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イチカ




 私はイチカ。

 

 娼婦の娘。

 娼婦と言うのは、娼館で働く女性で、男の人と男女の営みをする人のこと。


 私はその過程で生まれてきた子。


 お母さんは赤い髪に赤目の綺麗な人だった。

 お父さんは定期的に娼館に来るボサボサ頭の男の人だった。


 お母さんは頭が良くて、私にいろんな物を教えてくれた。


 お父さんは頻繁には会えないけど、私に会うといつも喜んでくれる。

 けど、いつの間にかお父さんは来なくなった。


 私、嫌われちゃったのかな?


 生まれた環境が特殊なせいもあったのか、私は早熟だとよく言われる。


 お母さんは一年前に病気で死んじゃった。


 泣いた。

 とても泣いた。

 私はまだ六歳だけど、生まれてから一番長く泣いた。


 自分の肉親がこの世から一人消えるというのが、こんなに心を抉るなんて。


 でも、死んじゃう前に、お母さんは私のお父さんのことを教えてくれた。


 私のお父さんは何と、この街の領主らしい。

 しかも、千年前にレインと呼ばれる水神と呼ばれた凄い水魔法使いの子孫なのだそうだ。


 あんな人が凄い魔法使いの子孫?


 ………………そう言えば、お母さんは何でそんなことを知っていたんだろう?


 お父さんの影響なのか、私は魔法が使えた。

 氷の魔法だ。


 物心付く前から、魔法が使えた。

 誰からも教わってないけど、どうしてだか、何となく魔法の使い方が分かった。


 それと氷の魔法とは別に、私には”もう一つの魔法”が使えるような気がする。


 体の中に、氷の魔法で使う力とは、違った力が流れている感覚がするから。


 お母さんが死んでから少し経って、領主様が私がいる娼館を尋ねた。


 私のお父さんが来た………………と思っていたら、違った。

 フルオル様と言って、新しい領主様だった。


 その人が言うには、領主だった私のお父さんは悪い事をして捕まったと。

 お父さんに会えないと思うと、とても残念。


 何と領主様は私が屋敷で使用人として、働くように言ってきた。


 こうして私は屋敷で働くようになった。

 始めは不慣れで、失敗することが多かった


 私が幼くて、娼館から来たという事から、私以外の多くの使用人の人達が私を嫌った。


 けど、マリさん…て言う年上のお姉さんが親切に助けてくれた。


 そして、マリさんから私は聞かされた。


 フルオル様の前の、この屋敷のかつての領主であった人の名前はペドロ様言う名前であり、落第貴族と言われているアクアライド家の当主であったと。


 お父さんには一人息子がいて、名前をミナトと。

 ミナト……私のお兄ちゃん。


 会いたいと思ったけど、お兄ちゃんは数年前に、ダンジョンで行方不明になったそうだ。


 マリさんはお兄ちゃんの専属使用人だったらしく、お兄ちゃんについて教えてくれた。


 お兄ちゃんは黒髪黒目で、気弱だけど、優しい人である事。

 アクアライド家の初代当主であるレイン・アクアライド、二代目当主であるウィルター・アクアライド、三代目当主であるシズカ・アクアライドを深く尊敬していた事。

 偶に突発的な行動を取る事。


 お兄ちゃんの話を聞いていると、やっぱりお兄ちゃんに会いたくなってくる。


 そんなこんなで屋敷に働いてから、一年が経過した。


 ある日、庭の雑草取りをしていたら、門の前で門衛をしていたドット様と誰かが揉めているのを見かけた。


 白いマントを着た黒目黒髪の男の人。


 私はその人を見て、体が震えた。

 ずっと会いたかった人に会えたような感覚を覚える。


 何故か、直感的にその人が私のお兄ちゃんだと思った。

 そして、直感通り私のお兄ちゃんだった。


 私は自分が実の妹であると、何度かお兄ちゃんに言おうとした。

 でも、私は結局…血が半分しか繋がってない娼婦の娘だから、嫌われたらどうしようと怖じ気づいてしまっていた。


 そして、なんやかんやでマリさんがアクアライド家を貶めていた人物であると発覚し、王都からきた魔法団の人達とお兄ちゃんが喧嘩し合って………………お父さんが死んだ。


 お母さんが死んだときのように、たくさん泣いた。


 だけど、お母さんの時ほど涙は出なかった。

 だって、最後の肉親であるお兄ちゃんが、まだいるから。


 お兄ちゃんは死んだ目をしていた。


 お兄ちゃんはとても強いけど、心はそこまで強くなかった。

 お父さんが死んだ悲しみで塞ぎ込んだのだ。


 だから、私ができる限りお兄ちゃんの側にいるようにした。


 三日経つと、お兄ちゃんは何とか持ち直してくれた。


 しかも、この街に来た茶色いローブの女の人…ミルという人はこの国の王族で、お兄ちゃんはその人の護衛になったのだ。


 顔を見せて貰ったけど、すっごく綺麗だった。

 あんなに綺麗なら隠す必要無いのに。


 同じ護衛の黒髪の赤目の騎士さん…クラという人も美人さんだった。


 何だか…お兄ちゃんの様子から美人の騎士さんに気があるみたい。

 もしかして………クラさんの事、好きなのかな?

 良い匂いするし。


 でも、お兄ちゃん…この街からいずれ出て行くんだ。


 凄く凄く寂しい。

 お兄ちゃんとずっと一緒にいたい。

 お兄ちゃんから離れたくない。


 そう思っていたら、領主様は私がお兄ちゃんの妹だと明かした。


 心臓が止まりそうになった。

 お兄ちゃんの嫌われるんじゃ無いかと。


 だけど、お兄ちゃんは私を抱きしめ、私が妹であることを心の底から喜んでくれた。


 ああ……馬鹿だな。

 お兄ちゃんが私を嫌いになるかどうかなんて、そんなの考えるまでも無いのに。


 大好きなお兄ちゃんがそんな事をするはずが無いのに。


 私はお兄ちゃんと抱きしめ合いながら、お互いの存在を泣き喜んだ。




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