王族の護衛として
100話突破!!
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ここ三日、俺は記憶が余り無かった。
父親の死から、激昂して初めての殺しをやり、クラルに慰められた。
そこから気づけば、クラルと共に屋敷に戻っており、自室だった部屋のベットに倒れた。
精神的に疲弊しきっていたからだと思う。
そして、三日間は食事以外は基本、ベットで寝ていた。
何もやる気が起きなかったので。
そうして父が死んでから三日後。
ベットから起き上がり、背伸びをする俺。
温かい物を感じて、横を見ると、朱色と水色の混ざった小さい女の子がスヤスヤと俺に抱きつくように眠っていた。
イチカだ。
初めて会ったときから、妙に俺を気に掛け、俺もイチカのことを何故か気にするようになっていた。
どうしてだか、イチカには親密感を感じるのだ。
そう言えば、クラルと屋敷に戻ったときに、イチカは俺を顔色を見て、とても心配していた。
父親が死んだと言ったときは、どう言うわけか、自身の父親が死んだように泣き叫び、俺に抱きついた。
イチカはどうして、あんなに泣いたのだろう。
幾ら考えても分からないが、俺はそっとイチカの頭を撫でる。
それに反応するように、イチカは眠ったまま少し笑う。
「ミナト殿、本当に大丈夫なのですか?」
「はい、何とか。父親が死んだとは言え、流石にこれ以上…ベットで眠っていられません」
俺は応接室でフルオルと対峙していた。
応接室には、俺とフルオルの他に…クラルとミル、ミーナ………そして傍らにイチカの四人がいた。
未だに父親が死んだ事と人殺しをしたショックから抜け切れていないが、何とか日常会話が出来るほどには精神は回復したと思う。
「無理をしてはいけません。肉親が死んだなど、普通の人など早々立ち直れる事ではありません」
フルオルは同情を込めた視線を向ける。
因みに、応接室に行くまでにフルオルの息子であるナットとドットからは、お悔やみ申し上げると辿々しく言われた。
「ありがとうございます。でも、父が死んだ事実は変わりません。父の遺体は火葬でもして下さい」
「分かりました」
フルオルは頷く。
「ミナト殿はこれからどう為さるつもりですか?」
「これからですか」
俺は「水之世」から出た際に、優先目標を二つ立てた。
レイン様から言われた蒼月湖に行くこと。
アクアライド家の実家に帰って、マリ姉に会うこと。
後者の目的は達成された。
結果は、あれだったが。
ならば、残る目標である蒼月湖に行く。
「王国の南西の水魔の森にあるという蒼月湖に行く予定です」
フルオルは意表を突かれた表情を取る。
「水魔の森………それは確か、Bランク以上の冒険者でないと行けない、エスパル王国で最も危険な魔物の生息地ですね。ミナト殿は冒険者をやっている聞きました。失礼ですが、ランクの方は………」
「私達、Aランク冒険者の推薦によりミナトさんは現在、Cランクですね。ランクは足りないですが、ミナトさんの実力なら、しっかりと冒険者の依頼をこなせば、充分Bランク冒険者になれますね」
俺から見て、右側で座っているミルが説明を加える。
「しかし、ミナトさん…水魔の森にある蒼月湖に行って、何をするつもりですか?」
「えっと………それは冒険者として興味があるわけで」
俺は答えを濁した。
レイン様達の事はウィルター様から余り他者に公言しないように言われているので。
この質問は俺に答えづらい内容であるのを察したのか、ミルはそれ以上追求はしなかった。
「そうですか。けれど、申し訳ないのですが、蒼月湖に行くというのは………少し後になると思います。貴方には、クラと同じく私の護衛をやって頂こうと思います」
「え…護衛?」
俺は首を傾げる。
ミルの護衛をやれって事?
でも、それはクラルがいるじゃ無いか。
そう思って、クラルを見ると彼女は小さく頷いてみせる。
「護衛をやって貰う理由を説明する前に、私の身分と本命を貴方に明かします。他言しないで貰えると有り難いです」
この後、俺はミルから彼女がエスパル王国の第五王女であるミスティル・アルスブルゴと明かされる。
当然、俺とイチカは大いに驚いた。
ミルはいつも被っているフードを取り、顔を見せる。
その顔の秀麗さに、俺とイチカは二度驚く。
その顔なら、いつも隠す必要ないだろ。
だが、思い返してみれば、思い当たる節はあった。
伯爵令嬢のクラルが敬称で呼び相手であり、マカ強襲の際は、この強襲が自身を狙った者であると言っていた。
つまり命を狙われる程、高貴な身分では無いのかと疑った。
確かに、王族なら納得だ。
それから、俺が王国第七魔法団の団長を殴り飛ばした件の話になった。
どうやら、レイン様を馬鹿にしたアイツは御三家のサンルーカルラ公爵だったそうだ。
そのため今は貴族でない平民の俺は通常なら大罪に問われ、最悪処刑されるそうだ。
けれど、俺がずっと前からミル………いや、ミスティル王女殿下の護衛であった事実にすれば、何とか有耶無耶に出来ると言われた。
それって…近くに副団長のミーナがいる状態で言って良いのか?
ミーナは困った感じで頭を振っている。
どうやら俺の知らぬ間に、話を示し合わせていたようだ。
「私としてもミナトさんのような強い方には、是非とも護衛になって欲しいです。私は王位継承権が高くないので、王族の後ろ盾と言うほどの物ではありませんが、ミナトさんが困ったときは王族の護衛という地位は役に立つと思います。ミナトさんが望むのなら、貴方の目的である蒼月湖へ行くことの手助けをしましょう」
再びフードを被ったミルが提案する。
俺は考え込む。
自身に王族の護衛など務まる自信はそこまで無い。
だけど、今後のことを考慮したら………貴族で無い俺が貴族関係のトラブルに遭った際に王族が着いていれば確かに心強い。
聞けば、ミルが冒険者をやっているのは何か大きな目的があるわけでは無く、王城から離れたかっただけの理由らしい。
「分かりました。護衛になります」
「感謝します」
十分以上、熟考した後…俺が護衛になることを了承した。
「ミナト、お前も王族であるミル様の護衛になるのならば、言動に気をつけろ。突発的な行動を慎め。そして、ミル様を敬称で呼ぶことだ」
「ぜ、善処する」
クラルは両手を腰に当てて、言う。
「別に、私は強制したりしませんよ。公式の場以外はミルで結構です」
「分かりました。ミル………様」
ミルと呼び捨てにしようとしたら、クラルに睨まれ、急遽…敬称で呼ぶ。
「ん、それで良い」
「はぁ…全く、クラは」
ミルはこう言っているが、クラルの言う通りだ。
少しだけでも、自身の言動と態度を改めるべきだ。
でも、大丈夫かな。
やっぱり王族の護衛は荷が重そうだ。
後で、クラルからしっかりとアドバイスは聞いておこう。
「宜しくな、クラル」
「クラ……で良い。ミル様とミーナからは、今はそう呼ばれている」
俺は手を差し出して、クラ……と握手する。
クラリサとクラルから、クラって事か。
呼びやすくて良い。
「では、ミナトさん………………いえ、ミナト。これからよろしくお願いします」
「はい」
こうして、晴れて俺は王族の護衛となった。
「護衛であるミナトと共に、私達はこれからワイバーン大量襲来の原因と思われるピレルア山脈を調査があります。もう一人の助っ人が到着次第、ピレルア山脈に望みます」
「もう一人の助っ人?」
事前に、ミル達がピレルア山脈の調査に望むことは聞いた。
俺もそれに参加しようと思っていたが。
ミルが詳しい事を説明してくれたが、どうやらミルは以前からマカの領主のヴィルパーレから、半年前から続くワイバーン問題をどうしようか手紙で話し合っており、そこでAランク冒険者のミルとクラが対応する話になったのだ。
しかし、幾らAランク冒険者でも二人では心配であった。
しかし、ホウリュウすらも討ち取った俺が現れたことで状況が変わった。
もう一人の強力な助っ人を持って、ピレルア山脈に望む計画になったらしい。
それ…俺が助っ人として協力することが前提の話になっている。
まぁ…実際、俺もアグアの街は助けたいしな。
「ピレルア山脈の件が無事解決したら、アグアを出ようと思います」
「そっか……お兄さん、この街から出ちゃうんだ」
隣にいるイチカがボソリと呟く。
どう言うわけか、何か言いたげに体をモジモジさせている。
話は終わりかと思った矢先、
「ミスティル王女殿下、一つ宜しいですか?」
「はい、フルオル男爵。何でしょうか?」
ミル様に尋ねられたフルオルはイチカを見て、こう言い出す。
「ここにいるイチカを、貴方方と一緒に同行させることは出来ないでしょうか?」
「りょ、領主様?!」
イチカは何を言っているのだと、フルオルに驚く。
「イチカちゃんを?私達と共にですか?」
ミルは首を傾げる。
かく言う俺やクラル、ミーナも首を傾げている。
「そうです。同呼応の理由を言う前に………………ミナト殿、貴方には伝えなければならない事があります」
フルオルは真剣な顔で俺に向き直る。
彼は深呼吸をした後、とんでもない事を告げる。
「貴方には…………実の妹がいます」