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模擬戦

ミナト目線、第三者目線、クラ目線と視点が結構変わります。




 早朝に、水剣技流の基本技である「凪ノ型」の習得のための座禅を行った。


 そこから正午までは、水剣技流の剣技「水詠み」や「流流」の習得のための稽古をした。


 と言っても特別なことはしていない。

 剣術の基礎をリョナ家の剣士達に叩き込んだだけである。


 基本的な剣の斬り技…八種類の素振りを、丁寧に行っただけだ。


 真向切り、右袈裟切り、逆右袈裟切り、右一文字切り、左袈裟切り、逆左袈裟切り、左一文字切り、突き。


 全ての剣技は概ね、この八つの斬撃で構成される。

 これが完璧にできれば、理論上…ほぼ全ての剣技が習得可能になる。


 「剣を振り下ろすときは、ピタリと止めろ!素振りの際は、体感がぶれないように!剣術に置いて、上半身以上に下半身が重要だ!剣を持つ手は力み過ぎるな!無駄な力を使う!」


 イチカやフルオル、ナット、ドットなどのリョナ家の剣士達が木剣で素振りしているのを見ながら、俺は声掛けをする。


 この指導で手を抜くことは出来ない。


 何故なら、シズカ様より教えを受けた俺が別の者に水剣技流を指導するという事は、俺に指導された者の評価は俺、そしてシズカ様の評価に繋がる。


 俺の指導によって、剣士達が半端な水剣技流を身につければ、それは俺の指導が適切では無かった。

 引いては、シズカ様の指導が適切では無かった事になる。


 俺が指導するのを、ミーナとミルとクラがそれぞれ眺めていた。


 「ミナトって、意外と熱血系?」

 「指導が、とても様になっていますね」

 「昨日、イチカに魔法を教える際は…ゲンシやら、ブンシやら意味不明なことを言っていましたが、指導は的確ですね」


 ミーナは俺の指導姿勢に意外性を感じ、ミルは俺の指導を褒め、クラも何だかんだ褒めていた。




 正午になり、水剣技流の剣術指導が終わる。


 ずっと素振りをしていたせいか、剣士達は汗だくである。

 この程度の運動量で汗だくとは、持久力が致命的に足りないな。


 と思っていたら、一部のリョナ家の剣士達がこんなことを言い出した。


 「はぁ………きついな~」

 「本格的な水剣技流の稽古をすると聞いていたら……ただ座ってるだけと、素振りかよ」

 「ああ、こんなもの誰でも、出来るよな。てか、アクアライドの嫡男が指南役とか、マジかよ」


 俺は顔をしかめる。


 持久力以前の問題だった。

 剣術の基本である素振りに、疑問を抱くとは。


 確かに、素振りは本人からも他人からも地味に見える。

 だが、素振りする事には何よりも重要な理由がある。


 それは………、


 「貴方たち!指導されている身で、何たる非礼!」


 フルオルが俺の指導に疑問視する剣士達に、叱責をした。


 叱責された剣士達は顔を強ばらせるが、俺の指導に疑問視する態度に変化は無かった。


 フルオルの息子であるナットやドット、リョナ家の剣士達の半数ぐらいは、俺がワイバーンを単独撃破した姿などを目撃しているので、俺の強さは疑問視していない。


 しかし、一部の剣士達には、まだ俺の強さに懐疑的なようだ。


 う~ん…指導されている者のモチベーションが低いのは、問題だ。

 モチベーションが高いと低いとでは、稽古で得られる経験値が段違いだ。


 「どうすれば、モチベーションを上げられるか」


 俺が腕を組んで悩んでいると、


 「でしたら、クラと模擬戦をすれば良いのでは?」

 「え?」

 「はい?」


 唐突なミルの提案に、俺とクラは揃って、首を傾げる。


 「模擬戦…何のためにですか?」


 俺が聞くと、


 「Aランク冒険者であるクラと模擬戦をすることで、皆さんにミナトの力を示すのですよ。そうすれば、ここにいる皆さんはミナトの実力を認め、稽古に精を出してくれるのではないかと」

 「なるほど」


 ミルの提案には、一理ある。


 Aランク冒険者として、実力が認められているクラと戦えば、俺の実力がリョナ家の剣士達全員に認めさせることが出来るかもしれない。


 そう言うことなら、俺はクラに向き直る。


 「どうだ、クラ。俺と模擬戦をやるか?」


 クラは少し考える素振りを見せ、俺を見る。


 「いいだろう。私も…今の自分を実力を知りたい」


 クラは俺との模擬戦を了承する。


 「まぁ…私が言うのも何ですが、あくまで模擬戦です。勝敗を決するものでも無く、命の奪い合いでもありません。万が一、大怪我を負ったら、これからのピレルア山脈調査どころではありません。お互い、程々に」


 ミルが釘を刺す。


 こうして、俺とクラの模擬戦が決まった。




 ミナトとクラの模擬戦は、リョナ家の屋敷の庭では無く、アグアの街の城門から少し離れた場所を行われることになった。


 以前、ミナトとクラがマカで試合を行った際には、互いの魔法が多く飛び交っていた。

 戦った場所である訓練場の壁が、魔法を寄せ付けないバリアを張っていなければ、訓練場は崩壊していただろう。


 ………最後には、ミナトが〈蒼之剣〉という魔法で訓練場の壁を斬ったけど。


 この模擬戦は俺の実力を示すための物でもあるので、リョナ家の剣士達も全員、街の外に来させている。


 「そう言えば、クラが戦う姿なんて、私…見たこと無いです」

 「ふふ……ああ見えて、クラはとても強いんですよ」


 クラの幼馴染みであるミーナに対して、ミルは誇らしげに言う。


 「クラは魔法の才能や戦闘センスが、ずば抜けています。控えめに言っても、イチカちゃんと同じ天才側の人間です」

 「確かに、Aランク冒険者ですからね」


 ミーナの言葉に、ミルは小さく頭を横に振る。


 「それもありますが……初めてミナトと戦って負けた日から、クラは大きく変わりました。実力的にも、心情的にも」

 「ミナトに負けて、変わった?」

 「以前のクラは、殻に閉じこもると言いましょうか、心に余裕がありませんでした。しかし、今は丸くなったと言いましょうか。心にゆとりを持ち、前よりも堅実に強さを求めるようになりました」


 ミルとミーナは少し遠くで、ミナトと向き合うクラを眺める。


 「一度敗北した後、心を持ち直して、再び強くなろうとする天才というのは、往々にして奇才…もしくは鬼才と呼ばれます」


 ミルの言葉には、クラへの信頼と友情が大きく見受けられる。


 「そう言えば、ミルさんもAランク冒険者ですよね?」

 「そうですよ」

 「………クラと、どっちが強いのですか?」


 素朴な疑問だったのだろうが、そこまで言って、ミーナは口を噤む。

 流石に、王族相手に貴方と護衛、どっちが強いのかという質問は良くない。


 けれど、ミルの答えは呆気ないものだった。


 「クラが勝ちますね」


 その回答には、悔しさの欠片も無かった。


 「えっと…それは、クラは魔法と同じく、剣も出来るからですか?」


 ミナトが午前中に、リョナ家の剣士達に素振りの指導をしていると同じく、クラは持ち前の剣で素振りをしていたのを、ミーナは見ていた。


 その剣筋はとても鋭く…素人の剣筋で無いことは、直ぐに分かった。


 「それもありますが………そもそも私の使う魔法は基本的に、防御や敵の足止め、仲間の補助などがメインだからです」

 「攻撃魔法は使わないんですか?」

 「〈サンドアロー〉や〈岩槍〉は一応、使えますが……”そっち方面”は余り得意では無いです。………いろんな意味で」


 ミルとミーナが話している内に、ミナトとクラの模擬戦が始まろうとしていた。




 私とミナトは適切な距離を保って、向かい合っていた。


 何だか、マカの訓練場でミナトと試合をした時のことを思い出すな。


 「ミナト……言っておくが、手加減をするつもりは無い」

 「ああ、それで頼む」


 あの時と似たような言葉をミナトに言い、ミナトも言葉を返す。

 それによって、模擬戦が始まる。


 初手に、私が一枚の風の刃を出す。


 「〈風刃〉」


 私が最も得意な三級風魔法〈風刃〉が放たれる。


 結果は………カシュッ!

 何かが切れた音が出て、風の刃はミナトに届く直前に……消滅した。


 私は驚かない。


 「〈風刃〉」


 今度は数十枚の〈風刃〉を飛ばす。


 これも結果は………カシュッ!カシュッ!カシュッ!カシュッ!カシュッ!

 先程と同じく、何かが切れた音が何度も響き渡り、俺に向かった〈風刃〉は須く消滅した。


 やっぱり、私は驚かない。


 寧ろ、落ち着いてミナトを見据える。


 この状況…マカの訓練場でミナトと試合した際の、始めの戦況と殆ど同じだ。

 あの時も、私の〈風刃〉が悉く、消滅した。


 今なら分かる。

 私の〈風刃〉を消したのは、十中八九…ミナトの水の斬撃だ。


 目を凝らして、ミナトを見れば、〈風刃〉がミナトに当たる直前に、水の線が掻き消しているのが窺える。


 攻撃のために、水の斬撃を敵に飛ばすのでは無い。

 ミナトは自身に攻撃が来たら、その攻撃を迎撃する要領で周囲に、水の斬撃を適時発生させて、打ち消しているのだ。


 防御型の水の斬撃…と言ったところか。


 始めの戦況は、あの時と同じだが、違う事もある。

 私の心情だ。


 もうミナトを侮ったりしない。

 胸を借りるつもりで、本気で相手をする。


 来い、ミナト!




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