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水分子操作




 中に入ると、当然の如く多くの冒険者がいた。

 各自仲間の冒険者と話し合ったり、酒を飲んでいたり、武器をチェックしていた。


 俺は綺麗な白いマントとボロい服という奇妙な格好をしている。

 中に入った事で少なくない視線が俺を捉える。


 冒険者は魔物、時には盗賊などと戦う事を生業にした者達。

 一般人とは比べ物にならないほど強い。


 そんな者達の視線を受けた俺は……五年前なら怖気付いたが、今はこれっぽっちも恐怖は湧かなかった。ここにある奴は皆んなアイスウルフ以下だな。

 

 ギルド内には三つの受付があった。

 右端の受付は誰も並んでいなく、中央の一つの受付は何人もの冒険者が並んでおり、左端の受付はそれなりの数の冒険者が並んでいた。


 それぞれの受付には上に看板があり、右の受付は〈新規登録・依頼発注〉、真ん中の受付は〈依頼受注・依頼完了手続き〉、左側の受付は〈魔物素材等買取〉であった。


 俺は右側の受付に行く。

 受付には、受付嬢である二十歳ぐらいの若い女性がいた。

 受付嬢は近づく俺に対して、一瞬だけ俺の格好に目を見開いていたが、すぐにニッコリと笑う。


 「こんにちわ。新規登録もしくは依頼の発注ですか?」

 「はい、新規登録に来ました」

 「かしこまりました。冒険者登録の方ですね。では、こちらの記入用紙に必要事項の記入をお願いします。代筆は必要ですか?」

 「いいえ、読み書きは出来ます」

 「分かりました」


 俺は渡されたペンを使って、用紙に必要事項を記入していく。

 名前はミナト・アクアラ………いや、家名は止めておこう。アクアライド家の家名は有名すぎる。落第貴族という悪名で。

 ここはミナトだけにしておく。

 

 年齢は十五歳、役職は魔法使い。魔法の系統は水。

 これでいいだろう。


 「書けました」


 俺は書けた用紙を受付嬢に見せる。

 受付嬢は書かれている必要事項を 注意深く読む。


 「ええ……お名前はミナト様。魔法使いで………水?」


 俺の魔法が水であることに関して、受付嬢は疑問形で答える。 

 記入事項に間違いは無いか、俺を見る。


 「水魔法使いに何か……問題でも?」

 「い、いえ……あまり、水魔法使い人は冒険者になることは無いですので」

 「そうなんですか?」

 「はい。水魔法は戦いに向いていないので、多くの方が水の供給役として商人や旅人に雇われることが殆どです」

 「いいえ。水魔法は全魔法最強です!」

 「そ、そうですか。し、失礼しました。で、ではこれから冒険者についての簡単な説明をします」


 水魔法は戦いに向いていない件に少しイラッときたから、強めに反論する。

 受付嬢はそんな俺に若干ビクついた。

 それでも表情を取り戻して、努めて冷静に説明をしようとする。


 暫く冒険者の基本的な内容を説明される。


 「これで説明は以上です。何か分からないことはありますか?」

 「いえ、特に」

 「分かりました。詳しい内容はこちらの小本に記載されています。ミナト様はFランクからスタートです。今、冒険者のランクを示すプレートをお持ちします。少々お待ちください」

 

 そう言って、受付嬢はプレートを取りに行くため、奥の部屋へ行く。

 プレートが来る間に渡された小本を読んで、受付嬢から聞いた内容を確認する。


 冒険者は世界に広がる巨大な組織であり、国境を境とせず、政府の介入を受けない。

 冒険者同士の恣意的な決闘や殺しは御法度。最悪冒険者の身分剥奪もあり得る。


 冒険者のランクは下からF、E、D、C、B、A、Sとある。

 そんで俺は一番下のF……か。


 依頼も冒険者と同じようにFからSのランクが指定され、基本的に冒険者は依頼と同等のランク以下の物しか受注できない。つまり俺はFランクの依頼しか受注できないわけだ。

 ランクを上げるには依頼の完了数が必要であると。


 「………」


 それにしても……俺はチラリと後ろを見る。


 見られてるんだよな。何人かの冒険者から。

 何が目的かは知らないけど。


 気にせず俺はギルドの大きな部屋の両壁を見る。そこには多くの依頼が書かれた紙が貼られていた。

 取り敢えず右端の壁に行ってみる。


 そこには多くの依頼が張られているが、Fランクの依頼は少なく、殆どが迷子のペット探しや家の手伝い、ドブさらいなど子供のお手伝いのような内容だ。

 しかも達成された時の報酬は大した額では無い。


 マジか……世の冒険者は皆、最初はこんな依頼を受けているのか。

 実家に行くとか、服を買うどころの騒ぎでは無い。下手すれば、マカでそれなりに長い事依頼をこなしていないと、まともなお金を稼ぐことすらままならない。

 軽く困り果てた俺は再び小本を読み返す。


 すると、


 「うん?……これは」

 「ミナト様、お待たせしました。プレートです」


 そこで受付嬢がプレートを持って、戻ってきた。

 俺は受付に戻って、まずはプレートを受け取る。プレートは鉄製で、表にミナト・Fランクと掘られている。

 プレートには輪っかがあり、首にかける物であった。


 俺はそれを首に通す。これで俺の首には、冒険者のプレートとウィルター様から貰った錬金道具がぶら下がっている。


 「ミナト様は新規登録ですので、プレートの発行にはお金はかかりません。ですが、無くされた場合、再度発行は銀貨一枚がかかります。お気をつけ下さい」

 「ありがとうございます。……あの、質問よろしいですか?」

 「はい、何でしょうか?」

 「渡された小本にはランクを上げるにあたり、Bランク以上の冒険者の推薦ならDランクに無条件でなることが出来るとありますが」

 「あ……はい。確かに……ございますが……それが何か?」


 それを聞いた俺はニッコリと受付嬢に笑う。




 この時、受付嬢レティアは嫌な予感がしていた。


 彼女はこのギルドに受付嬢として就任してから、二年ほど経った。

 その間にいろいろな冒険者を見てきたし、たくさんの新しい冒険者を登録してきた。


 それでも彼のような格好の子は見たこと無い。一瞬驚いてしまった。


 服は良い素材は使ってそうなのに継ぎ接ぎだらけ。

 なのに汚れが一つも無い真っ白なマントを着けている。なんか綺麗。


 不思議な少年だ。


 でも、しっかりと敬語も読み書きも出来るから、田舎の人では無さそう。


 それで話を戻すけど、彼はBランク以上の冒険者の推薦ならDランクになれることを確認した。

 そうであると、肯定すると彼はニッコリと私に笑う。


 え?何?怖いんだけど。


 そして次の彼の発言は意味不明。


 「ここにBランク以上の冒険者はいますか?」

 「へ?!え……えーと、あそこでお酒を飲んでいる体格の良い剣士のエウガーさんとその隣にいるローブを着た魔法使いのミットさんがBランク冒険者ですが……」


 咄嗟に聞かれたものだから、答えてしまった。

 受付嬢が冒険者の個人情報を伝えるのは禁止であるが、ランクと役職ぐらいは教えても大丈夫とは言え、それを聞いてどうするのか……。


 彼は私が示したBランク冒険者二人を見て、呟く。


 「あれがBランク冒険者……………弱そぅ」


 ん?聞き間違いかな?

 今、弱そぅ…て単語が聞こえたような。

 そう思ったのも束の間、彼はエウガーさんとミットさんに向けて歩き出してしまう。


 え?……え?…………えええええええ?!!!


 さっき感じた嫌な予感が当たった。

 これまさか…と唖然としつつ、少年を凝視する。


 「あなた方がBランク冒険者ですか?」

 「んん?何だぁ坊主ぅ?」

 「確かに私達はBランク冒険者ですが、それが何か?」


 少年の質問に、お酒で顔を赤くしたエウガーさんは怪訝な顔をして、ミットさんが丁寧に対応する。

 そのミットさんに、少年はこう言い出す。


 「俺をDランク冒険者に推薦してください」

 「「は?」」


 エウガーさんとミットさんは異口同音で疑問の声を出す。

 私も出しそうになったが、この状況を何となく予想していたので、口を手で塞いで声を出すのを止めた。


 私は頭を抱える。

 あちゃー、冒険者は十二歳から登録が出来る。そして冒険者に登録するのは大抵十二~十五歳の時。

 たまにいるんだよな。自身の力を過信しすぎてしまうイタい若者。


 Bランク冒険者二人の反応に、周りにいた多くの冒険者達の視線が少年に向く。

 ミットさんは正気に戻り、努めて冷静に、


 「えーと、良いですか…君。確かにBランク以上の冒険者はDランクへの推薦権がありますが、それはその人物がDランク冒険者に相応しい実力を持っていることが前提です」


 流石はミットさん少年の自信過剰な行動にも穏やかに対応。

 けれど、そんなミットさんの言葉に納得いかないのか、少年は怪訝な顔をする。


 「そう言うこったぁ、坊主。ランク上げたきゃ、コツコツ依頼こなすんだなぁ……」


 酔っ払ったエウガーさんも少年が相手ならと、大人の対応を見せる。

 これで引き下がるかなっと思った…………私が馬鹿だった。


 シュッ!!


 「がぁ?」

 「え?」

 「そうですか?少なくとも、あなた方は俺よりも弱そうですよ。現にこうして私はあなたを十回ほど殺せますよ」


 突然の少年の行動にエウガーさん、ミットさん、私そしてギルド中にいた人が騒然とする。


 何が起きたのかは私に分からない。

 気づいたら、少年はエウガーさんが腰に差している剣を奪い、それをエウガーさんの首筋に当てている。

 ミットさんは目が点、エウガーさんは酔いが覚めたのか顔色が戻っている。


 少しの間、エウガーさんは少年と自身の首に当てられた剣を交互に見て、深呼吸をした後、口を開く。


 「………なるほどな。坊主…おめぇさん強ぇな。……………すまん。酔っていたとは言え、俺の目が曇っていた」

 「じゃあDランク冒険者に……」

 「けど!」


 エウガーさんは声を大きくする。


 「俺もBランク冒険者の意地ってもんがある」


 そしてギルドの奥の方を親指で指さす。


 「このギルドの裏手には訓練所がある。そこで改めておめぇさんの実力を見てやろう」

 「良いですよ。………でも、相手をするのは貴方が良いですね」


 そうして少年が指名したのはミットさんだった。


 「え?わ、私?」

 「はい。俺は魔法使いなので、是非とも同じ魔法使いと対戦したいです」

 「ま、魔法使いだったんですか?!あの動きで?…………………わ、分かりました。私があなたの実力を見ましょう」

 「お、おい!俺は決めセリフはどうなるんだよ?!」


 トントン拍子で話が進み、こうして少年とミットさんとの訓練場での実力テストが行われようとした。

 

 「な、なぁ…何だか面白い事になりそうだぜ!」

 「あ、ああ。Bランク冒険者と大型新人との試合か。見物だな」

 「俺達も行ってみようぜ」


 他の冒険者も興味本位で彼らについていった。

 たちまちギルド内は無人と化す。









 「それでは少年……いえ、ミナト君。ここでやりましょう」

 「ええ、かまいませんよ。早く始めましょう」


 ギルドの奥にある訓練場に案内された俺の前にミットさんが相対している。


 周りを見渡すと、多くの野次馬。

 剣士のエウガーさんやさっきまでギルドにいた冒険者達………あ、俺の新規登録をした受付嬢までいる。


 正面を見ると、準備運動をしていたミットさんが杖を構える。

 さぁ…レイン様達を除いた五年ぶりの魔法使いとの試合だ。

 負けることなんてないが、気を引き締めておこう。


 「では、行きますよ。…………………………燃える火よ、火の鏃となって敵を穿て。〈ファイアアロー〉」

 「………」


 ミットさんから放たれたのは三級火魔法〈ファイアアロー〉。

 その名の通り、矢のような形状をした火を敵に撃ち込む技。

 それが俺目掛けて放たれる。


 「お、おい!アイツ、”詠唱”してないぞ!」

 「は?!どういうことだ?当たる!」


 野次馬がそんな事を言っている。

 はい?詠唱?そっちが何言ってんだ。

 俺に詠唱なんて必要ねぇよ。


 ズドンッ!!

 〈ファイアアロー〉が着弾する。

 それによって、煙が舞い上がる。


 「ミ、ミナト……君?」


 ミットは自身が詠唱しているのに、ミナトの方は詠唱していないことに違和感を覚えたが、気にせず魔法を打ってしまった。


 煙の向こうの彼がどうなっているのか固唾をのむ。

 煙………煙?!

 何故、煙が起こる?


 と思って煙を見ると、突如煙が晴れた。


 「〈ウォーター〉」


 そこには小さな水の球を浮かべたミナトがいた。

 そう…先ほど煙が上がったのは、ミナトが生成した水の球〈ウォーター〉に着弾し、水煙を上げたからだ。


 次の瞬間、ミナトは水の球を意のままに操る。


 「〈水分子操作〉」


 すると、浮かんでいた水の球が細長い形や四角い形、星形などに変形する。

 かつてレインがミナトに見せた技だ。


 「ぐっ?!も、燃え上がる炎よ、その灼熱をもって我らを守る赤き壁となれ。〈ファイアウォール〉」


 冒険者として培ってきた感が警鐘を鳴らしたのを感じたミットは二級火魔法〈ファイアウォール〉を発動。自身の最大防御魔法である。


 薄っぺらい壁だな。

 そう判断した俺は水の球を変形させて、攻撃魔法を放とうとする。


 それはミナトが使う魔法の中で最も使用頻度の高く、先生の魔法を模倣した魔法。

 ギガントジョーやウォーターパイソンを切り裂き、アイスウルフを両断したミナトの十八番。


 「〈水流斬〉」


 水の斬撃がミットを襲う。




ミットの運命は如何に?

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