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そこに加わるミル




 突然、後ろからミル様が話しかけたので、私もミーナも若干驚く。


 「ミル様?!」

 「ミ、ミスティル王女殿下?!」


 ミル様はフードを被って、顔を隠した状態で笑う。


 「ふふ……ミルで良いですよ、ミーナさん。〈サンドウォール〉」


 驚いた私達をそっちのけで、ミル様は私とミーナが座っている椅子との間にある狭い空間に、強引に小さい砂の壁を形成する。


 何故態々、そこに座るのか分からないが、椅子のつもりなのか……ミル様はいつもより小さな〈サンドウォール〉の上に腰を下ろす。


 私、ミル様、ミーナで殆ど密着している状態で座り合っているので、端から見れば、仲良し三人組に見える。


 ミーナは慌てて、椅子から立ち上がる。


 「ミスティル王女殿下、クラリサにお話があるのなら、こちらにお座り下さい。私は下がります」


 ミル様はフードを被った状態で、首を横に振る。


 「いえ、それには及びません。私はミーナさんとも、お話したいですから」

 「わ、私と?」


 ミル様に言われたミーナは渋々、椅子に座り直す。


 私とミーナは黙ってしまう。

 ミーナとしても、いきなり王国の王女に話そうとしてもハードルが高いだろう。


 すると、ミーナはジッとミル様を見ていた。


 「気になりますか、ミーナさん」

 「はい?」

 「私の眼のことが」

 「あ…それは」


 眼というのは、ミル様が持っている魔眼のことだろう。


 昨日の夜に、サンルーカルラ公爵の馬鹿がミル様の眼のことを言ったから、ミーナが気になったのだろう。


 ミーナは言葉を途切れさせるが、気にしているというのが彼女の反応を見て、分かる。


 「その………改めて、ウチの団長が申し訳ございません。ミスティル王女殿下に、あのような失礼なことを言ってしまうとは」

 「構いませんよ。昨日も言った通り、事実ですから。私の眼は、確かに邪眼ですから」


 ミル様はフードを少し外し、その美麗な顔を見せる。

 しかし、ミーナの方は見ず、視線は前を向いている。


 「私は物心付いたときから、見えない存在が見えるのです」

 「見えない………存在?」

 「”悪霊”ですよ」


 ミル様は正面を向いたまま、語る。


 「種類は様々。黒い人型の影もあれば、半透明の大きな塊、腕が何十個もある怪物のような物まで」


 ミーナは息をのむ。


 「小さい頃に王城にいた際は、見えないもの見ることが出来る私を周囲は気味悪がり、距離を置いていました。けれど、私は構いませんでしたし、寂しくありませんでした。その時の私は悪霊のことを見えない友達と認識していましたから」


 ミル様は尚も言い続ける。


 「それが変わったのは、私が面白半分で王城を抜けだし、城下町に行ったとき。小さい私にとっては城下町は大きく、直ぐに迷子になりました。そして、私は柄が悪そうな男達に囲まれてしまったのです」


 余り思い出したくない話題なのか、ここでミル様は一呼吸置く。


 「私は恐怖で目を閉じました。ですが、次に目を開けたときには、男達は死んでいました」

 「え?」


 ミーナは絶句する。

 私はこの話をずっと前に何度か聞かされたことがあるので、驚いたりしない。


 「男達の周囲には、男達の死体で遊んでいるように悪霊が群がっていました。見えない友達が男達を殺したんだ………そう直感的に理解しました。それが噂に噂を呼んでのでしょう。私は王城や一部の貴族間で、見た者を殺す『邪眼の王女』と恐れられるようになりました」


 フードを再び被って、ミル様は顔を隠す。


 「だから私は常にローブで顔を隠しています。これを被っていると、悪霊が見えなくなりますので。顔を見せるのは、信頼した者のみ」


 ミル様の話はここで終わった。


 私とミーナは黙ったままになってしまった。

 その状況にミル様は一つ、大きく息を吐く。


 「湿っぽい話をして、ごめんなさい。やっぱり私は邪魔だったかしら」


 ミル様が困ったように笑う。


 「そ、そんなことは……」

 「い、いえ!邪魔など、滅相もございません!!ミル様を邪魔という者など私が斬ります」


 私が焦って、ミーナの言葉を遮る。


 そんな私をミーナは目を大きく開き、


 「……ぷふ」


 何が面白かったのか、ミーナが笑う。

 首を傾げる私に、


 「ごめんなさい、クラリサ。貴方の反応が可笑しくて。クラリサって、私が変わったと言ったけど、それはクラリサもね」

 「私が?」

 「Aランク冒険者になった事とか、背が高くなった事とかもあるけど、口調や性格が変わったわね。何というか、騎士っぽい。………いや考えてみれば、当然ね。王女様の護衛だものね」


 ああ…それは分かる。


 家では厄介扱いされていて、弱かった私は自身の境遇に恐怖を感じ、強くなると決心して、三年間…剣と魔法を鍛えた。


 当時背が低かった私は、強くなりたいという私の思いを受けたかのように、グングン伸びた。


 それからミル様に出会って、二年間…王族の護衛を務めている内に、騎士のような言動や姿勢を身につけた。


 ミーナの笑いにより、場が和む。


 ミル様は口を押さえて、微笑する。


 「でも、ミーナさん。私がクラルと会った当初は表情がとても暗かったのですよ。まるで、この世の全てが敵かみたいに」

 「え?それは気になります。ミスティル王女殿下といたクラリサはどんな感じだったのですか」

 「それはですね………………」


 それからミル様は、ミーナに私がミル様と出会ってこらの二年間の出来事を語った。


 ミーナは私と会えなかった二年間の穴埋めをするようにミル様の話を真摯に聞き入れる。


 私は介入せず、時折…ミル様とミーナの話に補足を加える。


 別に私の話自体、隠しておきたいことは無いので。


 気づけば、ミーナはミル様の事を「ミルさん」(本人がそう言って欲しいと懇願した)と呼んで、ミル様はミーナの事を「ミーナ」と呼び捨てにしていた。


 本当に仲の良い友達のように見える。

 ………少しだけ羨ましい。


 「同年代の人とこんなに話したのは久々です」

 「私もです、ミルさん。クラリサの話、興味深かったです。………あ!クラリサじゃなくて、クラルでしたね」

 「そうですね。公式の場以外……私達が冒険者である内は、私がミル、クラリサがクラルです」

 「何だか、紛らわしいですね。まぁ…王族と伯爵令嬢が本命で冒険者やるのは、難しいですよね」


 だが、ここでミーナは何かを思い立ったのか、握り拳を別の手の平に打ち付ける。


 「そうだ………”クラ”が良いわ」

 「クラ?」


 私はミーナの言った言葉を反復する。

 何故か、その言葉には懐かしさがあった。


 「忘れたの?私が小さい頃に、クラリサを「クラ」って…愛称で呼んでいたのよ。クラリサとクラルでクラよ」


 言われてみれば、確かに昔……ミーナからクラと呼ばれていた気がする。


 それを聞いたミル様は手を大きく叩く。


 「良いですね!!クラ!呼びやすいし、響きも良い。何より友達って感じがします!」


 ミル様を私の方を向く。


 「では、これからクラルの事はクラと呼びます」

 「は、はい……私は構いません」


 ミル様はうんうん…と頷いてから、


 「それでは…クラ、ミーナ。私の事はミルと呼び捨てで呼んで下さい」

 「そ、それは流石に!」

 「お、王族を呼び捨てには!」

 「……むぅ」


 私とミーナがそう言うと、ミル様は頭を少し低くさせる。


 これでも付き合いが長い私は、フードで顔がハッキリと分からないとは言え、ミル様が拗ねているのが理解できた。


 「ミーナはまだともかく………いつになったら、クラは私を友達として扱ってくれるのでしょうか」


 ミル様がボソリと呟いた言葉を、私は聞かなかったことにした。




 こうして私達が女子会のような事をしていたら、


 「ミスティル王女殿下!大変です!」


 リョナ家の領主であるフルオルが大慌てで、駆け寄ってくる。


 「どうかしましたか?」


 ミル様が尋ねると、


 「先程、ペドロ殿を暗殺したと思われる者達を拘束していた獄中場から連絡があったのですが………全員自害しました!」

 「なっ?!」


 私は驚愕する。


 「毒で自害できないように、猿轡をさせたのでは無かったのですか?!」


 今回、獄中場を襲撃し、ミナトの父親であるペドロを暗殺した者達は全身が黒い服装の者達だった。


 なので以前に、マカで私とミル様を襲撃してきた者と同類の者である可能性が高い。


 何故、アグアの町にいるのかは分からないが、尋問で聞き出せれば良いと思った。


 マカの時は尋問しようとしても、口の中に仕込んだ毒で自害してしまった。

 だから未然に自害を防ぐために、猿轡をさせるように言った。


 「どうやら靴底に小さいナイフを隠していたようで、それで首を掻っ切って、自殺をしたようで」

 「ちっ!両手両足も拘束すべきだったか!」


 私はつい、悪態を付いてしまった。




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