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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第五章 水の都アグア

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閑話 腕相撲②




 腕相撲はトーナメント方式。

 一位、二位、三位の順で、好きなミラクルフルーツを一つ取る。


 対戦相手は、俺・ブルズエル・ウルド・クリンズ・エウガー・ミット・ミラン・クラルの八人。

 すなわち、三回勝てば一位だ。


 因みに、クラルがいるのはミルの代理だ。


 「すみません、クラル。本当は私がやるべきことなのですが」

 「いえ、ご心配なく。それに、こう見えて力に自信はありますから」


 クラルは腕を曲げて強調する。


 ミラクルフルーツを食べたかっていたミルの代わりに、護衛のクラルが出る事になった。

 確かに、言ってなんだが、ミルは腕相撲が強そうには見えない。


 それぞれの対戦相手はくじで決める。


 腕相撲の試合台は俺の氷で作った。


 さて…第一回戦の対戦表は、俺とウルド、クリンズとエウガー、ブルズエルとクラル、ミットとミラン。


 「お手柔らかに、ウルドさん」

 「一回戦がミナトか。腕力には自信があるんだが、本気で行くぞ」


 最初の試合で、俺とウルドが試合台にそれぞれの右腕の肘を置いて、手を組む。


 「始め!」


 開始の合図と審判は、ヴィルパーレにやってもらった。


 開始の合図と同時に、組んでいるウルドの右腕の甲を台に付けるために、俺は右腕に力を込める。


 途端に俺の右腕へ、逆方向に相当な力が掛かる。


 「む!」


 強い!素直に、そう思った。


 ウルドはとてもガタイが良い。

 Bランク冒険者、それも重鎧を着用した盾使いだ。

 見た目通り、腕力が強かった。


 だが、


 「ふんっ!」

 「うわ?!」


 全身の魔力を滾らせ、ウルドの腕の甲を台に押し付けた。

 俺の勝ちだ。


 ウルドは額に手を当てる。


 「マジか…………強ぇとは思ってたけどよ、ここまでとは。ミナト、今からでも魔法使いから盾使いに転職するか?」

 「はは、考えときます」


 ウルドの冗談を流した俺は右肩を回す。


 疲れてはいない。

 これなら、後…二連戦行ける。


 次の試合であるエウガーとクリンズの対戦は一方的だった。


 「どりゃあ!」

 「……っ?!」


 熊のごとき体格のエウガーがクリンズの腕を勢いよく台に押し付けた。

 普段は無表情のクリンズも渋い顔を取って、腕をさすっている。


 二回戦目はエウガーの勝ちだった。


 次の試合はブルズエルとクラルだった。


 ブルズエルはBランク冒険者であり、クラルはAランク冒険者パーティである。

 お互い剣は使うが、男女の筋力差は言うまでもない。


 ブルズエルが勝つのかなと一瞬思ったが、俺は思い出す。


 前にクラルと剣で戦った時、クラルの剣の重みは細腕からは想像できない程、力強かった。


 もしかしてと思っていると、


 「はっ!!」

 「な?!」


 クラルの気合の入った声が響き、ブルズエルの腕を台に押し付ける。


 三回戦目はクラルの勝ちであった。


 ブルズエルはAランク冒険者とは言え、女であるクラルに腕力で負けたことに少し落ち込んでいた。

 …………ドンマイ。


 それにしても、純粋な剣士相手に腕力で勝つなんて、クラルって……意外と筋肉女………。


 ギロッ!

 俺が失礼な事を考えたせいか、クラルが凄い形相で俺を睨んできた。


 俺は瞬時に目を逸らす。


 次の試合は、ミットとミランだったが、


 「くう!!てりゃあ!!そりょあ!!」

 「お前………魔法使いとは言え、腕力無さすぎだろ」


 ミットが歯を噛みしめて、変な声を上げながら、ミランの腕を動かそうとするが、ピクリとも動かなかった。


 典型的な魔法使いらしい痩せ細った体格であるミットが、堂々たる体躯を持った身長百八十センチのミランに腕相撲で挑むのは無謀過ぎた。


 当然、四回戦目はミランの勝ちだった。


 何と言うか勝負になるとか、そんな話では無く、子供と大人の試合だったな。


 こうして勝ち残ったのは、俺とエウガーとクラルとミランである。


 五回戦目である俺とエウガーが台の上で、腕を組んで向き合う。


 「ウルドとの腕相撲、見てたぜ。魔法使いのくせに、とんでもないパワーだな」

 「エウガーさん…魔法使いだから、体を鍛えなくていいというのは時代遅れですよ」


 エウガーは俺の言葉を聞いて笑ったが、視界の端ではミットが俺の言葉を聞いた時、頬を若干引きつらせていた。


 ヴィルパーレによる開始の合図が出された瞬間に、俺は腕に力を込めた。


 すると、


 「くっ?!」

 「お?!」


 俺とエウガーが小さく声を出す。


 腕力は完全に互角だった。

 だから、決着をつけようと、全身の魔力を滾らせ、力を全力で出す。


 動く、エウガーの腕。


 「おお!負けるか!」


 しかし、負けじとエウガーも力を込める。


 暫く、俺とエウガーの腕相撲は拮抗した。


 「はぁはぁ」


 二分間の拮抗で、エウガーは少し息切れをしていた。


 力も初めより弱まってきている。

 腕に疲労が溜まってきたのだろう。


 俺も腕がしびれ始めたが、持久力には自信がある。

 このままエウガーのスタミナ切れを待って、押し切るか。


 そう思っていたら、


 「ゴク…ゴク…ゴク…」

 「ん?」


 俺はエウガーの行動に首を傾げる。


 右手で俺と腕相撲している最中、左手でずっと持っていた酒を腕相撲しながら、器用に伸び出したのだ。


 腕相撲中に酒とは…………本当にこの人は酒が好きなんだろうなと思っていると、


 「回復!おりゃああああ!!」

 「はぁ?!ちょっ?!」


 さっきまで弱まりっつあったエウガーの腕力が戻り、俺の腕を押し始めた。


 俺はずっとエウガーと腕相撲していたので、若干の疲労が腕に溜まっていた。


 それが差に出たのか。

 俺の腕は台に押し付けられた。


 「よっしゃあ!ミナトに勝ったぁぁ!!」

 「ま、負けた」


 五回戦目はエウガーの勝ちだった。


 俺は悔しさで地面に両手をつく。

 まさか、腕力で負けるとは。




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