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閑話 水剣聖の始まり




 それは、今から千年前の事。


 エスパル王国に、氷の魔法を使う一人の少女がいた。


 少女の生まれた家は、王国の者なら誰でも知っている水魔法の貴族家であり、少女の父親と祖父は王国…いや、ヨーロアル諸国で知らない者はいない程、有名な水魔法使いだった。


 少女はお転婆な女の子で、貴族家の屋敷中を走り回ったり、使用人達に悪戯をしていた。


 少女は同い年の者と比べて、体がとても大きく、力も驚くほど強かった。


 それは、少女の母親が特殊な種族であったからだ。


 元々、魔物と分類されていた種族だったのだが、少女の父親や母親、彼女の祖父の尽力もあって、他種族として認められた。


 少女は物心付いたときから、魔法を使うことよりも剣を振るのが好きだった。

 朝起きて、日が沈むまで、剣を振り続けた。


 少女はある日、住んでいる街から抜けだし、街の近くにある山々へ行った。


 その山々は沢山の魔物がいるので、ずっと前に父親から行ってはいけないと言われていた場所だったが、少女は好奇心に勝つことが出来ず、剣を持ったまま行ってしまった。


 山々にいた魔物は少女にとって、大した相手ではなかった。


 生まれ持った種族特性によって、規格外の膂力や握力、強靱さを持った少女が剣を振るえば、魔物は簡単に両断されていった。


 そうして、山々のずっと奥へ奥へ進んでいく内に、少女は出くわした。


 体の大きい少女でも、見上げる程…巨大な人間に。

 それは『巨人』だった。


 十数メートルの身長を持った巨大な種族。


 その巨人は強かった。

 少女の膂力でも太刀打ちできない膂力を持っていた。


 少女は生まれて初めて、恐怖で足がすくんだ。

 そして、泣きじゃくることしか出来なくなった。


 巨人の手にあった巨大な剣が少女を切り裂こうとしていた、その時。


 少女の前に、見慣れない服を着て、見慣れない剣を持った者が現れる。


 服は一枚の布を織り込んだような見た目であり、剣は刀身が長さに対して、細く…特徴的なのは反りがあることだった。


 だが、もっと特徴的なのは、その者の眼は金色に輝き、皮膚には鱗があった。


 その者は巨人を圧倒した。


 人間の大人程度の身長しか無い、その者は巨人の振り下ろされる剣を、剣で受け流し、返す刃で巨人を斬った。


 先程まで感じていた恐怖を忘れ、少女はその者の洗練された剣技に見惚れた。


 剣を振り下ろす姿は、赤く燃え盛る火炎のごとく、巨人の攻撃を微動だにせず受け止める姿は、身を焼かす灼熱の様に。

 それは『火』を体現した剣。


 巨人の攻撃を受け流す姿は、流麗な流水のごとく、無駄一つ無い身のこなしは、波一つ無い凪の様に。

 それは『水』を体現した剣。


 その者の剣は、火と水の舞踏。


 少女は気づいた、自身に足りないのは、水を体現した剣であると。


 瞬く間に、巨人を倒した…その者に少女は懇願した。

 剣を教えて欲しいと。


 懇願もあってか、その者は少女に剣を教えた。


 少女はその者を師匠と敬称した。

 少女は、師が使っていた剣の技………水の剣を会得しようと努力した。


 師匠との剣の稽古を、少女は楽しんでいた。


 しかし、少女が師から剣を学ぶ時間は長くは無かった。

 師は王国を離れなければ行けなくなったのだ。


 そして、別れる時…師は少女に自身の剣を渡した。


 師と別れた後も、少女は剣を鍛え続けた。


 少女は成長し、新しい剣術を編み出した。


 その剣術は後に、『水剣技流』と呼ばれ、少女はいつしか『水剣聖』と呼ばれた。









 時は経ち、千年後。

 「水之世」の最下層、墓地にて。


 「それが水剣聖………シズカ様の始まりですか」

 「そうでござる。師匠から剣を学んだのが始まりでござる」


 死んで、英霊となったシズカ様は自身の子孫であるミナトに、自身の昔話を語っていた。


 「師匠………シズカ様に剣を教えた人は何者なんですか?」

 「”人”では無いでござる」

 「え?人では……無い」

 「あれは『竜人』。人と竜の間に生を受けた種族」


 ミナトは竜人と聞いて、首を傾げる。

 聞いたこと無い種族のようだ。


 「師匠は、エスパル王国から遙か東方に存在する国…極東の地の島国から来たらしいでござった」

 「へえ~極東の地の島国…………ん?」


 何かに気づいたみたいに、ミナトがシズカ様…その腰に差してある剣を見る。


 ご名答とばかりに、シズカ様は腰に差してある剣を抜いて、ミナトに見せる。


 「その通りでござる、ミナト殿。この剣…『刀』も極東の地の島国特有の剣。師匠が巨人を倒す時に来ていた服も『着物』と言って、その島は大陸と海で隔離されていた故、独特の文化や道具、仕来りがあるでござる」


 シズカ様は自分の口を指さす。


 「この拙者の”口調”も極東の地の島国…もっと言うと、師匠由来でござる」


 ミナトは納得する。

 シズカ様の変な…………特徴的な喋り方は、極東の地の島国から来た師匠譲りと言う訳か。


 「という事は、シズカ様の師匠から貰った剣と言うのは」

 「無論、刀。あ!拙者の愛刀『氷鬼丸』では無いでござる。拙者が師匠から渡された刀は丁度、ミナト殿が稽古で使っている〈氷刀〉と同じぐらいの形状と長さでござった」


 シズカ様がいつも腰に刺す刀『氷鬼丸』は、シズカ様の百九十センチという超長身に合わせて、作られた所謂…大太刀に分類される刀らしい。


 「じゃあ、シズカ様の師匠から貰った刀は今、何処に?」

 「娘のナイルにやったでござる」

 「ああ!四代目アクアライド家当主、ナイル・アクアライド様ですね!」


 シズカ様には、三人の娘がおり、その内の長女であるナイルが刀を受け継いだらしい。


 「まぁ…とは言っても、ナイルも刀は自分に合っていないと言って、長剣を使っていたでござったが」


 その時のミナトは密かに思った。

 出来ることなら、その刀を自分の武器にしたいと。




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