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閑話 腕相撲④




 「負けちまった。だけど、実は食えるな」


 一位であるミラン、二位であるエウガーの順に皿の上にあるミラクルフルーツを取る。


 「私はこの大きいやつを貰うぞ」

 「じゃあ、俺はこれかな」


 残るミラクルフルーツは一つ。


 直前のミランの元パーティである魔団の話題で脱線していたが、この腕相撲の試合には三位決勝戦がある。


 三位以内になれば、ミラクルフルーツを食べられる。


 俺の対戦相手は勿論、クラル。


 俺とクラルは向き合い、腕を組む。

 クラルは気を効かせてくれたのか、普段着けている手甲は外している。


 クラルの手を握った際、彼女の柔らかく温かい手に、思わずドキッとした。


 クラルは風魔法と剣の両方を扱うので、手のひらには剣ダコがあるが、女性と言うのもあって、しなやかな手だった。


 向き合った時に、至近距離にクラルの綺麗な顔があって、またもやドキッとしてしまった。

 …………何してんだ、俺は。


 「……………変な事を考えていないか、ミナト?」

 「か、考えてねえし!!」


 そうこうしている内に、開始の合図が出された。


 クラルは女性とは思えないぐらい背が高く、腕力も強かった。

 はっきり言って、俺と同程度の腕力だ。


 だが、このまま俺は全身の魔力を滾らせれば、勝てそうだ。


 悪いが、クラル……勝たせてもらう。


 「おう、ミナト!想い人に花ぐらい持たせろ!」


 エウガーのやじが飛ぶ。


 「はっ?!ち、違う!」


 想い人と言う単語に、咄嗟に反応した俺は大声で否定する。

 だから、クラルとは…そんなじゃない!


 「はっ!」

 「あ?!」


 けれど、そのせいで腕に力が緩んでしまいクラルの腕が俺の腕を台に押し付ける。

 クラルの勝ちになった。






 クラルはミルの代理であったので、最後の実を取り、ミルに渡す。


 「ミル様、どうぞ」

 「ありがとうございます」


 空っぽの皿を、俺は無表情で見ていた。

 そんな俺をチラリと見るクラル。


 クラルはため息をつく。


 「はぁ…ミナト、そんなに実が食べたかったか?」

 「………うん」

 「そ、そんなにガッカリするのか?」


 素直に頷いた俺に、クラルは少し戸惑う。


 クラルは数回、ミラクルフルーツと俺とを視線で行き来する。


 そんな俺とクラルの様子を見て、ミルは、


 「クラル、この実は貴方の好きにしてください」

 「え…良いのですか?ミル様が食べたかったのでは?」

 「ミラクルフルーツの味は気になりますが、それは私がいずれ南にある砂漠の大陸に直接行って、食べようと思います」

 「ありがとうございます」


 クラルはミルに感謝を述べ、俺に行き、実を差し出す。


 「へ?」

 「これをやるから元気出せ」

 「い、良いのか?!」

 「エルダートレントの実のお礼だ」


 そこで、俺は思い出す。


 そう言えば、トレントの森からマカに戻る際に、トレントの解体作業をしていたクラルに、エルダートレントの実をやった事がある。


 「ありがとう」


 俺はお礼を言って、ミラクルフルーツをクラルから受け取り、口の中に運ぶ。


 その味は…………何とも無かった。

 若干、甘いが…それだけ。


 食べると凄いことが起きるとヴィルパーレは言っていたが、何も起きなかった。


 俺も味覚が可笑しいのかと思い、同じ実を食べたであろうミランとエウガーを見る。


 「何だ…大して美味くもない」

 「酒のつまみには、なるか?」


 二人とも首を傾げている。

 どうやら、二人も同じ感想なようだ。


 そこで、エウガーが酒を煽ると、


 「っ?!何だこりゃ!酒が甘い!」


 酒を飲んだエウガーが驚く。


 「お!確かに甘くなってるな!」


 続いて、酒を飲んだミランも驚く。


 俺も試しに酒を煽る。

 エスパル王国では、十五歳になると酒を飲んで良い事になっている。


 ゴク………お!甘い!

 この酒は以前飲んだことがあり、苦みと酸っぱさが混じった味なのだが、甘い味に変化している。


 「なるほど。食べると凄いことが起きるとは、これの事か?苦味と酸味が甘味に変わる果実だったと言うことか」


 ヴィルパーレが顎に手を当て、興味深げに考え込む。


 ゴク…ゴク…ゴク…。

 俺は酒が甘くなっている現象が面白く、つい酒を一気飲みしていた。




 数分後。


 「あははは~~!!あひゃあああ~~!!」


 俺は完全に酔っ払った。

 顔を真っ赤にして、千鳥足を取っている。


 「ミナトがまた酔っ払っている」

 「酒弱いからな、ミナト」

 「………」


 ブルズエル、ウルド、クリンズが困ったように俺を見ていた。

 「銀山」のメンバーは以前、俺と共に食事をした際に、俺が酒に弱いことを知っていた。


 「うへええ~~!!クぅラぁルぅぅぅ~~!!」

 「お、お前?!くっ付くな!!」


 酔って、正気では無くなった俺はクラルに絡んでいた。


 「クンクンクン………良い匂い」

 「はぁ?!」




 後に、クラルに抱きつきながら匂いを嗅いでいた俺の様子をブルズエル達から聞いた時、俺は自身の顔が真っ赤になるのを感じた。




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