つの段階で発動できる。


 もし、意識の外側から急に攻撃が飛んできたときに、〈氷壁〉では生成が間に合わない場面でも、〈防壁〉なら間に合う。


 それに王国第七魔法団が〈ストーンウォール〉を〈防壁〉でコーティングしたように、俺も〈氷壁〉の上に〈防壁〉を重ね掛けすれば、さらに防御力が上がると思われる。


 ここで、俺はふと、ある疑問が浮かんだ。


 「そう言えば、何でミーナ達は〈防壁〉を使ったんだ?」

 「どういう意味?」

 「火魔法には、〈ファイアウォール〉という防御魔法があったはず」


 思い出すのは、マカのBランク冒険者である火魔法使いのミット。


 実力を示すための、ミットとの試合では俺の〈水流斬〉に対して、ミットは〈ファイアウォール〉を展開していた。


 結論を言えば、〈水流斬〉に易々と切り裂かれたが、普通の攻撃なら受け止められるほどの防御性能はあったはず。


 しかし、〈ファイアウォール〉と聞いて、ミーナは首を傾げる。


 「〈ファイアウォール〉なんて、防御に使えないわよ。炎の壁って言えば、聞こえはいいけど……実際あれは壁のような炎ってだけで、矢とか魔法は普通に通り抜けるわ。精々、殿の際に敵の足止めにしか使えないわ」


 今度は俺が首を傾げる。


 「う~ん…ミットさんの〈ファイアウォール〉はエルダートレントの攻撃を防御してたんだけどな」


 俺は小さく呟く。


 マカが大量のトレントで襲撃を受けた時の事、ミットの〈ファイアウォール〉がエルダートレントの根っこの攻撃を受け止めていたのを見た。


 だけど、俺の呟きを拾ったのか、ミーナは目を大きく開く。


 「は?ミット?………誰?」

 「マカの街にいるBランク冒険者の事だ。ミーナと同じ火魔法使い」


 ミーナは怪訝顔で、顎に手を当てる。


 「ミット………偶然かしら」


 何やらミットという名前が気掛かりなようだ。


 「ミットさんに何か?」

 「いえ、何でもないわ」


 一旦そこで、ミットの話題は終わる。




 その日の夕方まで魔法の訓練は続いた。


 「はぁ…地味だけど、疲れた」

 「うう…お兄ちゃん、疲れたよぉ」


 ミーナとイチカはすっかり疲労が溜まっていた。


 特に、イチカは朝から座禅に、素振り。

 午後から、魔法の訓練ときた。


 七歳の子供にハードであろう。


 まだ初日だが、今のままの練習量だと、イチカが体を壊しかねない。


 俺が指導役として、しっかり安全マージンを考えて、訓練しないといけない。


 「お疲れ、イチカ。よく頑張ったな」

 「えへへ」


 イチカの頭を撫でて、今日の頑張りをしっかりと褒める。


 今日、イチカはよく頑張った。


 「〈防壁〉」


 俺も今日の成果を確かめる。


 目の前に半透明な魔力の壁が形成される。


 俺もミーナとイチカみたいに、〈防壁〉を出したら消したりして、魔法の熟練度を上げてみた。


 それを呆れた目でミーナが見る。


 「もう………無詠唱。私、全然なのに」


 どうやら無魔法を既に無詠唱できていることに、ご立腹なようだ。


 「元々、魔力の操作自体は出来るからな。コツさえ掴めば無詠唱も難しくなかったぞ」


 そう言って、俺は肩をすくめる。


 魔力の壁を手で叩く。


 「まぁ…でも、強度としては実用的に全然だけどな」


 小石程度なら弾き返せるようになったが、剣で小突かれたら割れる。


 「ミーナは〈防壁〉以外に無魔法を知らなんだよな?」

 「ええ、これを教えてくれた魔法訓練学校の教官は実用面も考えて、〈防壁〉だけ教えてくれたのよ」


 ミーナが魔法訓練学校にいたという事は、少し前に聞いた。


 「教官が教えてくれたのか」

 「そうね。魔法訓練学校の特別指導教官の人」

 「特別指導教官?」


 聞いたことがない役職だった。


 「無魔法を教えてくれた教官は、元々は高名な冒険者だったらしいけど。今は引退して、王都にある魔法訓練学校で時々、特別指導教官として生徒に魔法を教えているわ。私も含めて、王国第七魔法団の団員の殆どは、その人に指南してもらったの」

 「へえ」


 俺は相槌を付く。


 「その人なら、他の無魔法も知っているのかな?王都に行けば、会えるか?」

 「ミナトは無魔法の興味があるの?」

 「それなりに」

 「そう……だったら、教官に会うよりも、ポール公国に行く方が良いわ」

 「ポール公国?」


 ここで、ポール公国の名前が出てくるとは思わなかった。


 「かつてはエスパル王国の一部だったポール公国が数百年前に独立を果たしたのは、王国自体の国力が下がった理由もあるけど、ポール公国独自の魔法があったのが要因の一つとされているわ」


 ミーナは淡々とエスパル王国の歴史を語りだす。


 しかし、気になる単語が出てきた。


 「ポール公国独自の魔法…………もしかして」


 ミーナが首を縦に振る。


 「それが無魔法よ。教官は冒険者時代に、ポール公国で無魔法を習得したらしいの」

 「知らなかった。ミーナは良く知ってるな」

 「王国の歴史の授業は、魔法訓練学校では必須科目よ」


 なるほど、では…いずれポール公国に行く機会があれば、〈防壁〉以外の無魔法も是非見てみたい。


 こうして、今日は訓練は終わり、俺とイチカは同じベットで就寝した。




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