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閑話 腕相撲①




 これはマカが大量のトレントやホウリュウに襲撃された日の出来事である。


 マカの領主であるヴィルパーレ・トレル辺境伯から、街を守ってくれた事に対する報酬を聞かれた際、ミナトが食事を願望した時の事。









 「くぅぅ、うめぇ!!」


 俺は出されている料理を口に運び、舌を巻く。

 一仕事終えたときの飯は、格別に美味い。


 辺境伯の屋敷に庭に設置されたいくつかあのテーブルの上に、様々な料理が置かれており、どれも美味い。

 これらの料理は辺境伯お抱えのコック達が作ったとか。


 ヴィルパーレ辺境伯は美食家なのかな。


 俺は周りを見る。

 ここには、俺以外にマカの防衛に大きく貢献したBランク冒険者パーティの「銀山」と「双酒」、Aランク冒険者のクラルとミル、そしてマカの冒険者ギルド長のミランがいる。


 皆んな、思い思いに料理を口にしていた。


 出された料理は殆どが魚料理。


 マカは「入り江の街」と言われているが、それと同時に「魚の街」とも言われている。


 マカは豊富な水産資源を有しているからだ。

 漁業が盛んであり、毎日漁船が入り江から出ている。


 入り江から少し行った先の海域やさらに遠くの海域まで行って、釣りや網を使って魚や貝を捕る。


 前に俺は、サザエを捕りに海に潜ったことがある。

 入り江から珊瑚礁のある海域には、種々様々な魚がいた。


 マカの近海には、その先の大陸棚や、さらにその先の海域にも沢山の魚がいるとか。


 捕れた魚は入り江の海岸に出ている多くの屋台や町の中の料理店に卸されている。

 また、それでも魚は余るので、マカ以外の主要な町に商人経由で、運搬しているらしい。


 マカには「水之世」というダンジョンがあるが、マカにとって…それは付録。

 マカはまさに魚によって、発展した街とも言える。


 レイン様の墓である「水之世」がおまけ扱いなのは、少しムカつくが、この美味な魚料理を前にすれば、怒る気力が薄れる。


 特に美味いのは、この「パエリア」という料理。


 パエリア鍋という広くて底が浅く両端に取っ手がある特殊なフライパンを使用して、魚は勿論のこと、米や野菜、肉を入れて炒める。


 隠し味として、サフランという紫色の花から採れる赤い雌しべを乾燥させ、調味料にした物を加える。


 使われる魚は、白身魚やタコ、イか、貝、エビなど…とにかく魚を沢山ぶっ込んだ感じだ。


 パエリアは、エスパル王国に広く浸透した国民的料理であり、このマカにはパエリア専門店が数多くある。


 因みに、パエリアを炊く人のことを、男ならパエジェーロ、女ならパエジェーラという。




 そうして…出された料理を食べ、腹もすっかり満たされてきたところだった。


 「そうだ。とっておきのデザートがあったのを思い出した」


 何かを思い出した様子の辺境伯のヴィルパーレが言う。

 そして、近くにいる一人の使用人に指示を出す。


 使用人は屋敷に中に行った。

 数分後、その使用人がまた戻ってきた。


 使用人が手に小さい皿を持ち、庭の真ん中にあるテーブルの中央に置く。


 俺が気になって見てみると、皿の上には指の先程度のサイズの赤い果実らしきものが三つ置かれていた。


 気づけば、「銀山」と「双酒」のメンバーやクラル、ミルも興味深く見ていた。


 「これはマカから海を渡って、南にある砂漠の大陸から仕入れた物だ」


 ヴィルパーレが説明する。


 「とても消極的だが、マカは砂漠の大陸にいる商人と取引をしていてね。偶にエスパル王国では手に入らない珍しい物を持ってくるんだ。この果実もその一つ」


 ヴィルパーレは皿から果実を一つ取って、眺める。


 「確か、名前は………ミラクルフルーツだったか」

 「ミ、ミラクルフルーツ?!」


 何だ、その神秘的な名前は。

 つい…俺は驚いて、大きな声を出した。


 「何でも商人曰く、食べると凄いことが起きるとか」

 「「「おお~!!」」」


 俺だけでなく、周囲にいた人達もそれを聞いて、歓声を上げる。


 食べると凄いことが起きるって、何だ?

 早速食べてみよう。


 そう思って、皿の上にあるミラクルフルーツに手を伸ばすと…………手を伸ばしたものが複数いた。


 「お、おい!お前らもこれが食べたいのか?」

 「ブルズエル、お前も食べたいんじゃねぇかよ!」

 「………」


 「銀山」のメンバーであるブルズエル、ウルド、クリンズの全員がミラクルフルーツを前に睨み合う。


 「酒のつまみに丁度良さそうだな」

 「食べると凄いことが起きる。気になりすぎます」


 「双酒」の二人、エウガーとミットも食べたいようだ。


 「ちっ!三つしか無いってのに」


 ミランが舌打ちをする。


 「私……フルーツ大好きで」


 ミルが控えめに言う。


 どうやら俺と同じく、皆んなミラクルフルーツが食べたいようだ。


 しかし、困った。

 皿の上には、ミラクルフルーツが三つしかない。


 果実自体もとても小さいので、切り分けるという事も現実的ではない。


 つまり、食べられる人は三人だけで、全員は食べられない。


 俺達はしばしば話し合った末、このような結論に辿り着く。


 「「「腕相撲だ!」」」


 腕相撲で一番目、二番目、三番目に強かった人が食べる権利を得るという事に。




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