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『水人』 〜無能の水魔法使いは歴代当主達に修行をつけられ、最強へと成る。最弱魔法である水魔法を極め、世界に革命を~   作者: 保志真佐
第五章 水の都アグア

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 「………………………………は?」

 「ん?」

 「ふむ?」

 「え?」

 「領主様?!」


 脳内が疑問で一杯の中、俺はかなりの間の後、声を出す。


 俺だけで無く、クラ、ミル、ミーナも頭に疑問符を浮かべている。


 しかし、イチカだけが大きく体を震えさせ、フルオルを見る。


 俺はフルオルがさっき言った事を思い出す。


 俺に兄妹?何を言っている。

 俺は一人っ子だ。

 父親は殺され、母親は病気で死んだ。


 今、生きているアクアライドの血筋は俺一人のはず。


 「どういうことですか?」

 「戸惑うのも無理はありません。この事はペドロ殿……ミナト殿の父親から口止めされていましたから」

 「親父から?」

 「はい。兄妹の話をする前に、少し昔の話をしようと思います。実は、私とペドロ殿は若い頃からの付き合いだったのです」


 フルオルは思い出すように天井を向く。


 「いつしか分かれしまいましたが、我々リョナ家の水剣技流は元々、アクアライド家の剣術。年も近く、お互い…元は同じ家同士であり、今では周囲から不遇扱いされているという理由で息は合いました。………………息子のナットはアクアライド家を気に入らない節はありますがペドロ殿がアグアの領主になった際も、交流は続けていました」


 水剣技流はアクアライド家三代目当主のシズカ様が創設した剣術。


 いつの間にかアクアライド家は水剣技流を継承することが困難になったため、別の家に託された。


 それでも世代を重ねるごとに、衰退するアクアライド家と水剣技流に王国中の人々は冷たい眼を向けてきた。


 「フルオル殿と俺の親父が友人同士、しかも交流……それは初めて聞きました」


 それにしても、親父が他の貴族と連絡を取っていたなんて知らなかった。

 思えば、俺は親父のことをそこまで知らないのでは無いのだろう。


 「昔のペドロ殿は決して悪い領主ではありませんでした。アグアの街のために、しっかりとした領主になろうと努力もしていました」

 「親父が………アグアのために。本当ですか?」

 「本当です。ペドロ殿がミナト殿の母親のミレルバ殿を妻に取ったときも、それは変わりませんでした。夫婦共に関係は円満であったはずです」


 親父と母さんが仲が良い。それも初耳だ。

 俺が生まれたから早々、病気で死んだ以外聞かされていなかった。


 俺は母さんの顔すら思い出せない。


 「しかし、それが変わったのはミレルバ殿がミナト殿を若くして御病気で死んだとき。ペドロ殿は酷く悲しんでいました。それからです。ペドロ殿が領主の仕事を疎かにしがちになり、物心付いたミナト殿に辛く当たり出したのは」


 父親に関して、俺の記憶に最も焼き付いているのは、五年前の庭にて四級水魔法〈ウォーター〉を満足に発動出来なく、俺を叱責し、殴り飛ばす父親の姿。


 「ペドロ殿を擁護するつもりはありませんが、愛していたミレルバ殿を無くした悲しみは相当大きな物だったのでしょう。その悲しみを埋めるために、娼館にも通っていたかと。勿論、娼館に行くなど言語道断ですが」


 五年前ぐらいから、この街の娼館に行っていたのには、そんな背景があったのか。


 「そして、五年前にミナト殿が行方不明になった時、ペドロ殿は周辺の貴族達に息子を探して欲しいと懇願したのです」

 「え?親父が……俺を」


 信じられない。

 だが、五年ぶりに獄中場で出会った親父が俺を見て、泣きながら喜んでいた。


 「当然、貴族達からは相手にされなく、私にも懇願してきましたが……申し訳ないのですが、現実的にミナト殿の探索は無理でした」

 「でしょうね」


 「水乃世」は貴族や騎士の子息達が訓練に訪れるとはいえ、上層でも充分危険な魔物がいる。

 俺にとっては、軽い相手とはいえ。


 「そこからはペドロ殿は完全に自暴自棄になり、娼館に入り浸るだけで無く……」

 「暴行や禁止薬物の使用とかで、収監されたんですね」

 「………ええ」


 フルオルが言いにくそうだったので、続きを言った。


 「私が三年ほど前、この街の領主になったのは、ペドロ殿からの頼みでした。私になら、この街を任せられると」

 「それは親父の数少ない正しい判断だと思います。実際、アグアは俺が住んでいた頃よりも良くなっていますよ」

 「恐縮です」

 

 フルオルは何度か深呼吸を繰り返す。

 数回の吸気と排気の後に、口調を整える。


 「ここからが本題です。アグアの領主として、赴任してからは定期的に獄中場のペドロ殿と面会して、連絡を取っていました。しかし、一年前にペドロ殿から驚きの事を聞かされます」

 「それは………」

 「ミナト殿以外のペドロ殿の子供の存在です」


 親父からは、母さんは俺だけを生んで死んだと聞かされた。

 それは嘘だったのか。それとも………、


 「ミナト殿が驚くのも無理はありません。聞かされた時の私も驚きで、開いた口が下がりませんでしたから」

 「そ、その子供というのは?!」

 「娼婦との間に生まれた子供です」

 「っ?!」


 俺は絶句する。


 「ペドロ殿は入り浸っていた娼館で、娼婦とも間に子供を設けていたのです。母親の娼婦は一年前に死んでおり、ペドロ殿は最後の頼みと言って、私にその子供を保護するように頼んできました。だから、私はその子を屋敷で働かせるという名目で、保護しました」

 「ま、ま、まさか………」


 俺は咄嗟に、イチカを見る。


 思い出すのは、数日前…五年ぶりに獄中場で親父に会った帰り道。

 その時のイチカとの会話。


 『イチカはどれぐらい屋敷で働いてるんだ?』

 『え、えっと…一年前ぐらいから』

 『一年前……イチカって、何歳だ?』

 『七歳』


 六歳から屋敷で使用人をするには、幼すぎる年齢だと思った。


 『私…娼館で生まれたんだ』


 イチカはそう言った。


 『お母さんが娼婦で、お父さんは娼館の常連だったんだ。生まれてからお母さんと一緒に娼館で暮らしてたんだけど、私が六歳の時に死んじゃって、領主様が引き取ってくれたんだ』


 ようやく、点と点が繋がった気がする。


 フルオルが解答を告げる。


 「そうです。…………………………ここにいるイチカが、ミナト殿の異母兄妹。貴方の実の妹です」

 「………」


 俺は言葉を発することが出来なかった。

 その代わりに、行動に移すことは出来た。


 俺はイチカにさらに近づき、イチカの手を取り、魔法を発動する。


 「〈水蒸気探知・解析〉」


 それは探知魔法である〈水蒸気探知〉の範囲を狭め、放出する水蒸気を集約させることによって、あらゆる解析を行う魔法。


 空気中に漂う魔力の解析や液体の成分の分析も、お手の物。


 イチカの腕…さらに言うなら、イチカの生体情報を読み取った。


 人の体には、必ず生体情報があり、生体情報は種々様々であり、人の数だけある。

 けれど、親子や兄弟に至っては、例外で生体情報はほぼ一致するのだ。


 片親が同じなら半分だけ同じ生体情報になる。


 だから、〈水蒸気探知・解析〉で、イチカの生体情報が俺の生体情報と半分同じと分かったとき、確信した。


 イチカは間違いなく、俺の妹。

 血を分けた兄妹だと。


 「う…う」


 徐々に、俺の目から液体が零れる。


 「………………何で……言ってくれなかったんだ、イチカ?」


 俺の指摘に、イチカは今にも泣きそうな顔になる。


 「ごめん………なさい」


 イチカは俺に謝り、涙を流す。


 「お兄さんに初めて会ったときから、何度か言おうと思った。でも、私……………お兄さんと半分、血が繋がって無いし、娼婦の娘だから………………嫌われるかと思って」


 イチカの言葉を聞いた俺は反射的に、イチカを抱きしめる。


 「ふえ?!」


 イチカは抱きしめてくる俺に戸惑う。

 そんなイチカに、俺は大声で言う。


 「そんな事、どうでもいいだろ!!!」


 二度と離さないように、ギュッと強く抱きしめる。


 「イチカは俺の妹なんだ!!!それで良いだろ!!」


 俺の叫びに、イチカの流す涙の量が増えていき、


 「え……ああ……お兄さ…………ふぇ…うぇ、う……う…うう…………」


 とうとう、イチカの涙線が決壊する。


 「うわあああぁぁぁぁぁんんんん!!!!!お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 「イチカ!!!」

 「お兄ちゃん!!!」


 俺とイチカは抱きしめ合いながら、泣き続けた。


 「「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 誰も、それを咎める物はこの部屋にはいなかった。


 俺達は互いの存在を確かめ合うように、泣き合った。




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