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イチカの魔法




 その日は夕方まで、イチカの魔法訓練は続いた。


 イチカは保有魔力量と魔力放出に、天性の才能があった。

 なので、その才能を活かすために、膨大な魔力を活かした魔法攻撃と魔法防御の習得に訓練を回した。


 イチカはグングンと魔法使いとしての才能を開花させていった。


 妹の目覚ましい成長に、俺も教え甲斐があった。


 最後に、俺とイチカは軽い魔法戦をすることになった。

 ………なお、この魔法戦が軽いかどうかは人による。


 「〈氷山〉」


 イチカが攻撃魔法を唱える。


 イチカの前に、身の丈を超える氷が生成される。

 縦横幅、共に三メートルほどの丸みを帯びた氷の塊だ。


 それが、かなりの速度で俺の方に飛んでくる。


 「〈氷壁〉」


 それに対して、俺は半透明の厚さ十センチ、縦二メートル、横一メートルの氷のプレートを構築する。


 刹那、重い音が響く。

 大きな氷塊が、氷の壁にぶつかった音だ。


 〈氷山〉が衝突した後の〈氷壁〉は少し凹んでおり、表面に少し亀裂が入っている。


 鋼と同等の強度を持った俺の氷が損傷している。

 俺は自分の氷の固さに自信があったつもりだが、とんでもない威力だ。


 しかも、魔法を今日初めて教わって、半日しか経っていないのだから、驚愕する。


 「〈氷山〉〈氷山〉〈氷山〉〈氷山〉〈氷山〉」


 イチカは続けて、五回魔法を行使する。

 さっき、〈氷壁〉で受け止めた大きな氷塊が五つ生成され、俺に向かって飛んでくる。


 「〈氷壁・五枚〉」


 俺は同じ氷の壁を五つ作り、〈氷山〉による攻撃を受け止める。


 「〈連続氷石〉」


 俺はイチカが生成した〈氷山〉の小型版…拳台の氷の塊を生成し、それをイチカへ数十発も連続で飛ばせる。


 前に、これをミーナが副団長をしている王国第七魔法団の団長に食わせ、気絶させた事がある。

 大の大人でも食らえば、気絶するほどの威力がある〈氷石〉が数十発。


 それに対して、イチカが防御魔法を展開する。


 「〈氷河〉」


 イチカの前に、一言で言うなら巨大な氷の壁が形成される。


 壁……とは言っても、俺の〈氷壁〉のように、きっちりとした直方体の氷のプレートではない。

 長い間、氷が敷き積もったような、高さ十メートル以上の断崖の城壁。


 この街アグアの城壁が霞むぐらい、大都市の城壁並だ。


 俺が放った〈連続氷石〉による数十発の氷の塊も、イチカの〈氷河〉の前に、悉く弾かれる。


 イチカの氷の壁は、些かも揺るがない。


 「〈氷槍〉」


 ならばと、俺は貫通力特化の攻撃魔法である氷の槍を五本、繰り出す。


 〈氷槍〉は硬い鱗を持ったワイバーンを容易に貫く威力を持つ。


 七歳の女の子に向けて良い魔法では無い……が。


 ガリッ!

 硬質な物が削れた音が聞こえる。


 五本の〈氷槍〉が、〈氷河〉に刺さった音だ。

 二メートル越えの〈氷槍〉が全て、刃先から一メートルで突き刺さって、止まっている。


 流石に、〈氷河〉には大きな亀裂が入るが、それでもまだ崩壊せずに、イチカの前に立ち塞がっている。

 驚くべき、イチカの氷の強度。


 俺は自身の氷の高度を上げるために、いろいろな工夫をしている。


 氷に込める魔力量を大きくさせるのは当然。


 それだけでなく、水分子同士の結合を高めたり、衝撃を分散するようにしたりなど、緻密な魔法制御と魔力操作と、ウィルター様から教わった物理学も取り入れて、硬度を上げている。


 しかし、イチカの〈氷山〉には、お世辞でも精密さの欠片も無い。


 全て俺を上回る保有魔力量に物を言わせて、大質量と高い強度を保った氷の塊を生成しているのだ。


 もう一度言うが、イチカは今日、初めて魔法を教わった。


 俺は改めて、思う。

 これが天才か。


 「〈大氷山〉」


 それは一つの巨大な氷の小山。

 イチカが、頭上に縦横幅三メートルよりも、さらに巨大な氷の塊を生成したのだ。


 〈氷山〉の数倍大きい〈大氷山〉は、ゆっくりと俺の頭上に移動して、次の瞬間には落下してきた。


 俺は迎撃する。


 「〈水流斬・拡散〉」


 最も得意な魔法である水の斬撃〈水流斬〉の派生技を使う。


 一斉に数百発以上の〈水流斬〉を対象に放つ〈水流斬・乱〉と違って、まるで対象からは水の斬撃が俺を中止にして蜘蛛の巣みたいに見えるように、水の斬撃を放射状に放つ攻撃魔法である。


 狙った一カ所を効果的に破壊する事に対し、役に立つ。


 イチカの生み出す氷は硬かったが、俺の超高圧・超高速の水の斬撃を放射状に受けた〈大氷山〉は、全体に隈無く裂け目が出来る。


 「〈水流貫〉」


 最後に仕上げに、〈大氷山〉の中心に目がけて、水の槍のごとく一点集中突破の攻撃を放つ。


 マカにいた時に、ホウリュウへのとどめとして頭を撃ち抜いた魔法は、亀裂だらけの〈大氷山〉もいとも容易く撃ち抜く。


 粉々に崩れ、落ちる氷の残骸を移動して避ける。


 軽い魔法戦は、ここで終了する。


 「うん、この辺で良いだろう」

 「あ、あ、ありがとう…お兄ちゃん!」


 イチカは初めての魔法戦で精神が疲れたのだろう、息を切らしていた。

 だが、表情は晴れやかだった。


 俺の妹の成長が誇らしく、少し唇の端が上がる。


 「今日は魔法の稽古だけだったが、明日の朝から早速、剣………水剣技流の稽古を始めるか」

 「分かった!私、頑張る!」


 そこで、俺の腹がグウウ……と、鳴る。


 「腹減ったな。明日の稽古に備えて、飯食って早めに寝るか」


 そして、またしても腹がグウウ……と、鳴るが、それは目の前の女の子からだった。


 「私もお腹空いちゃった」


 イチカは自分の腹に手を当てて、困ったように舌を出す。


 俺とイチカは似たもの同士でお互い笑い合う。




 そんな仲良く笑い合う二人を遠巻きに、クラとミーナ、そして…いつの間にか来ていたミルとフルオルが見ていた。


 「末恐ろしいな。なんて馬鹿げた魔力量と魔力放出だ。イチカの魔法は冒険者で言うなら、Bランク……いえ、Aランク冒険者でも充分通用するな」

 「こんな事、副団長の私が言っちゃ駄目だけど。イチカ一人だけで、王国第七魔法団が全滅するわ。〈氷河〉…だっけ?あの氷の城壁あるだけで、攻撃は私の一級魔法以外通用しないだろうし。〈氷山〉っていう、大きな氷の塊を何個も放たれたら、それだけで陣形の防御が破られそう」


 クラとミーナは戦慄気味の顔で、イチカを見ていた。


 「イチカちゃんが魔法を教わって半日だと、一体何人の人間が信じるでしょうか」

 「全くです。イチカに、ここまでの魔法の才があったとは。………やはり、アクアライドの血筋という事なのでしょうか」


 ミルの言葉に、フルオルが答える。


 使用人しては幼すぎると思っていた女の子は、実はミナトの腹違いの妹だったことも驚きだが、僅か半日で先程の目を見張る魔法戦が出来るまでになったのだ。


 言葉こそ違うが、四人ともイチカの魔法潜在力に驚愕し、若干の恐れを抱いていた。


 その話題に上がっている女の子を連れて、ミナトがこっちに来た。


 「フルオル殿、明日から俺はイチカに水剣技流を教えたいと思います」

 「イチカに水剣技流を………ですか?」

 「はい。そこでイチカだけで無く、リョナ家の剣士……今の水剣技流の剣士達にも、しっかりと水剣技流を教えたいと思います」

 「何と!」


 それはフルオルにとって、願ってもない提案だった。


 水剣技流は元々、アクアライド家の流派であったが、やがてアクアライド家の力が衰え、水剣技流はリョナ家に託された。


 託されたと……聞こえは良いが、水剣技流はリョナ家に渡ったときには、水剣技流を高い水準で納めている者は誰もいなく、既に落ちぶれ剣術と呼ばれ…リョナ家を他の貴族達は揶揄してきた。


 フルオルは悔しかった。

 水剣技流と自家が馬鹿にされている現状に。


 一週間ほど前に、マカの領主であるヴィルパーレ辺境伯から伝承鳩で、ミナトの事と彼に圧倒的な実力がある事を知らされた。


 実際に、この目でミナトと水剣技流の剣士達の戦闘を見たが、あれは戦闘では無く、ミナトが手加減した上で一方的に剣士達を叩きのめしていた。


 だから、フルオルはミナトにリョナ家である自身の剣士達を鍛えて欲しいと依頼した。


 「前に頼まれていた剣士達を鍛えて欲しいという依頼、受けようと思います」


 それを聞いて、フルオルは頭を上げる。


 「依頼を引き受けていただき、ありがとうございます」

 「フルオル殿には、アグアに来てから、いろいろと便宜を図って貰ったり、お世話になったこともあります。それを少しでも、お返しできれば、幸いです」


 俺はもう貴族ではなく、アクアライド家ではない。


 だが、水剣技流はシズカ様が創設した剣術。

 それをしっかりと別の者を受け継がせるのも、シズカ様の弟子としての使命のはずだ。


 話はこれで終わりと思った、その時。


 バッ!

 俺に向かって、いきなり膝を折り曲げて、頭を下げる…つまり、土下座をしてくる者がいた。


 その者は紫髪のツインテールの火魔法使い。


 「ミナト、お願い!私にも魔法を教えて!」


 それはミーナだった。




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