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水の斬撃 VS 風の斬撃、再び




 俺とクラとの模擬戦は、初めは魔法戦だったが、途中で互いに高速移動魔法を使った近接戦に移行され、今は……、


 「〈エアショット〉」

 「〈放水〉」


 剣戟の間に打ち込まれた空気弾も、水の放出で打ち消す。


 「〈氷石〉」

 「〈風牙〉」


 〈氷刀〉をクラの剣に打ち込むと同時に、拳台の氷の塊を発射したが、獣の牙のような大きな風で弾かれる。


 「〈風刃〉」

 「〈アイスアロー〉」


 クラからの数十の風の刃を、俺は数十の氷の矢で迎え撃つ。


 「〈氷槍〉」

 「〈突風〉」


 俺からの氷の槍も、クラから放たれた強風を横から受け、軌道を逸らされることで、クラに当たることは無かった。


 このように、俺達は剣戟をしながら攻撃魔法を交えた近接戦闘になっている。

 高速移動だけでは決着を付けるのが難しいと判断したためだ。


 俺とクラは一旦、バックステップをして、距離を取る。


 俺は息を整えながら、クラを見る。


 「前より、剣の防御が巧くなってる」


 俺はぼそりと呟いたつもりだったが、耳がいいのか…クラには聞こえたらしい。


 「以前、ニナの件でミナトと剣で勝負した後に、お前が守りをもっと鍛えた方が良いぞと言ったんだろう。だから、防御面を意識をして剣を鍛え直した」

 「あ……ああ、言ってた……な。覚えてる、覚えてる」


 嘘です、言われるまで忘れてました。


 確かに、擬人だったニナを守るため、俺はクラと剣で勝負することになり、クラに勝った後にクラの剣に関してアドバイスみたいなことは言った。


 あの時はクラの常人離れした反射神経に対して、剣の技量、特に防御面が追いついていないと感じたからだ。


 あれからまだ一か月ほどしか経ってないぞ。


 剣という物は、魔法と同じく研鑽には時間がかかる。

 最高の剣士であるシズカ様から、剣を教えられた俺だから分かる。


 アドバイスがあったとはいえ、短期間でここまで巧くなるのか。


 元々、そこまでの潜在能力を秘めていたという事か。


 くそ!天才め!

 魔法だけでなく、剣もかよ。


 …………羨ましい。


 「剣が巧くなっただけじゃなくて、剣と魔法も同時に扱えてるな」


 魔法の発動には繊細さが求められる以上、魔法に意識が行くと、剣がブレる。


 これもニナの時に、クラとの剣の勝負で感じたことだが、魔法を使っている時の剣の動きよりも、魔法を使っていない時の剣の動きの方が剣に重さと速さが乗っていた。


 あの時のクラは持ち前の剣術を、魔法と生かし切れてなかった。

 だが、それも一か月で解消したか。


 まぁ…俺の場合、剣と魔法の両立は当たり前と言う理論の下、ウィルター様とシズカ様から修業を付けられたが。


 「ああ、剣と魔法の両立か。少し練習してみたが、意外と難しくなかったな」


 やっぱり、クラは正真正銘、天才だ。

 凡人の俺はつい、クラに嫉妬しそうになるが、今はその綺麗な顔に免じて許してやるか。


 クラの天才っぷりを考えて、凡才の俺が空しくなるだけなので、話題を変える。


 「それにしても、〈迅風〉だったか?マカの試合の時よりも、随分使いこなしてるな」


 下手すれば、俺の〈瞬泳〉と同等レベルで使いこなしている。

 マカの時から二ヶ月しか経ってないのに。


 「ミナトの……あの高速移動、〈瞬泳〉だったか。高速移動した後に、とても細かい水が空を漂うだろ?あれが良いヒントになった」

 「とても細かい水が…か?」


 俺は首を傾げる。


 「私はずっと自身に大きな強風を当てることで、高速移動が出来ると考えていたが、それは違った。ミナトの〈瞬泳〉を水の代わりに風で実行するように、無数の細かい風を体に当てることだった」


 そこで、俺は納得する。


 クラの言う通り、〈瞬泳〉の秘訣は極小の水の大量放出だ。

 一つではなく、無数の反作用によって、正確な高速移動を可能にしている。


 前のクラがやっていた大きな強風を当てる場合は、大きな反作用自体受けるが、その反面…制御が全く効かない。


 クラが少し唇の端を上げる。


 「悪いが、ミナトの魔法技術を目で盗ませてもらった」


 口では悪いと言っているが、全然悪そうには見えない。

 俺はムッとして、クラに言う。


 「そうか……じゃあ、代わりに〈旋風〉の秘訣も教えてくれ。あれ絶対、ただ風の刃を回転させてるだけじゃないだろ?」


 クラのオリジナル魔法である〈旋風〉は、俺の〈水流斬・乱〉すら弾かれた。

 あの魔法には、〈風刃〉が基になってる、それは間違いない。


 だけど、それだけでは威力で俺の〈水流斬〉に大きく劣る〈風刃〉を回転させただけで、あれほどの防御力を発揮できるとは思えない。


 俺が秘訣を教えろというと、クラは挑発的な笑みを浮かべる。


 「ミナトも、目で盗めば良いだろ?」

 「ぐっ?!才能差別反対!」

 「才能差別………そんな事、言ってもな」


 俺の反論に、クラは肩をすくめる。

 そして、一つ息を吐く。


 「分かった…………特別に、また見せてやろう」


 そう言って、クラはさらにバックステップをして、俺と距離を離す。

 俺は追ったりしない。


 宣言通り、あれが見れるからだ。


 クラは一つ深呼吸した後、彼女の体から大きく魔力が放出される。


 ヒュウウウ、ゴオオオオオ。

 大きく風切り音が聞こえてくる。


 クラから風が発生しているのだ。

 その風が変化する。


 その変化は主に三段階。


 一に…クラの周囲に風が舞い始め。

 二に…その風が彼女の周囲を回り、激しい渦を作り出す。

 三に…鋭い切れ味を帯びた風が半透明な螺旋の壁を形成する。


 「〈旋風〉」


 風のバリアの完成である。


 それは一言に、小さな竜巻。

 だが、圧倒的な魔力のうねりを感じる。


 生半可な魔法で無いことは、肌で伝わる。


 「〈水流斬〉」


 試しに大量の水を極限まで絞り、超高圧の水の斬撃が超音速で飛ぶ。


 しかし……ガンッ!!

 予想通り、水の斬撃は〈旋風〉に弾かれる。


 俺は〈旋風〉を見据える。

 見るのは、二度目だが、やはり多くの〈風刃〉が回転しているようにしか見えない。


 う~ん…何かタネがあるはずなんだけど。

 〈旋風〉は単調な魔力では無く、その都度魔力の形が変容していく。


 ………………あれ?

 何で魔力の形が変容しているんだ。


 前は〈旋風〉自体に気を取られて、疑問に思わなかったけど、改めて考えると少し変だ。


 俺は何となく思う。

 そこに〈旋風〉の圧倒的な防御力の秘訣があるのでは無いかと。


 〈旋風〉を破ること自体、前回同様に〈蒼之剣〉を使えば、可能だ。


 だが、折角クラが〈旋風〉を使ってくれている。

 〈蒼之剣〉で終わらせては意味がない。


 もっと良く〈旋風〉のことを知りたい。


 「試してみるか。〈水流斬・乱〉」


 数百の〈水流斬〉が乱雑に、〈旋風〉に向かう。


 ガガガガガガンッ!!!

 いずれも弾かれた。


 想定内だ。


 「〈水流斬・拡散〉」


 数百の〈水流斬〉が俺を中心に、放射状に放たれる。


 ガガガガガガンッ!!!

 いずれも弾かれた。


 これも想定内。


 〈旋風〉に、〈水流斬・乱〉や〈水流斬・拡散〉みたいな広範囲の攻撃は余り意味が無い。

 だったら、


 「〈水流斬・集中〉」


 水の斬撃が一列を成して、〈旋風〉の中央辺りを絶え間なく狙う。


 それは数百の水の斬撃を乱発する〈水流斬・乱〉や数百の水の斬撃を放射する〈水流斬・拡散〉とは違い、ただ狙った一点のみに集中的に〈水流斬〉を放つ派生技。


 一点に対し、数秒間に数百の〈水流斬〉が放たれる。

 水の斬撃による集中攻撃を受け、始めは弾かれ続ける〈水流斬〉であった………が。


 ガガガガッ!!!………ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!ガリ!


 徐々にではあるが、水の斬撃が押し始める。

 〈旋風〉による風の壁が揺らいでいく。


 「ぐっ?!〈華旋風〉」


 上空から見ると竜巻の花びらが広がるように、クラも負けじと〈旋風〉の範囲を広げ、〈水流斬〉を押し返そうとする。


 「飽和攻撃だ!〈氷石〉!〈アイスアロー〉!〈氷槍〉!〈氷翔槍〉!」


 俺は畳みかけるように、一気に飽和攻撃を繰り出す。


 数百の拳台の氷塊、数百の氷の矢、十本の氷の十文字槍、一本の螺旋する氷の大槍を〈水流斬・集中〉で狙っている場所へ放つ。


 「何て、手数だ!!」


 〈旋風〉内にいるクラは呆れた声で叫ぶ。


 遠くで見ていれば、〈旋風〉に向かって、太陽の光を反射して煌めく氷の投石や槍、矢を見ることが出来るだろう。


 水の斬撃の集中攻撃に加え、氷の集中攻撃を受け、〈旋風〉は大きく揺らぐ。


 傍目に見ても、風のバリアはかなり不安定だ。

 今がチャンス!


 俺は〈水流斬・集中〉による水の斬撃の集中攻撃を中断する。


 代わりに、俺は周囲に数百の超高圧された水を顕現させ、空中に留めておく。


 それらを全てを操って、一カ所に集める。

 数百の超高圧にされた水を一つに纏めたのだ。


 数百の〈水流斬〉が一つに纏まり、一個の巨大な水の斬撃を作る。


 それはまるで、巨大な刃のよう。


 〈水流斬〉で駄目なら、さらに大きい〈水流斬〉で斬るまで。


 「それは?!不味い!」


 クラも、この巨大な水の斬撃より感じ取る魔力から、脅威と捕らえた。

 だけど、もう遅い。


 俺は一気に、その巨大な水の刃を横一文字に振る。


 「〈水流斬・水剣〉」


 巨大な水の刃を右から左へ斬られた〈旋風〉は文字通り、真っ二つになる。


 それにより完全に〈旋風〉が機能を失ったのか、風のバリアは霧散する。

 霧散した〈旋風〉内のクラは……、


 「いない?!」


 解除された〈旋風〉の中にクラの姿は無かった。


 少しの間、〈旋風〉が解除された場所を見ていると、俺の危険察知の能力が咄嗟に反応する。


 脊髄反射で後ろに下がる。

 刹那、すぐ目の前に剣を振り下ろしたクラが振ってきた。


 「……決まったと思ったが」


 クラは残念そうにする。


 俺は〈氷刀〉を構え直す。


 「斬られる前に、〈旋風〉から離脱したのか?」

 「ミナトなら、また〈旋風〉を破ると思ってな。〈迅風〉を使って、上へ飛んで回避させて貰った」


 なるほど…大体十メートル以上はある〈旋風〉を高速移動魔法を使って、飛んで回避したか。


 それにしても結局、〈旋風〉の秘訣は探り出しきれなかった。

 まぁ…〈旋風〉に関しては、後で考えるか。


 今は……、


 「最後は純粋な剣での勝負といこうか」

 「それは助かる。私もかなり魔力を消費したからな」


 俺は〈氷刀〉を中段に構え、クラも剣を中段に構える。


 さっきまでは、二ヶ月前のマカでの試合の再戦だったが、今からはアルアダ山地でやった剣での勝負の再戦だ。




『人類が滅んだなんて、嘘だ』

https://ncode.syosetu.com/n3834ka/

宜しければ、こちらの短編もどうぞ。

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